昨年12月に「ほぼ日曜日」で行われた
皆川明さんと糸井重里の公開対談です。
ふたりっきりの対談は約4年ぶり。
その4年間での変化や気づきを、
おたがいに伝え合うような場になりました。
洋服をつくりつづける皆川さん。
アイデアを考えつづける糸井。
かろやかに進むふたりの会話には、
ものを生み出すためのヒントが
たくさん散りばめられていました。

>皆川明さんのプロフィール

皆川明(みながわ・あきら)

1967年東京生まれ。デザイナー。
1995年に自身のファッションブランド
「minä(2003年よりminä perhonen)」を設立。
時の経過により色あせることのないデザインを目指し、
想像を込めたオリジナルデザインの
生地による服作りを進めながら、
インテリアファブリックや家具、陶磁器など
暮らしに寄り添うデザインへと活動を広げている。
また、デンマークKvadrat、
スウェーデンKLIPPANなどの
テキスタイルブランドへのデザイン提供や、
朝日新聞の挿画なども手掛ける。

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第5回 寄せたものが返ってくる。

糸井
ミナ ペルホネンは、
2020年で25周年なんですね。
皆川
はい。25年って聞くと、
ぼくの人生の半分くらいを占めるので、
そういう時間の集積はあるんですけど、
それでもすごく長いわけじゃないんです。
きょうここに来る前、
和菓子のとらやさんにお会いしてたので、
とくにそう思うのですが(笑)。
糸井
あそこは400年ですからね。
皆川
そう思うとやっぱりあっという間ですが。
でも、たった25年でも積み上げてみると、
このぐらいの量があるのかっていうのが、
今回の展覧会なんです。
ミナをはじめたときから、
「せめて100年」という思いがあるので、
25年といったらまだ4分の1。
いまの自分の年齢の4分の1って、
まだ中学校1、2年生くらいです。
ようやく思春期に入ったくらいだから、
これからまだまだいろんなことができると思います。
ただ、これまでとちょっと違うのは、
思春期を終える頃には、
ぼくは次の人たちに任せたいとも思っていて、
ほぼ日さんっぽく言うなら、
いち乗組員に戻るというか‥‥。
そういう北欧の船乗りの話があるんです。
糸井
それはどういう話ですか?
皆川
ある男が、近所で釣りをしてるんです。
最初は小舟をこいだりしながら、ひとりで。
それが、だんだん釣りがたのしくなって、
そのうち大きな船で遠くまで行くようになる。
たくさんの漁師たちもいっしょに乗せて、
遠くの魚をとってくるようになる。
それから何年も月日が経って、
年老いたあとはまた小舟に戻って、
ひとりで釣りをたのしむという話なんです。
「それが船乗りの人生だよ」みたいな話なんですが、
自分の場合は小舟に戻るというより、
遠くまで行く船の厨房でもいいので、
みんなの食事をつくるような仕事で、
いっしょに乗っていたいなあっていう感じなんです。

