前回の連載のなかで、
「ご実家などに眠っている
ファンシーなグッズはありませんか?」
と、呼びかけたところ、
メールやツイッターで
たくさんの投稿をいただきました。
どうもありがとうございます!
なんとメロさん、ほぼ全ての方の
投稿写真を鑑定してくださったんです。
ぱっと見ただけで、「あ、これはですね~」と
あらゆる方向に話が進んだ鑑定の様子を、
そのまま、こってりとお伝えします。
レアで貴重な「ファンシー絵みやげ」の数々、
その当時の時事ネタもおたのしみください。
担当はほぼ日のフジタです。

>山下メロさんのプロフィール

山下メロ(やましためろ)

ファンシー絵みやげ研究家。
1980年代・90年代の庶民風俗を研究。
特に観光地のファンシーイラストが描かれた
お土産雑貨=「ファンシー絵みやげ」を
収集・研究しており、
各種メディアで保護を訴えている。
所有するファンシー絵みやげは17000種を超える。

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第9回 四国オールスター。

ーー
だんだん、ゴールが近づいてきました。
メロ
そうですね。
見ていきましょう。

お正月休みに帰省した、主人の実家で見つけました。
長野県の菅平のお土産です。
ジップロックを干すためのクリップとして、
現役で使われていました!
(そらのススキ)

メロ
「ジップロックを干すためのクリップ」ですか。
ーー
生活感があっていいですね。
メロ
いいですね。
裏には菅平(すがだいら)と書いてます。
菅平高原は、
ラグビーの合宿も試合も多く行われている、
ラグビーの聖地ですね。
スキーのゲレンデもあります。
パーキーカンパニーは3人組のキャラクターで、
これはスキーヤー・バージョンです。
こういう首だけのクリップ、
昔はたくさんありました。
今もちゃんと使われているというのが、うれしい。

(そらのススキ)

ーー
これについている紐は‥‥?
メロ
あとからつけたんでしょう。
ーー
ジップロックを干すために。
メロ
大事ですね、ジップロック。
パーキーカンパニーというロゴにも、
よくみると小さい顔が3つあります。
これもまたかわいい。
ーー
いいですね。
でもジップロック干し用として現役なので、
これは、欲しい、と言えませんね。
メロ
かわりに洗濯ばさみをあげますから‥‥(笑)。
いや、でもね、
せっかくなので長く使ってもらえたらと思います。
ーー
次も同じ方からです。

年末に帰省した実家にあった、
京都のお土産です。母がコーヒーをいれてくれて、
目の前に突然現れました。
(そらのススキ)

メロ
実家で
「母がコーヒーを煎れてくれて、
目の前に突然現れました」ということですね。
これがドーンと置かれ、
「コーヒー入ったわよ」と。
ーー
浮かびます。
これ、「KYOTO」と書いてますが、
どのあたりが京都なんでしょうか。
メロ
説明します。
一番わかりやすいのが、
右上にある大文字焼きです。
五山の送り火をデフォルメしすぎて、
謎のもみじ饅頭みたいになっておりますが。
ーー
あっ、これ大文字焼き!

メロ
知らないと気づかないかもしれません。
これ後ろの背景も山です。
山は緑色で描いてほしいですけどね。
白だから、空と雲に見えます。
下にいる動物、
普通に見たらネコに見えますよね。
山寺の和尚さんが鞠のかわりにネコを蹴る、
そんなわらべ歌も思い出しますが、
これおそらく一休さんが
トラを退治しているところだと思います。
ーー
おお!
メロ
一休さん、京都ですよね。
「この屏風のトラを出してみよ」ですか。
実際にトラが出てくるの
意味わからないんですけど、
おそらく小坊主が
トラを追いかけているんで、一休さんです。
このトラの描き方も、はじめて見ました。
ーー
かわいいですね、トラ。
メロ
これはれっきとしたファンシー絵みやげですね。
めずらしいですけど。
ーー
突然現れたそうですよ。
運命みたいですね。
メロ
その出会い方も含めていいですね。
しかも、大文字焼きのような
わかりづらい要素があるのもまたおもしろいです。
そして「RUN FOR IT」と、
大きく英語を配置するオシャレさ。
手書きじゃなくて書体で書くというのは、
あんまりなかったので、
ちょっと新しいものかもしれないです。
でもセンスは昔のものっぽいし、
いろいろ謎が多いです。

ブラックバスの夜光レリーフキーホルダー。
片付け中に発掘して
「大したモンじゃないか」と
スルーしかけたけど下部の半球レンズ内に
ファンシータッチのUFOみたいな絵を確認。
なんでUFO?と思いつつ
よく見たら絵の上に水色で
「HIROSHIMA」って書いてある。
原爆ドームだこれ‥‥!
(じんこ)

メロ
ブラックバスの夜光レリーフキーホルダー。
まずこのキーホルダーって、
自分もいくつか持ってますけど、違う絵なんです。
このボテッとした金属で、重厚なもので、
ブラックバスがドーンって描かれてるわけですよ。
ブラックバスを推しているところから、
これは釣り客向けです。
半球型のビー玉というか、
おはじきみたいなものを貼って
レンズ効果を生み出すことで、
その下にある絵を大きく見せるという
手法がとられています。
書かれている通り夜光なので、
蓄光素材の上に描かれてると。
たしかにUFOのように見えます。
でも、広島の文字、ほぼ見えない。

