こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

前へ目次ページへ次へ

第07回 森の中は、飽きない、暇はない。まわりに誰もいないけど。[西田賢司さん(探検昆虫学者)]

──
西田さんは、
エコツーリズムの観光地としても有名な
コスタリカのモンテベルデの
「森の中」に、
ラボを構えてらっしゃいますよね。
西田
はい。モンテベルデの街に降りていけば、
外出禁止だとか、
運転できる時間帯が限られているなど、
生活の制限がありますが、
ぼく自身の暮らしについては、
森にいる限り、
あんまり、これといった変化はないです。
──
森の中では、人に会うんですか。
西田
多くて週イチかな〜。人間を見るのは。
──
え、そんな感じですか!(笑)
西田
ええ、メンテナンスをする人が
やってくるのですが、
作業をする場所がちがうので、
めったに会うことはありません。
──
じゃあ、その人に会わなければ、
まったくもって誰にも会わない。
西田
そうですね。
ここのバイオロジカルステーション、
ふだんは、
海外からやってきた学生たちや、
キッチンではたらいているスタッフ、
教員など、
人の出入りはあるんですけど。
──
いまは‥‥。
西田
国を挙げての非常事態宣言で、
誰もいません。
学生たちはみんな帰国しちゃいました。
もうだいぶ前‥‥2月の頭ぐらいかな。
突然みんなが消えた瞬間があって。
──
じゃあ、西田さんだけが、残っている?
西田
いまは、
ぼくひとりが住んでる状態です(笑)。
──
ひとりぼっちになっちゃった。森の中で。
西田
出会うのは
野生の生きものたちだけですね。
外でガサガサ音がするから、
なんだろうなあと思ってドアを開けたら、
ハナグマや鳥たちが遊びに来てたり。
──
玄関先に、かわいいお客さんが。
西田
樹上では
世界一美しい鳥と呼ばれるケツァールや
、
ヒゲの生えたヒゲドリが
金属音で
「ビッ! キーンカーンコーン」
と鳴いてたり。
──
そんな鳴き方する鳥がいるんですか!
でも、森の中の生活って、
そういうことの連続なんでしょうね。
西田
まあ、コロナ騒動の前から、
ぼく自身は、
森に依存して生きてますからね。
──
経済とか、お金じゃなく。森に。
西田
はい。もちろん街に降りていけば、
観光ホテルやレストラン、
ほとんどのお店も閉まっているし、
人もまばらで閑散としてる。
人々の仕事もなくなっているだろうから、
コロナによる状況は、
お金の収入や出費に関して、
かなりの影響があると思います。
──
その点、森にいると‥‥。
西田
昆虫や自然ガイドの依頼も、
今のところ、ぜんぶキャンセルで、
お金に関して
まったく影響がないといっては
言い過ぎですが、
ぼくはそれがメインじゃないので。
──
では、さほどお困りというわけでは‥‥。
西田
ぼくは、昆虫の研究をして生きてるし、
コロナに関係なく、
いつものように、収入は不安定。
でも、いつものたくわえがあるので、
基本、困ってないです(笑)。
──
森に依存して生きる‥‥というのは、
ようするに、
食べるものを森の中で採ってきたりとか。
西田
ええ、このコロナ騒動が起こってからは、
とくに意識するようになりました。
ここへ行ったら、
マカダミアの仲間の実が採れる、
ベリー系の果実は、ここで、
そろそろ実りはじめるころだとかね、
そういうことを把握して。
──
なるほど。

マカダミア の仲間(ヤマモガシ科)の木に、実がたくさんなっている。森のリスたちが好んで食べる。(西田さん) マカダミア の仲間(ヤマモガシ科)の木に、実がたくさんなっている。森のリスたちが好んで食べる。(西田さん)

今日は5つ、森の恵みをいただいた。このヤマモガシ科植物の学名は、パノプシス・コスタリケンシス(Panopsis costaricensis)。コスタリカでは、パパ(ジャガイモの意味)。(西田さん) 今日は5つ、森の恵みをいただいた。このヤマモガシ科植物の学名は、パノプシス・コスタリケンシス(Panopsis costaricensis)。コスタリカでは、パパ(ジャガイモの意味)。(西田さん)

