「大人計画」を旗揚げして35年。
クリエイティブの塊のような松尾スズキさんと
糸井重里が公開対談をおこないました。
テーマは「アマチュアリズム」。
素人時代から好きなことを追求してきた
松尾さんなりのクリエイティブ論が、
会話のあちこちからあふれ出します。
笑いに包まれたふたりのトークを、
たっぷり全10回でおたのしみください。
松尾スズキ（まつお・すずき）
作家、演出家、俳優。
1962年福岡県生まれ。1988年大人計画を旗揚げ。1997年「ファンキー！～宇宙は見える所までしかない～」で第41回岸田國士戯曲賞受賞。2008年映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞受賞。
小説「クワイエットルームにようこそ」「老人賭博」「もう『はい』としか言えない」は芥川賞候補に。主演したテレビドラマ「ちかえもん」は第71回文化庁芸術祭優秀賞ほか受賞。
2019年には正式部員は自身一人という「東京成人演劇部」を立ち上げ、「命、ギガ長ス」を上演。同作で第71回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。
2020年よりBunkamuraシアターコクーン芸術監督、2023年より京都芸術大学舞台芸術研究センター教授に就任。
- 糸井
- 松尾さんは自分の手の内みたいなものって、
意識されているんですか。
「俺ってこうだよな」みたいなのは。
- 松尾
- 昔は「過激なことをやってやれ」って、
ずっと思っていたところもあって。
もうエロく、エロくみたいな。
- 糸井
- うん。
- 松尾
- でも、いまそうじゃないんです。
そこまで過激に興味がないというか。
もう10年以上そうなんですけど、
まだちょっとそう見られてるような気はして。
- 糸井
- 人はまだそのお土産で見てるかもしれないですね。
- 松尾
- そうなんです。
- 糸井
- いろんな意味があるけれど、
「過激さ」ってことばでいってるものって、
「大声を出す」に近いんですよね。
- 松尾
- あぁー。
- 糸井
- 「パンッ！」と手を叩いたら、
パッと目をつぶるみたいな。
そういうのって
若いときのほうが利用したいというか。
- 松尾
- しがみついてるものじゃないかもしれない。
- 糸井
- ぼく自身それが
どのくらいあったかわかんないけど、
『ペンギンごはん』とか、
まったくそうだと思うんです。
「自分にとってこれくらい過激じゃないんだよ」
っていいたいみたいな。
- 松尾
- そういえばこの前、
本棚の整理をしていたら、
「『戦場のメリークリスマス』特集号」
という雑誌が出てきたんです。
- 糸井
- はい。
- 松尾
- 学生時代に買ったやつだと思って、
中をめくって見てみたら、
ビートたけしさんと糸井さんの対談が載ってて。
- 糸井
- あぁ、それは見られたくない（笑）。
- 松尾
- もう、すごい人の悪口をいってました（笑）。
- 会場
- （笑）
- 糸井
- たしか、ふたりでベッドに入って
「ベッド・イン対談」とかいってたりして。
- 松尾
- そうです、そうです。
- 糸井
- うわぁ‥‥。
いま、止まるくらい嫌だった（笑）。
- 松尾
- それがいまはこんなに丸くなられて（笑）。
- 糸井
- でも、あのときも
別に尖がってはないんですよ、たぶん。
- 松尾
- そうですよね。
『YOU』の司会のときなんか、
優し気なお兄さんでしたもん。
- 糸井
- あのときも
「台本読みながらやるのはけしからん」とか、
いっぱい責められていたんです。
「こんなのを出すのはけしからん」だし、
ぜんぶ「けしからん」の中でやってたんで、
こっちも負けらんないって気持ちはあって。
- 松尾
- あぁ、はい。
- 糸井
- で、負けらんないとしたら、
どう居なきゃなんないかっていうのが、
まあ自然に身構えるし、見栄も張るしで、
そうやってつくられたんじゃないかなぁ。
- 松尾
- うーん。
- 糸井
- 松尾さんは芝居というか、
フィクションだから、
そこの身構えは要らなかったでしょう？
- 松尾
- もちろん自分と演劇をやってる人格は
分けて考えてましたけど‥‥。
でも、たまにインタビューとかで
「皮肉な笑いを浮かべてください」とか。
- 糸井
- あぁ（笑）。
- 松尾
- 「もうちょっと三白眼で」とか（笑）。
- 会場
- （笑）
- 松尾
- 自分でそうしてしまったのかもしれないけど、
そうやってつくられた自分を見るときの
恥ずかしさったらないですね。
- 糸井
