「kijinokanosei」の織りの現場をたずねる取材、
最後は「石松毛織工場」をたずねました。
ここは「きんとと」「昼夜」ふたつの生地を
つくってくださった、古い機屋さん。
長年ここで働く石垣松利さんが迎えてくださいました。
「kijinokanosei」は、こんなところで、
ゆっくり、たいせつに織られているんですよ。
戦前からの工場で
- 田中
- 今回、兒玉毛織さんでこの赤い生地「きんとと」と、
濃紺と白の「昼夜」をつくっていただきました。
- 田中
- 企画で参加してくださっている
遠山産業の大野さんは、
いわゆる設計図をかいてくださる方で、
分かりやすくいうと、「kijinokanosei」で
今回ネームタグにもさせてもらった組織図は、
大野さんが書いてくださったものなんです。
- 大野
- 昔でいう「柄師」(がらし)です。
あんまいい言い方じゃないんですけれど(笑)。
- 石垣
- いえいえ、昔は
「柄師さん、柄師さん」と
みなが頼りにしていましたよ。
- 大野
- 昔はね、重宝されたんですよ。
- ──
- お着物の時代から、ですか?
- 大野
- いえ、尾州の毛織物専門です。
だから僕は他のことはよく分からない。
- 田中
- おふたりは、今回、
5、60年前の組織を
現代のデザインに生まれかわらせるという
このプロジェクトのお手伝いをしてくださいました。
昔から変わらずあるものを、
ちょっと大きめのチェックにしたいとか、
ドットに見えるものにしたいという提案です。
そこで、児玉勇己さんが、
どこの機屋さんがベストか、
どこの糸をどのように使うのがいいか、
実際につくりあげるまでの知識を持たれてるので、
大野さんと児玉さんにタッグを組んでいただいたんです。
そして、織るにあたっては、
こちらの織機じゃないと織れないと、
石松毛織工場の石垣さんを頼りました。
- 石垣
- はい。
- 田中
- このシャトル織機で、ゆっくり織って。
- 石垣
- ションヘル織機でね。
- 吉川
- ションヘル織機は、ドイツ製のものは
明治頃からですか、
かつて主流だった機械ですよね。
低速でゆっくりと織り上げるので、
柔らかな仕上がりになるんです。
- 石垣
- うちで使っているのは、
昭和39年、40年ぐらいのものが多いです。
一番古いのが、そこにあるやつで33年かな?
- 大野
- もう50、60年経っているんですね。
昔は尾州の典型的なこういうのこぎり屋根の工場で、
たくさんのションへル織機が活躍していたんでしょうね。
- 児玉
- のこぎり屋根の窓は北に向いていて、
直射日光は入らず、一日中安定した光が入るんです。
- 石垣
- 前はガラス窓だったんですけれど、
台風とかいろいろあって、ヒビが入っちゃったりしたので、
3年ぐらい前に変えたんですよ。
- 田中
- 素敵な建物ですよね。
石垣さんは、何年ぐらい前から
ここでやられてるんですか?
- 石垣
- 建物は先代の先代からなんです。
昭和の‥‥戦前ですね。
昔は軍服をつくっていたといいます。
- 吉川
- こちらのものは日本の織機なんですか?
- 石垣
- そうです。平岩織機といってね。
- 吉川
- 名前を聞いた事があります。
大きな鉄工所のものですよね。
- 大野
- でも、もう、部品もないんです。
- 石垣
- ええ。ですから、壊れると溶接してね、
直してもらうんです。
- ──
- すごく大事に磨かれてる感じがしますね。
ツヤツヤしてて。
やっぱりゆっくりじゃないと
織れない柄っていうのがあるんでしょうね。
- 石垣
- そうですね。やっぱり、風合いが違う。
僕らからいわせるとね。
テンション張ってガッと織るものとは違いますね。
- 大野
- スピードが速ければ速いほど、
どっちかいうとペーパーライクになってくるんです。
ションへル織機だと、なんていいますか、
断面が‥‥。
- 石垣
- フワァ~ッとなりますね。
- 児玉
- 空気を含んでるといいますかね、そんな感じです。
シャトルが旅をする
- 大野
- 大将、1日どれくらいできるものですか。
1反ぐらい?
