侍ジャパンを率いて、
WBCで見事優勝した栗山英樹監督に、
あの濃密な日々のことをうかがいます。
とんでもないプレッシャーのなかで
栗山監督はどんなふうに決断していたのか。
チームのために、選手のために、
リーダーはなにを大切にするべきなのか。
そして、大谷翔平選手とどんな話を?
大の野球ファンとしてWBCの全試合に
熱い声援を送っていた糸井重里が
時間の許す限り質問をぶつけます。

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>栗山英樹さんプロフィール

栗山英樹(くりやま・ひでき)

1961年4月26日生まれ。東京都出身。
1984年、創価高校、東京学芸大を経て
ドラフト外でヤクルトスワローズに入団。
外野手としてゴールデン・グラブ賞を受賞するなど活躍し、
引退後は野球解説者やスポーツキャスターを務める。
2012年、北海道日本ハムファイターズ監督に就任。
就任1年目にリーグ優勝を果たし、
2016年にはチームを球団史上3回目となる日本一に。
2021年まで日本ハムの監督を10年間務めたあと、
2022年、日本代表監督に就任。
2023ワールド・ベースボール・クラシックで
侍ジャパンを見事世界一に導く。

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第8回 選手との距離感を保つ

糸井
チームのなかで先輩と後輩が
理想的な感じで交流しているときに、
栗山さんは「俺も、俺も」って、
その柔らかいムードの中に
一緒に入って行かなかったですよね。
栗山
行かないですね、ぼく。
糸井
それはファイターズ時代からですか。
栗山
そうですね。
もちろん、本当は行きたいんです。
たとえば、ダルビッシュが(佐々木)朗希に
スライダーの握りとかを教えてたりするわけですよ。
ボールをこうひねるんだけど、リリースのとき、
指が離れるぎりぎりのところで
ひねった手がボールの向こう側に回って、
ボールのこっち側を回すくらいの感じで投げると
きちんと回転する‥‥みたいな感じで、
まぁ、教え方もうまいんですよ。
糸井
はい(笑)。
栗山
だから、本当は近くに行ってぼくも聞きたい。
でも、ぼくは行けないから、
そのとき近くにいたスタッフに、
「何? 何? どう言ってたの?」とかって聞いて。
一同
(笑)
栗山
やっぱりそこは選手どうしに任せておく場所で、
ぼくらはなんかあったときのために、
少し距離を取って、
彼らが困ったときだけことばをかけてあげる。
その距離感がすごく大事だと
ファイターズ時代から思っていたので。
糸井
なるほど。
栗山
でも、人間って‥‥
なかよくなりたいじゃないですか。
糸井
うん、なりたい(笑)。
栗山
嫌われたくない。
でも、「嫌われたくない」を消さないと、
指導者って、できないので。
糸井
なるほど。
栗山
だからこそ、距離感は保っておかなきゃって、
いつもそれは頭に入れてますね。
だって、ぼくはもともと、
近くに寄っていくタイプじゃないですか。
「どうすか?」って。
糸井
そうですよね、取材したいですよね(笑)。

栗山
はい、ほんとは聞きたいです(笑)。
でも、監督という立場のときには、
距離感を保たなきゃだめだと思っていて。
なぜかというと、監督って、
選手を叱らなきゃいけないときが出てくるんですよ。
そのときに、叱った選手と友だちだったら、
叱る効果が生まれてこないですよね。
糸井
ああー、そうですね。
栗山
そのこともイメージしながら
距離感を保っておかないと、
けっきょく選手のためにならないんで。
糸井
それは勝負事の世界ならではですね。
明日も明後日もずっと続いていく仕事と、
「いま決まっちゃう!」という仕事は、
やっぱり、種類が違う。
栗山
そうですね。
「俺も一応それを理解するけど、
こう思うところもあるからね」みたいな余地を
残しながら進みたい気もするんですけど、
勝負事って、そういったやり取りさえも
遮断しなきゃいけないときがありますから。
糸井
なるほどなぁ。
栗山
それでいうと、ピッチャー交代のときって、
コーチじゃなくて監督がマウンドに行くほうが
時間短縮になるというので、WBCのときも
ぼくがマウンドに行くようにしてたんですね。
だから交代を告げにマウンドに行くんですけど‥‥
なんて言えばいいかわからないときもあって。
糸井
あーー。
栗山
ふつうのプロ野球のシーズン中だと、
マウンドでは具体的に指示を出したりとか、
言うべきことがあるんですね。
「このケース、打たれてもいいので、
ここを攻めてください」とか。
でも、侍ジャパンの場合って、
そこまで細かい指示もないんですよ。
で、いちばんなんて言っていいか
わからなかったのが、準決勝のメキシコ戦で。
糸井
はい。
栗山
あの試合は3点先制されましたけど、
(吉田)正尚のスリーランで同点に追いつきました。
で、そのときのピッチャーは2番手の山本由伸。
フォアボールは出したけど、
3イニング、1本のヒットも打たれてない。
もしかしたらこれ、9回まで
あと2イニング行けるかなと思っていたら、
同点になった直後に2点取られてしまう。
糸井
はい、はい、はい。
栗山
ぼくは山本由伸には全幅の信頼を寄せていたので、
ピッチャーを代えるかどうかはすごく考えたんです。
でも、今回のWBCで指揮をとるにあたって、
手を打たずに失敗するよりも、
手を打って失敗するほうが絶対後悔が少ないから、
「迷ったら絶対、手を打とう」
って心に誓ってたんです。だから、代えよう、と。
で、マウンドの由伸のところに行ったんですが‥‥。
あのね、糸井さん、山本由伸って、
年俸6億5千万もらってる、
日本で最高のピッチャーですよ。
糸井
はい(笑)。
栗山
しかも、そのときは球数もぜんぜん行ってないし、
点は取られたけど、
2本くらいしかヒットは打たれてない。
そんな最高のピッチャーに
どうやって交代って言おうかなぁって(笑)、
一同
(笑)

栗山
考えるんですよ、やっぱり。
でも、これ、なんにも言えることがない。
だから、マウンドで、
「由伸、すまん!」、もうその一言です。
糸井
答えは「すまん!」なんですね。
そうですね、「すまん!」しかないかもしれない。
栗山
そうなんですよ。
由伸も、ほんとは先発で行きたいはずなんです。
あのケース、2番手で投げるほうが
肩のつくり方なんかも含めて難しいですし。
でも、由伸はじつは抑えの経験も実績もある。
それもあって、(佐々木)朗希を先にして、
由伸に後ろに回ってもらった。
そんななかで、代えなきゃいけない。
マウンドでひとこと言わなきゃいけない。
だったら、もう、余計なことを言うよりも
「すまん!」でいいんじゃないかと。
糸井
そう思いますね。
栗山さんがいろんな可能性をぜんぶ考えたうえで
決断したんだなっていうのは、
たぶん、もうみんな知ってたわけでしょ。
栗山
はい。ですから、説明は要らないと思います。
情に流されて試合に負けるほうが、
選手ひとりひとりに対して誠意がない、
というふうにぼくは思っているので。
だから、準決勝の山本由伸に限らず、
迷ったらばっさり代えました。
糸井
その方が、監督の責任が見えますよね。
栗山
それで負けたらぼくのせいなんで。
糸井
自分が責められるのは別に構わない。
栗山
はい。それはもう、まったく。
もともと、優勝以外は負けと同じで、
もしもそういう結果になったら
「日本に帰って来れない」と思ってましたから。

(つづきます!)

2023-07-19-WED

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