マイク1本でラップするアフロさんと
アコースティックギターを弾くUKさんからなる
二人組の音楽バンド「MOROHA」。
糸井重里はあるイベントに参加した際、
MOROHAのパフォーマンスを観て、
そのことばと音楽に魅了されたといいます。
正反対の個性、対極にある価値観、
プラスとマイナス、あっち側とこっち側‥‥。
相反するものを分けようとせず、
混じり合ったそのままを受け入れる。
軽やかに飛び交う3人の会話からは、
そんなテーマが浮かび上がってきました。
はじめてMOROHAを知るという方は、
トーク前にほぼ日オフィスでおこなわれた
彼らのミニライブの映像から、どうぞ!

>MOROHAのプロフィール

MOROHA プロフィール画像 アフロ(左)・UK(右)

MOROHA(もろは)

2008年に結成された
MCのアフロとGtのUKからなる2人組。
結成 当初は、渋谷Familyや池袋Bedなど、
HIPHOPクラブイベントをメインにLIVEを行うが、
生音でビートのない編成ゆえ出演者や
オーディエンスから冷ややかな視線を浴びていた。
こうした現場を通して屈強な精神力を養う。
言葉から汗が滲み出る程に熱量を持ったラップ、
そしてギター1本だからこそ際立つ
UKの繊細かつ獰猛なギターフレーズ。
個々の持ち味を最大限に生かす為、
このMC×Gtという最小編成にこだわる。
抽象的な表現を一切使わず、
思いの丈を言い切るそのスタイルとリリックは、
賛否両論を巻き起こしている。
鬼気迫るLIVEはあなたにとって毒か薬か。
雪国信州信濃から冷えた拳骨振り回す。

「MOROHA」公式サイト

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4 宮沢賢治とデクノボー

糸井
「18歳の成人式」でのライブを観たけど、
アフロ君はあの場で思ったことを、
そのまましゃべってましたよね。
アフロ
あの日は特別そんな日だったんです。
たぶん、あの日のMCでは、
「主催の三浦君がみんなのために
やってるように見えるかもしんないけど、
彼は自分のためにやってるんだよ」
っていう話をしたと思うんです。
糸井
そうそう。
アフロ
俺はそれが素晴らしいなと。
誰かのためにやるんじゃなくて、
自分のためにやったことが
みんなのためになっていくみたいな。
おまえらのためじゃねえんだぞ、って。
糸井
それを18歳の子が聞くんですよね。
アフロ
思えば自分が18歳のときに、
「君たちのためだよ」とか言われたら、
「うわっ、キモッ!」てなってたはずで。
糸井
そうですね。
アフロ
俺はそういう18歳だったので、
みんなにはそう受けとってほしくないなって。
俺たちももがいてる側で、
君たちと同じように志を抱いていて、
どうにかしようとしている過程の中で
いまこれをやってるんだよって。
なんとなくそれが一番言いたくて。
糸井
うん、うん。
アフロ
俺が18歳のときって、
ステージ上でしゃべってる奴のことなんか、
腕組みしてずっと睨んでましたからね。
「なんで俺がこんなとこに
いなきゃいけないわけ?」みたいな。

アフロ
だからあの日、
会場に800人ぐらいいましたけど、
そういうやつの腕組みを
ほどくところからはじめようと思って、
俺がここに立ってる理由を
丁寧に丁寧に説明していたんですけど、
でも、あそこにいた子たちって‥‥。
糸井
そんな子、いないんだよ(笑)。
アフロ
そう、全然いなかった!
一同
(笑)
アフロ
キラキラしてる子たちばっかりで、
俺みたいにひねくれたやつなんか、
ひとりもいなかった。
みんな最初っから腕ほどいてるのに、
俺がひたすら腕を撫でてたみたいな。
けっこう無駄なMCしちゃったなと(笑)。
糸井
きょうはまた違うよね。
ここ、みんないいじゃん。
アフロ
はい、聞く気満々で。
糸井
そういうときって、
逆に宙に浮いちゃわない?
アフロ
あー、でもそういうときは
甘えようってスイッチが増えました。
最近できましたね、そのスイッチが。
糸井
へぇーー。
アフロ
昔は全員が肯定してくれる環境って、
逆に「なにヘラヘラしてんだよ」
みたいなスタンスでやってましたから。
そうだったよな?
UK
うん、俺もそうだった。

