ほぼ日刊イトイ新聞の2022年は、
糸井重里と50年来の親友、
コピーライターの仲畑貴志さんとの
対談企画からはじまります。
〝水と油〟を自称するほど正反対な性格で、
似ていないからこそ認め合う、仲のいいふたり。
久しぶりに会って、愉快な話を繰り広げました。
毎日新聞の連載「仲畑流万能川柳」で
30年にわたって選者を務める仲畑さん。
川柳には詳しくないんだ、と語りながらも
年間15万通の中から句を選び、
連載を続けているには理由があります。

毎日新聞社主催のオンラインイベント
「仲畑貴志×糸井重里『誰だってつぶやきたい』
~万能川柳30周年記念トーク~」での対談を、
ほぼ日編集バージョンでお届けします。

>仲畑 貴志さんプロフィール

仲畑 貴志(なかはたたかし)

コピーライター。
1947年生まれ。京都府出身。
数多くの広告キャンペーンを手がけ、
カンヌ国際広告映画祭金賞、
ニューヨークADC国際部門賞などの
広告賞を300以上受賞。
元東京コピーライターズクラブ会長。
お茶目とチャーミングをモットーに、
毎日新聞朝刊の人気連載「仲畑流万能川柳」の
選者を1991年から務めている。
糸井重里とは20代の頃からの親友。

仲畑流万能川柳(毎日新聞)
『日本のつぶやき 万能川柳秀句一〇〇〇』
仲畑くんと糸井くん
仲畑貴志さんに訊く、土屋耕一さんの「顔」

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7 考えた先にことばはついてくる

林アナ
ご参加いただいているみなさんから
たくさんのご質問もいただいております。
まずは、30代の女性から。
「締め切りまでにことばが浮かばないことはありますか」
ということで、まず仲畑さんからお願いします。
仲畑
コピーにおいてですかね。
それはね、もう長いことやっていると
技術を持っているんでね、
ヒット打つぐらいのものは書けるんです。
だから大丈夫です、書けます。
でも、ホームランは打てないんですよ。
ホームランとか長打は簡単に打てないけど、
ヒットにするのはできます。
それで飯を食ってるから、できるんですよね。
林アナ
生活している中でふと出てくるものですか。
仲畑
いや、やっぱり考えて作るんですけどね。
川柳といっしょで、その先を考えていますよ。
さっき糸井くんが言ってたことで、
「あんな鉄の塊が飛ぶなんて信用しねえ!」
とか言って満足しちゃう人もいるわけ。
でも、そういうお決まりの表現で
「うん、そうだね」って終わらせないで、
その先にちゃんと思考を巡らせるんだよね。
その果てに出てきたものを定着させるんです。
疑問、異論をちゃんと持てるかどうかだと思います。
林アナ
時間をかけたからいい、
というわけでもないですか?
仲畑
いや、時間をかけた方がやっぱりいいって。
糸井
もし時間があるんだったら、
できたものを壁に貼っておいたらいいですよ。
そうしたら「大したことないな」とわかったり、
「貼っておいたけど、まだいいわ」ってなったり。
それは頭の中に記憶するのでもいいんだけど。
仲畑
コピーでも書いて貼ることはあるのよ。
ひらがな、カタカナ、漢字のバランスと、語尾ですね。
語尾ってけっこう重要で、
「~です」「~なのよ」「~のようだ」
「~だ」「~なのだ」「~かしら」、
たっくさん語尾がありますよね。
語尾はことばのスピードと質量を決めますから。
書いて見るっていうのは、ものすごくいいです。
川柳の場合だったら、口に出して何回も言うの。
五・七・五でなきゃいけないって言う人は多いけど、
何回も何回も言っているうちに“中八”でもよければ、
ぼくは堂々と自慢していいと思うけど。

糸井
考えている分量を増やしたほうが、
強度のあることばになるんですよね。
たとえばさ、なんだろう、
「君のケツには穴がある」と言うとしますよ。
「君のケツ」でいいのか「あなたのケツ」と言うのか、
「ユーのケツ」「おまえさんの」と言うのか(笑)。
それはやっぱり時間を置いて見ると、
「君」より「あなた」がよかったなとか、
いくらでも出てくるんですよね。
仲畑
本当に、ものすごい差があるんだよね。
糸井
振り向く人の種類が変わるんです。
「そこの奈良の方」と呼んで振りむいたら、
その人は奈良の人ですよね。
やっぱり、呼びかけかたで
相手との関係が全然違っちゃうんですよ。
考えた方がいいよっていうことですね。
仲畑
考えた方が得だからね。
林アナ
糸井さんは締め切りまでに
ことばが浮かばないことはありますか。
糸井
ことばのことは考えないですね。
時間をかけて考えるのは、コンセプトです。
何を書きたいんだっていうところですね。
アイデアが陳腐でも何とかできるのか、
それじゃあ嫌なのか。
もう書き直そう、となることはありますけど、
ことばそのものは考えが連れてくるものだから。
だから、そこで悩むよりは、
書いちゃった方がいいんじゃないでしょうかね。
林アナ
60代の男性からも近い質問がきております。
「ことばやコピーは考えてひねり出すのか、
それともひらめきですか」。
仲畑
両方ですよ、行ったり来たり。
ひらめきの部分もありますよ。
だけど、考える分量のほうが多いんじゃないかな。
考えが連れてくるものが、ひらめきだから。
考えないでひらめきだけって人はいねえだろうな。
糸井
たとえば友達が遊びに来るときにさ、
お酒を出すのか、料理を出すのか、お菓子を出すのか、
それだって考えなきゃできないじゃないですか。
なおかつ、あるものしか出せないわけです。
誰々さんが家に来るときに何を出すんだ、
ということはすでに考えていることで、
その中でどのお酒を出すかというのが
ひらめきになるかもしれません。
仲畑
そうなんだよね。

