さぁ、不思議な座談会がはじまります。
もともと『MOTHER』の大ファンで、
『MOTHER』にまつわるコンテンツやグッズを
YouTubeで紹介してくださっていたコアラさん。
そして、最近『MOTHER2』と『MOTHER3』の
ゲームの実況を生配信し、話題になった
VTuberのリゼ・ヘルエスタさん。
ふたりの『MOTHER』ファンによる
「あたらしい活動」を知った糸井重里は、
その取り組みにとても興味を持ち、
この日のおしゃべりが実現しました。
念のためにお伝えしておきますが、
ときどき、ゲームの大事な場面について、
遠慮なく話すことがあります。
コアラ
ヴィジュアル系ゲーム実況動画クリエイター。
鋭い突っ込みによるトーク、
テンポの良い編集に定評があり、
笑いや驚きを視聴者に提供する。
ゲームコレクターとしての顔も持ち、
とくに『MOTHER』グッズの収集は
質、量ともに世界トップレベル。
リゼ・ヘルエスタ(りぜ・へるえすた/Lize Helesta)
にじさんじ所属バーチャルライバー。
ヘルエスタ王国の第二皇女。
文武両道学園主席、真面目で
誰にでも優しくかなりの人望がある。
王位継承の資格者として日々鍛錬や
人とのコミュニケーションを大事にしている。
- コアラ
- 『MOTHER』のいいところって、いろんなことを
断言しすぎないところだと思うんです。
自分が想像する余地がたくさんあるというか。
- 糸井
- ああ、なるほどね。
- コアラ
- やっぱり、いまだにファンが
『MOTHER』の話ですごく盛り上がれるのは、
そのおかげだと思うんです。
それぞれの解釈があるからこそ、
『MOTHER』の話をしたときに、
「あ、そういう解釈なんだ」とか、
「俺はこう思ってるよ」とか、
人それぞれなんだなっていうことを、
おもしろがることができる。
- 糸井
- で、ぜんぶオッケーなんですよね。
- コアラ
- そう。それってすごいことで、
それがいまだに盛り上がれる要因なのかなって。
- 糸井
- そういうふうになることを、
ぼくもつくりながら望んでましたね。
だから、『MOTHER』を好きな人と会って、
「ぼくにとってはこうだったんです」って聞くと、
「ぼくがそういう人と会いたかったから、
そうしたんだよ」みたいな気持ちになる。
- リゼ
- ああー(笑)。
- 糸井
- わかりやすい例としてはね、
アメリカの小さい地方の町で育った子が、
『MOTHER』が大好きで、それがきっかけで
日本語と日本の文化が大好きになって、
ついに日本で働くことになったんですよ。
たしか栃木県の市役所かなんかに。
- リゼ
- へぇー、市役所(笑)。
- コアラ
- すごい(笑)。
- 糸井
- けっきょく、その子にはほぼ日の仕事も
手伝ってもらうことになったんだけど、
会って話したときに、
「どうしてアメリカでわざわざ
『MOTHER』をプレイしたの?」
みたいなことを訊いたら、
「アメリカの人がみんなマッチョで
アメフトのスーパースターみたいな人が
大好きっていうわけじゃないんです。
むしろ、ゲームや映画やコミックが好きな、
インドア派な人もたくさんいるんですよ。
そういう友だちと『MOTHER』の話をするのは
とてもたのしいんです」って言ってて、
「ああ、日本と同じだな」と思って。
『MOTHER』を通じて、そういう気持ちが
理解し合えるんだと思ったら、
すごくうれしかったんですよね。
- コアラ
- うん、うん、同じですよね。
- 糸井
- こういう話をしているだけで、
もう、おもしろいもんね。
それが『MOTHER』というゲームが持っている
ちからというか、魅力というか。
- リゼ
- 『MOTHER』って、
プレイヤーにすごく委ねられてるていうか、
プレイヤーからすると、
委ねてもらえる部分が多いゲームだなって
すごく思うんです。
- コアラ
- ああ、そうですね。
- 糸井
- うん。委ねてるわりに、大事なところは、
「お前が決めるんだぞ」って
突き放すこともあるよね(笑)。
- リゼ
- そうかもしれない(笑)。
- コアラ
- ああ、ありますね(笑)。
- 糸井
- 『2』の最後の決断なんかも、
アンドーナッツ博士が
「いいにくいのだが‥‥」ってね。
- リゼ
- ああ、あそこ!
