こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第06回 不要不急の作品をつくっています。首が高速回転するクマとか。[乙幡啓子さん(ライター、造形作家)]

──
乙幡さんの最新作である
「ベアリングマ」をネットで拝見して、
しばらく笑ってました。
乙幡
あぁ、ほんとですか。
すいませんねえ。あんなのばっかりで。
──
いやあ、乙幡さん、
新型コロナなんかもどこ吹くウィルス、
ご健在であられる、と。
乙幡
それなりに用心してますけど(笑)。
──
あの作品ってつまり、
「木彫りの熊」風のクマさんの首に
ベアリングを仕込んで、
クマさんの顔を高速回転させて遊ぶ、
という代物ですよね。
乙幡
ええ。言葉で冷静に説明をされると、
じゃっかん恥ずかしいですが。
──
じつは、ぼくも「ベアリング」には、
前々から惹かれていたんです。
極めて精巧につくられた
ちっちゃい玉が、何個も並んでいる。
それが「ベアリング」ですね。
乙幡
いかにも、そうです。
──
日本語では「軸受」。
乙幡
軸を滑らかに、
かつ発熱や摩擦も少なく回転させる、
産業界において非常に重要な部品。
──
はい。
乙幡
わたしも、前々から
「何かに使えたらいいんだけどなあ」
と思っていたんですけど、
少し前に、
「ハンドスピナー」が流行ったとき、
「そうか、これだ!」と。
半身浴の最中に。
──
木彫りの熊の顔を
ベアリングで回転させることを、
思いついた‥‥と。
乙幡
思考の順番としては
「ベアリングか。ベアか。クマか!」
だったんですけどね。
──
たどりつくべきところへ
たどりついた‥‥という感じですね。
乙幡
ちなみにですけど、
ベアリングの「ベア」っていうのは、
熊の「ベア」とは、
また別の語源の「ベア」だそうです。
──
へえ。豆知識ですね。
乙幡
でも、まぁ、そういう
こまかいことはひとまず置いといて、
「ベアリングか。ベアか。クマか!」
と思ったことがきっかけで。
──
ベアリングマが誕生した、と。
でも「顔をまわそう」という発想は、
いったい、どこから?
乙幡
折しもそのとき
『ゴールデンカムイ』という漫画を
読んでいたんです。
──
ええ。アニメにもなりましたよね。
少し前に。
乙幡
あの漫画の中には、
ヒグマが出てくるわけです、よく。
で、ヒグマというのは、
獲物を口に咥えてグルングルンと
ブンまわすらしいんです。
──
へえ、どうしてですかね。
乙幡
わからないですけど
「獲ったどー!」みたいなこと、
なんですかね。
──
獲物の誇示。
獲物は「誇示」したいんですかね。
ゲームの「どうぶつの森」でも、
釣った魚を「みせびらかす」って、
ありましたもんね。
乙幡
ええ、とにかく、
そんな感じでつながったんですよ。
クマとベアリングが、自分の中で。
──
速攻で売り切れてましたよね。
乙幡
はい、ありがたいかぎりです。
このようなご時世に、
あそこまで
何の役にも立たないような物体を、
買ってくださる神さまが
たくさんいらっしゃるってことが。
──
こんな時期だからこそ、なのかも。
いろんなむずかしいことも、
一瞬、どうでもよくなりそうだし。
乙幡
そうですかね。
──
ちなみに、実際のベアリングマは、
サイズ感的には、どれくらい?
乙幡
ちょっと持ってきましょうか。
──
あ、いいですか。すみません。
乙幡
これです。

