けんすうさんと糸井重里の初対談です。
ブロックチェーン、AI、NFTなど、
新しい技術に詳しいけんすうさんには、
いまどんな未来が見えているのでしょうか。
インターネット黎明期の話から、
お金の価値、アマチュアリズムなど、
さまざまな話題が飛び出しました。
これからのインターネットが、
なんとなくつかめるかもしれませんよ。
全7回、たっぷりおたのしみください。
本対談は「ほぼ日の學校」でも公開中です。
第5回
流通に価値がある。
- けんすう
- いまうちの会社は、
NFTをけっこうやっているんですけど、
あれのおもしろさって、
はじめてデジタルデータを「所有した感覚」に、
みんながなれたってことだと思うんです。
- 糸井
- うん。
- けんすう
- ただ、それだけになると、
やることってデジタルの絵を
安く買って、高く売るみたいな、
そういう楽しみしかないんですよね。
それで最近うちで作ったのが、
「着せ替えができるNFT」なんです。
ふたつの画像を重ね合わせて、
ひとつのものを作ることができるというもので。
- 糸井
- へぇーー。
- けんすう
- 絵を重ねられると何ができるかっていうと、
キャラクターの絵があったら、
その衣装だけで別で売ることもできるし、
重ね合わせた画像を売ることもできます。 - これ、時給1000円で作ってって言われると
萎えちゃうと思うんですけど、
だからといって、
「楽しいからタダで作ってね」という、
いままでのインターネット的なやり方も、
みんなもう飽き飽きしてるというか。
- 糸井
- うん、うん。
- けんすう
- そういうような状況で、
じぶんの作った衣装をNFTで出すことで、
将来すごい値段が付くかもしれないとか、
それを買った人からすると、
10年後にすごい価値が上がったとか、
そういう共犯関係をつくりやすくなる。
それはすごく大きいと思っているんです。
- 糸井
- つまり、価値が動くわけですね。
- けんすう
- そうなんです。
個人的にNFTのおもしろさは、
まさにそこだと思っています。 - ようは日本円の紙幣だと1万円って、
どの1万円も同じです。
だけどNFTになって、
そこにかわいい画像がついた瞬間、
価値基準がぐちゃぐちゃになる。
ぐちゃぐちゃなるんだけど、
それが通貨のように流通もできる。
そこがおもしろいんですよね。
- 糸井
- そのへんの興味はとてもありますね。
そうなる直前の時代に、
ぼくはグルメブームがあったと思っていて。
- けんすう
- ほう。
- 糸井
- つまり、栄養がほしいから、
そのごはんを食べるわけじゃないっていうね。
この食べ物にはどういう意味があるとか、
これだけ払うだけの価値が、
この料理にはあるんだよとか。
おおもとの価値とは別に、
その人がオリジナルでのせた
価値観みたいなものがどんどん流通していく。
- けんすう
- あー、なるほど、おもしろいですね。
- 糸井
- 果物の仕事をちょっとしたときに、
果物でも野菜でも、
その価値なんて測りようがないんで、
けっきょく大きさがそろっているとか、
そういうところで測ったりするんです。
- けんすう
- はいはい、なるほど。
- 糸井
- 各地の農協は同じリンゴでも、
この大きさはS、この大きさはLとか、
大きさで値段が決まったりします。
その次に「糖度」というものもある。
糖度12だからすごいとか、
スイカだけど糖度5だねとか。
糖度だけで判断するわけじゃないんだけど、
それでも糖度はすごい価値を持っていて。
- けんすう
- 食感とかそういうのはぜんぶ無視して、
甘さの度合いだけですもんね。
- 糸井
- 食感とか酸味とか甘さの組み合わせとか、
そういうのやってても無理なんで、
けっきょく数字にできないところを、
みんなどうしたかっていうと、
世界の資本主義は「ストーリー」になったんです。
- けんすう
- ああ、そうですね、たしかに。
- 糸井
- ストーリーというのを含めて、
けっきょく「ブランド」という言葉で
価値を表現するようになっていった。
「あいつがやってる」っていう信用ですよね。
つまり価値というのは、
みんなで作り合って流通させあうことで。
- けんすう
- はい、はい。
- 糸井
- そうするといまの時代の力の測り方も、
どのくらいお金を持ってるかとかじゃなく、
「広め力」だったり「納得させ力」だったり。
それをいちばん端的にいうと、
「俺をなめんなよ」ってところにもいくし。
- けんすう
