こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 乙幡さんの最新作である
「ベアリングマ」をネットで拝見して、
しばらく笑ってました。
- 乙幡
- あぁ、ほんとですか。
すいませんねえ。あんなのばっかりで。
- ──
- いやあ、乙幡さん、
新型コロナなんかもどこ吹くウィルス、
ご健在であられる、と。
- 乙幡
- それなりに用心してますけど(笑)。
- ──
- あの作品ってつまり、
「木彫りの熊」風のクマさんの首に
ベアリングを仕込んで、
クマさんの顔を高速回転させて遊ぶ、
という代物ですよね。
- 乙幡
- ええ。言葉で冷静に説明をされると、
じゃっかん恥ずかしいですが。
- ──
- じつは、ぼくも「ベアリング」には、
前々から惹かれていたんです。 - 極めて精巧につくられた
ちっちゃい玉が、何個も並んでいる。
それが「ベアリング」ですね。
- 乙幡
- いかにも、そうです。
- ──
- 日本語では「軸受」。
- 乙幡
- 軸を滑らかに、
かつ発熱や摩擦も少なく回転させる、
産業界において非常に重要な部品。
- ──
- はい。
- 乙幡
- わたしも、前々から
「何かに使えたらいいんだけどなあ」
と思っていたんですけど、
少し前に、
「ハンドスピナー」が流行ったとき、
「そうか、これだ!」と。 - 半身浴の最中に。
- ──
- 木彫りの熊の顔を
ベアリングで回転させることを、
思いついた‥‥と。
- 乙幡
- 思考の順番としては
「ベアリングか。ベアか。クマか!」
だったんですけどね。
- ──
- たどりつくべきところへ
たどりついた‥‥という感じですね。
- 乙幡
- ちなみにですけど、
ベアリングの「ベア」っていうのは、
熊の「ベア」とは、
また別の語源の「ベア」だそうです。
- ──
- へえ。豆知識ですね。
- 乙幡
- でも、まぁ、そういう
こまかいことはひとまず置いといて、
「ベアリングか。ベアか。クマか!」
と思ったことがきっかけで。
- ──
- ベアリングマが誕生した、と。
- でも「顔をまわそう」という発想は、
いったい、どこから?
- 乙幡
- 折しもそのとき
『ゴールデンカムイ』という漫画を
読んでいたんです。
- ──
- ええ。アニメにもなりましたよね。
少し前に。
- 乙幡
- あの漫画の中には、
ヒグマが出てくるわけです、よく。 - で、ヒグマというのは、
獲物を口に咥えてグルングルンと
ブンまわすらしいんです。
- ──
- へえ、どうしてですかね。
- 乙幡
- わからないですけど
「獲ったどー!」みたいなこと、
なんですかね。
- ──
- 獲物の誇示。
獲物は「誇示」したいんですかね。 - ゲームの「どうぶつの森」でも、
釣った魚を「みせびらかす」って、
ありましたもんね。
- 乙幡
- ええ、とにかく、
そんな感じでつながったんですよ。 - クマとベアリングが、自分の中で。
- ──
- 速攻で売り切れてましたよね。
- 乙幡
- はい、ありがたいかぎりです。
- このようなご時世に、
あそこまで
何の役にも立たないような物体を、
買ってくださる神さまが
たくさんいらっしゃるってことが。
- ──
- こんな時期だからこそ、なのかも。
- いろんなむずかしいことも、
一瞬、どうでもよくなりそうだし。
- 乙幡
- そうですかね。
- ──
- ちなみに、実際のベアリングマは、
サイズ感的には、どれくらい?
- 乙幡
- ちょっと持ってきましょうか。
- ──
- あ、いいですか。すみません。
- 乙幡
- これです。
- ──
- あっ、まあまあおっきいんですね。
思った以上のサイズ感です。 - 口に咥えているのは「鮭」ですね。
- 乙幡
- こんな感じで回転します。
- ──
- わははははは!
