さぁ、不思議な座談会がはじまります。
もともと『MOTHER』の大ファンで、
『MOTHER』にまつわるコンテンツやグッズを
YouTubeで紹介してくださっていたコアラさん。
そして、最近『MOTHER2』と『MOTHER3』の
ゲームの実況を生配信し、話題になった
VTuberのリゼ・ヘルエスタさん。
ふたりの『MOTHER』ファンによる
「あたらしい活動」を知った糸井重里は、
その取り組みにとても興味を持ち、
この日のおしゃべりが実現しました。
念のためにお伝えしておきますが、
ときどき、ゲームの大事な場面について、
遠慮なく話すことがあります。
コアラ
ヴィジュアル系ゲーム実況動画クリエイター。
鋭い突っ込みによるトーク、
テンポの良い編集に定評があり、
笑いや驚きを視聴者に提供する。
ゲームコレクターとしての顔も持ち、
とくに『MOTHER』グッズの収集は
質、量ともに世界トップレベル。
リゼ・ヘルエスタ(りぜ・へるえすた/Lize Helesta)
にじさんじ所属バーチャルライバー。
ヘルエスタ王国の第二皇女。
文武両道学園主席、真面目で
誰にでも優しくかなりの人望がある。
王位継承の資格者として日々鍛錬や
人とのコミュニケーションを大事にしている。
- リゼ
- 糸井さんはもともとは
コピーライターでいらっしゃって、
ゲームをつくる人ではなかったわけですけど、
でも、そんな糸井さんがつくったゲームは、
ゲームをプレイする人間にとって、
おもしろいポイントがとても多くて。
たとえば、なんだろう、
パッと見て、回復アイテムだろうと思って、
たまご(うみたてたまご)を買って歩いてたら、
ヒヨコになっていなくなっちゃう、とか(笑)。
- 糸井
- ああ、はいはいはい(笑)。
- リゼ
- それから、なんだろう、
砂漠に三人組の男たちが立ってて、
「あにのパンチョです」
「おとうとのピンチョです」って言うから、
あ、そういう三兄弟なのね、と思ってたら、
最後のひとりが
「ともだちのおおしおへいはちろうです」
みたいな、「そうなるんかい!」っていう。
- 糸井
- はい(笑)。
- リゼ
- そういう、ゲームを遊んでる人が、
よろこぶようなことって、
ゲームを日常的にやられる方じゃなくても、
発想できるもんなんだなぁ、って。
- 糸井
- ゲームを日常的にやらない人だから、
そうしたんじゃないかな。
- リゼ
- ああーーー。
- 糸井
- だって、そんな無駄なことに
労力を費やしてるゲームって、
そんなにないですよね。
- コアラ
- はい(笑)。
- 糸井
- ぼくはそういうことがやりたかったんで。
「おおしおへいはちろう」っていうことばを、
ゲームのなかで聞くだけで
すごくおかしいじゃないですか。
- リゼ
- そうですね(笑)。
- 糸井
- そういうことがやりたくてゲームをつくった、
というくらいの気持ちがあります。
だから、なまじゲームづくりのことを
知ってる人だったらそんなことしないかもね。
あと、ぼく以外のスタッフは、
もちろんゲームを知ってる人たちなんだけど、
ぼくが「おおしおへいはちろう」みたいな
ことを言うと、笑ってくれるんですよ。
- コアラ
- ああーー(笑)。
- 糸井
- で、笑ってくれるとうれしいから、
「え、そのあとにこう続けようか?」
「YES、NOの分岐をつくろうか?」とか言って。
そんなふうに、そこにいる人たちの
反応をあてにしながらつくってましたね。
ゲームのなかのことばやセリフも、
1作目のときは原稿用紙に書いてましたけど、
『2』と『3』はもう隣にいてもらって、
その人に話して反応を見ながらつくってました。
- リゼ
- へぇーーー(笑)。
- 糸井
- しゃべって、その人が笑うと手応えを感じて、
あんまりウケないなと思うと、
「あ、ゴメン、ゴメン、いまのなし」って。
妙な臨場感があるのは、それだと思いますね。
つまり、ひとりで考えたものを
読んでもらってるんじゃなくて、
その場でウケてるかどうかで決めてますから。
で、そこは言う方も言われる方も厳しいんです。
「いや、おもしろいですよ」
って言ってもらっても、
「お前は、ほんとは、おもしろいと思ってない」
みたいな感じで(笑)。
- コアラ
- その場の空気でつくりあげていった、
みたいなかたちなんですね。
- 糸井
- そうですね。だから、漫才の台本を、
お客がいる前で作ってるみたいな。
- リゼ
- ああーー。なるほど。
- 糸井
- ただ、ストーリーの大きな動かし方は、
その場の反応を頼りにするんじゃなく、
ひとりで一生懸命考えないとだめだから、
ふつうにノートに書いては消し、破り、
みたいなことをしてましたね。
- コアラ
- ゲームのなかの「ことば」って、
『MOTHER』の重要な要素だと思うんですが、
それをつくったり決めたりするのは、
ゲーム開発の、どの段階でやるものなんですか?