ーー
そうですね。
メロ
見えないけど、広島と書かれているんでしょう。
これ、重いです。テーマが。
広島平和記念碑や平和記念公園は
学生が修学旅行で戦争について学んだりする
勉強の場ですので、
学生向けに売られているんですね。
ただファンシーな世界観にそぐわない施設を、
どうやっておみやげ用のグッズに描くか。
現地でも、いろんな表現があって。
ファンシーにしすぎてもダメ、
あまりリアルに描いてもダメ、
いろんな表現が散見されます。
その中でも特にこれは、
まさかの黄色に塗るという。
きっと、この小さい丸の中に
広島の要素を詰め込まなくてはいけなくて、
じゃドームを入れよう、となって、
子どもにわかるよう、精一杯目立つようにしたのかも。
こういう試行錯誤が、
当時の広島の観光地みやげに色々と見られます。
ーー
次は、最後の投稿、
マグカップです。

ローマ字で日本語文書いてるのとか
ファンシーすぎる。
(すけさぶろう)

ーー
瀬戸大橋のマグカップですね。
メロ
日本語をローマ字で
書いてるのが、まさにファンシー絵みやげですね。
「食いねえ 食いねえ 寿司食いねえ。
江戸っ子だってね」
これは広沢虎造の浪曲の一節です。
描かれているイラストは、
森の石松とお遍路さんなんですよ。
ーー
なぜ森の石松とお遍路さんが?
メロ
瀬戸大橋の四国側は香川県ですけど、
香川県ってキャラが少ないんです。
小豆島に行くと、
『二十四の瞳』とかあるんですけどね。
四国全体を見ると、
四国オールスターズというのがあります。
坊ちゃん、石松、龍馬、阿波踊り。
ーー
阿波踊り!なるほど。
メロ
この4人が四国オールスターズとして並んだ
お土産がいくつかあります。
ーー
へええ。
香川県出身ですけど、
知りませんでした。
メロ
たぶん瀬戸大橋ができたことで、
四国全体が本州と近くなったことを
アピールしてるわけです。
香川の人からしたら、
「え?」って話だと思うんですけど。
高知みやげに「龍馬と瀬戸大橋」とか、
松山みやげに「坊ちゃんと瀬戸大橋」とか、
いやあなたの県に瀬戸大橋ないでしょう、みたいな。
ーー
(笑)
メロ
徳島だけは先に大鳴門橋があったので
背景に描かれている橋は大鳴門橋なんですけどね。
瀬戸大橋によって本州から
愛媛や高知に来る人が増えたんですよね。
ーー
はい。瀬戸大橋は電車が通ってますから、
香川を通過してそのまま愛媛や高知に入れます。
メロ
そこから、
瀬戸大橋と坊ちゃん、瀬戸大橋と龍馬、
みたいな組み合わせが生まれました。
問題なのが、
徳島は「阿波踊り」という、
阿波踊りをする一般的な衣装を着た女性が
キャラクターであって、
龍馬みたいな特定の人物ではない。
そして香川の代表である「森の石松」は、
静岡の人なんです。
ーー
あ、そうだったんですね。
私も森の石松について、詳しくは知らないんです。
メロ
森の石松は清水の次郎長一家の子分です。
今で言う静岡市清水区の人で、
そもそもが香川の人ですらない。
ですが香川には
ファンシー絵みやげになるような有名人が
あまりいないので、石松を持ってきている。
ーー
なるほど。
メロ
石松は清水の次郎長に
「代わりに金比羅さんに行ってくれ」と
頼まれて金比羅代参をするんです。
そのとき船に乗って行くんですけど、
その物語が講談や浪花節になって、
この「食いねえ 食いねえ 寿司食いねえ」
というフレーズが生まれました。
しぶがき隊の「スシ食いねェ!」っていうのも、
もともとは創作上のものかもしれませんが
石松の言葉からの着想でしょう。
ーー
何でも知ってる、メロさん。
すごい。
メロ
こういう情報、大事なんです。
なぜ金比羅さんの商品には石松が書かれてるか、
という説明こそが重要なんです。
香川の人ではないけど、
石松が金比羅さんに来たことが
歴史上の事実であることと、
浪花節としてもブレイクしたので
重要な存在だったことが挙げられます。
香川の琴平関連だと、
金比羅さんで七福神も使いますけど、
七福神は全国のいろんな地域でも使われる。
他には屋島の那須与一とかタヌキなんかもいますけど、
ちょっと香川全体を代表するには弱い。
那須与一自体も別に香川の人というわけじゃない。
ということで、とにかく石松推し。
ーー
なるほど。
石松推し
メロ
まさにこれは、
「食いねえ 食いねえ」って書かれてるので、
浪花節「石松三十石舟」のことを書いてます。
でも、めずらしいことです。
石松をただ使うことは多くても、
船に乗ってる程度で、
この「食いねえ 食いねえ」まで
載せるケースって少ない。
ーー
勉強になりました。
恥ずかしいです、
自分が地元のことを知らないということが。
メロ
自分も知らない時期ありましたよ。
たまたまそれを知る機会が早かったという、
それだけです。
だから金比羅とか讃岐路の商品のカップルって、
石松&お遍路とか、
石松&巡礼とかが多いです。
逆に清水では次郎長ばかりで、
石松をめったに見ないんです。
当然、あっても次郎長の後ろにいるケースで、
単独はほぼない。
ーー
ここでは主役をはれるわけですね。
メロ
そうです。
それがわかる、貴重なものです。

ーー
さて、これで
すべての鑑定が終わりました!
メロ
おお、ついに。
ーー
たくさん、ありがとうございます。
いよいよ次回、メロ賞を選んでいただきます。

(つづきます)

2020-04-08-WED

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