こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 池田さんにはじめてお会いしたのは、
3年くらい前でした。
- 池田
- 金沢でしたね。
- ──
- はい、金沢21世紀美術館です。
大作『誕生』を拝見しました。 - あのときもそうだったと思いますけど、
今回も、アメリカのマディソンで、
新しい作品に向かわれてらっしゃると。
- 池田
- ええ、前回はチェゼンミュージアムで、
滞在制作していましたが、
今回は、同じマディソン市内の
超巨大なIT企業の一室をお借りして、
絵を描かせていただいています。
- ──
- また、制作風景を公開していたり?
- 池田
- そうですね、週に一度。
前回より大きな作品を描いています。
- ──
- わあ、『誕生』より大きいんですか!
具体的には、どれくらい‥‥。
- 池田
- 3メートルかける6メートルかな。
- ──
- ひゃあ。それをまた細いペン一本で。
- 前回は3年3ヶ月もの歳月をかけて
完成させたわけですが、
今回は、じゃあ、どれくらいですか。
- 池田
- そうですね、まあ‥‥
前回以上にかかるのは確実ですよね。 - できるだけ早めに終わらせたいとは、
もちろん、思ってますけど。
- ──
- いまから数年あとを見据えながら、
一日に「拳ひとつ分」くらいの面積しか
進まない仕事を続けるって、
その時間感覚が、すごいと思います。 - 何かテーマは、決まっているんですか。
描こうと思っているもの、とか。
- 池田
- もともと海を描いてみたいなあとは、
思っていたので、それで。 - ただし、海をどう描くかについては、
まだ、わかりません。
描きながら変化していくでしょうし。
- ──
- いま、どれぐらいの「面積」が
埋まってるんですか、画面のうちで。
- 池田
- 「3メートルかける6メートル」の
キャンバスは、
ぜんぶで6枚のパネルでできていて、
そのうち、
1枚めと2枚めの下「4分の1」が、
つながりはじめた感じですね。
- ──
- なるほど‥‥っていうか、
そもそも、
いま制作現場へは行けてるんですか。
- 池田
- それが、ぜんぜん通えてないんです。
外出禁止なんで。 - もう1カ月以上、ストップしてます。
- ──
- そうか‥‥そうですよね。それは。
- 池田
- しかも、このコロナの騒動の直前に、
家族全員で日本に帰っていて、
ぼくだけ、
ひと足先に戻ってきていたんですね。 - で、そのタイミングで、
こんな状況になってしまったんです。
- ──
- つまり‥‥。
- 池田
- 家族全員、日本に残っているんです。
- ──
- じゃ、奥さまとお子さんと離れ離れ。
- 池田
- はい。ひとり暮らしなんです。いま。
- 家族とは毎日skypeしてるんですが、
家族以外の人としゃべるのは、
だから、
めちゃくちゃ久々なんですよ(笑)。
- ──
- なんと、そうだったんですか。
- 出勤停止になっている人も
「リモートワーク」というかたちで
家で仕事している昨今ですが、
池田さんは、家にはずっといるけど、
お仕事もできない、ご家族もいない。
- 池田
- ええ。
- ──
- この間、どうされていたんですか。
ご自宅に、ひとりでこもりながら。
- 池田
- 世界が止まっちゃっているわけだし、
自分だけあせっても仕方ないので、
起きて活動している時間の
「3分の1」くらいを使って、
ちいさな作品を描いたりですとか、
実験みたいな気持ちで、
新しい技法をためしたりしています。
- ──
- 美術のことに、取り組まれていると。
- 池田
- で、のこりの「3分の2」の時間で、
自宅の壁を塗ったり、
地下室に
クライミングウォールを設置したり、
子どものベンチをつくったり、
子どもの遊び場を整えたり、
畑を広げたり、新しい苗を植えたり。
- ──
- おお。DIY的な。
- 池田
- そう。いずれ家族が帰ってきたとき、
それまでよりも、
快適な家にしておきたいなと思って。
- ──
- 楽しそうですね、そういう作業って。
- ご家族と離れて寂しいということは、
あると思いますけど。
- 池田
- DIYは、めっちゃ楽しいですよね。
- アメリカの人たちって、
とにかく、
何でも「自分でやる」という考えが
根付いているんです。
- ──
- ええ、そんな感じしますね。
- 池田
- ホームセンターへ行っても、
木材や工具などが、
安い値段で種類豊富に充実してるし、
車だって、自分で修理するんです。 - みんな何かつくってるんです、常に。
- ──
