4月1日、この日だけは嘘をついていい
エイプリルフールがやってきました。
この日だけでなく、年がら年中
嘘のニュースを配信しているウェブサイト
「虚構新聞」のUKさんにお話をうかがいます。
信じられないような出来事が実現すると
「虚構新聞かと思った!」なんて声も
最近はSNSでよく見られますよね。
2004年から19年もの間、
UKさんが虚構の記事を書いている間に、
時代が「虚構新聞」に追いついてきたのかも?
インタビュアーは、ほぼ日の平野です。
題材は嘘ですが、いたって真面目な話ですよ。

>UKさんのプロフィール

UK(ゆーけー)

2004年3月、虚構記事を配信する
ウェブサイト「虚構新聞」を設立。
以来現在まで、現実と虚構の境界を描く
ニュース記事を数々発表し、
ネット界隈をにぎわせている。
2012年第16回文化庁メディア芸術祭
エンターテイメント部門審査委員会推薦作品受賞。
2018年より『5分後に意外な結末』シリーズ
(学研プラス)に短編を寄稿。
2021年よりMBSラジオ
「立岩陽一郎のファクトチェックラジオ」出演。
同年朝日新聞滋賀県面にて、
『虚構新聞―特別編―』を連載。
2022年度より成安造形大学にて
情報デザイン領域客員教授。
趣味は漫画収集。好きな猫は猫。

虚構新聞

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(2)新聞らしさってなんだろう。

――
「虚構新聞」がはじまったのが2004年なら、
すでにインターネットリテラシーという
ことばはありましたよね。
インターネットの中にある情報を
そのまま信じちゃいけないよ、みたいな。
そんな中で嘘ばかりをつくっていたという。
UK
ぼく自身もネットデビューは、
ちょうど「ほぼ日刊イトイ新聞」がはじまった
1998年ぐらいなんです。
その頃にあった、「ブラクラ」ってわかりますか。
ブラウザクラッシャーといって、
クリックするとウインドウがぶわーって無限に出て
フリーズしちゃうっていうものなんですけど、
あれに騙されて鍛えられた世代なので、
ぼく自身のリテラシーは身についていたと思います。
――
そういう意味でも、
真実の中に嘘が紛れているよりも
純度100%の嘘のほうが
安心して騙されそうですね。
UK
確かにそうですね。
こうやってスピンアウトさせておけば
嘘のニュースを配信する存在だって
わかってもらえますもんね。
そういう意味では、
嘘だけで外に出してよかったのかもしれません。

――
大学生でありながら、
自身のサイトが注目を浴びるとなると、
その後の生活を変えていこうっていう気持ちには
ならなかったんですか。
仕事としてウェブサイトを作っていこうとか、
「虚構新聞」で一躍有名になってやろうとか。
UK
当時の学生で個人サイトを作っていた人たちの
みんなが共有していた感覚だと思いますけど、
ネットで食べていこうっていう発想自体がなくて、
就職までの趣味というノリで
サイトを作っていた人が多かったと思うんですよ。
実際、ぼくの見ていたサイトも更新が減っていくと、
たぶん就職したんだなって察するというね。
だから、ぼく自身も「虚構新聞」で
ご飯を食べていきたいっていうことは
まったく考えていませんでした。
――
では、就職したあとも
「虚構新聞」を続けていたのは?
UK
たまたま就職先が学習塾だったんです。
塾は一般的なサラリーマンの方と
生活リズムが違っていまして、
出勤が13時とか14時とかで
帰るのが深夜みたいな感じだったんです。
だから、大学生の生活リズムと
あんまり変わらなかったんですよね。
仕事から帰ってから深夜のうちに作業して、
朝にアップしてから寝るみたいなサイクルでした。
ぼくの場合は、就職先の業種が
学生時代の生活リズムと似通っていたのが
続けられた理由のひとつかもしれないですね。
普通に会社に入って朝9時出勤だったら、
とっくに終わっていたんじゃないでしょうか。
――
本業である学習塾では、
本当のことを教えないといけませんよね。
嘘の記事を作る上で影響はありましたか。
UK
いやもう、水と油といいますか、
悪影響もいいところですね、本当に(笑)。
今日、このお面をかぶっている理由のひとつが、
塾で働いているという理由がありまして。
つまり、こういう嘘の記事ばかり書いている
先生の授業が信じられますか、という。
アイデンティティに関わってくるところなので、
学習塾と虚構新聞の相性は良くないです。
――
ただ、こうしてお話をうかがっていると
嘘ばっかりつく軽薄な感じではなくて、
塾の先生だっていう背景を知ると、
丁寧に教えてくれる先生なんだなって思います。
UK
そう思っていただけるとバッチリですね。
ちゃんと使い分けができているってことです。
――
テキストを書く上では、
「嘘を書かなきゃ」っていうモードで
考えているのでしょうか。
UK
あ、そこはちょっとニュアンスが違いますね。
たぶんなんですけど、
嘘を書きたいと思って書いているのではなくて、
ぼくの中でこうだったらおもしろいなっていう
妄想みたいなのがまず先にあるんですよ。
単なる妄想だけをそのまま書いちゃうと
ホラ話になっちゃうので、
もう少し現実の要素を入れながら
味付けしていった結果が「虚構新聞」の記事です。
広い意味で言ったら、小説家や映像作家のような
フィクションの仕事をされている方と
根っこの部分は近いんじゃないのかなって。
じぶんの中にある妄想をどういう形で
表に出そうかってしたときに、それが新聞の文体であり、
「虚構新聞」という媒体であっただけです。
たぶんここの部分は、創作をされている方に
通じるものがあるかなとぼくは勝手に思っているんです。

