これからの自分の道のりを思うとき、
直面して困ることが、おそらくあるだろう。
いま話を聞いておきたい人は誰?
伊藤まさこさんの頭に浮かんだのは糸井重里でした。
大切な人を亡くしたとき、どうする?
からだが弱ってきたら、どうする?
なにをだいじにして仕事していく?
この連載では、伊藤さんが糸井に、
訊きたいことを好きなだけ訊いていきます。
読み手である私たちは、ここで話されたことが、
自分ごとになってスッと伝わってくるときに、
取り入れればいい。
そんな意味を入れたタイトルにしました。
長い連載になりそうです。
どうぞゆっくりおたのしみください。
おしゃべりの場所
ヨシカミ(浅草)
写真
平野太呂
伊藤まさこ(いとうまさこ)
スタイリスト。
おもな著作に
『おいしいってなんだろ?』(幻冬舎)、
『本日晴天 お片づけ』(筑摩書房)
『フルーツパトロール』(マガジンハウス)など。
「ほぼ日」でネットのお店
weeksdaysを開店中。
エッセイ、買物、対談など、
毎日おどろくような更新でたのしさ満載。
糸井重里(いといしげさと)
コピーライター。
WEBサイトほぼ日刊イトイ新聞主宰。
株式会社ほぼ日の社長。
おもなコピー作品に
「おいしい生活。」(西武百貨店)
「くうねるあそぶ。」(日産)など。
ゲーム作品「MOTHER」の生みの親。
- 伊藤
- 娘がかなり大きくなったので、
子育てといっても終わりのほうなんですが、
まずまず健康だし、
最近は、もう、何も求めない。
「警察につかまらなかったらいいや」
くらいの気持ちです。
- 糸井
- 全くそのとおりでしょう。
ただ、子育てということで、
自分を振り返ってひとつ加えるとすれば。
- 伊藤
- はい。
- 糸井
- いま、退屈してる大人って、いっぱいいます。
原因は親にもあるとぼくは思う。
その意味じゃ「退屈しない方法」は、
いつでも与えたいし考えさせたい。
- 伊藤
- ああ!
うん、うん、そうですね。
- 糸井
- むかし、娘といっしょに床屋さんによく行きました。
ぼくの髪をカットしてもらったあと、娘の番になる。
鏡を見ながら、ふたりともが待ち合うわけです。
ぼくがチョッキンしてるとき、娘をふと見ると、
あいつ、鏡で自分に
おもしろい顔してるんだよ(笑)。
- 伊藤
- かわいい(笑)。
- 糸井
- 父親がカットしてるあいだ、
そうやって待ってた。
- 伊藤
- 自分の時間を持て余さない、
たのしい方法を自分で考えたんですね。
- 糸井
- それは、とてもいいことで。
「ああー、つまんない」と思ったまま、
一生は送れるから。
- 伊藤
- そうですね。
- 糸井
- 怖いのはそこです。
- 伊藤
- ほんとうに。
- 糸井
- けっこうな地獄だと思います。
- 伊藤
- 育っていく過程に、
そうなるなにかがあるのかなぁ。
- 糸井
- ぼく自身をふりかえれば、
これまでいろんなことがありました。
でも自分は、
「つまんない」じゃなく生きてみたいと思った。
親や周囲からの影響もあると思うけど、
自分でつくる自分の人格がその人です。
でも、子どもについては、
いいものを渡してお別れしたいと思う。
- 伊藤
- お別れね。
うちの娘はいま、
「ひとり暮らしがしたい」って言ってます。
- 糸井
- ああ、それはお別れのチャンスです。
それを逃すと、いいことないですね。
ちなみにまさこさんのお母さんは、何歳?
- 伊藤
- 82です。
- 糸井
- ああ、立派だねぇ。
まさこさんのお母さんには
現役感を感じます。
あの方は、人生から引いてない。
ちゃんと自分の場所を見つけています。
- 伊藤
- 母のことでちょっと話をしますとね、
8年前の地震があったとき、
私は松本に住んでました。
東京がちょっと落ち着かない感じだったから、
少しのあいだでもこっちに来れば、と誘ったんです。
でも母は
「いいわよ別に。人んちなんて落ち着かないし、
私の家なんだからここがどうなったって住むわ」
と言ってました。
- 糸井
- そうでしょうね。
- 伊藤
- 母の兄が亡くなったときにも、
みんなが悲しんでたら、
「生まれてきたものは死ぬわよ」
なんて言ってて、カッコよかったです。
- 糸井
- もしかしたらお母さんは、
いつかそういうことを強く思った日があって、
おじさんが亡くなった機会に、
娘に教えたかったのかもしれないね。
- 伊藤
- そうでしょうかねぇ。
- 糸井
- 御札(おふだ)みたいなもんじゃない?
「生まれたんだから死ぬわよ」
という御札を、娘に渡したかったんだよ。
- 伊藤
- 糸井さんは、御札をいっぱい持ってそうですね。
- 糸井
- その都度出して、
「この子にはこれがいいな」と
見つくろって渡す(笑)。
- 伊藤
- 節目節目に。
- 糸井
- お母さんもきっと、
いろんな人にもらった御札に
助けられたんじゃないかな。
- 伊藤
- 糸井さんにはそれを、
この連載で聞きたいんです。
- 糸井
- 御札をね。
- 伊藤
- 札、札を、ください。
- 糸井
- (笑)
- 伊藤
- たのしみだなぁ。
- 糸井
- まさこさんとぼくも、
まさこさんとお母さんも、
地つづきにいるんですよ。それが前提。
人が思うことは、ほかの人も思ってる。
人が立派なことをしたら、ほかの人もできる。
なぜなら、材料は同じだから。
- 伊藤
- 材料が。
- 糸井
- ここに目があるし、腹も減る。
- 伊藤
- でも、同じ材料があっても、
いろんなことを発見できる人もいれば、
そうでないこともあると思います。
- 糸井
- 人は、見ないことは見えないけど、
見ようと思えば見えるし、
覚えられます。
じつを言えば、得意なことのほうが
いいかげんになるんだよ。
「私はこういうところをよく見ている人間です」
なんて決めちゃうと、
ある程度のところまでは行けるんだけど、
それは自分の得意なことになっちゃうんだよね。
つまり「見るパターン」に入っちゃうんだよ。
- 伊藤
- それ、なんかわかります。
- 糸井
- いちど方法を見つけたら、
そのパターンから自分が逃げられなくなります。
- 伊藤
- 型にハマるのってちょっと恐ろしいですね。
私もやってると思います。
- 糸井
- もちろんぼくもやってます。
たとえば
「まさこさんと言えばカゴですよね」
なんて誰かが言ったら、
「そうか、人は私にカゴのことを期待してるんだ。
また新しいカゴを見つけなきゃ」
なんてことになって、
カゴが目に入っちゃうようになる。
得意分野にはそういうリスクがあるし、
どんどんつまらなくなる可能性があります。
- 伊藤
- そうかぁ。
- 糸井
- 言葉にしちゃうことの難しさも、
そういうところにあるんですよ。
(明日につづきます)
2019-08-12-MON