糸井
あの、前の対談でも言ったかもしれないけど、
やっぱり皆川さんって、
実際の年齢よりもませてるんですよね。
皆川
ませてる(笑)。
糸井
いま、皆川さんが話してくれた
「小舟に戻る」というのは、
70歳をすぎたぼくらが言うような話です。
皆川
ははは。
糸井
でもね、ぼくのもっと先輩たちに話を聞くと、
「うーん、そうはならないんじゃないですか」
って言うんですよ。
皆川
そうなんですか?
糸井
何を見て言ってるのかはわからないんだけど、
「うーん、なんないと思いますよ」って言われます。
別に答えがあるわけじゃないんだけど、
船乗りの話ような輪廻がまわる感じって、
エントロピーの法則じゃないけど、
ほんとうは無理なんじゃないかなって、
ちょっとぼくも思っているんです。
皆川
ぼくも「円」は無理かもしれないけど、
意外と「球体」ならありえるのかなって。
でも、自分でそうは言っても、
何かをするたびに新しいことが浮かんでくるから、
やっぱり「それをやりたいなあ」って、
どんどん思うようになるんですよね。
今回の展覧会でも「シェルハウス」という
小屋をつくったのですが、
それは暮らすように過ごせる宿がつくりたいって、
4年前にスパイラルの展覧会で思った言葉を、
ようやくかたちにしたものなんです。
糸井
うん。
皆川
きっとあれを実現させたことによって、
のちにどこかで本物の小屋をつくるだけじゃなくて、
実際の営みとなるようなことをしていくのかなって、
そうやってどんどんと次の展開を
期待しているところも、じつはあるんです。
糸井
やっぱりそうだと思いますよ。
だから、今回の展覧会をやったことで、
あとで反動のようにものすごいものが、
皆川さんのなかに流れ込んでくるはずで。
皆川
はい。
糸井
いまは出すだけ出したわけだから、
このあと寄せては返すものが、
きっともう悲鳴をあげたくなるぐらいに、
皆川さんのなかに入ってくると思うんです。
これまでの自分もそうだったけど、
出したあとってすごい返しが来ます。
皆川さんはそのときどうするんだろうね。
その「うわー!」ってなってるところで、
また会いたい気もするけど(笑)。
皆川
そうですね(笑)。
まだこれからのことはわかりませんが、
さっき話しに出た「記憶をもつ洋服」の展示は、
ほんとうに25年やってきて、
ようやく見えたものだったんです。
糸井
うん。
皆川
それまでの洋服って、
シーズンごとだと思ってみんなで
つくりつづけた時代があったわけで。
いまはそのサイクルが、
「ホントにこのままでいいのか?」
と思いはじめたタイミングだと思うんです。
ぼくらも25年つづけたことで、
ちょうどその答えが、自分たちなりに
わかりはじめているところなんです。
糸井
さっき、皆川さんが、
「思いがどうしてかたちになるんだろう」
という疑問がずっと頭にあって、
ほんとうにわかったのが、
「うーん、1年前ぐらいかな」
というふうにおっしゃってましたよね。
やっぱり時間をかけてみないと、
わからないことって多いんですよ。
これだけ先人たちが本に書いたり、しゃべったり、
さんざんしてるというのに、
それでもわかるにはやっぱり時間がかかる。

皆川
ブドウからワインをつくる方法はわかっても、
実際に「こういう味になるよ」というのは、
やっぱり発酵させて熟成させてみないと、
結局はわからないんでしょうね。
糸井
それに、ワインを寝かせる時間というのは、
そのままでもないんです。
いわば人が大切にキープして、
ずっと声をかけをつづけているわけで。
皆川
そうですね。
糸井
ほったらかしにしてたら、
急にできたってことは絶対にないです。
そういう毎日の「おはよう」みたいな積み重ねって、
若いときはなかなかわからないんでしょうね。
どうしても「もっと早く育て」と思っちゃう。
さるかに合戦の「さる」みたいにさ。
皆川
でも、いまの話で言うと、
ぼくは早く結果がほしいというよりも、
ずっと何かをしていたいタイプなんです。
「早く育て」というよりかは、
「いつまでも終わるな」と思いながら、
ずっと水をあげていたいタイプ。
糸井
ああ、なるほど。
皆川
新聞の挿画を描いていたときも、
描き終わっちゃうともったいないと思うから、
時間があるときは、
あえて手のかかる絵を描いてました。
糸井
もう、そのこと自体が好きなんですね。
手を動かすということが。
その部分は、ぼくにはまったくない(笑)。
皆川
でも、たぶん糸井さんは、
ずっと考えていたいタイプじゃないですか? 
時間があればいくらでも考えられるというか。
糸井
あ、そうか、そうか。
考えつづけることなら、
ぼくはいくらでも平気ですね。
ずーっとでも考えていられます。
皆川
そうですよね。
それは、ぼくがずっと描いていたいのと、
おんなじきもちなんだと思います。

(つづきます)

2020-01-27-MON

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  • 東京都現代美術館での展覧会
    「ミナ ペルホネン/皆川明   つづく」は、
    2月16日(日)まで開催中!

    ミナ ペルホネンと皆川明さんの創作に迫る
    大規模な展覧会が開催中です。
    生地や衣服、インテリア、
    食器などのプロダクトはもちろん、
    デザインの原画、映像、印刷物や皆川さんの挿画など、
    創作の背景を浮き彫りにする作品や資料も
    たくさん展示されています。
    このチャンスをぜひお見逃しなく。
    展覧会の特設サイトはこちらからどうぞ。


    ミナ ペルホネン/皆川明 つづく
    会期|2019年11月16日(土)〜2020年2月16日(日)
    会場|東京都現代美術館 企画展示室3F
    時間|10:00〜18:00※展示室入場は閉館の30分前まで
    休館日|月曜日