ほぼ日あっちこっち隊が、
このところ通いはじめている場所があります。
それが北海道の北東部にある
西興部(にしおこっぺ)村。
オホーツク紋別空港から車で約1時間、
人口1000人弱のちいさな村。
たっぷりと深い山あいに、
土地のおもしろさも厳しさもすべて受け止めて、
ゆかいに暮らす人たちがいます。
訪れたきっかけは、山登りをしているなかで、
エゾシカの食害問題について、
もっと知りたいと思ったこと。
実際に訪れてみると、シカの話にとどまらず、
都会とは全く異なる人々の暮らし方に、
心の奥が揺さぶられる感覚がありました。
このおもしろさを、いろんな人と共有できたら。
あっちこっち隊・西興部村編、スタートです。
写真|前田景
ヘッダーのイラスト|ワタナベケンイチ
- 最初の訪問から2か月後の、2024年6月。
ほぼ日あっちこっち隊は、
ふたたび北海道西興部村を訪れました。 - 西興部村の魅力をいろんな方に伝えるには
なにより写真が欠かせないだろうと思い、
このときは北海道在住のフォトグラファー、
前田景さんにもご一緒いただきました。
あっちこっち隊のメンバーとしては、
ほぼ日のデザイナー、まりさも一緒です。 - また、今回はあらたに、
「GA.KOPPER(ガコッパー)」という
おもしろそうなゲストハウスの話を聞いて、
そちらに宿泊してみました。今回の旅の拠点です。 - と、これが大当たり。
- 「がっこう」と「おこっぺ」が
合わさった名前のこちらは、
廃校になった中学校を活用したゲストハウス。
オーナーの浅野和(わたる)さん、
千世さん夫婦が手作業でひとつずつ
建物の修理を重ねてきていることで、
雰囲気のある、ほかにはない旅人の宿が
できあがっています。 - 木造の建物には、かつて校舎だったことが
よくわかる長い廊下があって、いるだけでもたのしい。
隣接するかつての教室が、いまはそれぞれ、
食堂になったり、客室になったりしています。
- ひとつずつ手で修理されてきたからこその
面白い工夫があちこちにあって、
クライミングウォールつきの
二段ベッドがあるドミトリーがあったり、
木桶を寝床にできる個室(!)があったり。 - 椅子やテーブルも、手作りのものがずいぶん多く、
個性のあるそれらを、
ひとつずつ見ているだけでもたのしくなりました。
- 裏手の広い庭には、和さんが
長年つくりたかったという竪穴式住居が、
独特な雰囲気でたたずんでいます。
この庭で、お祭りのようなイベントを
開催することもあるとか。
焚き火もできて、夜は星が本当にきれいに見えます。
東京では出会うことのない非日常が
あちこちにあふれていて、わくわくします。
- しかもこちらのGA.KOPPER、
千世さんが地元の食材を
ふんだんに使って作ってくれる
ごはんがとてもおいしいのです。
朝食には近くの牧場の
おいしいチーズが添えられていたり、
ごはんとお味噌汁のほっとする献立だったり、
気分がちょっと上がります。
- 夜の食堂ではお酒も楽しめて、
若い頃に杜氏をされていたという和さんが
厳選した、とっておきの日本酒が並びます。
ゲストハウスなので、同じタイミングで
宿泊されていた方や、村の方と
語り合えることもあって、
そんなひとときも旅の醍醐味です。 - 村に熊が出没する可能性もあるそうなので、
特に早朝や夜、不用意な散歩などはできませんが、
たっぷりの自然のなかで過ごす時間は
朝も、昼も、夜も、とにかくずっと気持ちがいい。
この場所を知って、またもうひとつ、
西興部村を訪れる理由ができたような感じがありました。 - さて、このときの滞在では、
前回のエコツアーでもお世話になった
ハンターの伊吾田順平さんが
エゾシカ肉をお持ちくださって、
GA.KOPPERの一室で、夕方から
ディナーパーティーをおこないました。
- ハンターの順平さんに妻の良子さん、
GA.KOPPERの和さんと千世さんのほか、
順平さんの師匠であり、
猟区管理協会の会長をつとめる中原さんや、
地域おこし協力隊として
西興部で暮らしている渡部志乃さんも来てくださいました。
ちょうどこの日たまたまバイクで
旅をしてきた方もお誘いして、みんなで乾杯。 - 西興部村猟区管理協会の会長である
中原慎一さんは、生まれも育ちも西興部。