──
あっ、まあまあおっきいんですね。
思った以上のサイズ感です。
口に咥えているのは「鮭」ですね。
乙幡
こんな感じで回転します。

グルグルグルグルーーーー‥‥‥ グルグルグルグルーーーー‥‥‥

──
わははははは!
乙幡
そんなにおもしろいですか(笑)。
──
いやあ、この(笑)、なんだろう。
最高だなあ。
実物がどうかわからないけど、
画面越しにはブンブンまわってる。
ダイソン製といっても、
そうなんだって思えるくらいです。
乙幡
けっこう性能のいいベアリングを
厳選しているので、
回転自体は、
かなり高速で「いい感じ」ですよ。
──
シャーッと高速で回転する物体を
眺めるのって、
どうして気持ちいいんでしょうね。
ハンドスピナーにも言えますけど。
乙幡
これ、あえて
顔の中心に重心を置いてないので、
クマの顔面が、
揺らぎながら高速回転するんです。
それによって、さらに
「鮭を乱暴にブンまわしている感」
を醸し出してるんです。
──
ホントだ‥‥さすがのクオリティ。
でも、こんなふうにまわされたら、
たまったもんじゃないでしょうね。
乙幡
鮭もね。失神しちゃいそう。
──
結局、食われるんでしょうけどね。
このあと。
乙幡
そうですけど(笑)。
──
不要不急のおもちゃだ、まさしく。
乙幡
そうなんです。
──
ちなみに、ベアリングそのものは、
どうやって手に入れるんですか。
乙幡
モノタロウに売ってました。
──
じゃあ、ネット上で
いくつかみつくろって、注文して、
ひとつひとつ、
実際にまわして、ためしたりして。
乙幡
ええ。ベアリングにも
規格が本当に星の数ほどあるので、
サイズ感や
回転の具合などを見て決めました。
──
そこが「生命線」ですものね。
回転こそすべて。
乙幡
通常「ベアリング」というものは
工業用に使われるので、
とどいた時点では、
玉にグリスが塗ってあるんですよ。
摩擦や摩耗、サビを抑えるために。
──
ええ。へえ。
乙幡
でも、グリスを塗ってないほうが、
メチャクチャ高速回転するんです。
──
ヒグマの首が。
乙幡
グリスを塗ったままだと、
首の回転が、微妙にヌメッとする。
だから、無水エタノールに浸して、
油抜きをしたんです、最初。
──
ひと手間、よけいにかけてる!
乙幡
その後、あらためて回転の具合を
綿密にチェックし、
「いいだろう、これなら大丈夫だ」
と思えるものだけを使用しました。
──
素材も徹底的に厳選されていると。
そんなことをしている人、
他に、なかなかいないでしょうね。
乙幡
そう思います。
──
ときにベアリングって、
ぼくらの日常生活のさまざまな場面を、
支えているじゃないですか。
乙幡
そうそう。見えないところでね。
──
ベアリングひとつで、
そうとう助かってますよね、ぼくら。
乙幡
回転するものには、
だいたいベアリングが入ってますね。
換気扇とか、扇風機とか。
──
品質のいいベアリングって、
工業技術のたまものだと思うんです。
だって、内部の玉が凸凹だと、
うまいこと回転しないと思いますし。
乙幡
ええ、そうでしょうね。
ちいさい町工場の腕っこきの職人が、
みたいな世界ですかね。
完全にイメージだけで言ってますが。
──
そういうものを、こういうものに。
乙幡
すいませんね(笑)。
──
いやあ、すばらしいと思います。
乙幡
そういってもらえると、救われます。
──
ちなみに、乙幡さんは、これまでも、
このような作品を、
たくさん、
世に問うてきたわけじゃないですか。
乙幡
そんな大げさなもんじゃないですが。
──
乙幡さんのキャリアの中で
何か「不要不急じゃないもの」って、
あったりするんですか。
乙幡
不要不急じゃないもの‥‥
不要不急じゃないもの‥‥
不要不急じゃないもの‥‥。
ないですね。
──
ないですか。
乙幡
ないです。
──
このたびの「ベアリングマ」も、
じゃあ、渾身の「不要不急」ってことで。
乙幡
大丈夫です。
──
ベアリングの話に終始してしまいました。
乙幡
今日のインタビュー自体が、
「不要不急」になってしまいましたね。
──
でも、堂々と掲載しましょう。
どこかの誰かの暇つぶしになると信じて。
乙幡
はい。

2020年4月27日 東京都世田谷区←ZOOM→東京都調布市 2020年4月27日 東京都世田谷区←ZOOM→東京都調布市

(明日は探検昆虫学者の西田賢司さんの登場です)

2020-05-09-SAT

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