西田
ハーブ系野菜のバジルとかオレガノなどを
乾燥させたり、
発酵ブラックベリーのジャムを仕込んだり、
「ふすま漬け」をはじめたりしてます。
保存食で、
健康維持と備蓄食料対策ですね。
──
ふすまで、お漬物?
西田
コスタリカでは
米ぬかを入手することがむずかしいので、
小麦とカラス(オーツ)麦の
ふすまを混ぜて漬物床をつくったんです。

白菜と大根のふすま漬けをぬか床から出したところ。これから軽く洗って、ぬかを落としたら冷蔵保存。(西田さん) 白菜と大根のふすま漬けをぬか床から出したところ。これから軽く洗って、ぬかを落としたら冷蔵保存。(西田さん)

──
何を漬けてるんですか。
西田
キャベツとか大根、白菜などです。
ちかくの道端には
西洋タンポポもたくさん生えてるし、
森ではキクラゲも採れるし、
ちょっとしたライムなどの柑橘類の木々も
植わってます。
──
おおー。

柑橘類のイエローライムの木(矢印)。香りがまろやかで酸味と甘みの程よいバランス。(西田さん) 柑橘類のイエローライムの木(矢印)。香りがまろやかで酸味と甘みの程よいバランス。(西田さん)

西田
観葉植物みたいなバナナも食べられるし、
そのうち、
グァバやマタタビの仲間の果実も実ります。

熱帯アジアのバナナ(バショウ)の仲間。外来種で観葉植物だが、実が黄色くなって茶色くシミができはじめると食べごろ(笑)。(西田さん) 熱帯アジアのバナナ(バショウ)の仲間。外来種で観葉植物だが、実が黄色くなって茶色くシミができはじめると食べごろ(笑)。(西田さん)

