浅草東洋館に行くと会えるおふたり、
東京太・ゆめ子さん。
ご夫婦の漫才コンビなのですが、
結婚されたのが1976年、
コンビ結成が、1993年‥‥つまり?
まずご夫婦としてはじまった関係が、
十数年後に、漫才コンビに?
それって、すごくないですか‥‥!?
専業主婦だったゆめ子さんは、
いきなり、
初舞台でしゃべれたんだそうです。
仲睦まじいおふたりの掛け合い、
ずっと聞いていたくなる取材でした。
担当は「ほぼ日」奥野です。
東 京太・ゆめ子(あずま きょうた・ゆめこ)
漫才協会、落語芸術協会所属の夫婦漫才コンビ。京太は1961年、松鶴家千代若・千代菊に入門。東京二・京太として活動し解散後、漫談や司会業の活動後、妻・ゆめ子(1976年結婚)と1993年にコンビを結成。2010年文化庁芸術祭大衆芸能部門で大賞受賞。
- ──
- 京太さんが弟子入りした
松鶴家千代若さん・千代菊さんって、
ビートたけしさんの育ての親とも
言われていますが、
どういうお師匠さんだったんですか。
- 京太
- 俺たちと同じ、夫婦漫才師でね。
- 「はやくやって、もう帰ろうよ」
ってネタで。
栃木から大阪へ出て修行してね。
苦労人で。
- ──
- いまの京太さんの
「かあちゃん、もう帰ろうよ」の
ルーツが、そこに。 - 栃木県というのも同郷なんですね。
大阪で芸を覚えたんですか。
- 京太
- 声が良いんだ。いい声してたもん。
浪曲やりゃ天下一品、
民謡やりゃ天下一品。
当時、売れてた浪曲の先生からも
「おまえ、浪曲師になれ」
って言われるくらいの声だったよ。 - でも、それが
なぜ歌手になれなかったかというと、
師匠の歌、
三味線とぜんぜん合わねぇんだよ。
- ──
- 声はいいのに。
- 京太
- おかしいでしょ。
- 奥さんの千代菊師匠の三味線なら、
浪曲なんでもできんだけど。
ほら、合わせてくれっから。
それで「もう帰ろうよ」っていう。
それが、うちの師匠。
- ──
- お師匠さんに言われたことで、
いまでも京太さんが覚えていたり、
大切にしていることって、
たとえば、どんなことですか。
- 京太
- そうだね、ま、よく言われたのは、
「芸人に上手下手はないよ。
一生懸命、汗かいてやることだよ」
ってことかなあ。
- ──
- なるほど。
- 京太
- 師匠からは、
「とにかく、一生懸命やることだ」
って言われてた。
だからネタを一生懸命やったんだ。
だから、
俺、世に出るのは早かったんだよ。 - その代わり、あとから苦しんだ。
- ──
- あとから?
- 京太
- うん。昔は、
「若いうちに売れちゃあダメだよ」
ってよく言ってたんだ。 - そのあと、苦労するから‥‥って。
- ──
- 苦労してから売れたほうがいいと。
- 京太
- いまの時代は、若いうちに売れて、
そのままずっと
うまくいくのもいるよね。 - 俺たちの時代とは、ちがうんだね。
- ──
- 初舞台は、いつだったんですか。
- 京太
- あるときに(松鶴家)千とせが
「相棒いねぇんだ」っていうから、
俺が代わりに台本覚えて、
松竹演芸場に出た。それが初舞台。 - 何やってんだか、わかんなかった。
舞台から降りてきて
「俺どうだった?」って聞いたら
千とせに
「まあ、いいんだ、あんなもんで」
って言われてね(笑)。
- ──
- 京太さんは、その後、
東京二さんとコンビを結成しますね。 - それがえーっと、1963年‥‥です。
- 京太
- 1969年のNHK漫才コンクールで
俺たち、
東京二・京太で出て優勝しちゃった。
千とせも、
千とせ・羊かんってコンビで出てて、
でも、賞には入んなかった。 - 自分がこの世界に引き込んだやつが
優勝しちゃったんだ。
そんなおもしろくない話ないでしょ。
で、ケンカになったりして。
- ──
- なんと(笑)。
- 京太
- 当時は「なまってちゃダメだ」って、
よく言われたもんだよ。 - 俺、栃木なまりがあるでしょ。
台本を書いてくれていた先生からも
「なるべく、なまんねぇように」
って、ずーっと言われてた。
だから、東京で、
なまったまま世に出た最初の漫才師。
- ──
- なまりがいい味を出してる芸人さん、
いまはいらっしゃいますけど、
なるほど、京太さんがはじめだった。 - テレビ番組にも出るようになるほど、
人気者になりましたよね。
- 京太
- まだ、開局して間もないテレビ東京でさ、
『街ぐるみワイドショー』
ってレギュラー番組を持たしてもらって。 - ハタチちょっとくらいのころ。
- ゆめ子
- あれは、いい番組だったね。
- ビデオを見てみたら、もう、ウソみたい。
イキイキしてて。
- 京太
- そりゃあ、イキイキよ(笑)。
- ──
- なにせ、まだ20代ですもんね。
- ゆめ子
- 見たらホレボレしちゃう。
- ──
- いいなあ(笑)。
- 京太
- 京二・京太でしばらくやったけど、
昭和60年にコンビ解散した。
- ゆめ子
- そのあと10年くらい、
ひとりで漫談をやってたんだよね。 - こういう性格なもんだから、
みなさんにも
ずいぶんかわいがっていただいて。
けっこうウケてたのよ。
- 京太
- ひとりで漫談は、8年くらいかな。
NHKで番組も持ってたんだ。
- ゆめ子
- そうなの。
- 京太
- あっちこっちから声がかかってね。
あのころはね。 - まあ、短いあいだだったけどね。
- ──
- 申しわけございません、
京太さんのおひとりでの漫談って、
拝見したことがなくて。
- 京太
- いまとは、ぜんぜん芸風がちがう。
ひとりのときは。ねえ。
- ──
- そうなんですか。
- ゆめ子
- もう、ぜんぜん。いまみたいに
「え?」「あのー」とか言わないから。
まだまだ、若かったしね。 - ほんとにおもしろかったんだから。
- ──
- ちょっと探してみます、当時の映像。
- ちなみになんですが、
おふたりは、ご結婚されたのが76年で、
コンビ結成が93年ということですけど。
- 京太
- そんなもんかな。
- ──
- それまで、ゆめ子さんは‥‥。
- ゆめ子
- 専業主婦。
- ──
- つまり、ふつうのご夫婦として期間が
十何年もあってから、
漫才コンビ結成ってすごくないですか。
- ゆめ子
- そう? 専業主婦、20年近くやった?
