前回の連載のなかで、
「ご実家などに眠っている
ファンシーなグッズはありませんか?」
と、呼びかけたところ、
メールやツイッターで
たくさんの投稿をいただきました。
どうもありがとうございます!
なんとメロさん、ほぼ全ての方の
投稿写真を鑑定してくださったんです。
ぱっと見ただけで、「あ、これはですね~」と
あらゆる方向に話が進んだ鑑定の様子を、
そのまま、こってりとお伝えします。
レアで貴重な「ファンシー絵みやげ」の数々、
その当時の時事ネタもおたのしみください。
担当はほぼ日のフジタです。

>山下メロさんのプロフィール

山下メロ(やましためろ)

ファンシー絵みやげ研究家。
1980年代・90年代の庶民風俗を研究。
特に観光地のファンシーイラストが描かれた
お土産雑貨=「ファンシー絵みやげ」を
収集・研究しており、
各種メディアで保護を訴えている。
所有するファンシー絵みやげは17000種を超える。

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第2回 龍馬vs新選組。

メロ
どんどんいきましょう。
ーー
はい、お願いします。

私が子どもの頃から今でも現役で使っている
ファンシー絵みやげと思われる
ミニ裁縫セットとキーフォルダーです。
(智美)

メロ
送ってくださった画像、
背景が畳なのでサイズ感がわかりますが、
かなり小さい裁縫セットですね。
こういうもの、当時はいっぱい売られていました。
ファンシー絵みやげは
実用的なものに印刷して売る、というのが基本なので。

(※写真2枚目)

ーー
まさに実用的なものですね。
そして、スプーンの写真も2枚あります。

(※写真3枚目)

(※写真4枚目)

メロ
これは「箱根」ですね‥‥。
スプーンの裏のシールを見てください。
箱根は寄木細工で有名で、
他の地域で売る木工民芸品を作っていたりもします。
個人的には、本拠地なんだから
「箱根」という焼印を押してくれてもいいのに、
と思います。
というか、シールというのは逆にめずらしい。
逆にこっちのほうがレアかもしれないです。
箱根なのにシール!
ーー
逆にレア。ありがとうございます。
あ、次は、ファンシー絵みやげ界で多いという
キツネですね。

来年年女のアラフィフです。
おそらく私たち世代の頃が一番、
タレントショップだのファンシー土産だのが
全盛期だったのではないかしら‥‥
と思っています。
キツネは言わずと知れた北海道土産です。
中学校の修学旅行で北海道に行った時、
自宅用と叔母へ買ってきたものです。木の葉型の温度計は、確か下に地名が
ぶら下がっていたのですが、
取れたか取ったか定かではありません。
洞爺湖か、猪苗代湖か、
湖の名前が付いてた気がします。
(モリヤン)

メロ
こういうものとか木彫りのクマは、
アイヌの木彫りとされているんですけど、
アイヌは伝統的には動物や人は彫らなかったので、
わりと近年に作られたものなんですね。
技術的には伝統技術ですけど、
もともとこういうものを作っていたわけではない。
もっとリアルに彫れるのに、
ファンシー絵みやげの影響を受けて、
ちょこんと座って2頭身、というふうに
あえてファンシーにしていたりするわけですよ。
初期のファンシー絵みやげは
こういうものと互いに影響を受けあった上に
成り立っている、といえます。

ーー
そういう意味で、すごく貴重なものですね。

先日第一弾のメールを送った後、
押入れの中に沢山眠ってるハズ!と
正月休み中探しました‥‥が、全く出てこない。
辛うじて見つかったのは小学生の時、
つくば万博の臨時列車が来た際に買った、
コスモ星丸のクリップと、
姉が高校の時の京都修学旅行で買って来た、
未だ現役のネーム入り湯呑み茶碗。
案外こういう陶器って
丈夫でなかなか割れないんですよね(笑)。
(モリヤン)