- 石垣
- そうです! 1反、30メーターちょっと。
- ──
- 1日かけて1反しか。
- 石垣
- 1分間に90回ぐらい回転させてね。
早めるとやっぱりね、
こいつ(シャトル=緯糸を通す道具)が
旅をするもんで、飛んでってしまったり(笑)。
- ──
- 「旅をする」って、いいですね。
ずっと動いているんですもんね。
- 石垣
- ほら、そこのガラス割れとるでしょ?
1回ね、昔、シャトルが飛んで。
- ──
- 当たったら痛そうです。
- 石垣
- 当たったらそうよ。
昔1回頭に当たったことあるけど。
- 吉川
- えぇ~っ!!
- ──
- ちなみにその、今、織機に縦糸がかかっていて、
織っていく様子を見せていただいてるんですけど、
糸が巻かれた状態でまず糸が届くじゃないですか、
その後、この状態に織れるようになるまで、
どういう作業があるんですか。
- 石垣
- そこの整経機、に巻くんですが、
一度にはできないので、
部分的に並べて準備するわけです。
で、何回か回して、
やっと1本のビームに巻くわけです。
これがビームね。
- 大野
- それが「準備工程」っていいます。
- ──
- どのぐらい時間かかるんですか?
糸の状態から、成型をして、
織れるようになるまでには。
- 大野
- 反数とか、縦糸の本数によっては変わってくるんですけど、
全部の準備工程をやろうと思ったら、
遅い人だと1週間はかかる。
- 石垣
- 早ければ4日ぐらいかな。
糸数が少なければ。
この1本1本を通さなあかんでしょう。
- ──
- それは手で?
- 石垣
- 手です。
- ──
- それはたいへんです。
- 石垣
- 1本1本。
早い人やと1時間に
700本ぐらい差すんじゃないのかな?
- ──
- すごいです。その順番も
間違えちゃいけないですもんね。
- 石垣
- ええ、だからつけたときに、
調べるんです。
- 大野
- 今、二重織りが流行りですから、
綿の二重織りなんかだったら、
縦糸が1万6,000本というのがあって。
でもそういうのは、もう自動で機械でやるんですけど、
それはまたすごく高価なので、
大手さんしか入ってないです。
今の尾州としての生き残り方として、
そういう高速織機に頼って量をたくさんつくる工場と、
こういった技術といいますかね、
手づくり感覚で勝負される工場と、
両方がありますよね。
- 石垣
- はい。
昔も今も
- 田中
- 「kijinokanosei」の柄は
どんなふうに感じられました?
結構昔多かったんじゃないですかと思うんです。
「こういう柄を見たことある」とか。
- 石垣
- まずふだんこういう柄をつくらない我々にしてみりゃ、
「きれいだな」と思いましたよ(笑)。
昔は‥‥あぁ、こういう柄ね。
はいはいはい、チェックの。
ありましたね。
- 田中
- しばらくこういうものを、
みなさんつくられていないと思うけれど、
多分織りの歴史の中では、昔は結構あったのではないかと。
- 石垣
- そうですね。生地の組織というのは
そんなにむちゃ変わるもんじゃないし。
紳士物でしたら、ストライプの目が大きくなったり
小さくなったりするくらいで。
今は、パソコンから柄を出して、
「この柄で大体15センチぐらいのチェックにしてくれ」
とか言う人もいるんですよ。
言うほうは簡単なんですけどね、
「織るほうの身にもなってくれ」って言いたいよ(笑)。
- 一同
- (笑)。
- 大野
- きっと対応していただけるかなぁっていうところで
つくっちゃうんです、企画のほうでは。
だけどやっぱり、できるだけ織りやすい企画を
心がけてますよ、ほんとに。
- 大野
- 前はね、織機が朝4時ぐらいから動いていて、
夜は2時とか3時まで稼働していた。
- ──
- そんな時代もあったんですね。
- 石垣
- 周辺も機屋だったんですけど、
売られて建売が建ってしまったので、
もう、遅くまで機械を動かせないです。
ガシャンガシャンとうるさくて。
- 大野
- 朝6時ぐらいから、夜の10時までが定番でしたけど、
ほかの機屋さんも、今は9時半までで、
夏場は8時には窓を閉めます。
やっぱり苦情も出ますし。
- 吉川
- 時代がかわると、そういうこともあるんですね。
(つづきます)
2022-12-13-TUE