こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 最後に会ったの、いつでしょうね。
- 志谷
- もう何年も前だと思います。
- ──
- 今は、おつとめは‥‥。
- 志谷
- ええっと、IT系の会社に勤めてます。
- いちど辞めて、戻ってきたんですけど、
あしかけ7年くらいいます。
- ──
- ああ、けっこう長いですね。
- いまは、何をなさってるんですか?
お仕事の内容的には。
- 志谷
- 最初は、プログラムを書いて、
アプリをつくる人だったんですけど、
最近は、
プロジェクトを管理する人ですね。
- ──
- えっとつまり、社会人になって
もう10年くらい経つってことかな。
- 志谷
- そうですね、10年目くらいです。
- ──
- いやあ、そっかあ。
- 就職活動で思うように内定が取れず
悩んでいた志谷くんが、
「糸井さん、僕を面接してください」
って、
ほぼ日にメールしてきたわけですが。
- 志谷
- ええ。
- ──
- あれって、
東日本大震災の前の年の冬だもんね。 - それを考えると、
社会人歴10年には、なりますよね。
- 志谷
- そうですね。ただ、でも、
10年もはたらいているって感じは、
あんまりしないですけど(笑)。
- ──
- 取材させていただいたときは、
はたらく直前のところで悩んでいて、
挫折も味わっていましたよね。
- 志谷
- はい。
- ──
- 実際どうですか、社会に出てみたら。
おもしろいですか、仕事。
- 志谷
- そうですね‥‥‥‥うん。
- 最近、ようやく、
はたらくっておもしろいかも‥‥と、
思えるようになって(笑)。
- ──
- おお、いいですねえ。
- おもしろいよね、はたらくって。
つらかったり、へこんだり、
めんどくさかったりもするけど。
- 志谷
- はい(笑)。
- ──
- 具体的には、どういうところが?
- 志谷
- 自分ができることって、
同じ職種の人たちの中で比べても、
たいして抜きん出た部分も
ないんですけど、
でも、
すごくよろこんでもらえることが、
たまーに、あったりして。
- ──
- おお、お役に立ってる感。
- 志谷
- なんか、そういうときに、
おもしろいですし、うれしいです。 - 人に一目置かれるような仕事では、
ぜんぜん、ないんですけど。
- ──
- でも、学生のころには、
自分が役に立てるかどうかなんて、
考えもしなかったと思うんです。 - はたらく‥‥ということについて、
そういう観点では、
あんまり考えてなかったというか。
- 志谷
- ああ、そうですね。
ただただ、怖かったというだけで。
- ──
- でも、恐怖だった「はたらく」も、
毎日ヘタでもはたらいてれば、
それなりになんとかなるもんだし、
「人の役に立つ」ようなことも、
そのうちに
できるようになるなと思いながら、
自分も、
もう、20年くらいはたらいてる。
- 志谷
- そうですね、本当に。
- ただ、それで納得できるとも、
あんまり思ってなかったですけど。
- ──
- 納得?
- 志谷
- いや、昔は‥‥学生だったころは、
やっぱり、
「ひとかどの人物にならなければ」
って、焦っていたので。
- ──
- ああ、そうか。
- 志谷
- 自分は何者かになれるんだろうか、
そんなことばかり考えてました。 - ひとかどの人物になれなかったら、
みじめな人生に終わる、
そんなことを本気で思ってんです。
- ──
- だから「怖かった」んだね。
- 志谷
- そうですね。
- で、そんなふうに、
自我が思い切りふくらんだ状態で、
内定が取れずに悩んで、
糸井さんに「面接」してもらって。
- ──
- だから「ふつうの子」だって言われて、
ガックリきちゃったんだね。 - ふつうの子‥‥って、
ぜんぜん悪い意味じゃないんだけどね。
- 志谷
- 就職に失敗したら、
まわりの友だちにも引け目を感じて、
うまく話せなくなっちゃうかもって、
びくびくしてたんだと思う。
- ──
- でも、そんなことはなかった?