- 乙幡
- そんなにおもしろいですか(笑)。
- ──
- いやあ、この(笑)、なんだろう。
最高だなあ。 - 実物がどうかわからないけど、
画面越しにはブンブンまわってる。
ダイソン製といっても、
そうなんだって思えるくらいです。
- 乙幡
- けっこう性能のいいベアリングを
厳選しているので、
回転自体は、
かなり高速で「いい感じ」ですよ。
- ──
- シャーッと高速で回転する物体を
眺めるのって、
どうして気持ちいいんでしょうね。 - ハンドスピナーにも言えますけど。
- 乙幡
- これ、あえて
顔の中心に重心を置いてないので、
クマの顔面が、
揺らぎながら高速回転するんです。 - それによって、さらに
「鮭を乱暴にブンまわしている感」
を醸し出してるんです。
- ──
- ホントだ‥‥さすがのクオリティ。
- でも、こんなふうにまわされたら、
たまったもんじゃないでしょうね。
- 乙幡
- 鮭もね。失神しちゃいそう。
- ──
- 結局、食われるんでしょうけどね。
このあと。
- 乙幡
- そうですけど(笑)。
- ──
- 不要不急のおもちゃだ、まさしく。
- 乙幡
- そうなんです。
- ──
- ちなみに、ベアリングそのものは、
どうやって手に入れるんですか。
- 乙幡
- モノタロウに売ってました。
- ──
- じゃあ、ネット上で
いくつかみつくろって、注文して、
ひとつひとつ、
実際にまわして、ためしたりして。
- 乙幡
- ええ。ベアリングにも
規格が本当に星の数ほどあるので、
サイズ感や
回転の具合などを見て決めました。
- ──
- そこが「生命線」ですものね。
回転こそすべて。
- 乙幡
- 通常「ベアリング」というものは
工業用に使われるので、
とどいた時点では、
玉にグリスが塗ってあるんですよ。 - 摩擦や摩耗、サビを抑えるために。
- ──
- ええ。へえ。
- 乙幡
- でも、グリスを塗ってないほうが、
メチャクチャ高速回転するんです。
- ──
- ヒグマの首が。
- 乙幡
- グリスを塗ったままだと、
首の回転が、微妙にヌメッとする。 - だから、無水エタノールに浸して、
油抜きをしたんです、最初。
- ──
- ひと手間、よけいにかけてる!
- 乙幡
- その後、あらためて回転の具合を
綿密にチェックし、
「いいだろう、これなら大丈夫だ」
と思えるものだけを使用しました。
- ──
- 素材も徹底的に厳選されていると。
- そんなことをしている人、
他に、なかなかいないでしょうね。
- 乙幡
- そう思います。
- ──
- ときにベアリングって、
ぼくらの日常生活のさまざまな場面を、
支えているじゃないですか。
- 乙幡
- そうそう。見えないところでね。
- ──
- ベアリングひとつで、
そうとう助かってますよね、ぼくら。
- 乙幡
- 回転するものには、
だいたいベアリングが入ってますね。 - 換気扇とか、扇風機とか。
- ──
- 品質のいいベアリングって、
工業技術のたまものだと思うんです。 - だって、内部の玉が凸凹だと、
うまいこと回転しないと思いますし。
- 乙幡
- ええ、そうでしょうね。
- ちいさい町工場の腕っこきの職人が、
みたいな世界ですかね。
完全にイメージだけで言ってますが。
- ──
- そういうものを、こういうものに。
- 乙幡
- すいませんね(笑)。
- ──
- いやあ、すばらしいと思います。
- 乙幡
- そういってもらえると、救われます。
- ──
- ちなみに、乙幡さんは、これまでも、
このような作品を、
たくさん、
世に問うてきたわけじゃないですか。
- 乙幡
- そんな大げさなもんじゃないですが。
- ──
- 乙幡さんのキャリアの中で
何か「不要不急じゃないもの」って、
あったりするんですか。
- 乙幡
- 不要不急じゃないもの‥‥
不要不急じゃないもの‥‥
不要不急じゃないもの‥‥。 - ないですね。
- ──
- ないですか。
- 乙幡
- ないです。
- ──
- このたびの「ベアリングマ」も、
じゃあ、渾身の「不要不急」ってことで。
- 乙幡
- 大丈夫です。
- ──
- ベアリングの話に終始してしまいました。
- 乙幡
- 今日のインタビュー自体が、
「不要不急」になってしまいましたね。
- ──
- でも、堂々と掲載しましょう。
どこかの誰かの暇つぶしになると信じて。
- 乙幡
- はい。
(明日は探検昆虫学者の西田賢司さんの登場です)
2020-05-09-SAT