――
新聞という文体を形式として借りていますよね。
それって研究をされていたのか、
だんだんと身についてくるものですか。
UK
確かに駆け出しの頃の記事を読むと、
ちょっと恥ずかしくて見返すことも少ないんですね。
新聞の文体にしようと思ったときに、
マスコミの方とかジャーナリズムの方から
何かを教えてもらったわけじゃなくて、
「門前の小僧、習わぬ経を読む」みたいな。
新聞を読んでいるうちに
何となく文体として身についてきた感じです。
――
新聞ならではの文体の特徴って、
たとえばどんなものがありますか。
UK
そのあたりはプロのほうが詳しいと思いますが、
ぼくの感覚としては、あの構成が第一かなと。
新聞の構造はいわゆる
「逆ピラミッド」という風に言われます。
つまり、最初にいちばん重要な情報を持ってきて、
時間がない人はそこだけ読めば
その日にどんなことがあったかという内容が一応わかる。
真ん中あたりではその情報が詳しく書かれていて、
最後にはわりとどうでもいい
有識者の見解やオチみたいなものが書かれる、という。
だいたいこういうパターンで、
虚構新聞はその形をもじって作っています。
あとは、句読点の位置だとかは
新聞社によってルールがあるみたいですけど。
――
ぼくたち「ほぼ日刊イトイ新聞」も、
新聞という形式を借りたメディアではありますが、
書き方というのは、まったく新聞らしくなくて。
UK
逆に、なぜ新聞という名前を?
――
1998年で、ホームページという考え方が
まだしっくり来ていなかったから
馴染みのある新聞という名前になったそうです。
ほぼ日刊イトイ新聞にとっての新聞らしさは、
「日刊」がポイントじゃないでしょうか。
つまり、おもしろいことを
毎日更新することに重きを置いたんです。
でも、毎日更新と言い切ってしまうと、
続けていく上で書く側も読む側も負担になるので、
頭に「ほぼ」をつけたんだそうです。
「虚構新聞」さんの場合は毎日更新ではありませんが、
新聞たらしめる要素としてはやっぱり
文体やホームページのデザインなのかなって。
UK
一般的な新聞社のウェブサイトを見ながら
つくるようにしていたのはありますね。
最近はスマホが主流になってきたので
レイアウトも変わってきているみたいですけど、
トップニュースが写真入りであって、
あとはジャンルごとに社会経済とか文化とか
エンターテインメントとか分けて見出しが並んで、
両端に広告がぼんぼんぼんぼんって出るという。
そういう、形から入るっていう部分も、
「虚構新聞」を最初に作ったときに
本物の新聞らしさを目指したので、
研究というほど大したものではないですけども、
参考にはさせてもらいました。
当時のサイトのデザインは、
ぼくが目で見てコピーできたぐらいなので、
本当にシンプルな作りではありました。
――
紙の新聞の購読者数も減りつつあって、
紙からウェブへと流れていますよね。

UK
それは自然の流れだと思うんですけど、
ちょっと残念なのは、
紙の新聞っていうのが読まれなくなると、
いまぼくの後ろにある壁のような
新聞らしいレイアウトが通じなくなりますよね。
新聞は形式が定まっていて、
下に「サンヤツ」といって書籍の広告が並ぶという。
あの紙面が持っていた説得力が失われるのは、
文化として残念だなって思います。
ただ、そのレイアウトをスマホで再現しようとしても
なかなかやっぱり読みにくいですからね。
できることなら逆に紙に移って、
紙の「虚構新聞」がつくれたら
おもしろいなって思ってはいるのですが。
――
「虚構新聞」の紙版って、
今まで作ったことはないんですか?
UK
書籍でそれらしいことをしてもらったり
ポスター的に1面だけ作ったことはあるんですけど、
新聞をめくったら26面全部が虚構っていうのは
やったことがないです。
――
実現したらおもしろいですよねえ!
でも、紙の新聞は
それを毎日出しているんですもんねえ。
UK
いまムチャ振りされてますけど
毎日というのはさすがに(笑)。
――
あっ、いやいや、UKさんは組織ではなく
おひとりなので無理しないでください。
でも新聞の全部を嘘で作り込むとなると
かなり大変そうですよね。
UK
そうなると広告も「虚構広告」をつくるのかぁ。
――
広告まででっち上げたら、
まったく収益が出ないですね(笑)。
UK
広告収入が得られなくて完全に趣味ですもんね。
でも、趣味っていう意味では
本業の塾の仕事があるおかげで
心に余裕が生まれているんじゃないでしょうか。
ぼくが「虚構新聞」一辺倒で、
この記事を出さないとご飯を食べていけない、
という状況にならなくていいのは
ありがたいことではありますね。
――
たとえば「虚構新聞展」みたいな
UKさんの個展を開くとしたら、
きっと紙版の新聞も作りますよね。
今までの虚構ニュースが壁にずらりと並んでいて
全部が読めちゃうようなイベント。
以前、藤井亮さんの「大嘘博物館」にも
UKさんは来てくださったんでしたよね。
UK
梅田で藤井さんにご案内いただいたんですよ。
いやあ、第二弾みたいな感じで
いっしょにできたら嬉しいですね。
デザインは専門じゃないんで、
この後ろの壁みたいな調子で作っていただけたら(笑)。

(つづきます)

2023-04-02-SUN

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