メロ
これもモリヤンさん。
「辛うじてみつかった」とありますね。
これは筑波のつくば万博、科学博で
公募で募集したキャラクターです。
つまり企業がイラストレーターを雇って作ったものじゃなくて、
公募で、たしか中学生だったかな――が描いた絵を
先日亡くなった和田誠さんが審査委員長で、
仕上げたものです。
ーー
え、なんと、和田誠さん!
すごいです。
そう言われると和田さんのタッチですね、たしかに。
メロ
「コスモ星丸」という名前なんですけど、
85年に大量に商品がつくられたんですよ。
だからファンシー絵みやげと
同じ仕様のものがたくさんあります。
おみやげグッズを作れる会社に頼んで、
いっぱい作ったので。

(モリヤン)

メロ
そして湯のみ。
これはファンシー絵みやげです。
ここで重要なのが、
実はここに名前が彫ってあるんですね。

(モリヤン)

ーー
ああ、なるほど。
メロ
送られてきたお写真に加工がしてあるので、
たぶん名前を隠していらっしゃるんだと思います。
当時、修学旅行先のみやげ店で、
買ったその場で名前を彫ってくれるサービスがありました。
よく見ると街灯の下に影みたいなものがあって、
黒い縁どりもない線でベタッと塗られてますよね。
これは字を彫るためのスペースなんです。
普通はただ地面を描くというのは
意味がわからないですけど、
これは「彫る場所」としてデザインされているんです。
他には、地名が書かれていない汎用的な商品を出荷して、
現地でここに「地名」を彫るパターンもあります。
当時のそういう文化がわかる、貴重なものです。

32年程前に、姉が修学旅行のお土産にくれた
キーホルダーです。
(hoppu)

メロ
「ドキドキ白虎隊」!
こちらもまさに「ザ・ファンシー絵みやげ」と言えましょう。
32年前というと、つまり1988年ごろに
お姉さんが会津若松に修学旅行に行かれたんですね。
これまた文字に注目なんですが、
イラストに添えられたセリフが
そのまま贈り主からのメッセージになる商品ですね。
「ユー・アー・マイ・オンリー・フレンド」。
お姉さんから「友だち」と言われてます。
ーー
あ、そうですね(笑)。

メロ
そして、これ2人しかいないですけど、
白虎隊は本当はもっとたくさん人数がいるんです。
ここから読み取れるのは、たぶん2人は
もともと白虎隊の絵じゃなかったと思います。
最初はふつうの男の子2人か、あるいは男女の絵だったのを、
無理やり白虎隊にした絵という感じがします。
というのも、左右のハチマキの位置が
おかしいんですよ。
おでこがずれているし、
フワッとした髪の上にハチマキがあって、
ちょっと違和感がありますよね。
たぶん元の絵があって、それを
「会津だから白虎隊風にしましょう」となって、
描いたのじゃないかな、と。
推測でしかありませんが、そういう時代だったので。

ーー
これもまた、おおらかな時代。
メロ
背景の、キラッとした感じもいいですね。
こういう砂嵐みたいな背景は、
最近あんまりないんですよ。
だからすごくいいです。
しかも、今まさに鍵を付けて使っているんですね。
この輪っかのパーツって普通はもっと太くて、
鍵をつけるのも大変なので、
付け替えやすいものに変えたのかもしれませんね。
ーー
パーツまで見てわかる。さすがです。

もういつからそこにあるかも分からない
木製のカレンダーです。
実家のトイレのドアに掛けられて
何十年も現役です。
数字部分を外すと、そこだけ色が違っているほど。
数字は一番早起きの母が変えているらしく
日付は常に正確です。
おかげで毎日、今日は何日だっけと迷わずにすみます。
姉妹に一つずつ、お揃いで買った
記憶があるのですが
もう一個はどこへ行ったやら。
(おちゅん)

メロ
素晴らしい。
一緒に行って買ったのかな。
ーー
「KUMAMOTO」(熊本)と書いています。
メロ
この地名部分は、
薄いコルクにいっぱい印刷してあるものですね。
裏に最初から糊が付いているコルクで、
それを貼り付けています。木工品に多い付け方です。
これ、おもしろいんですよ。
数字の部分、右3枚、左3枚の、
計6枚のみで全日付のパターンが
できるように作られています。
パッと見、足りないようで、計算すると、
実はなんとかなるようになっているんですね。
ーー
お母さまが毎朝替えている、
というのもいいですね。
家族の歴史を感じさせられます。