- どこから直るんですかね、そういうのは。
- 松尾
- うーん‥‥。
- 糸井
- やっぱり正直いって、
ある程度の力はあったかもしれないけど、
じつはパワーが足りてなかったというのは、
大人になってからだと思いますよね。
つまり、見破られたら困るみたいな。
- 松尾
- そうですね。
- 糸井
- そんな気持ちがツッパらせてたのかなぁ。
- 松尾
- それはあると思います。
だから、ぼくの見え方っていうのも、
エッセイを読んだ人とか、
小説を読んだ人、映画見た人、
俳優だけで出演してるの見た人とか、
きっと見え方が違ってくると思うんです。
- 糸井
- 違いますよね。
- 松尾
- 何かの取材のときに、
撮影で「お好み焼きを食べてください」って
いわれたことがあったんです。
でも、ぼくはそのとき
「お好み焼きを食べながら写真を撮られるのは嫌だ」
って断ったんです。
- 糸井
- うん（笑）。
- 松尾
- そしたら、その写真家が粘る人で、
「いや、食べてください」って。
で、嫌だなぁと思いながらも、
しかたなくお箸で食べようとしたら、
「いやいや、コテで食べてください！」って。
- 糸井
- はいはい（笑）。
- 松尾
- 「え、コテ？」と思って。
コテでお好み焼きって食べます？
- 糸井
- 地元の人がやってるんですよね。
- 松尾
- そうなんですよね。
それ、あとから知ったんですけど、
ぼくはそういう文化の中で生きてないから、
「俺はコテでお好み焼きを
口に放り込むやつに思われてるのか！」って、
そのときすごいもめましたね。
- 糸井
- カメラマンとのもめごとは、
やっぱりありますよ。
- 松尾
- でも、糸井さんは
おかしい人では売ってなかったから。
- 糸井
- でもね、カメラマンとはもめますよ。
- 松尾
- そうですか。
- 糸井
- ぼくだってうまくやりたいですよ。
だけど「君の思った世界に、
俺はそんなに協力する必要があるのか？」
みたいな気持ちにさせる人はいます。
- 松尾
- なんかやっぱり、
その人の思う糸井像があるんでしょうね。
- 糸井
- それもありますし、
あと、いまの世の中って、
基本的にクリエイティブが下請けで動くので、
取材の撮れ高であるとか、
こういう写真をおさえておくとか、
「これでいいですか？」って
顔色をうかがう相手がいる場合の
下請けの満足っていうのがあるんです。
- 松尾
- なるほど。
- 糸井
- それに合わせてるとキリがないんで、
なんかときどき、
いまだにカチンと来たりしてます。
- 松尾
- いまだになんですね（笑）。
- 糸井
- このあいだも取材がぜんぶ終わってから、
「何歳ですか？」って聞かれたんです。
- 松尾
- ほう。
- 糸井
- ぜんぶ終わったあとですよ。
「えっ？ なんで聞くの？」っていったら、
「聞くことになってるんです」って。
「いままで聞かれたことないけどなぁ」っていったら、
「何歳ですか？」ってまたいうんです。
だから「なんで聞くの？」っていったら、
「本人に聞くのが一番まちがいないから」って。
- 会場
- （笑）
- 松尾
- まちがってる人、いると思いますけどね（笑）。
- 糸井
- ぼくも「調べりゃあるじゃない？」って、
そこで丸く収めようとしたんですけど、
そしたら追い打ちをかけるように、
「生年月日は？」って聞いてきたんです。
- 松尾
- はぁぁ‥‥。
- 糸井
- さすがにそれは何年ぶりかに
「他の人にはあんまりやらないほうがいいよ。
俺は怒ってないけど」
っていいながら怒りました（笑）。
- 松尾
- ウィキペディアとか見れば、
すぐにわかることですけどね。
- 糸井
- やっぱりどこかで、
「この枠の中に入れないと、
私の仕事が終わらないんです」的な人が
多くなっちゃってますよね。
（つづきます）
2023-07-24-MON
-
松尾スズキさんの初の個展、
スパイラルホールにて開催決定！
2022年に60歳を迎えられた松尾スズキさん。
「生誕60周年記念」ということで、
これまで描きためた絵画、イラスト、
手がけた舞台美術作品などを集め、
自身「初」となる個展を開催するそうです。開催期間中は過去の舞台作品の上映、
歌とトークのイベントも予定されているとか。
きっと豪華ゲストもいらっしゃることでしょう。
会場は東京・青山にある「スパイラルホール」です。
会期は2023年12月8日（金）～15日（金）まで。
チケット情報やイベント日程は、
公式サイトをチェックしてみてください。生誕60周年記念art show
『松尾スズキの芸術ぽぽぽい』