渋谷PARCO「ほぼ日曜日」で、
不定期に行う対談の最初のゲストに、
糸井重里がお呼びしたのは、小泉今日子さんでした。
この対談の会の通しテーマは
「わたしの、中の人。」です。
わたしたちがテレビの画面や舞台でふれる
トップスターの小泉今日子さんの中に、
もうひとりの本当の小泉さんがいます。
知らなかったその人が、赤い椅子に腰かけて、
お話ししてくれました。
小泉さんのまわりにいつもいた、
光る星のような、遠くなく近くない、
あたたかくクールな人びとがたくさん登場します。
写真 小川拓洋
第6回
「人並み」をやるために使う時間。
- 小泉
- 歌や芝居の仕事をはじめると、
自分の中にいろんな興味が生まれちゃいます。
けれども「この仕事やりたいな」とか
「この人と何かやりたいな」と、
会社に提案してもきっとダメって言われる。
だからそれは言わないで持っといて、
やりたくない仕事を振られたときに
「分かった。それやるから、こっちもやるね」
みたいな駆け引きをしてました(笑)。
- 糸井
- すごいな。若いときから?
- 小泉
- そう。
「わたしも我慢するんだから、1コ我慢して」
- 糸井
- じゃあ、次の新曲が決まって
「これ歌ってね」「フリがこうです」
なんていうのも、わりとどうでもいい感じ?
- 小泉
- 歌は「これヤだなぁ」というものも
あったりしたんだけど、
でも、だいたいその歌をうたうのって
3か月ぐらいでしょ?
- 会場
- (笑)
- 糸井
- なるほど。一曲がね(笑)。
- 小泉
- 次があるからいっか、みたいにも思ってた。
でも、そのときすごくイヤでも、
「イヤだから自分が好きな服着てやろう」
なんていう気合いも入ってたりして。
いまって、YouTubeとかで、
昔の歌番組を見れたりするけど、
「ぜんぜん悪くないじゃん」って
思ったりします。
- 糸井
- 17歳の子がそこまで考えるのに、
インプットはどこからやってきてたんだろうね。
その頃はひっきりなしに仕事してたから、
仕事の中にしかヒントはなかったでしょう?
- 小泉
- 本を読んだりもしてましたけど‥‥テレビ。
テレビ観るの、いまだにずっと、すごい好き。
これはもう、癖なんだろうけど。
- 糸井
- そうだ、あんがいテレビが好きなんですよね。
- 小泉
- 番組ももちろんだけど、コマーシャルとか、
いろいろ観てました。
テレビ番組やコマーシャルをつくってる人って
最先端のクリエイターだったから、
「あの人たちが、こういうものをいま
カッコいいって思ってるんだな」
なんて感じてたんでしょうね。
- 糸井
- うん。
- 小泉
- あとは、雑誌もよく見てた。
- 糸井
- どんなにひっきりなしに
仕事してるように見えても、
あいだあいだに、
「中の人」である時間があったんだね。
- 小泉
- ありました。
移動も多かったから、新幹線の中とか、
マネージャーさんが運転する車の後部座席で
雑誌や本を読んだりしてました。
スマホとかは全くなかったからね。
- 糸井
- スマホはない、そうですね。
- 小泉
- インプットって、そういうことだった‥‥かなぁ。
- 糸井
- ぼくは、そんなにくわしくはないんだけど、
アイドルの人たちの自分の時間のなさは、
「聞きしにまさるものだな」と思ってた。
- 小泉
- そう。ピンクレディーとか。
- 糸井
- ピンクレディー、倒れそうでしたね。
- 小泉
- 「睡眠時間2時間」みたいなことって、
アイドルの人たちはよく言われてたけど、
わたしはそういうことはあんまりなかったです。
- 糸井
- それは、特別な人だったのかしら?
- 小泉
- 会社の方針みたいなものもあったと思う。
方針っていうのは──別の角度の話でいうと、
「この人には学校の教育はもう必要ないだろう」
と会社が判断して、
高校を勝手にやめさせられてた、
ということもあったんですよ。
- 糸井
- えっ。
- 小泉
- 当時は地元の高校に在籍してました。
それで、わたしの中ではいつか、
堀越学園とか明大中野とか、
東京の学校に編入するのかな、と思ってました。
- 糸井
- そういう選択肢はもちろんありますよね。
- 小泉
- 東京に出てきちゃって、
けっこう時間経ったなと思って、父親に
「あのさ、わたし、学校ってどうなってるの?」
って訊いたら、
「え? 退学届出したよ」
「退学届?」
「社長さんがそれでいいって。
おまえには学校の勉強が必要ないから、
もう届を出しましょうということになって」
「あぁー‥‥、ひと言いってくれてもね」
- 糸井
- どひゃあ。
- 小泉
- 学校に行かなくてもいいんだ。
じゃあ、その時間をどうしようかな、と思った。
そのときに、
「学校に行かなかったことが、いつかこの先、
コンプレックスになっちゃいけねえな」
と思ったんです。
- 糸井
- 自分で思ったの?
- 小泉
- 思った。
そこから、勉強が好きになったんです。
学校が嫌いだったくせにね(笑)。
- 糸井
- 退学してからね。
- 小泉
- 本をたくさん読んだり、
ドリルを買って、
暇なときにゲームみたいな感覚で
やるようになりました。
- 糸井
- それ、退学しちゃったおかげで
分かったことだね。
- 小泉
- そうなんですよ。
学校に行ってたら、たぶん
ロクなことしてないと思うんですよね。
- 糸井
- いや‥‥あの、そうだろうね(笑)。
- 小泉
- わたしの場合ね。
ふつうの人はちゃんとしてます。
- 糸井
- つまり、本人やまわりが、
学校をやめないようにしたり、
やめさせないようにしてることの中には、
「いちおう人並みの」と言葉が
混じるんじゃないでしょうか。
- 小泉
- うん、うん。そうね。
- 糸井
- その「人並み」をやるために使ってる時間って、
なかなかに面倒くさいもので。
- 小泉
- うん、本当にそうですね。
- 糸井
- 何か別でやりたいことがあるんなら、
そっちやったほうがいいかもね、
という判断はあるかもしれない。
(明日につづきます)
2020-06-11-THU