林アナ
ありがとうございます。
続いては先ほども伺いましたが、本について。
「最近読んだ本でお薦めは?」あるいは
「読みかけの本は?」ということです。
仲畑
おれは今、特殊な本を読んでるから。
糸井
教えて(笑)。
仲畑
アメリカ文学の中の一番ダーティな内容です。
もう、むっちゃくちゃでさ、
ここで言ったら怒られるようなことばっかり
連発している作家の本を読んでるんです。
糸井
日本語になっている本なの?
仲畑
うん、翻訳してあるんだけど超特殊。
唾棄(だき)すべき文章だって
言われているような作品なんだよね。
まったくもうグチャグチャなの。
生活が成り立ってないような暮らしを、
そのまま自然主義文学みたいに書いてるんだけど。
糸井
かなわんなぁと思うよね、普通なら。
仲畑
めちゃくちゃなんだけど、
人の頭って、こう考えられるんだって驚いた。
表現の領域としてそこまで行けて、
そこを探り当てて書く、この人ってすごいなって。
糸井
それもやっぱり世界を増やしてるわけだよ。
仲畑くんの持っている世界を、
その作家がちょっと増やしているんですよね。
仲畑
うん、そうね。
おそらく、翻訳で読んでいるからまだ読めたけど、
原文で読んだらもっとひどいと思うんだ。
「文体なんか知ったこっちゃねえ」
みたいな書き方でめっちゃめちゃなんだけど、
6冊ぐらい出してるんだよね。

糸井
ここで終わると「その本は何ですか」って質問が
必ず来るんで、言っておいた方がいいよ。
仲畑
いや、覚えてないの。
作家の名前とか、もう覚えなくなっちゃったね。
糸井
よろしゅうござんすよ。
仲畑
映画もそうね。
WOWOWとかでとりあえず録っておいて、
ダーッと全部見ちゃうの。
糸井
〈暇なのか?〉
仲畑
そう。
糸井
〈言っている方もっと暇〉(笑)。
仲畑
ぼーっと酒飲みながら早回しで見るんです。
これはうんこだと思ったらバーッと早回しで。
映画っておもしろくてさ、
ファーストカットである程度のクオリティあったら、
やっぱりいい映画なんだよね。
糸井
ああ。
仲畑
そういうこともまたわかるんだよね。
あとは、台詞だよね。
俳優が仕事を選ぶときには、
台本を読まなきゃいけないわけだから。
台詞を見たら、B級映画かどうかすぐわかるよね。
ブラッド・ピットとかブルース・ウィリスとか、
B級映画でも平気で出る一流俳優がいるんだよ。
糸井
いるいる。
仲畑
そういう人が出てるから見たけど、
台詞がダメだと完全にB級だもん。
台詞をいくつか見れば、もうわかります。
早回しでバーッと見て、採点するの。
林アナ
えっ、採点されるんですね(笑)。
仲畑
0点から100点で「-3点」なんてあるの。
カチンと来て、そのあと「アホ」って書いたりする。
そういう批評をおれはやってるんだよね。
糸井
わりと丁寧なことしてるんだね(笑)。
仲畑
どこにも出していないんだけどね。
原稿用紙に1行、2行で採点を書くんだけど、
1枚で10本ぐらいの映画になるかな。
個人のたのしみとして書いてます。
糸井
へぇー、それでも書くんだね。
仲畑
なんかほら、見終わったら
何かやっておかないとって気になるんだよね。
糸井
今度、ほぼ日手帳を1冊送りますから。
仲畑
ありがとう、使っております(笑)。

林アナ
糸井さん、本についてはどうですか。
糸井
自分のたのしみとして読む本が
なくなってきちゃったんで、損ですね。
仲畑くんみたいな読み方をもっとしたいんだけど、
仕事に活かせそうな欲のある読書が多くなっちゃった。
これはよさそうだな、という本はやっぱり、
知りたい情報を読んでいることが多いです。
つい最近は『おカネの教室』という本ですね。
金融の専門家の作者が、お父さんとして
自分の娘さんに読ませたくて書いた小説です。
何年もかけて書いたらしくて、
その間に娘も成長しているから
どんな読者を想定して書いたんだろうっていうのが
わからないような文体なんです。
お嬢さんにだからこそ言える、
普遍化できない深く掘る部分と世界全体のこととが、
まばらにあるのがおもしろいですね。
で、仲畑くんは思い出せないんでしょ?
仲畑
ずっと考えていたけど、思い出さないなぁ。
むちゃくちゃ読んで、鼻かんで捨てちゃうから。

(つづきます)

2022-01-07-FRI

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  • 仲畑貴志さんと糸井重里のトークの
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    この記事でふたりが話している内容は、
    毎日新聞社が主催したオンラインイベント
    「『誰だってつぶやきたい』~万能川柳30周年記念トーク~」
    をもとに、ほぼ日が編集したものです。
    仲畑さんと糸井のやりとりを
    動画でもたのしんでいただけるように、
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