エゾシカもクマも射止める猟の腕前は、
皆が「師匠」とあがめるほど。
かれこれ70年以上、西興部の外で暮らそうと
考えたことは一度もないのだそうです。 - 運送会社に勤めていたころから、
休みの日はきのこや山菜採りに忙しく、
一日で100kgの松茸を収穫したこともあると
聞いてびっくり。
「お金を持っているときは都会はおもしろいけれど、
ここで汗水たらして仕事しているといいこともある。
西興部にいたら、おもしろいことが
やまほどある」とニヤリ、
いい笑みを見せてくださいました。
- GA.KOPPERの和さん、千世さん夫婦からも、
おもしろいお話をたくさん聞けました。 - 和さんは20代のころ、
冬のあいだは能登の杜氏組合に所属し、
福井や滋賀などの蔵で酒造りをして資金を貯め、
夏になると世界各地をバイク旅で巡る生活を、
十年ほど続けていたそう。
そんななかで毎年のようにおとずれていた西興部村で
キャンプ場の管理人の仕事のお誘いを受け、
久しぶりに定住生活を送るようになったんだとか。
「はじめのうちは、
人のあたたかさに惹かれていましたが、
この村に腰を据える決め手になったのは、
水や空気、大きな自然。
なににもこびることなく生活できると
思えました」 - その数年後、民宿として活用されていた
木造の廃校を譲り受け、そこから修理を重ね
2016年にGA.KOPPERが誕生。
「もともとは次世代につなげる、なんて
発想はまったくなかったんです。
でも村に来て子どもたちと出会ったり、
自分に娘ができるなかで、
仲間とたのしみながら成長できる場所を
育てていきたいという思いが生まれてきました」 - 和さんもハンターで、
クマが出たときには仕留めるそう。
わたしたちが訪れた日は、ヒグマの肉を使った
料理も出してくださいました。
- それにしても、ハンターの順平さんが
作ってくれるエゾシカ料理が、
毎回本当にびっくりするほどおいしいのです。
料理のコツを聞いてみると、
「僕が獲ったシカ肉を手に入れること?」と笑います。 - 捕獲後、なるべく短時間で加工施設へと運び、
清潔な環境で適切に処理した
肉を使うことがまずは大切。
そのための条件が、西興部村では
すごく整っています。 - ディナーパーティでは
順平さんのエゾシカと
西興部の山の幸をたんまり使った
おいしい手料理をいただきました。
- このとき順平さんが作ってくださった
「ウドベーゼ」も忘れられないおいしさでした。
バジルソースのジェノベーゼのような方法で、
西興部村で育ったウドをたっぷり使って
ソースを作った、緑のパスタ。
この時期ならではの山の恵みです。
こんなふうに山や森で採ってきた食材をもとに
料理をするのも、普段からのこと。
シーズンによっては、川で釣りをして
食材にすることもあるそうです。
- GA.KOPPERの大きな窓から
すこしずつ闇に沈んでいく森を
眺めながら進む、おいしくて愉快な宴会。
食事が進むなかで、自然をまるごと
いただいているような感覚になり、
呼吸が深くなっていくようでした。
- いっぱい食べて、いっぱい飲んだ翌朝、
体の軽さを感じたときには、
自分の体が西興部村の一部へと
なじんできたような気がしました。 - このときの訪問では、西興部村の村長である
菊池博さんにもお会いできました。
「この村は、北海道で三番目に小さな村。
大型の観光バス一台分の宿泊を受け入れられる
キャパシティさえもありません。
でも、思いをもって飛び込んできてくれたひとは
精一杯応援します。
コンパクトだからこそ、一人ひとりの
希望に合わせて、制度や予算も考えられます。
だから、どんなひとでもまずは
来てもらえたらうれしい」と、菊池村長。
- そう、宿泊施設が整っているわけでもなく、
交通の便が良いわけでもない、
旅の目的地としては、まだまだそんなに
注目されているわけではない場所。 - でも、実際に訪れてみると、
ほかでは味わえない魅力やおもしろさが
たっぷりと詰まった土地。
西興部村でいろいろな方にお会いして、
あれこれ体験させてもらって、
ぐんぐん魅力を感じているあっちこっち隊。 - はい、みんなが来たくなるきっかけづくりを
やってみようと思います。
(つづきます)
2025-01-04-SAT