ドキドキですよ、こっちは(笑)。
- 糸井
- ねー。「お前が決めてるんだぞ」っていう。
それは、ぼくの、すごく意地悪な部分で。
意地悪な愛情っていうと変だけど、
誰かに決めてもらうじゃなくて、
デメリットとか痛みももちろんあるけれど、
自分が決めて進むんだ、っていうのは、
それこそ子どもに伝えたいことでもあるから。
だから、きついことをさせますね(笑)。
- リゼ
- いや、ほんと、あれを博士に言われたときは、
ほんとに「えーっ!!」っていう。
「まだ少年ですよ」みたいな(笑)。
- 糸井
- たしかにちょっと言いにくいよ(笑)。
- リゼ
- そう、たしかこっちに背中を向けて、
語りかけてくるんですよね。
- 糸井
- そうそうそうそう。
ああ、そうか、まだ、記憶に新しいんだね。
- リゼ
- そうですね、最近プレイしたので(笑)。
- 糸井
- 崖の端まで歩いて行って、
むこうを向いて言うんだよな、うん。
ああいうのを考えてるときは、
おもしろいんだよ、やっぱり。
「‥‥これ、イヤだぞぉー」って。
- リゼ
- 「せめてこっちの目を見て、
はっきり言ってくれよー」って
すごい、思いましたもん。
- 糸井
- ねぇ。
- コアラ
- (笑)
- リゼ
- 大人なのに、
子どもにそんな大事なことを‥‥みたいな。
でも、最終的に、プレイヤーは
「それでも世界を救おう」っていう決断を
自分でちゃんとするわけで、
そこがすごくいいなって思います。
- 糸井
- でもさ、大人になるとね、
そんなことって、けっこうあるんだよ。
- リゼ
- えっ、そうなんですか(笑)。
- 糸井
- うん、あるんだよ。
だって、結婚するとかしないとかだって、
そういうことじゃない?
- コアラ
- ああー。
- 糸井
- その人がさ、世界中の、あらゆる
異性の中から選んだ人かって言われたらさ、
そんなことないじゃない。
- リゼ
- たしかに(笑)!
- 糸井
- 「まだ会ってない人、いっぱいいるのに、
この人に決めていいの?」ってことだからさ。
なのに「はい、誓います」とか言うわけでしょ?
- リゼ
- たしかに(笑)。
- 糸井
- それは大判断ですよね。
- リゼ
- たしかにそれは世界を救うか、
救わないかの決断くらい、
ちょっと重いですね(笑)。
- 糸井
- そうでしょう? そんなことを
平気でみんなしてるわけですから。
やっぱり、なんていうんだろう、
大人になると、論理や理屈では判断できない、
とても大事なことっていうのがあるから。
- コアラ
- はい。
- リゼ
- うん。
- 糸井
- どっちが得かっていう、
優先順位だけを考えている人にとっては、
そんな選択は卑怯だって思うかもしれないけど、
そういう反則みたいな選択を投げかけて、
それを好きだって言ってくれる人と会えるのが、
作者としてのいちばんのよろこびですよね。
- リゼ
- そうですね(笑)。
- 糸井
- だって、そのことだけで、こうして、
長々としゃべれるっていうこと自体が
うれしいじゃないですか。
- リゼ
- はい(笑)!
- コアラ
- いや、ほんと、そうだと思います。
ぼくは『MOTHER』を好きだって公言して、
いろんな仕事をしてきたんですけど、
そういうなかで、いつも、
『MOTHER』を好きでよかったなって思えるのが、
『MOTHER』がコミュニケーションの
場になってくれることなんです。
- 糸井
- ああーー。
- コアラ
- 誰かと初対面で会うじゃないですか。
で、お互い、緊張してて、
「さて、どういう話を?」ってなったときに、
「ぼくは『MOTHER』がすごい好きで」って言って、
「俺も『MOTHER』、大好きだよ」ってなると、
その時点で、すごくなかよくなれるんですよ。
もう、その瞬間に。
- リゼ
- ああ(笑)。
- コアラ
- 「あ、もう、お前、いいやつだ」みたいな。
相手が年上の人だったら、
「『MOTHER』好きなんだ?
お前、絶対いいやつじゃん。
かわいがってやるよ」ぐらいの感じで。
で、もう「ありがとうございます!」って。
- 一同
- (笑)
- コアラ
- ほんと、そんな経験、けっこうあって。
ほかのゲームの話ももちろんするんですよ。
もっと有名なゲームとかで、
「好きなんですよね」って話して、
「ああ、やったことある、俺も好き」
くらいの話はするんですけど、
だいたいそこで終わりなんですよ。
でも、『MOTHER』は、話して、
お互い好きだってわかった瞬間に、
「ああ、憶えてる憶えてる、それな」って。
どせいさんとか、ゲップーとか、
いろんなシーンを鮮明に憶えてる人が多くて、
会話がすごく弾むんですよ。
- 糸井
- そうかぁー、ゲップーねぇ。
あれは、当時の開発スタッフに、
自由にゲップが出せるやつがいてね。
それを音につかってるんだよね。
- コアラ
- そうなんですか(笑)。
- 糸井
- うん。日常でそれをすると
すごく嫌われるんだけど、
仕事でゲップをさせたっていう(笑)。
嫌なキャラクターとしてつくったけど、
人気あるんだよねー。
- コアラ
- はい。やはり強烈なインパクトが(笑)。
- リゼ
- だって、絶対笑っちゃうじゃないですか。
ゲームから、普通のゲップが
聞こえてくるんですから(笑)。
- 糸井
- そうだよね(笑)。
ゲップーのぬいぐるみ、またつくったんでしょ?
ゲップーをなんでつくるのよ?
って、俺なんか思うんですけどねぇ。
- 一同
- (笑)
(つづきます!)
2020-11-01-SUN