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[後編]同じ志をもった仲間たち

──
撚糸屋さん、
どんなところで悲鳴を上げられてたんですか(笑)。
亜希子
あのですね、たとえば糸なんですけど、
東和さんで太い糸を2本引き揃えて、
さらに太い糸を作りたかったんです、
でも2本の糸をただ引き揃えるだけだと、
撚りが入ってるので、生地にしたときに
膨らみが出づらいかもっていう思いがあったので、
撚糸屋さんと相談して、
可能な限りこう一回撚りを解いてから、
もう一回締め上げようって。
吉川
‥‥それは、たいへんだ。
──
よく見ると、太い糸が
細い糸で巻かれています。

亜希子
そうです。この細い糸はナイロンで、
通常、自分たちは使いません。
けれども今回この意匠を出すためには必要だったので、
細いナイロンで締めて、
よりポコポコなるようにさせてもらいました。
──
へえ~っ、すごい。

亜希子
これが、撚糸工場さんへの指示書なんですけど、
何が書いてあるかというと、
「太い糸を2本引き揃えてください。
東和さんにそれが何回撚られているかを聞いて、
その分戻したいです。
戻してから、次は70デニールのナイロンで
カバーリングをしてください。
S方向にカバーリングを強くすれば、
よりうねるけれども、糸が硬くなり、
かといって弱くしてもいけないので、
この辺がいいのではないでしょうか」
‥‥みたいなことを指示しているんです。
いつもだったら、これでザーッと上がってくるんですけど、
今回は撚糸屋のおじさんと、ああだこうだ、
「これじゃだめ」「これもだめ」「これでもだめ」
‥‥「これ!」と、やっていたんです。
──
へえ~っ!
亜希子
最終確認は、それをお湯に濡らして膨らむか確認し、
「これで行こう」。

▲その糸をつかって織られた「うねり」。まるで手紡ぎ手織りの布のような、あたたかみのある表情に。 ▲その糸をつかって織られた「うねり」。まるで手紡ぎ手織りの布のような、あたたかみのある表情に。

田中
解撚自体は東和さんとはまた違う
撚糸屋さんに依頼するんですね。
亜希子
そうなんです。
東和さんは紡績屋さんなので。
田中
尾州は、本当に分業なんですね。
この生地だけで、紡績屋さん、撚糸屋さん、
糸染屋さん‥‥。
亜希子
機屋さん、あと、細かく言うと、補修屋さん、
切れた所やキズを直す所ですね、
そして、水を通して、風合いを作る
整理工場ということで、6つは経由しています。

──
そこまでやって、やっと、
この風合いになるっていうことですね。
亜希子
はい。洗うときにも技術がいるんです。
洗い方とか、何度で何分とか。
その辺はあまり詳しくは教えてもらえないんですけど、
完成形をこうしてほしいっていうことを伝えます。
田中
ウールでも、どんな生地でも、
1回は水を通すんですよね、
世の中の生地っていうのは。
亜希子
通ってます。
どうしても織るときにオイルとか汚れたりとかするので、
そういう意味で、必ずソーピングみたいな、
汚れを落とすっていう工程を入れるんです。
そこから、縮めたいとか、もっと押さえたいとか、
そういういろんなことをする。
尾州という産地は、
すごくいろんな工程ができるのが特徴なんですよ。
いろんな工程を組み合わせて
1つのものを組み上げていく。
他の大きな産地になると、
1つの機械に入れたら、全部その工程が終わって、
そのまま上がってきたりします。
それはそれで、きれいなものができるけれど、
「kijinokanosei」みたいに、
なんかちょっといろいろな工夫をしてみたい、
ということはできません。
その違いを私はとてもおもしろいと感じているので、
これをウールだけじゃなく、リネンであるとか、
リネンとウールの混紡とかに生かせないかなと、
いろいろ考えながらやってます。

──
いろんな個性を出しやすい環境なんですね。
亜希子
そうですね。同じ生機でも
いろんな風合いに仕上げられる産地っていうのは、
たぶんここが日本の中でも一番だと思いますよ。
広康
今回は、生機と仕上がりの差が、
けっして大きくないほうなんですよ。
亜希子
ふわっと、手が込んでるようなものは、
洗いすぎると事故につながりやすいので。
──
変わるものは、変わるんですね。
広康
無地なんか、すごく変わりますよ。
でもこんなふうに生機で表情が出ているものは、
そんなにしない方がいい。
田中
糸自体、柔らかいものを使っていますからね。
亜希子
ごまかしが利かないから、
糸をきちっと作らないといけませんでした。
だから撚糸屋さんは相当ドキドキしたと思います。
──
全体を通して、「kijinokanosei」は、
けっこうな難題でしたか?
広康
今回は‥‥そうですね(笑)。
亜希子
喜子さんからの「やりたい熱」を受けて、
私たちも、やっぱりすごくパワーが必要でした。
田中
ありがとうございます。
こんなに素晴らしい生地を
つくってくださって。
本当にこれは、尾州の人たちの結晶です。
本当にすごいなあと思います。
たとえば、「十五夜」という布は
組織だけ見ると、
かなりシンプルな組織なんですよ。
でも技術はすごいんです。

