こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第5回 今日も常温の心でワンシーンを描き、明日も淡々とツイートしていきます。[大伴亮介さん(イラストレーター)]

──
ああ、大伴さん。お元気でしたか。
大伴
元気ですよ。
──
世間は新型コロナウィルスの感染拡大で、
いろいろ大変なわけですが、
いかがですか、ワンシーン画は。最近。
大伴
変わってないんですよ、それが。何にも。
──
そうじゃないかなと思ってました。
ツイッターも通常運転で更新してますし。
大伴
もちろん、毎日の暮らしの大きな部分は、
まわりの人と同じ状況ですが、
「ワンシーン画」の活動に関して言えば、
何にも変わっていません。
──
すごい。何でしょう、そのドッシリ感。
ワンシーン画は「揺るぎない」んですね。
大伴
いやいや、ぜんぜんドッシリしてないし、
ワンシーン画というものが、
「揺るぎない」という言葉から
最もかけ離れているのはご存じですよね。
──
はい。
大伴
だから、そうじゃなくて、
もともと、取り上げるシーンそのものが、
「自分の半径1メートル以内」
で見かけた場面ばっかりだったんですよ。
──
ああ、なるほど。
半径1メートルでは変わりようがないと。
大伴
そうなんです。
──
半径1メートル以内のものなんて、
ほとんど「自分」みたいなものですしね。
大伴
さらに、日々の「ワンシーン」を収集し、
それを絵に描くときって、
心の中の盛り上がりとか盛り下がりとか、
まったく関係ないんです。
──
ええ。取材のときも、言ってましたよね。
明鏡止水の心持ちで、
「端っこのちぎれたスライスチーズ」を、
見つめているのだと。

スライスチーズがちぎれて取れるシーン スライスチーズがちぎれて取れるシーン

大伴
当然、新型コロナウィルスの拡大感染は、
忌むべき出来事で、
一日も早い終息を願っているんですけど。
──
その影響が、
ワンシーン画におよぶことは、ない。
大伴
はい。あるいは、もしかすると、
ワンシーン画を発表し続けているのは、
「自分を常温に保つため」
みたいな部分が、ちょっぴりあるかも。
──
ああ、逆に。
コロナで心乱れそうになる自分自身を、
日々のワンシーン画が、
うまくクールダウンさせてくれている。
大伴
自分にできることは、何もないんです。
家から出ないってのは実行してますが、
それについては、
今まで、ふつうにやってたことですし。
──
インドア派でらっしゃいますものね。
生粋の。
大伴
できるだけ人に迷惑をかけないように、
ひたすら
嵐の過ぎるのを待つだけの自分なら、
せめて「常温」で生きていきたいなと。
──
それが、大伴さんの、いまを生きる術。
大伴
たぶん、今のコロナ騒動が終わったら、
その間の記憶を、
スッカリなくすだろうなと思ってます。
──
明鏡止水すぎて(笑)。
大伴
あせらず足掻かず、淡々と生きている。
そういう「人生の感触」が、
最近では、さらに強くなってるんです。
──
まるで「求道者」を見ているようです。
写経のようにワンシーンを描き、
念仏のように、ツイッターでつぶやく。
大伴
本当に。
──
でも‥‥そういう人がいてくださると、
ぼくらは、助かるんですよ。
大伴
どういう意味ですか。
──
この非常時に、
いつもと変わらぬ日常を送ってる人が、
不意に、視界にポッと入ると、
なんだか「ホッとする」と言いますか。
大伴
あー。不意にね。
たしかにツイッターは「不意」ですね。
──
しかも、視界に入ったソレが、
ワンシーン画だったりする場合は特に。
今日は感染者が何人ですという一方で、
ハムがちぎれただ何だという。
大伴
ハハハ。今、褒められているのかなあ。

ハムがちぎれて取れるシーン ハムがちぎれて取れるシーン

──
最大級の賛辞です。
だって、ワンシーン画って、
完全に不要不急の活動じゃないですか。
大伴
そうですよ。ずっとそうです。
──
でも、不要不急なんだけど、
「今日も、これを見れてよかったなあ」
と思えるものなんですよね。
大伴
そう言ってもらえると励みになります。
じつは‥‥白状すると、ちょっとだけ、
どうなんだろうなとも思っていたので。
──
どうなんだろう、とは?
大伴
いや、今、ツイッターなんか見てても、
みんなのちからになったり、
誰かをはげましたり、
いわば「素晴らしいこと」をしている、
立派な人が多いなあと思っていたので。
──
ええ。
大伴
自分には、そういう素質がないですし、
ワンシーン画では、
誰かを直接に「助ける」ようなことは、
できないじゃないですか。
──
まあ、たしかに。
大伴
だから、この非常時に、
スライス卵の黄身が抜けたとか何とか、
そんなどうでもいいことを、
垂れ流し続けるのは、どうなのかなと。

