けんすうさんと糸井重里の初対談です。
ブロックチェーン、AI、NFTなど、
新しい技術に詳しいけんすうさんには、
いまどんな未来が見えているのでしょうか。
インターネット黎明期の話から、
お金の価値、アマチュアリズムなど、
さまざまな話題が飛び出しました。
これからのインターネットが、
なんとなくつかめるかもしれませんよ。
全7回、たっぷりおたのしみください。
本対談は「ほぼ日の學校」でも公開中です。

>けんすうさんプロフィール

けんすう

起業家、エンジェル投資家、
アル株式会社代表取締役。

1981年生まれ。
学生時代に「ミルクカフェ」という
大学受験サービスを立ち上げたあと、
レンタル掲示板の「したらば」を運営。
その後リクルートに新卒で入社した後、
起業してハウツーサイトの「nanapi」をリリース。
2014年にKDDIグループにM&Aされる。

現在は「クリエイティブ活動を加速させる」ために、
きせかえできるNFT「sloth」、
成長するNFT「marimo」などを手掛けている。

Twitter:@kensuu
note:kensuu

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第5回

流通に価値がある。

けんすう
いまうちの会社は、
NFTをけっこうやっているんですけど、
あれのおもしろさって、
はじめてデジタルデータを「所有した感覚」に、
みんながなれたってことだと思うんです。
糸井
うん。
けんすう
ただ、それだけになると、
やることってデジタルの絵を
安く買って、高く売るみたいな、
そういう楽しみしかないんですよね。
それで最近うちで作ったのが、
「着せ替えができるNFT」なんです。
ふたつの画像を重ね合わせて、
ひとつのものを作ることができるというもので。
糸井
へぇーー。
けんすう
絵を重ねられると何ができるかっていうと、
キャラクターの絵があったら、
その衣装だけで別で売ることもできるし、
重ね合わせた画像を売ることもできます。
これ、時給1000円で作ってって言われると
萎えちゃうと思うんですけど、
だからといって、
「楽しいからタダで作ってね」という、
いままでのインターネット的なやり方も、
みんなもう飽き飽きしてるというか。
糸井
うん、うん。
けんすう
そういうような状況で、
じぶんの作った衣装をNFTで出すことで、
将来すごい値段が付くかもしれないとか、
それを買った人からすると、
10年後にすごい価値が上がったとか、
そういう共犯関係をつくりやすくなる。
それはすごく大きいと思っているんです。
糸井
つまり、価値が動くわけですね。
けんすう
そうなんです。
個人的にNFTのおもしろさは、
まさにそこだと思っています。
ようは日本円の紙幣だと1万円って、
どの1万円も同じです。
だけどNFTになって、
そこにかわいい画像がついた瞬間、
価値基準がぐちゃぐちゃになる。
ぐちゃぐちゃなるんだけど、
それが通貨のように流通もできる。
そこがおもしろいんですよね。

糸井
そのへんの興味はとてもありますね。
そうなる直前の時代に、
ぼくはグルメブームがあったと思っていて。
けんすう
ほう。
糸井
つまり、栄養がほしいから、
そのごはんを食べるわけじゃないっていうね。
この食べ物にはどういう意味があるとか、
これだけ払うだけの価値が、
この料理にはあるんだよとか。
おおもとの価値とは別に、
その人がオリジナルでのせた
価値観みたいなものがどんどん流通していく。
けんすう
あー、なるほど、おもしろいですね。
糸井
果物の仕事をちょっとしたときに、
果物でも野菜でも、
その価値なんて測りようがないんで、
けっきょく大きさがそろっているとか、
そういうところで測ったりするんです。
けんすう
はいはい、なるほど。
糸井
各地の農協は同じリンゴでも、
この大きさはS、この大きさはLとか、
大きさで値段が決まったりします。
その次に「糖度」というものもある。
糖度12だからすごいとか、
スイカだけど糖度5だねとか。
糖度だけで判断するわけじゃないんだけど、
それでも糖度はすごい価値を持っていて。
けんすう
食感とかそういうのはぜんぶ無視して、
甘さの度合いだけですもんね。
糸井
食感とか酸味とか甘さの組み合わせとか、
そういうのやってても無理なんで、
けっきょく数字にできないところを、
みんなどうしたかっていうと、
世界の資本主義は「ストーリー」になったんです。
けんすう
ああ、そうですね、たしかに。
糸井
ストーリーというのを含めて、
けっきょく「ブランド」という言葉で
価値を表現するようになっていった。
「あいつがやってる」っていう信用ですよね。
つまり価値というのは、
みんなで作り合って流通させあうことで。
けんすう
はい、はい。
糸井
そうするといまの時代の力の測り方も、
どのくらいお金を持ってるかとかじゃなく、
「広め力」だったり「納得させ力」だったり。
それをいちばん端的にいうと、
「俺をなめんなよ」ってところにもいくし。
けんすう
たしかに、いま10代の子と話すと、
お金持ってるっていうのには
ぜんぜんピンとこないらしいんですけど、
SNSのフォロワーが多いのはスターらしくて。
糸井
なるほどね。
けんすう
ただ、それはある意味、
単純にお金からフォロワー数に
数字が移動しただけとも言えるというか。
数字で価値を決めるとわかりやすい分、
いろいろこぼれ落ちるものが
もったいないというのは思ったりします。

