昨年(2023年)の6月、
渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で、
コマ撮りアニメ「こまねこ」最新作を、
25日間にわたって
公開撮影していただいたのですが‥‥。
そのとき撮っていたあの作品が、
このたび! うれしいことに! 
全国ロードショーの旅に出るのです! 
そこで、こまちゃんの生みの親である
合田経郎さんと、
こまちゃんを動かしつづけて20年、
アニメーターの峰岸裕和さんに、
いろいろお話をうかがってきました。
担当は「ほぼ日」奥野です。

>峰岸裕和さんのプロフィール

峰岸裕和(みねぎしひろかず)

ストップモーション・アニメーター。1955年栃木県生まれ。東京デザイナー学院アニメーション科を卒業、日本を代表する人形アニメーション作家である川本喜八郎氏に師事。NHKキャラクター『どーもくん』シリーズ、『こまねこ』、Netflixシリーズ「リラックマとカオルさん」などの作品に従事する。またCMでも、ゼスプリインターナショナルジャパン「ゼスプリキウイ」、ノーベル製菓「はちみつきんかんのど飴」ほか多数のアニメーションを手掛ける。ドワーフRobins所属

>合田経郎さんのプロフィール

合田経郎(ごうだつねお)

アニメーション作家。CMディレクターとして演出家のキャリアをスタート。NHKキャラクター「どーもくん」シリーズ が人気を博し、活躍のフィールドをアニメーション映像へと広げる。2003年にはドワーフを立ち上げ、アニメーション作家へと転身。絵本、イラストレーションをはじめ、自身でも2Dアニメーションを制作するなど創作活動は多岐に渡る。代表作である「こまねこ」の最新作「こまねこのかいがいりょこう」が2024年10月25日より全国順次公開。

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第5回 人形は、動かさないと死ぬ。

──
ちなみに、合田さんには、
「お師匠さん」にあたる方というのは、
いらっしゃるんでしょうか。
峰岸さんにとっての川本さんみたいな。
合田
ぼくには、いないんですよ。
自分は人形をつくれるわけでもないし、
ましてや動かせるわけでもない。
監督という仕事は、
すべて、まわりの人たちに
手伝っていただかなければ成立しない、
そういう仕事なんです。
──
合田さんの場合、監督であると同時に、
最初の世界観をうみだす‥‥という、
ゼロイチの大役もありますけど、はい。
合田
ぼくは「どーもくん」からはじまって、
以来四半世紀、
コマ撮りの世界にいるわけですが、
何にも知らないぼくに、
峰岸さんをはじめ、現場の人たちが
ひとつひとつ教えてくれたんです。
そうやって、
ぼくを「監督にしてくれた」んですね。
その意味では、
現場で知り合う人たちみんなが、
ぼくの「師匠」だったと思います。
──
先日、ドワーフさんのプロデューサー、
松本紀子さんが、
峰岸さんと合田さんは、
出会った瞬間に意気投合してたんです、
とおっしゃってましたよね。
合田
そうだったかなあ(笑)。
──
覚えてないですか、あんまり。
合田
リスペクトの気持ちは当然ありました。
でも、表現の世界の大先輩ですし、
まさしく「職人」ですから、
峰岸さんと対面で会議したりしてると、
しょっちゅう「これはヤバいぞ」って。
──
ヤバい。
合田
何でしょう‥‥適当なことを言ったら
簡単に見透かされるだろうし、
この人を怒らせたらマズいぞっていう、
ピリッとしたものを感じてました。
もちろん、
表現において目指すものを理解してもらえて
「意気投合」はしてるんですが、
それよりも、
ちゃんと勉強して考えなきゃというか。
──
いま、こうしてお話をうかがっていると、
峰岸さんって、
やわらかくおやさしい感じがしますけど、
で、実際そうなんでしょうけど、
ピリッとする場面では「ピリリッ!」と。
合田
もちろんです、もちろんです。
ぼく、コマ撮りについて、
いまも完全にはわかってないと思うけど、
当時は、もっとわかってなかった。
だから、峰岸さんに向かって
「こんなことって、できますかね?」
みたいなことを軽い感じで聞いちゃって
「やろうとしたら、大変だよ」
みたいなことを
スパッと言われて「ヤベッ!」みたいな。
峰岸
まあ、だいたいのことは、できるんです。
「でも、手間暇がかかるよ」ということですね。
たとえば、キャラクターに、
たくさんの「汗」を垂らしたいんですと。
できるけど、そんなにたくさんの汗だと、
「垂れないよ」って。
──
垂れない?
峰岸
つまり、垂れない汗なら、いくつでも。
でも、それを
つーっと顔に「垂らそう」と思ったら、
確実に明日の朝までかかりますよ、と。
そこで、10粒垂らしたい合田さんに
「2粒にしときませんか」と言ったり。
──
こまちゃんのお顔を垂れる汗のぶんだけ、
手間暇がかかる。それはそうですよね。
合田
峰岸さんは、コマ撮りに不可能はないと、
言ってくれたんです。
峰岸
うん、何でもできる。
合田
だから、峰岸さんからは、
コマ撮りって何でもできる‥‥と思って
絵コンテを描きなさいと。
できるけど手間暇に見合わない場合には
別の方法を考えますが、
まずは
何でもできると思って絵コンテを描こう、
描いていいんだということは、
いまでも、ぼくのなかに強く残ってます。
──
尊敬する峰岸さんが言うことですもんね。
合田
さすがに四半世紀もやり続けてますから、
何となくは、わかるんですよ。
「これ、きっと大変なんだろうな」とか。
でも、そこで「わかんないふり」をして、
絵コンテを描いてます。
「オレは初心者初心者」と言い聞かせて、
「大丈夫、大丈夫。
オレって初心者だからこう描いちゃうー」
みたいな感じで。
──
それもプロの仕事って感じがしますね。
合田
やめとこうとなったら、再考しますよ。
でも、毎回いったんは
初心者になって考えることをしてます。