糸井
そこは意見が合うんだね(笑)。
一同
(笑)
アフロ
ちなみに糸井さんが18歳のときは、
どういう子でした? 
腕組するほうでした?
糸井
自分もそうだったと思う。
ただ、アフロ君の話を聞いてると、
やっぱり両方を持ってるじゃないですか。
素直に声を出してる人と、
腕組みして突っぱってる人と。
ぼくもそうで、両方だったと思うな。
でも、素直でいる自分のほうが、
自分も気持ちいいんだけどね。
アフロ
ああ、それ、わかります。
意地悪をする脳と優しくする脳って、
全然違うようで、じつは近いじゃないですか。
人をよく見るというところで。
糸井
そうですね、見てますよね。
アフロ
俺が歌詞を書くときも、
あきらかに意地悪な目線で見てないと
気づけないこともあって、
それがけっこう核心を突いてたりするから、
そこを軸に優しさに寄っていくことで
曲になったりするんです。
糸井
さっきジョン・レノンの名前を出したけど、
ジョンはめちゃくちゃ意地悪な子だったらしいです。
アフロ
ジョンが?
糸井
からかっちゃいけないような人をからかったり。
アフロ
最低じゃないですか。
糸井
そう、最低なんです。
そういう当時の同級生の証言とか、
いまになって出てきてますよ。
ジョンには狂気を感じるような皮肉さがあって、
近づいちゃいけないみたいな。
そういうところがあったらしいんです。
アフロ
これ、だからむずいっすよ。
その話だけ聞いて尖ちゃう子がいるかもしれないけど、
尖りと性格が悪いは、また違うっていうね。
糸井
実際そのふたつは違うんだけど、
根っこのところでは
「見えちゃうからしょうがないじゃないか」
ってわかるのが自分の悲しさで。
人をからかうのも、攻撃するのも、それから犯罪も、
ほんとうは全部同じ水の中にあるんですよ。
それを薄めたようなものが自分の中にもあるから、
やっぱりそんなふうに思うわけで。
アフロ
あぁー。
糸井
だから、意地悪なほうにいかないためには、
そっち側はもう気持ちよくないよって、
自分で発見していくしかないんじゃないかな。
逆に素直で気持ちのいい人を見ると、
やっぱりいいなあって憧れるじゃないですか。
アフロ
憧れますね、俺は。
糸井
ぼくも憧れるんです。
かっこいいと思いますよね。
アフロ
思います。
糸井
宮沢賢治の『雨ニモマケズ』の中で
「デクノボートヨバレ」って書いてるけど、
あれは「何も考えてない人」「役立たずの人」を
表現するときの呼ばれ方ですよね。
宮沢賢治はたぶんその逆のものを
いっぱい持っていたからこそ、
自分の憧れをあそこに書いたんだと思う。
その逆の自分をたっぷり知ってたから。
アフロ
わかります、それ。
やっぱり俺の中にも意地悪な自分がいるんで。
糸井
きっと、みんないますよね。
アフロ
仕事相手に軽く見られて、
腹が立ってウワァーッて歌詞を書くけど、
そのままだと全然曲にはならない。
どうやってもならない。
なんでだろうって考えたら、
その歌詞を読んで俺のことを
好きになるやつっていなそうだなって。
糸井
そうだね。
アフロ
だけど、それと同じ角度の歌詞を
自分に言い聞かせる方向で書き直すと、
意味合ってるかわかんないですけど、
一気にポップソングになるんです。
相手への怒りを、自分自身に向けた
叱咤激励に変えるだけで。

糸井
なるほど。
アフロ
チャンネルを一個変えるだけで、
俺もいい人に見えるし、
歌詞の内容もより容赦がなくなる。
糸井
そうだね。
アフロ
だから宮沢賢治もそうだったのかなって、
いまちょっと妄想してます。
ほんとは誰かに言いたかった。
みんなにもそうなれよと。
自分がこんなにできるって言ってるやつに対して、
そんなに偉ぶるんじゃないよと。
デクノボーって呼ばれるぐらい、
みんなも謙虚でいろよって言いたかったのを、
賢治は自分に向けて書くことで、
あれだけ広まる詩ができたのかなって。
糸井
やっぱりそのまんまを出しても、
作品にはならないんですよね。
アフロ
そうですね、はい。
糸井
作るときって出ちゃうものが出るんだけど、
ただ出すだけではやっぱりなんにもなんない。
作品にするって喜びを知るか、
ただ言いたいことを言うかの違いですよね。
そこはすごい差があると思うな。

(つづきます)

2023-10-08-SUN

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  • ©2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE

    MOROHAのアフロさんが初主演を務める
    映画『さよなら ほやマン』が、
    11月3日(金・祝)より新宿ピカデリー他、
    全国で公開されます!

    舞台となるのは、宮城県石巻のとある離島。
    漁師をめざす兄アキラと、
    船にのることができない弟シゲル。
    その兄弟の前に現れたのは、
    東京からやってきたワケありなマンガ家。
    その3人がひょんなことから
    共同生活をはじめるという青春物語です。

    アフロさん演じるアキラは、
    ちょっとおバカなところがありつつも、
    不器用で、まっすぐで、
    どんなときでも弟を守ろうとする
    正義感あふれるやさしいお兄ちゃん。
    ことばにできない複雑な感情を
    全身で表現するアフロさんの演技に、
    ぜひ最後の最後まで注目してみてください。

    全国の劇場劇場一覧は、
    映画の公式サイトからご覧いただけます。