小学生の頃、奈良県天理市に行ったとき
父へのお土産として買ったものです。灰皿です。
(ナイスミドル)

メロ
小学生が好きそうな絵を描いて、
父親用に買わせるタイプのおみやげですね。
「鹿のフンフンフン踊りだよ」と書いてあります。
「FUN(ファン)」にかけているのかもしれない。
なぜ鹿のフンか。
奈良は「鹿のふん」というお菓子が有名ですが、
それだけではなく、昔、吉永小百合さんの
『奈良の春日野』という歌がありました。
「フンフンフーン、黒豆よ」という、
鹿のふんのことを歌った、
いわゆるコミックソングみたいな歌なんです。
当時バラエティー番組で、
明石家さんまさんが、
吉永小百合さんを好きなタモリさんをからかいつつ、
その歌をよく歌っていたんです。
その『奈良の春日野』がヒットしたのを受けて、
「フンフンフン」を商品に取り入れている
パターンが散見されるんです。
勝手にさんまさんの似顔絵を
描いちゃっているものも実は見つけています。
関係ないかもしれませんが、
さんまさんも奈良育ちですから。

ーー
なんと、詳しい。
この灰皿、色もきれいですね。
メロ
これはパール加工といって、
虹色に光る、まるで貝殻の裏側です。
今でもティーカップなどに使われています。
使うと、ド派手になるから、
当時やたらと使われていたんです。
さあ、どんどんいきましょう。

実家にて発見しました。
男子と女子とてるてる坊主が
ぶら下がっていました。
驚いたのは裏面に「青森」と書いてあるところです。
青森には一度も行ったことがありません。
いったい何処で「青森みやげ」を
買ってしまったんでしょうか。
(まっちー)

メロ
「ラブ・アンブレラ」。
相合傘でも、右側にはカップルがいて、
左側はてるてる坊主。
ーー
そうですね。
重さのバランスがとれています。

(※写真2枚目)

メロ
裏側は青森とリンゴ、
「メモリー・オブ・青森」とあります。
裏側の平面にちょっと模様があるんですけど、
このてるてる坊主の裏は、しわかな。
メッセージにある
「青森には1度も行ったことがありません」
というのは怖い話ですね。
もちろんいろんなパターンがありますけど、
どこかで買ってしまったか、
行った人にもらったんじゃないでしょうか。
今だとお菓子とか消えものをあげますけど、
当時は消えものより、こういうキーホルダーを
あげるのが普通でしたから、
行った人にもらった可能性も高いと思います。
おそらく人にもらったものだからこそ
大事に取っておいたのかもしれません。
これはファンシー絵みやげより前の時代だと思いますね。
平面じゃないし、絵をプリントしているわけじゃなくて、
パーツを作ってつるしているので。
ーー
なるほど。
メロ
ただこの相合傘というモチーフは、
その後もずっと続いていくので、
たぶんその後のファンシー絵みやげにつながる
重要なアイテムですね。
今でこそ相合傘なんてあんまりないですけど、
昔は落書きといえば相合傘、
相合傘を見つければ「ヒューヒュー」
みたいな時代もありました。
あと、このシールに、地名だけでなく
特産品のりんごが書かれているのもいいですね。
めずらしいです。

青森の、夫の実家にありました。
ドアのすりガラスを隠す役目にしていたようです。
(マオピー)

メロ
「青森の夫の実家にありました」とあります。
すごく物持ちがいいですね。
トイレのすりガラスって、
はっきり中は見えないけど、
外の光も入ってくるし、シルエットが見えちゃうし、
こうやって隠しておくご家庭も多いですね。
ーー
あれ、トイレにすりガラスってありました?
メロ
ありましたよ。
昔はすりガラスごしにライトが
点いているか点いていないかで
入っているかがわかったんです。
今も、ごく小さいすりガラスとかありますが、
昔は大きかった。