糸井
ラーメン屋の話なんかでも、
「ここがいいんだよ」が多様化して、
背脂入れて脂ぎってるからどうとか、
店のオヤジがうるさいんだとか、
そういうのがぜんぶ価値になりますよね。
鉄道マニアの中でこれこれ持ってる人が
仲間たちからすごく尊敬されてるとか、
もっというと、性的変態の中での
性的変態の価値観っていうのもあるだろうし。
それってもう価値を発明して、
それをやりとりしあってるわけで、
ぜんぶ「流通」に価値があるって話なんですよね。
けんすう
はぁーー、なるほど。
すごくおもしろいですね。
糸井
たぶん好きな話ですよね(笑)。
けんすう
はい、好きな話ですね(笑)。
持ってるかどうかのストックではなくて、
いかに流通してるかが価値ってことなんですね。
糸井
瞬時にその流通が終わったとしても、
その一瞬で3億の流通があったとしたら、
それはその人の一生の思い出になるわけで。
けんすう
はい、はい。
糸井
もっといえば、
昔にヒット曲を出した歌手と、
いまの歌手が先輩後輩になったりしますよね。
ああいう関係みたいに、
その流通は時間を越えて
残る部分もあったりするわけで。
けんすう
もう、すごいわかります。
価値とはなんぞやの話ですね。
おもしろいです。
糸井
動いてて、固定して決められないっていう。
そのへんはぼくも興味がすごくあるんですよね。

(つづきます)

2023-06-16-FRI

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  • けんすうさんが選ぶ、
    インターネットのいまとこれからを
    考えるための本。

    ふだんからビジネス本を
    たくさん読まれているけんすうさん。
    インターネット関連のおすすめ本を、
    解説付きで5冊教えていただきました。
    もっと深く知りたい方は、
    ぜひ参考にしてみてください。

    『ツイッター創業物語 
    金と権力、友情、そして裏切り』(日経BP) 
    著:ニック・ビルトン 訳:伏見威蕃

    ツイッターは歴史的にみても、
    かなりグダグダな経営をやっている時期が長く、
    トラブルつづきの企業です。
    それは、いまもつづいているとも言えます。

    経営、運用、技術、どれをとっても、
    極めて秀でているとは言えないツイッターですが、
    サービスが魅力的であるために、
    世界に大きな影響を与えるようになったわけで、
    とてもおもしろいなと思っています。

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    『ソーシャルメディア・プリズム 
    SNSはなぜヒトを過激にするのか?』(みすず書房) 
    著:クリス・ベイル 訳:松井信彦

    ソーシャルメディアによる
    影響について書かれている本です。
    短い書籍ではありますが、
    ソーシャルメディアによる
    社会の分断についての問題から、
    インターネットの希望の話まで書かれていて好きです。

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    『ネットは社会を分断しない』
    (KADOKAWA/角川新書) 
    著:田中辰雄、浜屋敏

    10万人規模の調査をして、
    いまのインターネットと
    社会の実態はどうなのかを調べたという本です。
    インターネットによって
    社会が分断されているように感じたりしますが、
    実はそんなことないよ、
    という内容が書かれています。

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    『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社) 
    著:アダム・オルター 訳:上原裕美子

    依存症ビジネスについて書かれた本です。
    現在のインターネットの主流である
    ソーシャルメディアやゲームなどで、
    依存症ビジネスの仕組みは
    良くも悪くも活用されています。
    ここを知っておくことで、
    いまのインターネットについてより理解できるかなと。

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    『イーサリアム 
    若き天才が示す暗号資産の真実と未来』(日経BP) 
    著:ヴィタリック・ブテリン 編:ネイサン・シュナイダー 
    訳:高橋聡

    歴史に名を残すであろう
    ヴィタリック氏のコラム集です。
    暗号通貨・イーサリアムの考案者である彼は、
    極めて頭がいいんだろうな、というのと、
    それをわかりやすく美しい文章で
    表現できる稀有な存在です。
    インターネットを次の段階に
    引き上げた人の名文がたっぷり読めます。

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