「仕事って、なんだろう?」をテーマに、
糸井重里が3日間で3人のスペシャリストと
語り合ったトークライブ。

最初のゲスト唐池恒二さんは、
現在はJR九州の代表取締役会長で、
社長時代には、
走行開始から7年経った今も人気の高い
クルーズトレイン『ななつ星』を考案して
実際に成功させた方です。

大きな組織で働いてきた唐池さんが
なにを考え、どんなふうに仕事をしてきたのか。
どうやって「世界一の豪華な列車」を実現させたのか。
働くうえで必要だと考えているのは?
若い人に望むものは?

後半にいくにつれてどんどん熱を増し、
質疑応答も熱く繰り広げられたトークを
全8回、「ほぼ日曜日」からお届けします。

イラスト|堤淳子(223design)、編集|中川實穗(なかがわみほ)

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第2回

「表向き」ではない気持ちって?

糸井
新入社員というのは、
どういうふうに見えているんですか。
会社の側からすると。
唐池
ここに来る前にね、
車のメーカーのHondaさんの行動理念、
「Hondaイズム」っていうんですけど、
それを読んでいたらいいこと書いてるなと思って。
ぜひ紹介したいと思ったんですけどね。
このHondaイズムは
創業者の本田宗一郎という人が唱えて、
会社が脈々と継承してるものです。
本田宗一郎が新入社員の人に言うんです。
「君らは会社のために働こうなんて思って
入ったわけじゃないだろう」って。
本田宗一郎は、自分もそうだったと。
実は自分のために働いたんだということですよね。
そこは大事にしなきゃいけないと思う。
私も若い頃からずーっと
なんのために働いたのかなと思ったら、
やっぱり自分が認められたいというのが
一番の動機だったんじゃないかなと思います。

糸井
ああ。
唐池
自分という者を、存在を、
人から認められたい。
できれば褒められたい。
できれば日本で一番というぐらいになりたい。
要するに「自分を認められたい」という動機ですよね。
表向きは「会社のために」と言っていいんだけども。
糸井
そのへんが複雑なんですよね。
「表向き」っていうのをやってるうちに、
表向きの顔に自分がなっていくじゃないですか。
たぶんもう、なりかけてると思うんですよね。
そこを今日、壊したいなと思っています。
唐池
だから自分のためですよね。
仲良しの、ミシュランの二つ星とか三つ星のシェフがね
あるとき、ものすごくおいしい料理を出してくれた。
盛り付けもすごかった。
それを見て私は驚くわけです。
驚いて感動するんですわ。
ここまで手間をかけて、
ここまできれいに盛り付けて、
ここまでいろんな食材を組み合わせるのか、と。
それで言いました。
「すごいね、シェフ。
あなた、ひょっとしたら
お客様を驚かせるために仕事をしてるんだろ」
そしたら、「バレましたか」と言ってましたね。
糸井
それがその人の動機なんですね。
ただ、本当はそうだとしても、形式上、
「会社のために」とか「経営のために」
とか言うじゃないですか。
音楽でいえば、バンドやる人たちって、
おおもとは「モテたい」で始めるじゃないですか。
女の子にキャーキャー言われたい。
それで、やってるうちに
キャーキャーはもうだいたいわかったとなると、
「もっと音楽のことを」みたいなことを
考えるようになるというか。
唐池
それは音楽で、例えば日本一、世界一、
トップレベルになりたい、
つまり自分がもっと認められたいと
思うからじゃないでしょうか。
糸井
ってことは、
最初から「僕は音楽が好きで」とか言う以上に、
「認められたい」という気持ちが原動力になっていると。
唐池
と思いますね。
糸井
そういうことと同じように、
就職する若い人たちが、
会社のことを考えている「ふりをする」ことに
慣れちゃってるのを感じるんですよ。
どっかタテマエといいますか。

