『チェンソーマン』『SPY×FAMILY』『ダンダダン』など、
数々の大ヒットマンガを担当する編集者、
林士平さんにたっぷりと語っていただきます!
あ、語っていただきますというと違うかな。
どんどん質問するので、どんどん答えていただきます。
あ、それもちょっと違いますかね。
Q&Aみたいなつもりはなかったのですが、
林さんのマンガ製作にまつわるリアルな話がおもしろくて、
ついつい「え、それって‥‥」と質問すると、
すぐにキレのいい答えが返ってくる。
それがまたおもしろくて「え、じゃあ‥‥」と
また聞く、また答える、という最高のくり返しだったのです。
聞き手は、自身もマンガ家志望だった、糸井重里。
あと、最近の人気王道作品を一通り読んでいるという理由で
糸井から「おまえも入れ」と言われたほぼ日の永田です。
マンガの表記は、漫画、マンガ、まんがとありますが、
このコンテンツでは「マンガ」で行こうと思います。
林士平さんの読み方は「りん・しへい」です。

この対談の動画は 「ほぼ日の學校」でご覧いただけます。

 

>林士平さんのプロフィール

林士平(りん・しへい)

マンガ編集者。2006年、集英社入社。
「月刊少年ジャンプ」「ジャンプスクエア」編集部を経て、
現在は「少年ジャンプ+」編集部員。
『SPY×FAMILY』『チェンソーマン』『ダンダダン』
『HEART GEAR』『幼稚園WARS』など数々の人気作品を担当。
マンガのネームや映像作品の絵コンテを簡単つくることが
できるアプリ「World Maker」の開発責任者も務める。

前へ目次ページへ次へ

第9回 マンガ編集者の役割

永田
林さんは、マンガ家さんとは、
直接会って話すことが多いんですか。
それともメールとかでやり取りする感じ?
週に2、3日は時間を確保して、
会ったり取材したりしています。
昨日の夜も5時間ぐらいずっと
同じ先生と打ち合わせしてました。
永田
5時間。
このあとも作家さんのところに行きますが、
それは2、3時間で終わるといいなあ、
終わんないかもなあ、みたいな感じです。
人によっては1時間できっかり終わることもありますが。
永田
それは、答えの出ないようなことを、
突き詰めていくようなことなんですか。
それとも打ち合わせるものがたくさんあって、
ひとつひとつこなしていく感じなんですか。
両方ありますよ。
チェックするものがリストになっていて、
それを順番に処理していって、最後に、
「来週の内容、どうしましょうか」
って話をして、それは答えがないので、
1時間ぐらいしゃべったらもう話しきるので、
「じゃあ、考えましょうか」って言って、
お互い「この範疇ですよね」っていうことを
確認して終わる、みたいな感じです。

永田
ああ、なるほど。
いや、とにかく、林さんとお話していると、
さっきから質問に対して
答えがすぐに返ってくるので、
答えのないものに当たるときは、
どういうふうになるんだろうなと思って。
ああ(笑)。
でも、答えが出ないものって、
いっぱいありません?
永田
あると思うんですよ。
とくに物語にまつわるようなことって、
正解は何もないので、1時間話して、
アイディアをぜんぶ出し切ったら、
その中に進むべき道があるかないかは
作家さんにご判断いただいて。
なかったらまた会って話せばいいので、
描いてみて詰まったら電話ください、
っていう感じで終わります。
永田
ふたりでファミレスとかで延々考える、
みたいなことじゃなくて。
そうですね。連載やってる人たちとは、
もう10年とかのつき合いなので、
ある程度、出し切ったら終わりますね。
打ち合わせの当日に
「アイディアまとまってないんで、
今週は電話でやりましょう」
みたいなこともよくありますよ。
糸井
やっぱり、作家が描くわけだからね。
手を動かすのは編集者じゃないから。
そうですよね。
だから、聞かれたら答えますけど、
必要以上にリードしたりしないですね。
大きな方向性を悩んでるとか、
どうすればいいのかわかんない、
みたいなことを言われたときは、
自分が思いついて、出せる限りぜんぶ出しますけど、
そんなにたくさんは出ないじゃないですか。
だからこんなもんかなってところで切って、
それぞれ考えましょう、みたいな感じです。
糸井
どうしても止まっちゃうというか、
描けなくなってしまう
マンガ家さんだっているでしょう?
そうですね。
だから、担当編集って、
メンターみたいな側面も大きいと思います。
糸井
それは、やっぱり、重い仕事ですか。
いえ、まあまあ、そんなでもないです。
「最近寝てますか?」とか、
「何食べてます?」とか。
糸井
そういうことも、基本があるわけだ。
そうですね、軽いレベルでは。
やっぱり、食事、睡眠、運動の現状を聞いて、
どうにもなんなかったらお休みして、
飲みにでも行きますか、みたいな。
糸井
歯医者さんみたいだね。
近いかもしれないです(笑)。
そう、だから、マンガの編集って、なんか、
ディレクターとプロデューサーと
マネージャーの職務がぜんぶ混ざってるんですよ。

糸井
ああ、たしかに混ざってる。
たとえば、ある作家さんが売れたんですけど、
「欲しいものはとくにない」って言ってて。
その人がはじめて「引っ越したい」って言ったので、
これは実現させなきゃと思って、
打ち合わせのたびに街を変えて、
一緒に散歩しながら打ち合わせしたりしました。
「ここネームができるカフェですよ」とか。
糸井
不動産屋さんみたい(笑)。
街を決めたあとは不動産屋めぐりもしましたよ。
不動産屋にぼくが連絡して、条件をお伝えして、
一緒に内覧して、契約の現場まで一緒にいて、
その物件の緊急連絡先、ぼくですから(笑)。
糸井
(笑)
不動産屋さんも「こいつ、誰だ?」と
思ってたと思うんですけど(笑)。
糸井
でも、おもしろそうですね、
そうやって種類の違うことが混じるのは。
はい、そういうことがあると、
飽きがこないですからね。
漢方薬を調合してくれる薬局に
一緒に行ったりもしましたね。
「ぼくも興味があるんで
一緒に行きませんか?」って誘って。
糸井
フィジカルなことを大切にしてる感じですか。
それももちろんありますし、
おもしろかった映画とか小説を教えたりとかは、
当たり前のようにやってますね。
もう、マンガ家さんによって、
やる気の出るポイントがぜんぜん違うんで。
糸井
そうでしょうね。
おいしいもの食べたら、
ワーッてやる気になる人もいれば、
食にはまったく興味ないから、
とにかくのんびりゆっくりしたい、
という人もいますし。
ほんとうにもう、あの手この手で、
おもしろそうなことを提案して、
どれが刺さるかなあ、みたいな。
糸井
ほんとうに、ひとりで何役もこなしてる。
そうですね(笑)。でも、たのしいです。

(つづきます!)

2023-09-09-SAT

前へ目次ページへ次へ