スピッツの最新アルバム
『ひみつスタジオ』全13曲の歌詞をもとに、
一曲ずつ、13の物語を描いた歌画本
『ひみつストレンジャー』。
歌詞を書いたスピッツの草野マサムネさんと
絵を描いた画家のjunaidaさんに
語り合っていただきました。
この、ちょっと他にない本が、
どんな思いから、どんなふうに誕生したのか。
こんな「大作」になるなんて‥‥
草野さんも、junaidaさんも、
だーれも予想してなかったみたいですよ。
全6回、担当は「ほぼ日」奥野です。
3月15日から、渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で
『ひみつストレンジャー』展もスタート!
草野マサムネ
ミュージシャン。
1967年生まれ。
1987年に、ロックバンド『スピッツ(SPITZ )』を結成。ボーカルとギターを担当する。
1991年に『ヒバリのこころ』でメジャーデビュー。
以後、スピッツのほとんどの曲の作詞と作曲を担当している。
2023年5月発売の最新アルバム『ひみつスタジオ』を携えた、全45公演の全国ツアー
『SPITZ JAMBOREE TOUR ʼ23 – ʼ24“HIMITSU STUDIO”』を2023年6月から2024年2月まで開催した。
junaida(ジュナイダ)
画家。1978年生まれ。『HOME』(サンリード)でボローニャ国際絵本原画展2015入選、『Michi』『怪物園』(福音館書店)で造本装幀コンクール(児童書・絵本部門)受賞、『怪物園』でIBBY(ピーター・パン賞)受賞など、国内外で高い評価を受ける。近年は絵本の創作を中心に、その活動の幅を広げている。近著に『ここはおうち』文・谷川俊太郎(BlueSheep)、『ひみつストレンジャー』詞・草野マサムネ(角川春樹事務所)、『世界』(福音館書店)がある。
- 草野
- junaidaさんの絵には、
いろんなモチーフが描かれてますよね。 - 怪物とか人間とか生命のあるものから、
ロボットとかのメカニックなものまで、
引き出しが多いなあって
感心するんですけど、
ふだんインプットってどうしてますか。
- junaida
- いやあ、特別なことはしてないんです。
- 草野
- 映画とかも好きですよね、きっと。
- junaida
- はい、大好きです。
- でも、映画もそうですけど、
いろんなものを
ぼーっと見ている時間が長いのかも。
- 草野
- 興味のあるものが、
知らないうちにインプットされてる。
- junaida
- そうなのかもしれません。
- 目を開けているとき、
気づいたら
何かしら見えてるものの色やかたちを
追ってるんですけど、
でもやっぱり、
描くのは自分の興味の向くものですね。
- ──
- 草野さんは、
なぜ、いまのことを聞いたんですか。
- 草野
- 新刊の『世界』を読んでいると、
全体的な調和や統一感はあるんですが、
細部に目を凝らすと
「似たようなものがない」んです。
- ──
- ああ、たしかに。
- 草野
- あれだけ細かく、
たくさんモチーフを詰め込んでいくと、
同じものであふれかえったりとか、
しそうなもんなんだけど。 - ぜんぜん「手癖」を感じないので、
どういうインプットしてるのかなって。
- junaida
- 何か新しい作品に取り組むときには、
それまでの自分より、
「ちょっとへたっぴになる部分」を、
つくるようにしてるんです。
- 草野
- へたっぴになる?
