これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
ヨシカミ(浅草)
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 糸井
- いつからか、人のいい作品を見ても、
そんなに「寂しい」とは
思わなくなったかもしれない。
- 伊藤
- いまはどう思うんですか?
- 糸井
- まずは「いいな」と思ったとき、
同時に「よくないな」も見えてくる。
そして次に、
「これやった人、
たのしくてしょうがなかっただろうな」
と思う。
だから「寂しい」より「うらやましい」になった。
- 伊藤
- 年を重ねるごとに
そうなっていったんですか。
- 糸井
- そうね。
若いときは、もっとなまなましかった。
- 伊藤
- そうかぁ。
- 糸井
- 自分に似ているように見える人や同業者が
ちやほやされていたり、
自信たっぷりでいたりすると、
自分が寂しくなってしまった。
「負けてないぞ」と思った。
そういうことは、若い頃は
なまなましくありますよ。
- 伊藤
- 意地悪な気持ちになったことは?
- 糸井
- なる、なります。
でも、そのことが自分にばれてしまう。
だから今度は、
自分がその気持をどんなふうにまとめようかな、
と考えだしますよね。
- 伊藤
- わかります。
そのまとめ方は、年代ごとに変わってくでしょうね。
- 糸井
- そうでしょうね。
ぼくの同業者として、典型的なのは、
仲畑貴志さんです。
- 伊藤
- コピーライターの仲畑さん!
- 糸井
- 仲畑くんに対してぼくはいつも
悔しい気持ちがありました。
だけどやっぱり、嫉妬のような気分になるのは
あんまりカッコいいことじゃないな、とも思ってた。
なぜならその作品を
「いいな」と思うということは、
自分がひとりのファンでもあるってことだから。
複雑な気持ちだったけれども、
「いいな」と自分が思った、という事実を
優先しなきゃいけないんだよね。
30歳手前のぼくはそう感じていました。
たぶん、向こうもそうだった。
- 伊藤
- そうだと思います。
- 糸井
- またさ、刺激する人もいたんだよ。
仲畑くんの会社の机の上に、
ぼくの書いたものをわざと置いとく人がいたりして。
- 伊藤
- えっ!
- 糸井
- 「このやろう」「認めるけど」「負けないぞ」
きっと両方がそう思ってた。
ぼくは当時、ひとりで事務所を構えてたんだけど、
ある日、彼がぼくの事務所にとつぜん
「行っていい?」と連絡くれて、やってきた。
それ、すごいことだった。
いま考えても、あの仲畑くんはすごかった。
思い出すと涙ぐむぐらいです。
- 伊藤
- へぇえ。
- 糸井
- 動物同士が紳士的に出会うようにね(笑)、
ものすごくうれしかったよ。
自分がどんなふうに相手を思ってたか、
互いに言えた。
- 伊藤
- 矢野顕子さんが、以前
「愛されるためには、まず自分が愛すること」
とおっしゃっていました。
やさしくされたいなら、やさしくしなくっちゃ。
認められたいなら認めなくっちゃ。
- 糸井
- そうね。
それからは仲畑くんについて
「すげぇな」と思ったことを
もっと表に出せるようになった。
- 伊藤
- それが仲畑さんとの最初の対面だったんですか?
- 糸井
- そう。
- 伊藤
- へえぇ。
それまでお互いに意識をしていて、
ついに会った瞬間だったんですね。
- 糸井
- うん。それまでは作品だけ知ってたの。
コピーの審査会場で、裏方の手伝いをしてて、
仲畑くんの作品を見て
「これはいいな」っていつも思ってた。
彼の言葉が審査員を感心させていく風景を
何度も見てた。
それは嫉妬のようで嫉妬じゃないかもしれないし、
嫉妬しないように嫉妬していたかもしれない。
- 伊藤
- いわゆるライバルとは違うんですか。
- 糸井
- とても、ライバルなんじゃないでしょうかね。
とてもいいかたちで、
ライバルだったと思います。
- 伊藤
- ライバルって、カッコいいですもんね。
- 糸井
- ライバルってさぁ、
やっぱり友だちだよね。
- 伊藤
- ああ、そうですよね。
- 糸井
- 会ったことなくても、友だち。
きっとそうだと思う。
- 伊藤
- 私にとっては誰だろう。
いるのかなぁ。
- 糸井
- いると思うよ。
- 伊藤
- いるのかなぁ。
会ったことのない、ライバル、友だち‥‥。
- 糸井
- ぼくらは言葉を発表する仕事をしてきたから、
書く心根もわかるし、
これはデタラメ言ってるな、
なんてこともわかります。
いまは特に、SNSがあるから、
嘘をつきとおすことができなくなりましたよね。
その意味では、会ったことのない友だちが
作りやすくなってるんじゃないでしょうか。
いい嫉妬が混じった、いい友だち。
(明日につづきます)
2019-08-11-SUN