こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 山邊くんは、本当だったら、
大学院の1年めがはじまってる時期。
- 山邊
- だからちょっと、へんな感じですね。
本来ならば、大学はこの時期、
全国から新入生を迎えて、
すごく華やかになってるはずなんで。
- ──
- 今年は、閑散としちゃってるんだ。
- 山邊
- そうですね、すっかり「閉鎖」です。
- 授業自体は、4月の末から
オンラインではじまるそうですけど。
- ──
- えっと、少々、昔を振り返りますと、
ぼくが、はじめて
佐世保で山邊くんにお会いしたのは、
18歳くらいだったのかな。
- 山邊
- そうですね。
- ──
- 佐世保で、高校を1年で辞めたあと、
靴磨き職人をやっていたころ。 - そのあと筑波大学に進学して、
それから、丸4年が経ったんですね。
- 山邊
- ええ、早いもので(笑)。
- ──
- 学部で人類学を専攻していたことは
知ってましたけど、
大学院でも同じことをやる予定で?
- 山邊
- 結局ぼくは、学部の4年間で、
わかったことがあったというよりは、
「どんどんわからなくなった」
というのが、正直なところなんです。
- ──
- えーっと、たしか、
研究のテーマは「はたらく」だよね。
- 山邊
- はい。はたらくということって何だ、
自分なりに理解してやろうと、
そう思って、
靴磨き屋を辞めて大学に来たんです。 - その根っこには、
靴磨き屋をやっていたときの経験や、
世話になった職人さん、
地域の先輩方の姿があったんですね。
- ──
- 山邊くんの場合は、
大学で「はたらく」を研究する前に
実際に「はたらいていた」わけで、
そこが、けっこう、
強みなんだろうなとは思ってたけど。
- 山邊
- はい。自分でも、そうかもしれない、
きっとそうだろうと思ってました。 - でも、いざ「はたらく」から離れて、
つまり、
毎日毎日、靴を磨いていた日々から
遠のいてみたら、
だんだん「問い」が弱くなってきた。
- ──
- はたらく、に対する「問い」が。
- 山邊
- そうなんです。
- 何ていうのか、大学というところが、
あまりに言葉にあふれていたんです。
- ──
- 言葉。
- 山邊
- はい、言葉です。
- 毎日、靴磨きをやっていたときには、
ほとんど言葉というものでは、
「はたらく」をとらえていなかった。
- ──
- 言葉じゃないとしたら‥‥。
- 山邊
- どっちかっていうと、身振りだとか、
身体感覚、所作みたいなものです。 - 職人さんに教わるときも、
「こんな感じだよ、わかるだろう?」
「あ、はい」
それで終わりみたいなことが多くて。
- ──
- ワシの背中を見て盗めみたいな世界。
- 山邊
- そうですね(笑)。
- だから、
言葉で理解することができなければ、
当の職人さんがいなくなったら、
彼の考え方や技術は残らないんだな、
ということに、
あるとき気づいて愕然としたんです。
- ──
- なるほど。
- 山邊
- そのことが、大学に行こうと思った、
大きな動機でした。
- ──
- で‥‥そうやって大学に来てみたら、
「言葉」に溺れてしまった?
- 山邊
- ええ、そうと言えるかもしれません。
- 本を読む。ディスカッションをする。
担当教官や先輩と話していても、
言葉によって、
概念に形を与えることができるんだ、
ということがおもしろくて、
どんどん、
言葉の世界へはまっていったんです。
- ──
- うん。
- 山邊
- で、気づいたら問いが弱くなってた。
- ──
- ぼくは、山邊くんは
「たしかめ算」をしにいくんだなと、
思ってたんですよね。
- 山邊
- はい。ぼくも、そのつもりでした。
- でも、大学に身を置いたら、
頭でっかちになりたくなったんです。
だって、かっこいいわけです。
担当教官とか、先輩とか、仲間とか。
- ──
- 言葉を駆使する人たちが。
- 山邊
- そうです。
- 職人さんたちに感じていた誠実さや、
いい加減なものに対する怒り、
そういうものも、そこにはあったし。
- ──
- つまり、その世界を信じられた、と。
- 山邊
- そうなんです。だから、
「これはいいぞ、もっとがんばろう」
という気持ちでやってきたんですが、
いざ4年生になったら
「あれ、本当は、何だったんだろう」
みたいな事態に陥ったんです。 - 抽象的な言い方なんですけど、
手に入れた言葉が、
身体へ戻っていかなければならない、
その場面で、
「俺、そこから来たはずなのになあ」
と、わからなくなって‥‥。
- ──
- はー‥‥。卒論は、何を書いたの?
- 山邊
- そんな具合だから書きあぐねました。
苦しんで、ようやく書いたんです。 - 途中で、担当教官に
「山邊、そろそろ本気だしてくれよ」
とか言われながら。
- ──
- 自分では本気のつもりだったのに?