──
森という場所は、
ゆたかな恵みを与えてくれるんですね。
西田
そうなんですよ。
──
新型コロナの感染拡大って、
ほとんど全員、初の体験じゃないですか。
西田
そうですねえ。
──
西田さんは、何を思ったりしますか。
西田
こういう生活をしていることもありますし、
人間って、最終的に、
経済やお金だけに依存してしまうと、
いざというときに、
困ってしまうことになるんだなと思います。
──
なるほど。
西田
幼いころから、
母が身を持って教えてくれたことは、
「身は貧しくとも心豊かに」です。
ぼくがどんな状況におかれても、
それが、
これまで活かされてきてますね(笑)。
──
コスタリカの森でも、お母さんの教えが。
西田
自然‥‥ぼくの場合は「山の森」ですけど、
海でも、草原でも、どこでも、
できるだけ
自然に依存する生き方を選びながら、
必要最低限のお金のある暮らしが、
ぼくには、しっくりくる感じです。
そういうバランスで、やってます。
──
そうなんですね。
西田
オフィスやお店、
高層ビルの最上階に住んでいる人も、
どこにいても、誰もが、
太陽と、土と、恵みの雨と、
それらが育んでくれたものを食べてますね。
あらゆる加工食品でさえ、
もともとは自然の恵みです。
──
はい。
西田
自然に依存していないようで、
じつは、自然に依存しているわけです。
ちがいはその恵みの現場に
いるかいないかでしょうか。
そこに「生きる力」が備わっていることを、
こういう環境にいると、体感、実感します。
──
たしかに、おなじ外出自粛をするのでも、
都会のアパートにこもるのと、
自然に囲まれているのとでは、
なんか、根本的に、ちがいそうですよね。
西田
たぶん人間って、
自然に触れると「安心」するんですよ。
──
ああ、たしかに。
自然に囲まれる「安心感」ってあります。
いま、都市部で家庭菜園をはじめた人も、
けっこういるみたいですし。
西田
だから、
経済中心で動いている都心部に生まれて、
そこにずっと住んでいる人でも、
「生かされていること、生きることの基本」
をいろいろと、
考えるきっかけになると思うんですよ。
──
いまの、この「不思議な時間」を、
過ごすことによって。
西田
何に重きを置くのか、
何を大切にして生きていきたいのかって、
見つめ直す時期じゃないですかね。
──
それは、すっごく、そう思います。
西田
もし可能なら、
ちょっと自宅から離れたところにでも、
ちいさい畑を持ってみるとか。
自然の中へ入っていくっていうことは、
人間と人間の距離が、
おのずから離れていくことでもあるし。
──
これだけ人が密集している都市文明は、
人類史的に見ると、
そもそも異常だという話もありますね。
西田
自然って、虫でも何でもそうですけど、
同じものが密集しすぎた場合、
「数を減らす」方向に、
チカラをはたらかせることがあるから。
──
ああ、なるほど。
あんまりいい状態じゃないってことで。
西田
バランスが崩れてしまっている状態を、
整え直すっていうのかな。
あと、自然を前にすると、
ヒマな時間がなくなりますよね。
──
あーーーー、たしかに!
西田
いまこの瞬間も、ぼくの目の前で、
たくさんの生命が、
いつもどおり、
モゾモゾ、キビキビと動いてます(笑)。
その姿や活動は、
ぼくの全身に、
たくさんの刺激を与えてくれます。
──
そういう光景をぼーっと眺めていても、
飽きませんよね、きっと。
自然を前に「ヒマ」って感覚ないかも。
たしかに。
西田
はたらきかけてきますからね、身体に。
デジタルって「情報」だけど、
自然は人間の芯に染み込んでくるから、
感性がどんどん豊かになる、
あらゆる感覚が洗練されていくような。
その感触って、
いつまでも自分の中に残りますもんね。
──
ええ。
西田
だから、飽きないんじゃないですかね。
──
どこかでピヨピヨ鳴いてますね、鳥が。
西田
ああ、いまね、ぼくがいるところから、
1メートル半ぐらいかな、
コスタリカの国鳥のジグイロがいます。
──
わあ、そんな至近距離に。
西田
和名は、バフムジツグミだったかな。
ちょうどいま、巣づくりの時期で。
雨季の到来を知らせてくれる鳥です。
あとは、花がたくさん咲いているから、
ミツバチなどのハチたちが
活動的に飛んでます。
ああ、モルフォチョウもフワフワーと。
──
え、モルフォチョウって、
青いブローチみたいな、うつくしい蝶。
西田
そうそう。
──
そんなのが、目の前を飛んでるんだ。
西田
オオキチョウもハチドリも、
たくさん飛んでます。
──
なんだか、もう。
西田
自然って、一言で「緑」っていうけど、
その緑色だって実際は多様ですね。
雲の流れる様子を見ながら風を感じて、
突然、
頭のうえから花びらや葉が落ちてきて、
ビックリさせられたり。
風と森の木々が奏でるハーモニーに
乗っかるように歌う
小鳥たちや虫たちの音(ね)も、
聴いていられるし。
──
生命のフェスティバルですねえ(笑)。
お聞きしていると。
西田
自分の身体、生命(いのち)が、
そういうぜんぶを楽しんでいますよね。
──
いろいろと深く考えたりもしますよね。
森の中にいると、きっと。
西田
ええ、自然と向き合うことは、
自分と向き合うことでもありますから。
──
ああ、なるほど。そうかもしれない。
西田
もちろん、家族や友人と過ごすことも、
大切な時間ですけど、
たまには、こうして、
自然のなかで、ひとりぼっちになって。
──
そうですね‥‥コロナが落ち着いたら、
あえて、ひとりで、
自然の中でたたずむのもよさそうです。
いまの西田さんみたいに。
西田
いいもんですよ。
もともと自然の一部ですから。人間も。

2020年4月23日 東京都世田谷区←LINE→コスタリカの森 2020年4月23日 東京都世田谷区←LINE→コスタリカの森

(明日は元・悩める就活生、志谷啓太さんの登場です)

2020-05-10-SUN

前へ目次ページへ次へ