▲「十五夜」 ▲「十五夜」

亜希子
「ストップモーション」というんですが、
太い糸と、その3分の1くらいの細さの糸を、
同じ密度で織っていくと間延びしてしまうので、
「ここまではザックリ織って、ここからは密に織る」
っていうような技術があるんです。
それを機屋さんにお願いしてやってもらいました。
「詰まってザックリ、詰まってザックリ」。
吉川
えっ、そういう機械があるっていうことですか‥‥?
広康
いや、改造です。

亜希子
機械は改造するものなんです。
吉川
あ、改造? おおーっ。
広康
ストップモーションっていう技術を
知ってる人が今は少なくなっちゃいました。
田中
わたし、初めて聞きました。
広康
常に生地を送っていくわけなんですけど、
細い糸になったら歯車を送らずに止めておくんです。
それでまた太い糸に行ったときに、
また歯を戻して送っていく。
──
そのパーツとかも作ったりするんですか。
広康
そうです。
吉川
ええーっ? 
亜希子
始めの方は、改造がうまくいかなくて、
歯車がうまくそこで止まらず、
じゃんじゃん進んじゃったりとか、
次には戻らなくなって密になったりして、
もう「ギャーッ!」って言いながら、
「おじさーん! がんばれーっ」と
みんなで言いながらやってもらってたんです(笑)。
田中
同じ番手だと、またかわいくなかったりとか、
ちょっとしたことがあるんですよね。
その差があるからおもしろいんです。
そのためにそんな苦労を‥‥。
──
田中さんの方ではどこまでお伝えしたんですか、
最初のイメージは?

田中
ここをとにかく光らせたいっていう話はしていました。
ただ、シルクだと意外と光らない可能性がある。
亜希子
今回、このツルツル、キラキラして見えたりするものは
思い切ってレーヨンを使っているんです。
その中でウール100%の糸が
仕上げで縮める役割になっている。
今回はこれが一番むずかしかったかな。

田中
あとは、ただの丸ではなく、
いびつさのある、
味のある印象にしたいっていうのがあって。
そういうのって、糸の形状がストレートじゃなくて、
ちょっとボコボコしてるのでやらないと、出ないんです。
そういったことで、最終的には
理想通りのボコボコさが出ましたね。
──
近藤さんは、最初、指示をお聞きになって、
けっこうピンと来たんですか。
亜希子
お話をお聞きして、まずは番手をどうするか、
絞り込みをしてから、糸を探しました。
そこに迷いはないですけど、
それに適した糸をいかに探せるかっていうところで、
喜子さんにも情報を頂きながら、
「この糸、いいんじゃない?」
「こちらがいいかな」と。
田中
一緒に相談しながら進めましたね。
本当にそこが近藤さんのすごいところです。
一緒につくり込んで、
おもしろい生地の顔を作ることに、
アイデアが長けている。
亜希子
ありがとうございます(笑)。
──
ずっと謎だったんですよ。
一体どうコミュニケーションしたら、
この生地が生まれるんだろうと。
吉川
これはSTAMPSだけでは
どうやったって出ないアイデアです。
絶対無理ですよ。
こういうチームがあるから
「kijinokanosei」が生まれたんだと、
あらためて現場を知り、思いました。

田中
言葉では説明できないデザイン性とか、
あたたかみみたいなものが生まれたのは、
みなさんの技術のおかげだと思います。
亜希子
今、なんでもそうですけど、
機械がどんどん新しくなっていっているので、
モノをきれいにつくるのが得意になっていますよね。
でも、こういう、なんか手仕事感みたいなものは。

広康
味があるものってね。
亜希子
やっぱり本当にむずかしいっていうのを、
本当に体感してきたんです。
ヴィンテージを復刻する仕事もしてたんですよ。
撚糸屋さんとも組んで、
昔の糸を復刻するために
いろいろやってきた時代があって。
でも、昔は糸種も限られている中で、
時間をかけていろいろ考えてつくったから
味が出たものが多いんです。
それを今の進んだ機械で省略化してつくると、
似ているんだけれど、やっぱり全然違う、
なんだか気持ち悪いみたいなものになるんです。
そんな思いがあったので、
できるだけやっぱり今回は、
それをいかに感じさせないようにするのか、
しかも現代の技術で、
ある程度量産できるっていうことを大事にしながら、
考えていきました。
私、手織りの世界も大好きなんですよ。
自分で毛刈りから始めて、紡いで、染めて、
織っている方をすごく尊敬するんです。
でもどうしても自分たちは工業っていうか、
こういった産地にいるので、
それを通して、いろいろな方が
ちゃんと生活できるように仕事を回したりするのも
とても大事だと思っているんです。
それがないと、やっぱりみんな楽しんでやれない。
工業生産でもおもしろいよ! っていうことを、
わかってもらえたらうれしいなと思いながら、
今、やっています。
田中
もちろん手織りの味に勝るものはないし、
それを超えることはなかなかむずかしいんですけど、
でも、そういうことをわかってくださる
近藤さんが携わってくれると、
工業製品がこんなにも素敵になるんだ、
っていうことなんですよね。

(つづきます)

2022-12-12-MON

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