- 志谷
- はい。10年社会ではたらいたら、
そういうところからは、
解放されたような気がしています。 - ふつうであるということは、
別に「みじめ」でも何でもないし、
ふつうの自分でも、
誰かによろこんでもらえたりする。
- ──
- うん。
- 志谷
- で、誰かによろこんでもらえたら、
自分自身も、
こんなにもうれしいんだなあって、
いまは、感じているので。
- ──
- 現在の自分に、
ひとまず「納得」できてることは、
とてもいいことなんじゃない? - 何かをあきらめるとか、
そういうこととは、ちがう意味で。
- 志谷
- そうですね。
- ──
- なりたい自分、というものには、
急にはなれないけど、
徐々になっていくもんだろうし。
- 志谷
- ぼく、何年か前に、
糸井さんに、
直接、質問する機会があって。
- ──
- へえ。
- 志谷
- 10年前、
糸井さんに「面接」してもらったあと、
ぜんぜんダメだと思って、
すごっくガッカリしていたとき‥‥。
- ──
- うん。
- 志谷
- 覚えているかどうかわかりませんけど、
奥野さんが、
「糸井さん、
とっても一生懸命に話してたと思うよ」
って、言ってたんです。
- ──
- ああ、そうだっけ。
- 志谷
- あのときのぼくは、
そういう言葉を受け入れられるような
状態じゃなくて、
なんでもっとうまく話せなかったんだ、
みたいな気持ちでいっぱいで。
- ──
- うん。
- 志谷
- だけど、あとから考えてみたら、
どうして糸井さんは、
一生懸命に話してくれたんだろうって
思うようになったんです。 - それで、糸井さんに
「あのとき、何をどうしようとして、
一生懸命に話してくれたのか、
覚えていたら教えてください」って。
- ──
- おお。
- 志谷
- そしたら糸井さん、
「奥野くんが、どんなふうに感じて
一生懸命だと感じたのかは
わかんないけど、
ほかの誰かと話すときと同じように、
一生懸命だったよ」って。
- ──
- ああ、なるほど。
- 志谷
- 「だから、志谷くんと話したときにも、
いつもどおりに、
一生懸命に話そうとしてたんだろうね」
とおっしゃってたんです。
- ──
- やっぱり‥‥あのときの志谷くんって、
「悩める就活生」だったわけだよね。 - そういう学生さんを目の前にしたとき、
「できるだけ正確に伝えられたら」
みたいな気持ちになると思うんですよ。
- 志谷
- ええ。
- ──
- しかも、あのときって、
「コーヒー屋をやってみればいいよ」
みたいな話で、
表面的には突き放した感じだったし、
どうしたら、
へんな伝わり方をしないように
伝えられるかなって
考えながら話すと思う。自分でも。
- 志谷
- はい。
- ──
- だから、一生懸命だったって印象が、
いつも以上に残ったのかも知れない。
- 志谷
- で、いまになって思うのは、
それって本当にすごいことだぞって。
- ──
- ああ、そうですか。
- 志谷
- だって、いま、
ぼくが就活に悩む大学生を目の前に、
一生懸命に話せるかと言ったら、
正直あんまり自信ないかもしれない。
- ──
- そんなこともないんじゃない?
- 志谷
- 仕事とか、はたらくって、
一生懸命にやるものだと思うんです。
責任の伴うものだし、
お金だって、関わってくることだし。 - でも、ただの何にもない大学生に、
一生懸命に話すって、すごいと思う。
- ──
- でも、そのほうが、おもしろいよね。
- 志谷
- ああ、そうなんですよね。
- ──
- 真面目とか真剣とか一生懸命って、
「仕事」というものを
おもしろくするための、
何か重要なもののような気がする。
- 志谷
- ええ。わかります。
- ──
- で、
大学生と話した糸井さんにとっても、
原稿にまとめたぼくにとっても、
あの「ふしぎな面接」は、
まぎれもなく「仕事」だったと思う。
- 志谷
- はい。
- ありがたい経験をさせてもらったと、
今さらながら、思っています。
- ──
- でも、いまのことも、志谷くんが
それこそ「一生懸命」に、
社会で10年もはたらいたからこそ、
わかるようになったことですよね。
- 志谷
- そうですかね。
- ──
- うん。自分で気づいたことは、
やっぱり、自分のものなんじゃない?
- 志谷
- そうなのかな。
- ──
- 今日の話は、まるごと、
就活の学生さんに聞かせたいですね。
- 志谷
- いやあ、それは、ちょっと‥‥
はずかしいかもしれないです(笑)。
(つづきます)
2020-05-11-MON