こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
ご縁をいただいて、
絵本作家やマンガ家として知られる
佐々木マキさんに、
インタビューさせていただきました。
佐々木さんの描く絵のように、
やわらかくて、やさしいお人柄の‥‥
奥の、奥の、またその奥に!
絵本第1作『やっぱりおおかみ』の
「おおかみ」のような存在を、
うっすら、感じたような気がします。
名作『不思議の国のアリス』や、
村上春樹さんの『風の歌を聴け』の
表紙の絵のエピソードなど、
いろいろ、じつに、おもしろかった。
全7回、おたのしみください。

>佐々木マキさんのプロフィール

佐々木マキ(ささきまき)

1946年、神戸市生まれ。
マンガ家、イラストレーター、絵本作家。
絵本に『やっぱりおおかみ』
『くったのんだわらった』
『まじょのかんづめ』『おばけがぞろぞろ』
『くりんくりんごーごー』
『まちには いろんな かおがいて』
『はぐ』『へろへろおじさん』(以上福音館書店)、
「ぶたのたね」シリーズ、
「ムッシュ・ムニエル」シリーズ、
『変なお茶会』『いとしのロベルタ』『ぼくがとぶ』
(以上絵本館)、
「ねむいねむいねずみ」シリーズ(PHP研究所)、
童話の挿絵に
『ナスレディンのはなし』『黒いお姫さま』
(以上福音館書店)、
『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』
(以上亜紀書房)、
マンガ作品集に
『うみべのまち 佐々木マキのマンガ 1967-81』
(太田出版)、
エッセイに『ノー・シューズ』(亜紀書房)、
画集に『佐々木マキ見本帖』(メディアリンクスジャパン)
などがある。
京都市在住。

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第6回 映像的興奮が、すべて。

──
佐々木さんは、
映画を観るのががお好きなんですか。
だってコレクションが、こんなにも。
これ以上、棚に収まりきらないほど。
佐々木
もう、子どものころからですねえ。
近所に映画館のたくさんある街で育って、
しょっちゅう観てたから。
──
それは、何本立て、みたいな。
佐々木
そうです、三番館みたいなところで、
ちょっと古いやつを
「3本立て、子ども55円」
みたいなことで。
──
55円‥‥というのは、
いまのお金の感覚で言ったら‥‥。
佐々木
いやあ、はっきりわからないけど、
貧しい地域だったんで、
お小遣いは、
1日10円くらいだったのかなあ。
──
じゃ、1週間くらいお金を貯めて。
佐々木
お手伝いをして小銭をもらったり、
そういうことで足しながら。
──
3本立てって観たことないんですが、
3本も観たら、
けっこう長い時間がかかりますよね。
佐々木
上映の時間割を見ずに入るでしょ。
だから、もうラストのほうで、
主人公が志なかばで死んでしまう、
ああ‥‥みたいな場面を、
最初に観ちゃったりするわけです。
──
あー、入るタイミングが悪いと。
佐々木
それでね、2本目、3本目と観て、
また1本目がはじまったとき、
「あ、この人、死ぬんだな」って。
──
わかっちゃう(笑)。
佐々木
ぼくら子どもの映画の見方って、
たいがいそんな感じだったんです。
気が向いたらフラッと入って、
「ここまで観たから出よう」とか、
ストーリーも何も関係なく、
いい場面にぶつかったら、
「この映画はよかったなあ」とか。
──
なんだか、寄席みたいですね。
でも、ストーリーより映像的な興奮、
みたいなおもしろがり方って、
佐々木さんの創作にも、
影響を与えてたりするんでしょうか。
佐々木
ああ、そうかもしれないです。