スライス卵の黄身が抜けたシーン スライス卵の黄身が抜けたシーン

──
ぼくには、大切なことだと思えますよ。
だって「春の小川」みたいなものって、
見ていられるじゃないですか。
えんえんずっと、そのほとりに座って。
大伴
ワンシーン画が、そういうものだと?
──
ぼくにとっては「春の小川」ですよ。
意味のあるものばっかりじゃなくって、
非常時にこそ、
「まるで意味がない」というかな、
「ただ、上から下へ流れる」みたいな、
そういうものによって
保たれる何かって、あると思うんです。
大伴
いやあ、そんなふうに
いいものみたいに捉えてもらえたなら、
もうけものですけどね。
──
ちなみにですが、
ワンシーン画以外の活動としては‥‥。
大伴
あ、そうそう、カードゲームをですね、
つくったんですよ。
──
カードゲーム。
大伴
はい、カードゲームです。
クリハラタカシさん、という方が‥‥。
──
ああ、漫画家で、イラストレーターの。
大伴
絵本なんかも出されているんですが。
──
はい。以前「ほぼ日」でも、
お天気の連載をしてくださってました。
大伴
あ、そうなんですか。
ぼく、古い知り合いなんですけれども、
そのクリハラタカシさんが
「名前はマダない」
っていう投稿企画をやってたんですね。
──
へええ‥‥「名前はマダない」。
大伴
デイリーポータルZ、というサイトで。
ようするに、どういうことかというと、
世の中にある
「まだ命名されていない事象」を、
クリハラさんが「お題」として出して、
読者が名前の候補を投稿する、
というようなコンテンツなんですけど。
──
検索してみます‥‥ああー、なるほど。
意味がわかりました。
「子どもが、わざと水たまりに入る」
という事象・行為に対して、
数ある読者投稿の中から
「チャップイン」が選ばれていますね。
大伴
そうそう、その企画とのコラボです。
ぼくのワンシーン画を「お題」として、
それについて、
みんなで名前をつけ合おうという‥‥、
たとえば、こんなワンシーン。

──
ああ、大伴さんの代表作のひとつ、
「落ちたハミガキ粉の
上のほうだけ救出するシーン」だ。
大伴
この
「落ちたけどまだ大丈夫な上の部分」
の名前を考えるのですが、
カードをひっくり返すと、
裏に「命名例」が書いてあるんです。

──
「大丈部位」「生還帯」「まだいけ層」。
なるほど、おもしろいですね。
ダジャレと言うか、
ダブルミーニング的な言葉遊びもできて。
で、これら「命名例」以外の「名前」を、
「みんなでワイワイ言い合おう」と。
大伴
そうです。
──
このご時世に、ですか。
大伴
そうなんです。
まさか、こんな事態になるとは思わずに、
みんなで集まって遊ぶゲームを
半年前からつくりはじめて、
ようやく、このたび、完成いたしました。
──
でも、これ、よーく考えると、
カードをやりとりするゲームじゃないし、
オンラインでも遊べますよね。
大伴
はい、まさにそこなんですよ。
いま注目のオンライン飲み会のときとか、
お友だちや同僚なんかと、
楽しく遊んでもらえたらなと思ってます。
──
あー、盛り上がりそう。お酒に合いそう。
大伴さん、粛々と、
こういうものをつくってらしたんですね。
ちなみに、どこで買えるんですか。
大伴
身近なところではAmazonで売ってます。
商品名は「名前はマダないワンシーン」。
──
おお、商品名からしてズバリ、
クリハラさんと大伴さんのダブルネーム!
巣ごもり生活の頭の体操にも、よさそう。
大伴
そんなふうに遊んでもらえたら、
ぼくも、クリハラさんも、よろこびます。
──
わかりました。ありがとうございました。
大伴さん、どうぞお気をつけくださいね。
ぼくは、今日も明日も、
ワンシーン画を見ながら生きていくので。
大伴
ありがとうございます。ぼくは、
引き続き、心を無にして生きていきます。
──
これからもワンシーン画のツイッターを、
どうぞ、お願いします。
わたしたち人類の、心の健康のためにも。
大伴
わかりました。そこは、任せてください。

2020年4月29日 東京都世田谷区←ZOOM→東京都杉並区 2020年4月29日 東京都世田谷区←ZOOM→東京都杉並区

(明日はライター・造形作家の乙幡啓子さんの登場です)

2020-05-08-FRI

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