- たしかに、いま10代の子と話すと、
お金持ってるっていうのには
ぜんぜんピンとこないらしいんですけど、
SNSのフォロワーが多いのはスターらしくて。
- 糸井
- なるほどね。
- けんすう
- ただ、それはある意味、
単純にお金からフォロワー数に
数字が移動しただけとも言えるというか。
数字で価値を決めるとわかりやすい分、
いろいろこぼれ落ちるものが
もったいないというのは思ったりします。
- 糸井
- ラーメン屋の話なんかでも、
「ここがいいんだよ」が多様化して、
背脂入れて脂ぎってるからどうとか、
店のオヤジがうるさいんだとか、
そういうのがぜんぶ価値になりますよね。 - 鉄道マニアの中でこれこれ持ってる人が
仲間たちからすごく尊敬されてるとか、
もっというと、性的変態の中での
性的変態の価値観っていうのもあるだろうし。 - それってもう価値を発明して、
それをやりとりしあってるわけで、
ぜんぶ「流通」に価値があるって話なんですよね。
- けんすう
- はぁーー、なるほど。
すごくおもしろいですね。
- 糸井
- たぶん好きな話ですよね(笑)。
- けんすう
- はい、好きな話ですね(笑)。
持ってるかどうかのストックではなくて、
いかに流通してるかが価値ってことなんですね。
- 糸井
- 瞬時にその流通が終わったとしても、
その一瞬で3億の流通があったとしたら、
それはその人の一生の思い出になるわけで。
- けんすう
- はい、はい。
- 糸井
- もっといえば、
昔にヒット曲を出した歌手と、
いまの歌手が先輩後輩になったりしますよね。
ああいう関係みたいに、
その流通は時間を越えて
残る部分もあったりするわけで。
- けんすう
- もう、すごいわかります。
価値とはなんぞやの話ですね。
おもしろいです。
- 糸井
- 動いてて、固定して決められないっていう。
そのへんはぼくも興味がすごくあるんですよね。
(つづきます)
2023-06-16-FRI
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けんすうさんが選ぶ、
インターネットのいまとこれからを
考えるための本。ふだんからビジネス本を
たくさん読まれているけんすうさん。
インターネット関連のおすすめ本を、
解説付きで5冊教えていただきました。
もっと深く知りたい方は、
ぜひ参考にしてみてください。『ツイッター創業物語
金と権力、友情、そして裏切り』(日経BP)
著:ニック・ビルトン 訳:伏見威蕃ツイッターは歴史的にみても、
かなりグダグダな経営をやっている時期が長く、
トラブルつづきの企業です。
それは、いまもつづいているとも言えます。経営、運用、技術、どれをとっても、
極めて秀でているとは言えないツイッターですが、
サービスが魅力的であるために、
世界に大きな影響を与えるようになったわけで、
とてもおもしろいなと思っています。『ソーシャルメディア・プリズム
SNSはなぜヒトを過激にするのか?』(みすず書房)
著:クリス・ベイル 訳:松井信彦ソーシャルメディアによる
影響について書かれている本です。
短い書籍ではありますが、
ソーシャルメディアによる
社会の分断についての問題から、
インターネットの希望の話まで書かれていて好きです。『ネットは社会を分断しない』
(KADOKAWA/角川新書)
著:田中辰雄、浜屋敏10万人規模の調査をして、
いまのインターネットと
社会の実態はどうなのかを調べたという本です。
インターネットによって
社会が分断されているように感じたりしますが、
実はそんなことないよ、
という内容が書かれています。『僕らはそれに抵抗できない』(ダイヤモンド社)
著:アダム・オルター 訳:上原裕美子依存症ビジネスについて書かれた本です。
現在のインターネットの主流である
ソーシャルメディアやゲームなどで、
依存症ビジネスの仕組みは
良くも悪くも活用されています。
ここを知っておくことで、
いまのインターネットについてより理解できるかなと。『イーサリアム
若き天才が示す暗号資産の真実と未来』(日経BP)
著:ヴィタリック・ブテリン 編:ネイサン・シュナイダー
訳:高橋聡歴史に名を残すであろう
ヴィタリック氏のコラム集です。
暗号通貨・イーサリアムの考案者である彼は、
極めて頭がいいんだろうな、というのと、
それをわかりやすく美しい文章で
表現できる稀有な存在です。
インターネットを次の段階に
引き上げた人の名文がたっぷり読めます。