こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 先生、ご無沙汰しております!
- 阪本
- こちらこそ。もう、何年ぶりですか?
- ──
- 8年くらい、でしょうか。
- 前回、2012年にお会いしたときは
先生は、まだ日本で、
JAXAにおつとめだったと思います。
- 阪本
- そうですね。
- ──
- 今は、チリにいらっしゃるんですよね。
- 阪本
- 2016年に、こっちへ来ました。
- ──
- 死ぬまでにいつか一度は行ってみたい、
憧れのアタカマ高地で‥‥。
- 阪本
- ええ(笑)。
- ──
- 巨大望遠鏡のお世話をなさっている。
- 阪本
- はい。
- ALMAの望遠鏡のことをやったり、
もうひとつ
別の望遠鏡がありまして、
いまはそっちの面倒をみてますが、
いずれにせよ、
家は首都のサンティアゴにあるので。
- ──
- そこから、通ってらっしゃる。
海抜5000メートルのアタカマ高地へ。
- 阪本
- コロナの前まではね。
昨日まで外出禁止令が出ていたので。
- ──
- ああ、そうだったんですか。
じゃあ、1ヶ月近く自宅にこもって。
- 阪本
- ええ、短い時間、買い物に出るにも、
許可証が要りますから。 - 街には人っ子ひとりいなかったです。
- ──
- そうでしたか。
- 阪本
- ぼくの部屋、地上20階なんですよ。
- サンティアゴの街を見渡しても、
誰も歩いてないし、
朝なんか、いつも渋滞していたのに、
車もすっかりまばらで。
- ──
- 感染者数は、どれくらいなんですか。
- 阪本
- ええと、今、何人くらいなのかな。
- 今日(4月18日)の時点で‥‥
確認されている感染者が、8800人。
死亡者は105人だそうです。
- ──
- このコロナウィルスの出来事って、
世界中のほとんどの人が
はじめて経験する事態じゃないかと
思うんですけど‥‥。
- 阪本
- ええ。
- ──
- 先生のご専門である宇宙の研究から、
今、起こっていることに対して、
何か、アナロジーで言えることなど
ありますでしょうか。
- 阪本
- はい、アナロジー‥‥そうですね、
ひとつには
正常性バイアスの話がありますね。
- ──
- あ、震災以降、よく聞く言葉です。
正常性バイアス。
- 阪本
- 新型ウィルスの感染拡大みたいな
予期せぬ事態に遭遇したとき、
「そうはいっても大丈夫だろう」
「自分だけは平気なはず」
と思ってしまう心のはたらきです。
- ──
- そのせいで、
危険から逃げ遅れてしまうことも
あるという話ですよね。
- 阪本
- その点、宇宙開発事業では、
「不具合の可能性」を
冷徹なまでに調べ上げるんですね。 - それは、不具合のほうでは、
人間の側の「都合」や「事情」を
斟酌してくれないからです。
- ──
- 不具合、といいますと‥‥。
- 阪本
- たとえば、映画にもなった小惑星探査機の
「はやぶさ」でも、
その次の「はやぶさ2」でも、
また別のプロジェクトでもそうなんですが、
何かの装置を開発するときには、
「希望的な観測」を捨て、
「不具合が発生する可能性」を想定します。
- ──
- あらゆるケースを勘定に入れて。
- 阪本
- そう。そして、不具合が発生したときに
どうしたらカバーできるか、
その手段を、
ファクトベースで徹底的に準備しておく。
- ──
- 映画の『アポロ13』でも、
つぎつぎ襲ってくる「不具合」に対して、
地上と連携して対処して‥‥。
- 阪本
- 同様に、新型コロナウイルスも、
わたしたちの事情を斟酌してくれません。
- ──
- 今年オリンピックがあろうがなかろうが、
関係ないですものね。
- 阪本
- だからこそ、正常性バイアスに囚われず、
専門家の数理モデルで
「接触8割減が必要」と出ているのなら、
それを、きちんと守るべきなんです。
- ──
- 「自分だけは大丈夫だ」という
「希望的な観測」は、きっぱりと捨てて。
- 阪本
- そう。
- ──
- 経済社会へのインパクトが大きいのは、
当然、わかるけれども。
- 阪本
- そうですね。まだワクチンが存在せず、
「外に出ない」以外の対策がない。 - 今は、そういう時期なわけですから、
人と人との接触は、
可能な限り避けなければなりません。
- ──
- どんな可能性も「ありうる」と思って、
慎重に行動すべきなんですね。
- 阪本
- ぼくも、最初は少しナメてたんですよ。
- ──
- 新型ウィルスのことを。
- 阪本