- 京太
- そうだね。
- コンビ辞めて、ひとりで漫談やってて、
おもしろいやつが出てきたなあって
言ってもらってたんだけど、
うちに麻雀をやりに来ていた仲間が、
「奥さん、引っ張り出しなよ。
絶対おもしろいよ、あの奥さん」って。
- ──
- 主婦のころから、おもしろかった。
- 京太
- おもしろい。ひとりでしゃべってんだ。
- ──
- 素質があったんですね。
- 京太
- あったんだね。
- そのうちに1994年の、平成6年にね、
俺の独演会ってのをやったのよ。
- ゆめ子
- 日暮里、日暮里。
- 京太
- そう、日暮里のホールでやったんだ。
- そのときに「奥さん出しなよ」って、
近所の人が、みんな言うんだ。
- ゆめ子
- いやいやいや、そんなことない!
それは話つくってる。
- 京太
- いや、つくってない。
- だって、俺の独演会のチケットにも、
「ゲストで美女が出ます」
って書いてあったんだから。
それで、出てきたのが、この人だよ。
- ──
- それまで専業主婦だったゆめ子さん、
いきなり舞台に立った‥‥んですか。 - 修行の期間とか、そういうのもなく。
- 京太
- そう。そしたら、もう20分ちかくね、
ずーっとひとりでしゃべってるの。
- ──
- ‥‥初舞台ですよね?(笑)
- ゆめ子
- それ、どこ?
- 京太
- ホテルラングウッドの、サニーホール。
- ゆめ子
- ウソ。
- 京太
- ウソじゃないよ。
写真もあるし、録音もとってあるから。
- ゆめ子
- ちがうよ!
- ──
- 京太さんが、
ここまで具体的におっしゃってるのに、
ちがうんですか(笑)。
- ゆめ子
- ちがうっ!
- あたしは、同じ夫婦でやってる
ひでや・やすこさんの漫才を聞いてね、
「できる」と思ってはじめたの。
- ──
- じゃ、その20分しゃべったってのは?
- ゆめ子
- しゃべってない!
それは何かのまちがい、かんちがい。 - だってね、はじめての舞台で、
そんなにしゃべれるわけないじゃん。
- ──
- しゃべれそうなんですけど(笑)。
- 京太
- あのねえ‥‥俺はね、覚えてるんだよ。
平成6年の4月28日だよ。
- ──
- 具体的な日付まで出ました。
- 京太
- ゲストで美女が出ます‥‥って言って、
写真も撮ってるんだから。 - ちょっと待ってよ。いま証拠を見せる。
これが、ほら、コンビ組んでの初舞台。
- ──
- わー! すごいですね。
スマホに当時の写真が入っているって。 - ゆめ子さん、たしかにすごい美女ぶり。
- ゆめ子
- あらら、ほんとだ。まぁ。あらら。
出てるね。
- ──
- 思い出されましたか(笑)。
- その、はじめて出たときっていうのは、
緊張とかしなかったんですか。
- ゆめ子
- ぜんぜん。
- ──
- はじめての舞台で緊張しないんですか。
- 京太さんは、初の司会で
いろんなこと覚えてないっていうのに。
- ゆめ子
- だって、京太がいるし。
京太の師匠も夫婦で来てくれたからね。
- ──
- いや、それにしたってすごいです。
最初のころは、
どういうネタをやってたんですか。
- ゆめ子
- もうね、おもしろいよ!
- 古典の教科書をどっかから買ってきて、
五七五の和歌を歌ってね。
- 京太
- そう、「春はあけぼの」とか言ってさ。
- 九州だとか栃木がネタの中に出てきて、
最後に「ううん、曙はハワイ」って。
- ゆめ子
- それで、ドッカーンってウケてね!
(つづきます)
2022-11-22-TUE