身近にある食べものを本物そっくりに
木で作っちゃう木彫りアーティスト
「キボリノコンノ」さんを知ってますか。
SNSで新作を披露するたびに、
つい参加したくなっちゃう木彫りクイズは
どんなひとが作っているんでしょう。
1月26日(金)から渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で
企画展がはじまるキボリノコンノさんのもとへ、
お話をうかがいに行ってきました。
木彫りをしながらも、コンノさんの根っこには
「おくりもの」という気持ちがあるそうですよ。
聞き手は、ほぼ日の平野です。
キボリノコンノ
木彫りアーティスト。1988年生まれ。
2021年に趣味で木彫りを始め、
「あっと驚くもの」をテーマに作品を制作し、
SNSで発表し続けている。
「溶けかけの氷」をはじめ、
「注がれるコーヒー」や「シガールの袋」など、
数多くの作品がTVやインターネットで話題となり、
2023年からプロの木彫りアーティストとして
本格的に活動を開始。
全国各地で展覧会やワークショップなどの
イベントを開催。
- ──
- コンノさんはもう、世の中のいろんなものを
「彫れる」「彫れない」という目で
見るようになっているのかなと思うんです。
その、彫れる基準って何なんですか。
- コンノ
- そのフィルターは、たしかにありますね。
ぼくが木彫りのモチーフを選ぶ基準は、
「彫れないと思っているもの」を彫っています。
- ──
- 彫れないと思っているもの。
- コンノ
- 簡単に彫れるものだったら、
発見がなくてあまりおもしろくないんですよ。
どう考えても木では彫れないだろうなっていうものを、
どうしたら木で表現できるか考えるのがたのしくて。
だから、彫る前には彫れると思ってないんです。
自分の中で設計図もできていないぐらい。
- ──
- 難しそうなものほど、彫りたくなるんですね。
- コンノ
- 彫り方や塗り方を調整しながら似せていって、
一番近いところに持っていく作り方なんですよ。
だから、彫れそうなものはあまり彫っていません。
- ──
- 「シガール」や「味のり」にしても、
食べる部分だけでなく、
透明のパッケージまで木で作っちゃうんですから。
そこまで木彫りで作るんだってびっくりしました。
それって自分でたどり着いた技術なんですか。
- コンノ
- なんというか、作りながら、
自分にクイズを出す感じなんですよね。
お題が与えられて、どうやって組み合わせれば
表現できるかなって考えるんです。
今まで使ってきた技術も使いますし、
新しい技術を開発することもよくあります。
どんなことをすればできるのかなって、
クイズみたいにたのしんでいます。
- ──
- なるほど、自分が出題者でもあり、
回答者でもあるクイズですね。
ひとつの作品ができるまで、
どのぐらいの時間がかかるんですか。
- コンノ
- 考えるところからはじまって、
1日か、2日でできあがります。
いつか作りたいもののリストは
スマホにどんどん溜まっているんですけど、
心から作りたいって思うものだったら、
思った瞬間に動いちゃってます。
- ──
- 作品を作るときにはいつも、
このアトリエにこもるんですか。
- コンノ
- 食べるのも忘れて、
この部屋にずーっとこもって作ります。
- ──
- 大好きな食も忘れて。
- コンノ
- そうそう(笑)。
- ──
- 作品との向き合い方って、
誰かに教わったんですか。
- コンノ
- ぼく、木彫りについて学んだことがないんです。
ほんとに独学で、YouTubeとかも見ていません。
動画を見たらそれが自分の中の答えになって、
それを目指そうとしちゃうんですよね。
むしろ、何も参考にしていなかったからこそ
生まれた手法って、たぶんいっぱいあるんです。
誰もやってこなかった表現って、
どうやったら作れるのかなって考えるうちに
自然と手法が生まれてくるものだと思っているので。
今は、そのおかげでいい方向に向かっているから、
特別な勉強をするんじゃなくて、
自分で生み出して、可能性を広げていくっていう
方向に向けて活動をしていますね。
- ──
- 小学生のときにされていた自然観察も、
先生はいないですもんね。
- コンノ
- そう、同じことをやっているなと思います。
だから、たのしくのびのびと
やれているなあっていう感じですね。
今日みたいにインタビューの機会をいただくと、
「夢はなんですか?」と聞かれることがありますが、
夢って、ぼくにはないんですよ。
今やっている活動がすでに夢以上のことだし、
こんな活動できると思ってもいませんでした。
ぼくは、夢に向かって進むんじゃなくて、
今できることをいろいろやってみて、
夢を無限にどんどん広げていきたいです。
- ──
- 夢に見た家具のデザイナーでも、
オオクワガタのブリーダーでもなかったし。
- コンノ
- 木彫りアーティストになろうなんて、
思いもしなかったですからね。
- ──
- 途中で公務員になったことも、
いい経験になったんじゃないですか。
- コンノ
- 公務員をやっていてよかったと思うのが、
