身近にある食べものを本物そっくりに
木で作っちゃう木彫りアーティスト
「キボリノコンノ」さんを知ってますか。
SNSで新作を披露するたびに、
つい参加したくなっちゃう木彫りクイズは
どんなひとが作っているんでしょう。
1月26日(金)から渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で
企画展がはじまるキボリノコンノさんのもとへ、
お話をうかがいに行ってきました。
木彫りをしながらも、コンノさんの根っこには
「おくりもの」という気持ちがあるそうですよ。
聞き手は、ほぼ日の平野です。

>キボリノコンノさんプロフィール

キボリノコンノ

木彫りアーティスト。1988年生まれ。
2021年に趣味で木彫りを始め、
「あっと驚くもの」をテーマに作品を制作し、
SNSで発表し続けている。
「溶けかけの氷」をはじめ、
「注がれるコーヒー」や「シガールの袋」など、
数多くの作品がTVやインターネットで話題となり、
2023年からプロの木彫りアーティストとして
本格的に活動を開始。
全国各地で展覧会やワークショップなどの
イベントを開催。

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(4)キボリノコンノ

──
20代の半ばで公務員になってから、
ご結婚もされて、家も建って。
公務員で生活を安定させる作戦も、
ばっちり計画通りだったんじゃないでしょうか。
木彫りは、なぜはじめたんでしょうか。
コンノ
ぼく、卓球をずっと趣味で続けていたんです。
結婚してからも週6日とか週7日で、
毎日のようにやっていた時期がありまして。
──
週7で。それってなんだか、
趣味を超えちゃっている気もしますが。
コンノ
一度ハマると、ずっとやっちゃうんですよね。
でも、コロナ禍になってからは
卓球ができなくなってしまいました。
どんなに仕事が大変でも、
卓球でリセットできていたんですが、
卓球ができなくなって体調を崩してしまったんです。
その頃には仕事も防災の仕事から異動になって、
今度は内勤の事務仕事になったんです。
──
ああ、それは勝手が違うでしょうね。
コンノ
たくさんの文字を読むのが苦手なんですよ。
異動した部署ではマニュアルに目を通して
仕事を作り出さなきゃいけなくて。
その仕事がぼくに合っていなかったこともあって、
うつ病になってしまいました。
そこからは仕事も休みがちになって、
病院の先生から趣味を探すように勧められましたが、
コロナ禍で卓球もできないですし。
──
卓球が生きがいだったのに。
コンノ
そうなんですよ。
東京オリンピックも終わってしまって、
たのしみもなくなってきたとき、
大学時代の友人の提案ではじめたのが、木彫りです。
ぼくが木で工作するのが得意なことを覚えていて、
「コンちゃん、木でなんかやったらいいじゃん」って。
それがずっと、頭の中にあったんですよね。
なんかできたらいいなあって思いながら過ごして、
あるとき、コーヒーを淹れていると
ふと、コーヒー豆が目に入ってきましてね。
──
コーヒー豆。うん、うん。
コンノ
コーヒー豆をじっと観察してみたら、
色も茶色いし硬さも木みたいだなと思ったんです。
このコーヒー豆、木でそっくりに
作れちゃうんじゃないかなって。
小学校で使っていた彫刻刀で、
家にあった木材を彫ってみると、
けっこうそっくりにできたんです。
おもしろいなと思ってツイッターにアップしたら、
ぼくのフォロワーって当時は60人とかだったのに、
珍しく「いいね」がついたんですよ。

──
じゃあ、そのコーヒー豆がきっかけで、
いつかの目標だった「ものを作る人」に。
コンノ
反応がもらえるし、たのしかったんです。
もう1個木彫りで作ってみようかなと思って、
ピーナッツを作ったりしていくうちに、
いろんなものを作るようになった感じですね。
コロナ前までは、卓球に行って
友達とごはんを食べて帰るのがたのしみでしたが、
それがなくなってからは、
ツイッター上の交流がたのしくなりました。
木彫りをしている間もたのしいんですけど、
それ以上に、交流がたのしかったんですよね。
──
その頃にはもうリアルの友達だけではなくて、
SNSで、会ったことのない相手との
やり取りに変わってきてもいますよね。
コンノ
ですね、やっぱり反応がうれしかったので。
もっと驚いてくれるものを作ろうと思って、
お菓子を作るようになったり、
透明に見えるような作品を作るようになりました。

──
そうそう、大丸東京で行われていた展覧会で
実物を拝見したときに思ったことですが、
透明の表現ができるようになって、
作品がもっとおもしろくなったんです。
コンノ
ありがとうございます。
最初はコーヒーの豆粒しか作れなかったのに、
できる表現が増えていったんです。
やっぱり、コーヒー豆からはじまったんで、
木彫りをはじめて1年が経ったときの記念として、
コーヒーを注いでいるシーンを作品にしました。

──
すごいなあ、1年で液体の表現まで。
コンノさんの作品をたくさんの人に
知ってもらったきっかけといえば、
どの作品になるんでしょうか。
コンノ
はじめてワーッと人気が出たのは、
「溶けかけの氷」という作品ですね。
3万件ぐらいのいいね!がついて、
メディアでも取り上げていただけました。
じつは、その氷も、
卓球仲間とごはんに行っているときに
生まれたアイディアだったんですよ。

