2022年秋の前橋ブックフェスでおこなわれた、
夢眠ねむさん(「夢眠書店」店主)と
糸井重里の、本にまつわるトークです。
ねむさんは子どもの頃からどんなことがしたくて、
メイド時代を経てアイドルになり、
本屋さんの仕事にたどりついたのか。
糸井はどう前橋ブックフェスを思いついたか。
本のことをふたりがどう考えているか、などなど、
「へぇー!」がたくさんあるトークになりました。
ふたりが共通して感じているのは、
「本好きでも、本好きでなくてもOK」ということ。
毎日更新の、全8回。
どうぞのんびりおたのしみください。
夢眠ねむ(ゆめみ・ねむ)
三重県に生まれる。
小さい頃からの夢である広告デザイナーを目指し、
多摩美術大学に進学したが美術家に転向。
2009年、アイドルグループ、でんぱ組.incに加入。
2019年1月にでんぱ組.incを卒業。
2019年3月に芸能界を引退した後は、
東京・下北沢にて、
これからの本好きを育てる書店「夢眠書店」を開業。
2021年には出版レーベル「夢眠舎」をたちあげる。
現在はキャラクターデザイナー、
プロデューサーとしても活躍。
Twitter @yumeminemu
Instagram @yumemibooks
- 糸井
- だから、ねむさんの話を聞いてても
「同じだな」と思うし、よくわかるんだけど、
ぼくが何かをやるときって、
「本気でこれがやりたくてしょうがないんだよ!」
みたいに自分で拳を振り上げて
やっていく感じでは、ないんですよ。 - でも、いいことを思いついたら、
「やれたらいいのにな、誰かやらないかな」
とは思ってる。 - きっとねむさんの本屋の話も、はじまりは
「誰かがそういう素敵な本屋を
作ってくれたら行くのに」ぐらいでしょ?
- 夢眠
- そう。でも、やっちゃいますよね。
- 糸井
- 見たいんですよ。
- 夢眠
- だけど、やる人がねぇ‥‥。
「自分がやったほうが早い」みたいなのも
ありますね。
- 糸井
- うん、たぶんね、
なにをやってもめんどくさいんですよ。
だってさ、宴会の幹事をやるだけでも
めんどくさいじゃないですか。
- 夢眠
- めんどくさい、めんどくさい。
- 糸井
- でも、幹事が平気だって人がいるわけです。
「打ち上げやろうぜ」みたいなときに、
お店探したりがすごく得意で。 - あれと同じで、物事って、
得意じゃない人がやると
めちゃくちゃめんどくさいんですよ(笑)。
- 夢眠
- 食べたくない料理が来ちゃったり。
- 糸井
- そうそう。
だからねむさんが本屋になったのも、
結局のところ、
「動機があるほかの人がいなかったから」
もある?