たとえば、最初の町がある、つぎの町がある、
そこにこういう人がいて、こんなことを話す、
みたいなことは、どう決まっていくんでしょう。
- 糸井
- ほぼ、最初から、平行してやってますね。
たとえば、設計図として、ある町をつくるとき、
ここにはこれが必要だって、当然ありますよね。
でも大事なものばかりを決めて置いていくのは、
ぼくはやっぱり好きじゃない。
だから、大事なものをつくるときに、
大事じゃないものも思いつく。
- コアラ
- ああーーー。
- 糸井
- それはセリフっていうよりも、
人とか出来事で考える感じかな。
だから、たとえばスリークという町がある。
そこに、サーカスのテントがある。
だって、訪れた街にサーカスのテントがあったら、
旅人として、ものすごくうれしくない?
- リゼ
- ワックワクです!
- コアラ
- うんうん、そうっすね。
- 糸井
- ワクワクしますよね。
サーカスって、そういうもんだから。
で、ちょっとした怪しさもあるし。
じゃあ、街の真ん中に大きなテントがある。
それを思いついたとき、同時に、
「そのテントそのものがモンスターなんだよ」
って言い出すのが、ぼくの好きなパターン。
そしたら、そのテントのなかに、誰がいて、
どんなセリフを話すんだろう? っていうのを
「さぁやるぞ」って腕まくりして、
ちょっとずつつくっていくわけです。
- リゼ
- ああーーー。
- コアラ
- なるほどですね。
- 糸井
- だいたいそういう感じで、
ちょっとずつつくっていきましたね。
‥‥そういえば、今度、
『MOTHER』シリーズ全3作の
ぜんぶのセリフを集めた本
(『MOTHERのことば。』)が出るんですよ。
- コアラ
- はい、知ってます。
- 糸井
- それの見本というか、
まだ中身を刷ってない本のサンプルを
こないだ見せてもらったんだけど、
ものすごく「厚い」んです(笑)。
もうね、箱というかカタマリみたいで。
それは、なんかね、よくこれだけ
ことばをつくったなと思いました(笑)。
- コアラ
- そうですよね‥‥。
あの、じつは、言ってしまいますけど、
あの本って、ファンに呼びかけて、
「ゲームをプレイしながら
本の中身をチェックする人」を
一般公募する試みをされてたじゃないですか。
- 糸井
- ああ、はい。
- コアラ
- じつはぼく、個人的に応募させていただいて、
選抜されて、関わらせていただいたんです。
- リゼ
- ええっ、すごい!
- 糸井
- えっ! ほんと!?
- コアラ
- はい(笑)。
コアラ名義じゃなく本名でちゃんと応募して。
- リゼ
- ええーー(笑)!
- 糸井
- ああー、それは、うれしいな。
- コアラ
- しっかりチェックさせていただきました。
- 糸井
- ていうことは、
あの本のゲラを持ってる人なんだ?
- コアラ
- はい、担当したところだけですが。
- リゼ
- え、じゃあ、校閲されたってこと?
- コアラ
- そうです。
- リゼ
- すごーい(笑)。
- 糸井
- すばらしいね。
- コアラ
- その期間中はほぼ毎日、
自分の動画を録り終わったあととかに、
「よしやるぞ!」ってゲームをプレイして、
ひとつひとつのことばが合っているかどうか、
原稿と照らし合わせてチェックしてました。
- リゼ
- ええー、すごーい(笑)。
- 糸井
- それは、ぼくがもし、
ゲームをつくった本人じゃなければ、
その仕事はしてみたいね(笑)。
- コアラ
- すごく楽しかったです(笑)。
- 糸井
- あ、そう。もう終わったんですか?
- コアラ
- もう、終わりました。はい。
- 糸井
- おもしろかった?
- コアラ
- いや、おもしろかったです。ほんとに。
いままでも何度もプレイしてるんですけど、
あらためてもう一度、
『MOTHER』のことばに触れたというか。
これまで、プレイヤーとして遊んでたときは、
「おもしろいセリフだなあ」って
ふつうに思うだけだったんですけど、
いま、こうしてYouTuberという
ある意味、クリエイターとして
活動するようになってからは、
糸井さんが考えられたセリフやことばを読むと、
うらやましかったり、ちょっと悔しかったり、
こんな言い回しがあるのかって勉強になったり、
「自分もこういうことばを思いついてやるぞ」
って奮い立たされる部分もありました。
- 糸井
- ああ、それはね、ものすごくうれしいです。
- コアラ
- (笑)。
- 糸井
- ところで、コアラさん、
正座してると、たいへんだよ。
- コアラ
- ああ、すいません、ありがとうございます、
ありがとうございます(笑)。
- 糸井
- 足を崩しなさい、そうそう。
- コアラ
- はい。ありがとうございます(笑)。
(つづきます)
2020-10-29-THU