──
木彫りを提案してくれたのも
お友達でしたもんね。
コンノ
ぼくがそれまでに作ってきた作品を
ちょこちょこ見せていたんですが、
木で作ったことのない友達からしたら、
無理難題でも言えちゃうわけですよ。
「なんか透明なもの作ってよ」って軽く言うんで、
いやいや、木では無理でしょーって。
──
そうですよね、ガラスじゃないんだから。
コンノ
できるわけないって思いましたが、
家に帰って、いやちょっと待てよと。
透明が実現できたら、
絶対にみんなが驚くよなって思ったんです。
じゃあ透明なものなんだろうなと思って、
氷を思いついたんですよね。
しかも、その氷が溶けかけていたら
動きもあっておもしろいだろうなって。
──
木で動きを表現するのと、透明であること、
いかにも難しそうな課題が
二重にも三重にもあるんじゃないですか。
コンノ
より驚かせたい気持ちがあるんですよ。
氷を作るならどうしたら驚くかなって考えて、
液体である水の柔らかさだとか、
今まさに溶けていっているという、
時間を感じられたらおもしろいなあって。
──
つくるときは実物を目の前に置くんですか。
コンノ
氷は溶けちゃうんで、
まずは本物の氷を溶かして観察して、
写真もいろんな角度で撮るんです。
どうやったら透明に見えるかなって考えて、
写真を撮ったときに
透明に見えればいいんだって思いついたんですよ。
ほら、本物の氷の写真を撮ったときも、
印刷した写真は透明じゃないはずなのに
氷のことは透明だって感じますよね。
──
ああー、たしかにたしかに!
コンノ
ということは、木彫りの作品であっても
透明に見える塗り方があるんじゃないかって。
写真を見ながら描いていった作品です。
──
実物の作品が透明でなくても、
写真で見た仕上がりが
透明になっていればいいんですね。
コンノ
そうですね、そうです、そうです。
──
コンノさんの展覧会でも、
お客さんが積極的に撮影をしていました。
会場の案内でも「明るく設定して撮ってね」という
撮影のコツが書かれていましたよね。
実物の作品の凄みも感じられましたが、
最後に自分のスマホの中で
完結できるような感覚でたのしめました。
お客さんも、奥に行けば行くほど
いろんな角度から撮影していましたよ。
コンノ
ああー、確かにそうですね。
どうやって撮ればリアルに見えるのかなって、
みなさんがカメラマンになっていましたね。
──
会場で撮影した写真を
誰かに見せてあげたいという感覚ですよね。
コンノ
自分がたのしいのもそこなんです。
だから、木彫りをやっているときよりも、
写真を撮っているときが一番たのしくて。
撮影したときに、
めちゃくちゃリアルに見える瞬間があって、
それが、すごくたのしいんですよ。
その感覚をみんなにも共有したくて、
写真を撮ってたのしむ展示にしています。

──
その感覚ってなんだか、
小学生の頃に生き物を観察していたのに
すごく近いような気がするんです。
図鑑の絵でも、その生き物の標準的な姿が
描かれているわけじゃないですか。
コンノさんが観察してつくる、
食べものの木彫り図鑑っていうのかな。
コンノ
木彫り図鑑。なるほど、そうですね。
ぼく、食にはめちゃくちゃこだわりが強くて。
子どもの頃は、冷めたご飯が食べられなくて
かなり親を困らせていました。
ご飯がちょっとでも冷めると
正解じゃなくなっちゃう気がしたんです。
──
じゃあお弁当もダメ?
コンノ
幼稚園の時はお弁当を残して、
帰ってから温めて食べていましたね。
お弁当の時間はひとりだけ砂場で遊んでいました。
あるとき母親が気づいて、
サンドイッチにしたら食べる、と。
──
おお、サンドイッチなら常温でもいい。
コンノ
母は料理が上手だったんですよ。
豪勢な料理を作るわけじゃないけど、
たとえば、肉じゃがを作るにしても
下ごしらえの手を抜かずに
めちゃくちゃ丁寧に作る人なんです。
すごく舌が鍛えられましたね。
──
コンノさんの作品をSNSで見ていて、
食べることが大好きなかたなんだろうなって、
ここに来るまでにもデザイナーと
ふたりで話していたんですよ。
コンノ
あっ、わかりました?
ぼく、おいしく料理するのも好きだし、
食べに行くのもすごく好きなんです。
どうやって食べたら一番おいしいかとか、
どの順番で食べたらおいしいかとか、
考えていることがたくさんあって。
食べることへの執着がものすごくあるんで、
どうしたらおいしく見えるかなっていうのは、
作品で表現したいなと思うんです。
いっちばんおいしい瞬間を表現している感じ。

(つづきます)

2023-12-29-FRI

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  • 「本物か、木物か?」
    だまされたくて、何度も見ちゃう絵本だよ。
                 ——糸井重里

    キボリノコンノさんの最新のクイズ絵本、
    『どっち?』(講談社)が
    発売からまもなく大人気です。
    おいしそうな食べものと
    木でできた「偽物」はどっち?
    フランスパンやチーズ、コーヒー、
    カヌレにマカロン、お弁当も!?
    ひとりでも、親子でも、ともだちとでも、
    本物はどっち? と交流もたのしい絵本です。
    (講談社の『どっち?』特設サイトはこちら
    Amazonの販売ページはこちら。)

    渋谷PARCO8階、ほぼ日曜日では
    『どっち?』の出版を記念して、
    年明け1月26日(金)~3月10日(日)に
    クイズ形式の展覧会、
    「どっち?展」を開催します!
    詳細は「ほぼ日曜日」のページでおしらせします。