- 池田さんにピッタリな環境ですね。
- 池田
- で、やっぱり子どものベンチとかでも、
自分でつくったものって、
ものすごく「愛着」が湧くんですよ。
- ──
- いまは、何でもネットで売っていて、
こういう時期はとくに、
便利でありがたいですけど、
愛着という意味では、そうですよね。 - ポチッとクリックで買ったものより、
自分でつくったもののほうが、断然。
- 池田
- そういう喜びに目覚めつつあります。
- いまはけっこう特殊な日々ですけど、
なんであれ、
つくる時間がたっぷりあることって、
幸せだなあと思ってます。
- ──
- でも、そうやって、
メインの制作から半ば強引に離れて、
しかも、ひとりで暮らしていると、
頭の中では、
どんなことを考えていたりしますか。
- 池田
- そうですね‥‥
1か月こういう生活をして思うのは。
- ──
- ええ。
- 池田
- 毎日とか、人生というものは、
同じことの繰り返しなんだなあって。
- ──
- なるほど。
- 池田
- 朝、起きたらごはんをつくって食べ、
3時間くらい動いたら、
お腹がすいてきて、
お昼ごはんをつくって食べ、
で、また3、4時間くらい動いたら、
またお腹がすいてくるんで、
夕ごはんをつくって、食べ。
- ──
- はい。
- 池田
- で、しばらくしたら眠くなってきて、
寝て、数時間後にまた起きて、
朝ごはんをつくって食べ、
3時間くらい動いたら、
昼ごはんを食べ、またしばらく動き、
お腹がすいて、夕ごはんを食べ‥‥。
- ──
- ええ、ええ。
- 池田
- 食べて動いて、また食べて動いたら、
また食べて、眠くなって寝る。 - 人生というものは、
その繰り返しだったんだってことが、
よくわかったというか。
- ──
- いやあ、本当にそうだと思います。
- こうやって家での生活をしていると、
「食べる」と「寝る」とに
いかに、
自分たちの人生の時間を使ってるか、
よくわかりました。ぼくも。
- 池田
- 1日という便宜的な区切りの境界が、
あいまいになっていく感じ。 - 太陽がのぼったら、
新しい1日がはじまるなんてことは、
人間の都合でしかないんだ、って。
- ──
- たしかに。
- 池田
- そうじゃなくて、
人生ってもっともっと単純なことで、
何時間か動いたら充電が切れて、
食事や睡眠でチャージして、
また動き出す‥‥
そういうことだったんだと思います。
- ──
- うん、うん。
- 池田
- それを繰り返していくのが人生だと
思ったし、
しかもそれは人間だけじゃなく、
動物も、植物も、
そこらへんの「物体」でさえも、
基本的に同じなんだなあという感覚。 - そして、与えられた時間が終われば、
消えていくんだ‥‥という。
- ──
- この「繰り返し」の先に、
「終わり」が横たわってるんだなと、
その感覚、とてもわかります。
- 池田
- いままで、そんなこと、
あんまり思ったことはなかったけど。
- ──
- それというのは、池田さんとしては、
ポジティブな感覚ですか。 - それとも、ネガティブな感覚ですか。
- 池田
- どっちでもないです。
- 感情などは入り込む余地のない、
ただの「宿命」みたいな感覚ですね。
- ──
- ただの、単なる事実。
- 池田
- この地球上に存在しているものなら、
人間だろうが、動物だろうが、
木だろうが、花だろうが、
機械だろうが、みんな同じように、
しばらくモゾモゾ動いたら、
そのうちに
壊れて消滅するんだろうなっていう、
「そりゃそうだよな」
みたいな、そういう感じに近いです。
- ──
- うれしいだとか、悲しいだとかとは、
まったく別のこととして。
- 池田
- はい。
- ──
- この、妙に静かな毎日で深まった
池田さんのその感覚って、
何だか、どこか、
池田さんの作品にも通じるような。
- 池田
- あ、そうですか。
- ──
- いや、すみません。何となくですが。
- でも、ぼくたちは、
その繰り返しの「すき間」というか、
寝ると食べる以外の余力を使って、
泣いたり、よろこんだり、怒ったり、
遊んだり、仕事したり、
サボったりしていたんだなあ‥‥と。
- 池田
- ええ。
- ──
- 食べると寝るの間で、
何かえらいノーベル賞を獲ったり、
世界記録を出したり、
宇宙へ巨大ロケットを飛ばしたり、
こういう
ビデオ通話の仕組みを発明したり。
- 池田
- うん、いつか消えてなくなるまで。
- ──
- 絵を描くのも、同じでしょうか。
- 池田
- そうなんでしょうね、きっと。
(つづきます)
2020-05-15-FRI