「仕事って、なんだろう?」をテーマに、
糸井重里が3日間で3人のスペシャリストと
語り合ったトークライブ。

最初のゲスト唐池恒二さんは、
現在はJR九州の代表取締役会長で、
社長時代には、
走行開始から7年経った今も人気の高い
クルーズトレイン『ななつ星』を考案して
実際に成功させた方です。

大きな組織で働いてきた唐池さんが
なにを考え、どんなふうに仕事をしてきたのか。
どうやって「世界一の豪華な列車」を実現させたのか。
働くうえで必要だと考えているのは?
若い人に望むものは?

後半にいくにつれてどんどん熱を増し、
質疑応答も熱く繰り広げられたトークを
全8回、「ほぼ日曜日」からお届けします。

イラスト|堤淳子(223design)、編集|中川實穗(なかがわみほ)

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第7回

質疑応答②

質問者
入社したあとの話をうかがいたいです。
会社が学校と大きく違うところって
人事評価が完璧じゃないところだと思うんです。
テストの点数のように、評価も報酬も公平にならない。
すると納得感が得られない。
あいつはあんなに評価されているけど
俺はなんで頑張ってるところが見てもらえないんだ、
みたいな。
そこで、自分の努力がバカバカしいと思っちゃうのが
働いていくなかで一番危ないことだなと思っていて。
そういうところとどう付き合いながら
働いていくのがいいかなっていうところを
お聞かせいただければと思います。
糸井
なるほど。
じゃあ、まず僕が先に答えさせていただきます。
すべて忘れた方がいいですね。
極端にいえば、
「報われないものだ」っていうぐらいの
諦観を先に持っちゃった方がいいです。
逆に、自分が家庭教師とかしてたとして、
自分が教えている子どもが
僕の評価は公平じゃないとか言ったら、
「そういうもんじゃないよ」と言いたくなると思う。
同じことなんですよ、やっぱり。
そんな中でも、
関係なく本気でやってる人っていうのは
どこかで違って見えるんですよ。
だから、人と比べてどうこうって
見えるようなことを争っているときは、
全部ミスになります。
っていうのが、たぶん一番役に立つ考え方だと思う。
自分が得をするように動くんじゃなく、
むしろ、損しろって思ってた方がいいんだよ。
若いときなんかいつまででも損してればいいと思うよ。
というのが僕の答えです。

唐池
企業はまあ言ったら、
民主主義で公平じゃないですよ、もともと。
オーナー会社はもっとそうです。
オーナーの好みだってやっぱり影響します。
どんなに仕事ができても、できなくてもね。
さっき諦観とおっしゃいましたけど、
たしかにそういうもんなんですよ。
日本には幸いなことにたくさん企業がありますから、
どうしても馴染めなかったら、
別のところで働くしかない。
しかし、その好みに合わせるということも
便法として、少しぐらいはあったほうがいいですよね。
「誰がトップの好みに合わせるか!」ということなら、
これはちょっと、どこも勤まらんと思います。
その中で自分を売り込んでいく。
トップに反対意見を言うときもあるでしょう。
それはゆくゆくは「あいつは骨がある」
というふうに評価されることも多いですよ。
しかし何もかも全部嫌だというなら、
もうそれは辞めたらいい。
多少はおもねりながらも
自分の筋のところは曲げないという生き方が
いいんじゃないでしょうか。

糸井
唐池さんの言うことは、
非常に実際的ですよね、やっぱりね。
質問者
ありがとうございます。
そういうことを
部下に自分の言葉で言うことがなかなか難しくて。
今日こういう話を聞いてきたよっていうことで
言わせていただきたいです(笑)。
糸井
前提として報われないと思っているとね、
案外ね、当たりが交じるんですよ。
ってことです、たぶんね。
それでは、次の方。
質問者
私は大学1年生で、
特に本気でやりたいこともまだ見つかっていません。
もしこのまま本気でやりたいことがなかったら、
大きな声で話す、とかでカバーできるんでしょうか。
唐池
できます(笑)。
あなたが立派なのは、
いま、率先して手を上げて質問された。
その気力があれば大丈夫です。
それから私、糸井さんもそうだと思うんだけど、
大学1年のときも、ましてや4年生になっても、
何をしたいかは全然わかりませんでした。
何をしたいともなく、
たまたま流れで会社に入っちゃった。
でも入ってみて、やってみて、
なんとなく、こういうやり方があるのかなあとね、
やってみていると、自分のやりたいこと見つかります。
あなたの年頃から自分のやりたいことを
決めるのが理想かもしれませんけど、
まあ、そうはいかないですよ、普通はね。
糸井
あんまり若いときから、
「何をやるべきかわかってるんです!」
みたいな子は、ちょっと気持ち悪いですよ(笑)。
唐池
夢は見るべきです。
でもそれは、本当に上のほうの、
かなり上のほうの夢です。
テレビで野村克也さんのインタビューを聞いていたら、
若い頃は歌手になろうとしていたんだそうです。
貧乏だから、とにかく稼げる商売をやろうって。
ただあまりにも高音が出ないんでやめて
「野球しかなかった」と言ってた。
そんなもんですよ。
それであそこまで大成するんだもんね。

糸井
唐池さんも歌手になりたかったんですよね。
唐池
今はときどき歌手になってますけどね(笑)。
糸井
お上手なんですよ。
質問者
ありがとうございます。
唐池
どうもありがとう。
糸井
そう、いま質問したってことで、
けっこう大丈夫ですよね。
唐池
大丈夫です。
僕はこの中でその質問はできませんよ、
この年頃では。
糸井
そうですね。
僕もできませんね。
唐池
ねえ。

(つづきます)

2020-04-19-SUN

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