──
やっぱり、ゼロイチのゼロのところで
ブレーキをかけちゃったら、
あったはずの未来もなくなっちゃうし。
ちなみになんですが、
それぞれのアニメーターの方には
それぞれ、
動かし方に個性ってあるんですか。
峰岸
あ、ありますね。
──
川本喜八郎さんの作品の『花折り』、
あの作品のキャラクターの動き、
何だかもうすごいじゃないですか。
あの小坊主の「首」とか。
動きだけでずっと見ていられます。
峰岸
いいですよね。
ぼくも『花折り』は大好きなんです。
あの特徴的な動きは、
もう、川本さんのアイディアですね。
──
峰岸さんは、ご自身の動かしについて、
ご自身ではどう思っていますか。
峰岸
ああ、自分の動かしの分析‥‥ですか。
そうですね、どうなんだろう。
どうしたらいいか迷ったりしたときは、
自分で動いたりしてますけど。
──
えっ、ご自分で?
峰岸
そう。ビデオカメラを置いて、
自分で実際に動いてる姿を撮ってみて、
コマ送りで見てみるんですよ。
それで「ああ、こんな感じかな」って。
──
へええ、おもしろーい。
峰岸
もちろんそっくりそのままの動きには
しないんですけど、
要求された動きを、
人形でどう表現したらいいか迷ったら、
自分で動いてみます。
川本さんも、そうだったんですよ。
『道成寺』の中で、ジリッ、ジリッと
女が畳のうえを這って行く場面で、
川本さん、実際にスタジオの床を這って、
手のつき方だとか、
身体の力の入れ方をたしかめていました。
合田
でも、そのままトレースするんじゃなく、
アニメーションならではの
ニュアンスというか強弱もありますよね。
峰岸
実物の動きをそのままやってしまうと、
気持ち悪くなるんです。人形アニメって。
ちなみに、ジャンルによる違いでいうと
「CG」の場合って、
人形を止めずに動かし続けるんですよね。
動いているのが、生きてる証。
人形アニメの場合、止まるべきところは、
きちんと止めたほうがいいんですけど。
──
その点、人形が「寝ているとき」は
逆に、微かに動かさないと‥‥
みたいなお話を、以前、聞きました。
峰岸
そう。おなかをスースーと動かさないと、
死んでるように見えちゃう。
これもまた、おもしろいところです。
ちょっとだけ布団を上下させてやったり。
息をさせないと人形は死んじゃうんです。
──
文楽でも登場人物が死んじゃった場合は、
人形遣いが舞台からいなくなり、
人形がその場に置きっ放しになりますが、
ああなると、
「完全に死んだ」って感じがしますもんね。
峰岸
そうそう、そうです。そうなんですよね。
置きっぱなしにすると、すぐ死んじゃう。
人形って、そういうところがあるんです。

(つづきます)

2024-10-25-FRI

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  • 最新作『こまねこのかいがいりょこう』

    10月25日(金)より全国劇場公開!

    昨年(2023年)の6月、
    渋谷PARCOの「ほぼ日曜日」で公開制作されていた
    コマ撮りアニメが、10月25日(金)より
    新宿バルト9をはじめ順次、全国劇場公開されます。
    コマ撮りするねこ・こまちゃんの最新作で、
    作品タイトルは『こまねこのかいがいりょこう』。
    いいです。完成披露試写をふくめて、
    もう何度も見たんですけど、いいです‥‥今回も。
    過去作も同時上映されるので、
    こまちゃん映画がはじめての方でも楽しめます。
    さらには、今回の全国劇場公開を記念した展覧会が、
    神保町のTOBICHI東京で開催中。
    会期中の会場には
    「本物のこまちゃん」がやって来てくれます!
    屋根裏部屋のセットや小道具など、いろいろ展示。
    「映画を見た」あるいは「これから見る」人には、
    こまちゃんを撮影できるチェキを1枚プレゼント。
    映画のチケット購入したことがわかるもの
    (ムビチケの画面など)などを、ご提示ください。
    かわいいグッズも並んでますので、こちらもぜひ。