いろんな方の人生に接する仕事だったことです。
市役所で接する人って、市民すべての人が対象で
どうしたら気持ちよく帰っていただけるかなと
考えながら働いていました。
ぼくはこうして今、木彫りをしていますが、
作品の作り方、投稿の仕方、展示の仕方を
考える上ですごく役立ってるなって思います。
- ──
- 今の活動にも役に立っているんですね。
ほんとうに、遠回りじゃなかった。
- コンノ
- 市役所って、来たくて来る人は
ほとんどいないじゃないですか。
そういう人たちと会っていたおかげです。
- ──
- その市役所をお辞めになって、
フリーになったのが今年でしたよね。
コンノ家にとって、大きな変化だと思うんです。
34歳で辞める、という区切りだったんですか。
- コンノ
- いえ、年齢ということではなく、
まだ公務員を辞めるつもりはなかったんです。
自分のプランとしては、あと2、3年くらい
そのままSNSだけで活動をして、
「キボリノコンノ」の名前を
もっと世の中に知っていただいてから、
木彫りアーティストとして活動できたらなと。
- ──
- じゃあ、なにが理由で。
- コンノ
- メディアで取り上げていただいたりして、
知名度がけっこう上がっちゃったので、
市役所側から注意を受けたんです。
ぼくの活動が企業の利益に繋がってしまうから、
活動を抑えてほしいと言われてしまって。
- ──
- 公務員という立場を考えると
わからない話でもないのですが、
うーーーっん、もったいないですねえ。
- コンノ
- 職場に確認をして活動の許可は得ていたのですが、
企業のお菓子の投稿や
すでに決まっていた展覧会や出版も
やっぱりやめてほしいと言われてしまいまして。
相手方にも迷惑はかけられないと思いました。
- ──
- 独立するにはまだ時期が早いと思いながら、
辞めることを考えたんですね。
- コンノ
- 公務員でいれば生活は安定しますが、
作品をたのしみにしてくれている方がいて、
展覧会もやりたいし、作品集も作りたいし。
そこで活動を抑えたらどうなるだろうと思って、
自分はすごく不安だったんです。
- ──
- そうですよね。
作品が見なくなったら、
忘れられちゃいそうで怖いですよね。
- コンノ
- 木彫りの活動をやめて、
何年後かに活動を再開したとしても、
見てもらえるかわからないじゃないですか。
それなら、たくさんの人が見てくれている今、
思いきってプロとして活動しようと決めました。
- ──
- 本当に、大きな決断ですよね。
たしか、そのフリーになるタイミングが
お子さんが生まれる直前でしたよね。
- コンノ
- そうなんです、まさに。
娘は今年3月に生まれたんですけど、
妻に独立の相談をしたのが2月末で。
- ──
- あちゃー、その時期の変化は
ショックが大きすぎます。
- コンノ
- 辞めたところで働くあてもないですし、
1週間ずっと妻とふたりで泣いていました。
どうしよう、どうしようって。
でも、職場を辞めるしかないよね、と。
それから妻の両親に説明しに行くんです。
もう、怒られる覚悟でした。
- ──
- つまり「話がちがうじゃないか」と。
- コンノ
- そうしたら、妻のお母さんが、
やってみたらいいんじゃないって言ってくれました。
自分の作品をこんなに見てくれるのって
今しかないから、今フリーになった方がいいよって。
子どもが生まれて、手がかかることになっても、
フォローもしてもらっています。
正直言って、まさかそんなふうに
背中を押してもらえると思っていませんでした。
- ──
- 公務員を辞めて、3月にお子さんが生まれて、
公私ともに、生活がガラッと変わりました。
- コンノ
- 思った以上に忙しくなりましたね。
プロになりましたって公表したら、
ありがたいことにお仕事の依頼をいただいたり、
メディアに取材していただいたりして、
じつは市役所にいたときよりも、
よっぽど忙しくなっちゃったんです。
事務仕事をお願いできる会社さんも見つかって、
展覧会をメインに活動していけるようになりました。
- ──
- ご夫婦で泣きながら話していた頃の
不安は晴れましたか。
- コンノ
- おかげさまで、ひとつ先が見えました。
今は、しっかり維持していないと
いけないねっていう話をしています。
(つづきます)
2023-12-30-SAT
-
「本物か、木物か?」
だまされたくて、何度も見ちゃう絵本だよ。
——糸井重里キボリノコンノさんの最新のクイズ絵本、
『どっち?』(講談社)が
発売からまもなく大人気です。
おいしそうな食べものと
木でできた「偽物」はどっち?
フランスパンやチーズ、コーヒー、
カヌレにマカロン、お弁当も!?
ひとりでも、親子でも、ともだちとでも、
本物はどっち? と交流もたのしい絵本です。
(講談社の『どっち?』特設サイトはこちら。
Amazonの販売ページはこちら。)渋谷PARCO8階、ほぼ日曜日では
『どっち?』の出版を記念して、
年明け1月26日(金)~3月10日(日)に
クイズ形式の展覧会、
「どっち?展」を開催します!
詳細は「ほぼ日曜日」のページでおしらせします。