- junaida
- 今回の『ひみつストレンジャー』なら、
「漫画」という形式です。
フキダシつきの漫画とか、
それまで、描いたことはなかったので。
- 草野
- ええ。
- junaida
- あるいは、
こういう線画では描いたことはないな、
とか、
何かしらの挑戦を自分に課すんですね。
画材を変えるとかもひとつですけど、
そうするとやっぱり、
「ちょっと、下手になる」んです。 - でも、その作品ができあがるころには、
追いついてるというか、伸びてる。
その「伸び」が、毎回、
作品の中に入ったらいいなと思います。
- 草野
- おもしろいですね。
でも、むずかしくないですか、それ。
へぇー‥‥。
- ──
- あの絵本、最後までページをめくって
「うわあ!」と思いました。
- 草野
- そう。本当に、びっくりしました。
最後の一枚で「あ!」って。
- junaida
- 今回はこれまでで最大の絵だったので、
半年近く壁に向かって描いてました。 - ふだんは机なんですけど、
あの絵は、木製のパネルに紙を貼って、
それを壁に掛けて毎日ひたすら。
- 草野
- そっか。そうですよね。
どうやって描いたんだろうと思って。
- junaida
- そんなふうに描いたことはないので、
最初は、すごいへたっぴ。
でも、ずっと描き続けていると、
だんだん
身体の使い方もわかってきたりして。
- 草野
- とにかく、引き出しが多いんです。
- 16小節のギターソロっていったときに、
いろんなフレーズを駆使して
物語をつくれるタイプのギタリスト、
みたいな感じですよね。
- junaida
- そのたとえは、うれしいです(笑)。
- 草野
- あと、不思議に思っていたんですけど、
junaidaさんの絵って、
シルエットの線が「鉛筆」ですよね。
- junaida
- はい、鉛筆です。
- 草野
- 下書きとかって、どうしてるんですか。
- junaida
- あ、その鉛筆の線が
下書きといえば下書きです。
- 草野
- そうなんですか。
- 鉛筆で下描きをした上から、
ペン入れをするのが、ふつうですよね。
- junaida
- ぼくの場合は、薄く鉛筆で描いた線を
鉛筆でなぞることもあれば、
ねりけしで薄くして、
見えるか見えないかくらいに
残すこともあって。
- ──
- そういうことが、気になるんですか。
- 草野
- いやあ、どうやって描いてるのかなと。
大学くらいまでは、
イラストを描きたいなと思ってたので。 - 絵の具は水彩っぽいけど、
なんかアクリルも使ってるのかなとか。
- junaida
- 主に水彩とガッシュです。
- 草野
- なるほど‥‥って、聞いたところで、
同じようには描けないんだけど(笑)。
- ──
- junaidaさんの絵って、
ああ、junaidaさんの絵だなあって
ひとめでわかりますよね。
- junaida
- あ、本当ですか。うれしい。
- ──
- 和田ラヂヲ先生という、
心から尊敬するギャグ漫画家の方が‥‥。
- 草野
- 以前、スピッツで描いてもらいました。
- ──
- あっ、そうですよね!
個人的に大好きな「バニーガール」を収録した
『インディゴ地平線』の
アナログ盤に収録されている、
すてきなおまけのコミックですよね。 - そのラヂヲ先生が、よく言うんです。
漫画にしても、絵描きにしても、
「自分のタッチにたどり着けるかが、
わかれめなんだよなあ」って。
- junaida
- なるほど、たしかに。
- ラヂヲ先生の絵は、
誰がどう見てもラヂヲ先生ですもんね。
- ──
- そうそう。先生のタッチは、
デビューのころから揺るぎませんから。
- junaida
- 草野さんのつくる歌も、そうだと思う。
「草野さんだなあ」ってわかる気がする。
- ──
- 草野さんならではのタッチがある、と。
ありますね、まぎれもなく。
- junaida
- 曲にも、歌詞にも、です。
- ぼく、歌詞を書き写してみたんですよ。
今回の本をつくるにあたって。
そしたら、言葉の選び方に
草野さんならではのビートを感じて。
- 草野
- 曲先行でつくっているからってことも
あるかもしれません。 - メロディの流れやリズムに
逆らわないように言葉を乗せたいって、
いつも考えているから。
- junaida
- 歌詞に、呼吸とか息づかい、
ビートみたいなものを感じたんです。
曲をまだ聴いてもいないのに。 - 草野さん独特のものだと思うんです。
それを感じながら、描いていました。
- 草野
- 極端なことを言うと、
ぼくは歌いたいことを犠牲にしてでも、
メロディの流れやリズムに
添いたいなあと思っているんです。 - 本当に歌いたい言葉はこうなんだけど、
メロディやリズムに
きれいに乗らないからやめて、
きれいに乗る言葉を選んでたりします。
- junaida
- それなのに‥‥と言ってもいいのかな、
とにかく
言葉に奥行きみたいなものを感じます。 - それを道しるべに、描いていたんです。
(つづきます)
2024-03-16-SAT