- 死亡者の数だけでいえば、
通常の季節性インフルエンザのほうが、
ぜんぜん多いわけですし。
- ──
- ええ。
- 阪本
- でも、途中から心をあらためました。
- 現段階では、
このウィルスはコントロール不能で、
真剣に対処しないとマズい、と。
そう確信してからは、
SNSでも「外出を控えて」という
メッセージを出してきたんです。
- ──
- はい、拝見していました。
- 阪本
- 同時に、科学者として、
「間違った情報を流さないこと」に
注意を払っています。
- ──
- ああ、なるほど。
- 阪本
- なまじ「科学者」が言ったことって、
信じられやすいんです。 - 日本の震災の原発事故のときなども、
さまざまな情報が錯綜して‥‥
科学者のまちがったひとことで、
科学への信頼が
失われてしまうことがあったんです。
- ──
- こういうときこそ、信頼したいです。
科学的な知見や、態度を。
- 阪本
- だから自分も、基本的には家にいます。
- 買い物の頻度も週1回に抑えています。
散歩もしません。そこは徹底してます。
- ──
- 先生は約1か月間、おうちの中にいて、
何をされてたんですか。
- 阪本
- 仕事の書類を書いたり、
今、東大の大学院で学生を見てるんで、
彼らの論文を見たり。
- ──
- 以前のように動けるようになったら、
お仕事としては、
何から再開されるおつもりですか。
- 阪本
- 山へ登って、望遠鏡を立ち上げます。
- ──
- 山‥‥つまりアタカマ高地へ登って。
- 阪本
- はい。
- ──
- ふたたび、宇宙を見る。
- 阪本
- そうですね。
- ──
- コロナのあとというのは、
やっぱり何かが変わると思いますか。
- 阪本
- 変わるでしょう。いろいろ、確実に。
- ひとつ、言えることがあるとすれば、
ぼくは、この出来事を、
ひとつの「チャンス」だと捉えたい、
ということなんです。
- ──
- チャンス、ですか。
- 阪本
- 旧弊をあらためるチャンス、
新しい考え方をうみだすチャンスです。 - われわれの住んでいる地球という星は、
これまで、全球凍結だとか、
巨大隕石の衝突だとか、
さまざまな困難を経験してきたんです。
- ──
- ええ、ええ。
- 阪本
- でも、生命は、けっしてへこたれず、
そのつど進化を続けてきたんですね。 - 全球凍結のあとには、
エディアカラ動物群が発生しました。
- ──
- エディアカラ動物群。
- 生きものが爆発的に増えたという、
先カンブリア時代の。
- 阪本
- あるいは、隕石が衝突したあとには、
小型哺乳類が繁栄しています。
- ──
- なるほど。やっぱり、そう考えると
コロナ禍のあとにも
人々の暮らしや人生の価値観は、
きっと、変わっていくんでしょうね。
- 阪本
- そうですね。そう思います。
- だから、家から出ないということは、
もちろん重要なんですけど、
かといって、
ただただ「厄禍が過ぎ去る」のを、
待っているのではなくてね。
- ──
- ええ。
- 阪本
- 今のうちから、新しい生活の指針や、
新たな価値観などを、
見出しておかなければと思います。
- ──
- 新しい時代のはたらきかた、なども。
- 阪本
- 自由に動けない今こそ、
考えておかなければならないことが、
たくさんあると思いますよ。
- ──
- 頭の中は、
忙しくしておいたほうがいい、と。
- 阪本
- はい。災い転じて福となす、ために。
- ──
- なるほど、わかりました。
ありがとうございました。 - お久しぶりにお話させていただいて、
うれしかったです。
- 阪本
- こちらこそ。
- ──
- ちなみに先生、ぼくのまわりでは
「外出自粛が続くと、酒量が増える」
と、みんな言ってるんですが‥‥。
- 阪本
- あ、見ます? これ、ワインのコルク。
- ──
- えっ!
- 阪本
- こっちは一部屋、ワインの空きビン。
- ──
- うわー。ミュージアムみたい。
- 阪本
- 1500種類くらいあるかな。
- ──
- まさか先生、この1ヶ月で、
そんなにお飲みになられたわけでは!
- 阪本
- ないです。さすがにそれは(笑)。
- この4年間で飲んだものです。
ぜんぶチリのワインで、ダブリなし。
- ──
- つまり先生、この光景は
新型コロナウィルスの感染拡大とは
まったく関係のない‥‥。
- 阪本
- はい。
- ──
- 通常営業の産物であると。
- 阪本
- そうです(笑)。
(明日は八木澤商店の河野通洋さんの登場です)
2020-05-05-TUE