唐池
でも優秀な面接官はね、それ見抜きますよ。
面接官、人事担当者が好きなのは、
自分のために頑張る人ですよ。
それは、ゆくゆくは会社のためになる。
最初から「会社のため」と公言している人はね、
本当の面接官は信用しないと思いますよ。
それは真実じゃないからですね。
糸井
ああ、なるほど。
でも、「見抜くんですよ」って話も
たぶんもうみんな「そうなんだろうな」って、
見抜かれることも知ってるんです。
だから、どっちももう
相手の手の内を読み尽くしたみたいなところに、
今の就職戦線があるように僕には見受けられて。
もっと自由にできないのかなあ、
「ほんとに欲しいのはこういう人なんだよ」って
わかり合うことはできないんだろうか、
と、まあ、零細企業の社長は思うんですね。
唐池
あの、私も人事の採用の面接を何回もしました。
これはある大学で毎週授業をしていたときに
話したことなのですが、
面接というのは知識を測ってるんじゃないんです。
その人間の「気」の強さ。
この人に、重要な仕事を将来与えられるかどうか、
やってくれるかどうかを測っている。
糸井
気持ちの「気」ですね。
唐池
はい。気力の「気」といいますかね。気迫の「気」。
例えば面接官が知識を測るようなふりをして、
こんな質問をしますよ。
「日本国憲法の3つの原則を挙げなさい」
そうすると、多少勉強した人は
「基本的人権」とか「平和主義」とか、言いますよ。
背中を丸めて。試験官の目も見ず、小さな声で。
知識は正しいんですけど、それは落ちますよ。
通る人は背筋を伸ばして試験官の目を見て、
「すみません。そんな質問は私は勉強してません」
と大きな声で言ったら通る。
と、僕は言ったんですね。
糸井
はあ、はあ。
唐池
翌週の授業で、何人か学生が教壇まで来て、
「先生、そのとおりにやったら落ちました」って(笑)。
「そんなことで落とすような会社に
入らなくてよかったじゃないか」
と言ったんですけどね(笑)。
学生の人たちは、面接って、
知識を測るものだと勘違いしてるんですよね。
でもそれは筆記試験で測るので。
面接は、
その人に重要な仕事を任せられるか、
将来の幹部まで上げられるかという、
その度量というか、「気の強さ」を見るんですね。
それ、勘違いしないようにしたほうがいいです。
糸井
今、重要だと思われる言葉は、
「気の強さ」ってことですか。
唐池
気を満ち溢れさせてるかということでしょうね。

糸井
バイタルエネルギーみたいな。
唐池
気というのは、エネルギーですよね。
糸井
はい。
唐池
気というものが、
みなさん一人ひとり備わってますよ。
ただ、備わってるんだけど、
どんどん薄らいでいく人と、
どんどん集まってくる人がいます。
芸能人を見ていたらわかりますよね。
旬の方をたまたま見かけますとね、
どこから見てもオーラが出ているんです。
それが気。そういう人、元気なんです。
小柄でも大きく見える。
一方、ちょっと前までよく出ていて
どうしてるのかなあと思うような方を、
たまたま見かけるときあるんです。
テレビによく出てた頃はものすごくハツラツとして
オーラがあったその人がですよ、
もうショボーンとしてね、
体も小柄に見えて元気がない。
そういうふうに差が出るんですよね。
糸井
そういう人は、
周囲の人がその人を見る目
というのを吸収しますよね。
唐池
そうですね。
糸井
旬の人はその環境ごと歩いてるわけですから。
つまり、「あれ、あの人じゃない?!」
っていう声と一緒にその人があるわけだから。
わりと理屈っぽく言えば、
たぶんそういうことだとは思うんですよ。
だから、「気」というものは、
誰も見てないだろうなとか、
うまくいってないなってことじゃなくて、
「今日を生きるぞ!」みたいな、
そういうようなことなんじゃないでしょうか。
唐池
そうですね。生命力でしょうね。

(つづきます)

2020-04-14-TUE

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