──
邦画も洋画も、どっちもですか。
佐々木
うん、何でも好きなんですけど、
洋画なら
キューブリックが神さまですね。
たとえば昔の『突撃』っていう。
──
あ、初期の戦争ものの。
佐々木
そうそう、カーク・ダグラスが
ホイッスルを吹きながら
塹壕から飛び出して、
ウワーっと突撃していくシーンを、
清水宏の横移動撮影みたいに、
奇跡の何分間みたいなワンショットで、
撮ってるんですけど。
──
語り継がれるようなシーンであると。
佐々木
そう、それが、すごいんです。
キューブリックって
実験精神のムチャクチャ旺盛な人で、
作品ごとに、
ちがう何かを試しているんですけど。
──
ああ‥‥。
佐々木
18世紀の貴族社会を舞台にした
『バリー・リンドン』って映画では、
当時のあかりは
ロウソクしかなかったはずだからと、
ロウソクの光で、
どこまで映せるか挑戦してみたりね。
──
それで撮ったんですか、全編。
佐々木
すごいですよ。みごとに成功してる。
──
自分は、ベトナム戦争を題材にした
『フルメタル・ジャケット』
という映画が好きで何度も観ました。
佐々木
ああ、あれねえ。いいですね。
──
ベトナム戦争を扱った映画といえば
シリアスなものが多いなか、
キューブリックのあの映画には、
必ずしも、
それだけじゃないユーモアがあって、
そのことが、かえって、
戦争に対する批判精神を感じさせて。
佐々木
ああ、なるほど、なるほど。
ぼくは、タランティーノも好きでね。
冴えない中年男と、
冴えない航空会社でCAをやってる、
前科ありの黒人の女性の‥‥
えー、『ジャッキー・ブラウン』か。
──
ああ、はい。
佐々木
あれもいいなあ。もう、すごくいい。
──
タランティーノって言ったら、
お約束ですけど、
『パルプ・フィクション』は、
もう10回以上は観てると思います。
サミュエル・L・ジャクソンも、
ジョン・トラボルタも、
ユマ・サーマンも、
ティム・ロスも、
ハーヴェイ・カイテルも、
出ている全員が本当にカッコよくて。
佐々木
お話がぐるーっと、ひと回りしてね。
最後、あのバカな強盗のカップルの、
最初の食堂の場面に戻ってくるんだ。
──
物語の「時系列」を変えた構成って、
それこそ、キューブリックが
『現金(げんなま)に体を張れ』で
やっていた手法ですよね。
佐々木
映画マニアでしょ、タランティーノって。
いろんな作品を観てるんだよね。
その『現金に体を張れ』では、
夜の空港で、トランクの留め金が外れて、
お札が飛行機のプロペラであおられて、
そこへ照明がパッと当たって、
お札がキラキラキラキラと舞って輝いて。
──
ええ、ええ。
佐々木
たしか『ルック』だったかなあ、
キューブリックって、少年のころから、
カメラマンとして
写真を
雑誌に載せてたりしてたらしいから。
──
ダイアン・アーバスに教わっていて、
写真集も出してますもんね。
佐々木
だから、映像がすごくいいんですよ。
──
ああ、やっぱり映像的な興奮として、
映画を楽しまれてるんですね。
佐々木
そうそう、映像が、大好きなんです。
だから、オチはどうでもいい(笑)。
蓮實重彦先生の言うフィルム的興奮。
それさえあれば、
オチなんてまったくどうでもいいし、
清水宏には、
そのフィルム的興奮があるんですよ。
大ありです。
──
こんど、観てみます。

佐々木
それとぼくはね、石井輝男というね、
新東宝の2流のA級みたいな監督ね。
──
ええ。2流のA級。
佐々木
大好きなんですよ。いいんです。
まずね、心意気がいいんですよ。
──
心意気というのは、
映画の表面にあらわれるものですか。
佐々木
つまり、石井さんは新東宝というね、
ものすごく低予算の
くだらない映画をつくってた会社で、
一生懸命に、
苦労してやってたんだけど、
その新東宝がつぶれて失業したんで、
東映に移って、
『網走番外地』を撮った人なんです。
──
ああ、そうなんですか。健さんの。
佐々木
そうそう。だから
健さんも売れて、石井輝男も売れて、
よかったんですけど、
新東宝時代の、
ほんとうにくだらないのも、いいの。
活動屋精神があるっていうのかなあ。
──
ははあ。
佐々木
天知茂が週刊誌のトップ屋になって
殺人事件に巻き込まれていく、
『黒線地帯』って書いて、
ルビふって『ブラックベルト』って、
それも、なかなかですよ。
こんど、観てみてください。
ビデオ屋さんを探せば
きっと、ありますから。

(つづきます)

2020-01-20-MON

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  • 福音館書店から、2冊!
    佐々木マキさんの新刊が出ます。

    今回のインタビューにも出てきますが、
    名作『へろへろおじさん』の姉妹編
    『へらへらおじさん』が、
    「こどものとも」2020年7月号(6月発売)
    として刊行されるそうです!
    なにかうれしいことのあったおじさん、
    暴風雨に遭っても、
    竜巻に飛ばされちゃっても、
    へらへら笑って、気にしないのだとか。
    もう1冊は、『わたし てじなし』。
    こちらは9月刊行の
    「こどものとも」年少版2020年10月号。
    泣いている赤ちゃんに
    手品師がいろいろな手品を見せるけど、
    赤ちゃんは泣きやみません。
    手品師さん、はてさて、どうするのかな。
    どっちも、たのしみに、待ってます!