- 山邊
- はい(笑)。
- テーマは「無賃労働」についてです。
子どもたちに勉強を教える
ボランティアをやっていたんですね。
- ──
- それは、山邊くんが。
- 山邊
- はい。で、そうするなかで
「賃労働と無賃労働のちがい」って、
何なんだろうと考えました。 - 対価、つまりお金をもらわなくても、
やりがいを感じたり、
誇りを感じたりすることがあるなら、
「はたらく」ということの、
また、ちがった側面を照らすことが
できるんじゃないかと思って。
- ──
- うん、うん。
- 山邊
- でも、ボランティアを続けるうちに、
別の興味が湧いてきたんです。 - つまり、ボランティアの人たちって、
本業とか家庭がある中、
けっこう無理して、教えにきていて。
- ──
- ええ。
- 山邊
- そんなだから、不満もブーブー言う。
- 誰それは理解してくれないとか、
ダメだとか言うくせに、
毎週毎週、教えに来るっていうのが、
「誇り」とか「やりがい」とかと、
ほど遠いじゃないかと思ったんです。
- ──
- なるほど。
- 山邊
- それなのに、グチグチ言いながらも、
みんな、無賃の労働を辞めない。 - そっちに着目したほうが、
おもしろそうだと思ったんですよね。
- ──
- たしかに‥‥で、なんでなの?
- 山邊
- みなさん、ボランティアに対しては、
いろんなレベルで関わってますが、
ひとつには
「子どもたちがいる」ということが、
大きいと思います。
- ──
- つまり「相手がいる」ということ。
- 山邊
- でも、もっと大きくは、
「考えないで、来ちゃったほうが楽」
みたいなことがあるなと。
- ──
- こういう言い方をしていいかどうか
わかんないけど、「惰性」みたいな。
- 山邊
- 辞める人って、考える人なんですよ。
- 「考えるのが面倒で、辞めない」
ということが、あると思ったんです。
- ──
- 実際、ほっとけば続いていく流れを
押しとどめるのって、
かなりエネルギーの要ることだしね。
- 山邊
- じゃあ、考えない人たちばっかりが、
ボランティアを続けているのか、
というわけでもなく、
わざと考えない場合もあるんですね。 - いろんな要素の絡まり合いが、
結果として「継続」を生み出してる、
はたらくには、
そういう側面もあるのかもしれない。
- ──
- ははあ。
- 山邊
- そこに「やりがい」とか「誇り」が、
あるのかないのかと言ったら、
簡単に言い切れないと思ったんです。 - 明確な結論は、出ていないんですが。
- ──
- これ、いまの話に関係あるかどうか
わからないんですけどね。
- 山邊
- ええ。
- ──
- コロナの件で中止になったんだけど、
ぼくも「はたらきたい展」という、
「はたらく」を主題にした展覧会を、
4月の頭まで、準備してたんです。
- 山邊
- はい、はい。
- ──
- メインの展示は、読者から集まった
「はたらく」への悩みや疑問に、
33名の著名な人に答えていただく、
というものでした。 - で、その33回の取材を通じて
「はたらく」とか「仕事」について、
「これである!」というような、
絶対的で、明確な答えが
見つかったってことは、ま、なくて。
- 山邊
- ええ。
- ──
- それどころか、33の「答え」には、
一貫性とか法則性はないし、
たがいに「矛盾」していたりもする。 - でも唯一、共通してたことがあって。
- 山邊
- なんですか。
- ──
- 全員が「はたらく」について、
一生懸命、真剣に答えてくれたこと。
- 山邊
- ああ‥‥。
- ──
- 読者からの「悩み、質問」に対して、
誰もが、冷笑的になったり、
はぐらかしたり茶化したりしないで、
全員が全員、
一生懸命に答えてくれたんですよね。 - 自分は、そのことにまず感動したし、
はたらくって、
そういうとこあるなと思ったんです。
- 山邊
- あぁ、あぁ、いいなあ。
本当にいいです。そういうお話って。 - ここしばらくずっと部屋にこもって
悶々と鬱々と考えていたけど、
やっぱり、いちばん関心があるのは、
「はたらく」なんだと、
ここ数日で、思えてきていたんです。
- ──
- おおー、いいじゃない。
こういう生活にも「利点」はあった。
- 山邊
- 少し、視界がひらけていたんです。
「はたらく」って、おもしろい。
自分は「はたらく」を考え続けたい。 - フラフラしていても、
最後には、
はたらくというところに関心が戻る。
- ──
- うん。
- 山邊
- 具体的なテーマは見えていませんが、
そのことだけはわかった気がします。
- ──
- でも、考えるのを辞めなければね。
- 山邊
- はい、「はたらく」のどこに注目して、
どういう景色を見たいのか‥‥
1年くらい、かかるかもしれないけど。
- ──
- 年上のえらそうな感じですみませんが、
期待してますね。
- 山邊
- はい、ありがとうございます!
(つづきます)
2020-05-14-THU