「仕事って、なんだろう？」をテーマに、
糸井重里が３日間で３人のスペシャリストと
語り合ったトークライブ。
最初のゲスト唐池恒二さんは、
現在はJR九州の代表取締役会長で、
社長時代には、
走行開始から７年経った今も人気の高い
クルーズトレイン『ななつ星』を考案して
実際に成功させた方です。
大きな組織で働いてきた唐池さんが
なにを考え、どんなふうに仕事をしてきたのか。
どうやって「世界一の豪華な列車」を実現させたのか。
働くうえで必要だと考えているのは？
若い人に望むものは？
後半にいくにつれてどんどん熱を増し、
質疑応答も熱く繰り広げられたトークを
全８回、「ほぼ日曜日」からお届けします。
イラスト｜堤淳子（223design）、編集｜中川實穗（なかがわみほ）
第３回
ななつ星の「世界一」にみんなが燃えた
- 糸井
- 「気」の強い人、エネルギーを感じる人、
そういう人とそうじゃない人っていうのは
どこで道が分かれていくんですか？
- 唐池
- それはもう、声の大きさとかね。
- 糸井
- 声の大きさ。
- 唐池
- 醸し出てくる気迫とかね、
そういうものがあるでしょうね。
もうそれは第一印象で決まりますよ。
今、「声も小さいし、気迫もない」と
思っている人も安心してください。
その気になれば誰でも出るんです。
そのときだけ２倍声を出そうとか、
背筋を伸ばそうとか、
相手の目を見てにらめっこで負けないぞとか、
そういう気持ちで十分備わりますよ。
- 糸井
- 案外、なんていうかな、軍隊っぽいんですね。
- 唐池
- 軍隊（笑）。
- 糸井
- 運動部っぽいっていうか。
- 唐池
- いや、うん、そうですかね。
- 糸井
- 今ってそういうことを言うのを
なるべく避けるんですよ、偉い人はみんな。
むしろ「声の大きさとか気迫じゃないよ」って。
それをもう思いっきり言ってるじゃないですか。
- 唐池
- うん、思いっきり。
- 糸井
- そこはなんか、気持ちよかったですよ。
- 唐池
- ああ、そうですか。
- 糸井
- いまって、ビジネスモデルがわかっているから
うまくいってる、みたいな、
頭の中で書いたり説明したりの部分に
本質があるかのように
語られることが多いじゃないですか。
そういう時代に「気迫」とか「エネルギー」とかは、
「わかんない」って言われちゃいますよね。
- 唐池
- 言われますねぇ。
- 糸井
- 例えば「ななつ星」でも、
「こういうオペレーションをすればいいんだ」
って言うのは簡単じゃないですか。
言うだけなら。
- 唐池
- はい。
- 糸井
- そこのところで、
言うだけの人と、
やろうとしたらめちゃくちゃ難しいぞと思いながら
踏み込んでいく人とで、
次のステップが分かれますよね。
- 唐池
- ああ。
「ななつ星」に関してはね、
みんなが燃えたんですよ。
これをやろうと提案したとき。
- 糸井
- 最初にコンセプトがあったんですか？
- 唐池
- 最初のコンセプトは、
「世界一の豪華な列車をつくろう」ということでした。
うちの社員たちに呼びかけたんです。
またここでHondaの話に戻るんですけどね。
- 糸井
- はい（笑）。
- 唐池
- Hondaイズムのひとつにね、
「世界一じゃなきゃ日本一じゃない」
というのがあるんですよ。
本田宗一郎さんは、
「世界一を目指す」という夢を毎日のように語った。
だからもうHondaの社員は、
とにかく世界一という夢を追いかけるわけです。
夢を追いかける人間ってね、
ものすごくエネルギーが湧いてくるんですよ。 - それは私どもの「ななつ星」もそうでした。
「世界一の列車」ということで、
まず車両をつくる職人たちが燃えたんです。
車両の職人はなかなか
「世界一」という仕事をしたことがないわけで、
「世界一」と言った途端にもうものすごく燃える。
- 糸井
- 普段はきっと、
「ある範囲の中でいいものを」と言われて
仕事をしているんでしょうね。
- 唐池
- そうですね。
それから、デザイナーの水戸岡さんも燃えた。
（水戸岡鋭治さん／JR九州デザイン顧問。
JR九州の斬新な列車のほとんどが水戸岡デザイン）
水戸岡さんも、
国内でトップレベルの車両をつくるのは
結構、お手のもんなんですよ。
ところが世界一になるとね、
オリエントエクスプレスにも勝たなきゃいけない、
ヨーロッパで10本ぐらいある豪華列車にも
勝たなきゃいけない。
そのうえで世界一ってなんだろうと
悩んで、悩んで、ああいう列車にした。 - それから客室乗務員たちも公募したんです。
小さな新聞のベタ記事で募集しました。
「世界一の豪華な列車ななつ星の
客室乗務員になりませんか」と。
そしたら約400人、海外からも応募があった。
国内の一流ホテルのコンシェルジュからもあった。
CAを17年続けてきたサービスのプロもいた。
CAの方には、
なぜ航空会社をやめてまで
この「ななつ星」という
まだ歴史のないところに来てくれたのかと聞いたんです。
そしたら、
「この世界一に自分を賭けてみたくなったんです」
と言うんですよ！
世界一とか夢とかはね、やっぱり人を動かしますよね。
（つづきます）
2020-04-15-WED