メロ
で、あれ、なにこれ。
「京都‥‥いらっしゃいまほ」。
「まほ」?
ーー
「まほ」?
メロ
方言でしょうか。こんな大胆な
間違いはしないと思うんですが。
ーー
念のため、検索してみましょうか。
‥‥‥‥あ、明石家さんまさんのギャグですね。
『オレたちひょうきん族』のころだそうです。
メロ
ええ、観ていたけど、全然知らなかったです。
じゃあこれ、さんまさんのギャグを使っているんですか。
うわあ、知らなかったなあ。
こういうところが、
ファンシー絵みやげの怖いところです。
自分が当時の文化まで含めてすごく調べているのも、
結局知識がないと、「ミスかな」と思っちゃう。
当時の風俗を調べることがいかに重要か、
と、こういうときに思い知らされます。

ーー
そうですね。
メロ
当時モータースポーツのブームがあって、
こういうスポーツバイクが流行りました。
さっきのウォークマンを聞いている桃太郎、
と同じく、時代を超えて新選組がバイクに乗っちゃう。
そして、
「龍馬には俺が勝つさ」
「さあ今日も龍馬に勝つ」。
龍馬をめちゃめちゃライバル視!
2人とも龍馬に勝とうとしています。
ーー
龍馬をそんなに意識して。
メロ
龍馬は高知が本拠地ですけど、
京都にもいたので、京都にも
龍馬のファンシー絵みやげがあるんですよ。
その対立構造で、龍馬vs.新選組という描かれ方が多いです。
これは新選組風にギザギザを描いていて、
凝っていますね。
ーー
スポーツバイクの描き方もリアルです。
メロ
子どもは乗りものが好きなので、
意外と細かく描かれているんですね。

▲後日、メロさんから届いた画像(メロさん私物)。
「I'm wind! と言ってバイクにまたがる新選組。スポーツバイクのフチにも新選組の模様があって凝っています」とメロさん。 ▲後日、メロさんから届いた画像(メロさん私物)。 「I'm wind! と言ってバイクにまたがる新選組。スポーツバイクのフチにも新選組の模様があって凝っています」とメロさん。

ーー
きました。また新選組。

実家に帰ってみたら、ファンシー絵みやげの
湯飲み茶碗があったので、写真を送ります。
お正月、ファンシー絵みやげの話題で盛り上がりました!
あった、あった!と懐かしがってました。
(智美)

メロ
「お正月、ファンシー絵みやげの話題で
盛り上がりました」
いいですね、そのシーン。
これ、髪型が今までのものと違いますけど、新選組ですね。
そして、文字は方言シリーズ。
方言を並べたのれんとか湯呑みは多いんですよ。
おそらくファンシー絵みやげより
ちょっと新しい時代に流行りましたし、
デザインの違うものが現役でも売られてます。
リアルな絵が描いてあるパターンもあるんですけど、
こんなふうに、子ども向けに
かわいい絵が描いてあるパターンもあります。

お土産でいただいたのか、
自分で買ったのか記憶が曖昧ですが、
実家にずっとありました。鍵つき貯金箱。
中に入っていたのは星の砂でした。
(鍵も残っててよかった‥‥)
(てるま)

メロ
これすごい。鳳凰が上に乗っていて、金閣寺が描かれています。
そしてやっぱりスポーツバイクに乗っている。
絵が違うので、違うメーカーでしょうね。
イヌが「わお、かっこいいなあ。サインして」
と言っていますね。

(てるま)

ーー
かわいい。
メロ
「俺のマシンはすごいんだぞ」という。
日本語ローマ字なのに、突然英語が出てくる。
あれ、「マシン」って最後は
「e」が必要じゃなかったですか?

(てるま)

ーー
必要ですね。
正しくは、MACHINEです。
メロ
普通にローマ字読みだと思って読んでいったら、
「俺のマチンはすごいんだぞ」と。
ミスですね、これ。

(てるま)

ーー
‥‥。
メロ
ちなみに「R」と文字が入っているから、
これは龍馬です。
龍馬vs.新選組という、これまた対立構造ですね。
髪型も、龍馬は浪人なので月代がなく、
髪を結わえています。
そして注目すべきは足元です。
草履じゃないんですよ。
龍馬といえばブーツ。ブーツにも見えないけど、
まあ草履じゃない、というところで
龍馬だということをアピールしてます。
いかに龍馬に見えるか、と苦心して作っているんです。
そういうところも深く考察するとたのしめます。

(つづきます)

2020-04-01-WED

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