- 夢眠
- はっ‥‥あるかもしれないですねぇ。
- だってそんなこと、本当に
自分がやらなくてもいいんですよ。
本屋さんが減ってるなんて、
「知らんがな」って言ったら、
「知らんがな」なんですけど。 - でもその「本屋さんがなくなる」というのが、
自分の中ですごい大事件だったんですよね。
だから
「たった1軒でも増えたらいいな」
と思って開業したのはありますね。
- 糸井
- そのジャンプだよね。
- 夢眠
- でも、うちは
「本好きのための本屋」じゃないんですよ。
本好きの人たちはもう本が好きだし、
わたしと一緒で、
ほっといても本を買うと思う。 - だから、これから買わなくなっちゃうかも
しれない子どもに、
「本屋はいいぞ!」を、こう‥‥(笑)。
- 糸井
- いま、ぼくの心に激しく響きました。
- 夢眠
- ほんとですか。
- 糸井
- それはどういうことかって言うと、
前橋ブックフェスも同じ考えなんです。 - つまり、ぼくは今回「本好き集まれ」って、
一回も言ってないんです。
- 夢眠
- えっ! めちゃわかるー。
- 糸井
- そういう人はすでに
集まる場所があるんです。
- 夢眠
- ありますよね。
もう、そこらじゅうに。
たぶん神保町にぎっしりいまも。
- 糸井
- そうなんです。
- ぼくは本嫌いじゃないし、
自分でいっぱい買ってるし、読んでるんです。
だけど自分を「本好きだ」って
言いたくない気持ちがあるんですね。
- 夢眠
- わかる! なんでしょうね、これ。
- 糸井
- やっぱりね、「本好き」ってしちゃうと
ちょっと価値の序列がついちゃうんですよ。
いっぱい読んでるほうが
ちょっと偉いような感じになるんですよ。
映画もそうなんですけど。
- 夢眠
- 「年間◯本見てます」みたいな。
- 糸井
- うん。そういう感じになっちゃうと、
「あれ観た?」って言われたときに、
「観てない」って言いづらいじゃない。
ぼくはそういう場所が苦手なんですよ。 - で、逆に、ほかに何も見てない人が、
1本だけ見た映画のことを
すごく熱心に語ってるとかは大好きなんです。
- 夢眠
- わたしも大好きです。
「好きなんだねー」って思うし。 - だから、わたしは自分が本好きではあるが、
本屋を開くにあたって、
本棚が5棚ぐらいしかないちっちゃいお店で
「ここにどんなこだわりの本を
入れるんでしょうね」
みたいなのは嫌だったんです。 - なんかその、
「ほうほう、ここにこれが差さってる。
よくおわかりで」
みたいな感じなのは嫌で。
もっと、どこに行っても買えるような
本が並んでるのがいいなと。
- 糸井
- はい、はい。
もうあなたは、わたしですね。
- 夢眠
- あはは(笑)。
ええー、わたしですか!
え、わたし、糸井さん?
- 会場
- (笑)
- 糸井
- これはね、
このへんのところだけ一致してれば、
ぼくは友達になれると思う。
- 夢眠
- うれしい。
- 糸井
- つまり、なんだろう。
序列のつくものは、ぜんぶ嫌なの。
- 夢眠
- そうなんです。
- 糸井
- グルメにしたって、
「あれはおいしい」「これはおいしい」
って話は好きだけど、
「俺はおいしいものは何でも知ってるぜ」
みたいなところにいくのは嫌だし。 - おいしいものが好きでありつつ、
同時に今日もコンビニの魚肉ソーセージを
食べる人でありたいし。
- 夢眠
- 食べたい。
- 糸井
- ぼくは今朝
「あご出汁風味のホットワンタン」
というのを食べたんです。
- 夢眠
- おいしそう。
- 糸井
- ‥‥あ、いや、別に、
びっくりするほどおいしいとか、
そういうことでもないんですけど。
- 会場
- (笑)
- 糸井
- 今回、何日も泊まってるから、
ホテルの朝食に飽きたら汁ものが
欲しくなるかなと思って、
いざというときのために買っといたんだけど、
おいしいんですよ。
- 夢眠
- そのときの自分にマッチしてますよね。
- 糸井
- そう。本もそれとそっくりで、
他の人に「ええ、これ?」とか言われても、
そんなの知ったことじゃないんですよ。
- 夢眠
- そうそう、わかります。
- 糸井
- だからこの前橋ブックフェス、
ぼくは大成功だと思ってるんだけど‥‥。
- 夢眠
- むちゃくちゃ成功だと思います。
- 糸井
- 本の通みたいな人が気取って会話しているのを、
ぜんぜん見てないんですよ。
- 夢眠
- たしかにそうかも。
わたし、ちょっと早めに着いて、
うろちょろさせていただいたんですけど、
みんな、のんびりいろんな本を眺めて
「わぁ、なつかしいー」とかそんな感じでした。
- 糸井
- そうそう、その感じがなんだか
すごくいいんですよね。
(つづきます)
2023-01-16-MON