こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 昨年の12月、長崎の海岸で
インタビューさせていただいたときは、
この3月から5月にかけて、
本番の半分の
9メートルの大きさの船をつくって
テスト航海する‥‥と、
ジンさん、おっしゃってましたよね。
- ジン
- ええ、そのための準備を進めていて、
組み立てる場所も確保したし、
ボランティアの人たちも、
集まってきてくれていたんですけど。
- ──
- はい。
- ジン
- さあ、葦を束ねようという段階で、
「3日後、サンフランシスコが閉鎖」
というニュースが流れてきまして。 - そこで、計画をいったん中断して、
葦をコンテナに保管して、
大急ぎで日本へ帰ってきたんです。
- ──
- それが、3月半ばくらい?
- ジン
- ええ。
- ──
- それは、残念でしたね‥‥。
- ジン
- ただ、もし、つくりはじめていたら、
もっと困ったことになってました。 - つくりかけの葦船を、
途中で放り出さなきゃならないから。
- ──
- つまり「不幸中の幸いだった」と?
- ジン
- そうですね。
滞りなく日本に帰ってこれましたし。 - 絶好のタイミングで、
待機の状態に入れたかなと思います。
- ──
- 絶好のタイミング。
- ジン
- うん。
- ──
- あの、スケール感はちがうんですけど、
ぼくたちも、いくつか
準備していたイベントがなくなったり。
- ジン
- ああ、そうですか。
- ──
- そういう人って、
世界中にたくさんいると思うんですが、
やっぱり、ガクッとくるんです。
- ジン
- そうですよね。
- ──
- ジンさん、そのあたりは、どうでしたか。
- 今回のプロジェクトって、
だってもう、20年くらい構想してきて、
ようやく今年、
テスト航海までこぎつけたわけですよね。
- ジン
- いやあ、はい、もうね‥‥。
- ──
- 率直なお気持ちとしては。
- ジン
- みなさんが、ガクッとくるって気持ちは、
すごく理解できるんですけど、
葦船の場合は、
自然まかせ、風まかせ、潮まかせなので。
- ──
- ああーーー‥‥‥‥‥‥そうかあ(笑)。
- ジン
- うん。待つってことに関しては、
おかげさまで、慣れっこなんです(笑)。
- ──
- そうか、そうか‥‥そうでした。
- 待つどころか、風の具合で、
200キロくらい押し戻されたりとかも、
ありましたよね、たしか。
- ジン
- ありましたねえ(笑)。
- 実際に、何年も待った計画もありますし、
今回の延期についても、
「ああ、また、風向きが変わったんだな」
というくらいの感覚ですね。
- ──
- この場合は「世の中の風向き」が。
- ジン
- そう。ですから、
「うん、いまじゃないんだな」というか、
「その時期が来るのを待とう」
というふうに、いまは受け止めています。
- ──
- はー‥‥‥ジンさん、すごいなあ。
- あの、「待つ」ときの「コツ」というか、
心がまえというか、
どんな気持ちでいるといいみたいなこと、
何か、あったりしますか。
- ジン
- くらべない‥‥ということは、
ひとつ、すごく大事だと思っていますね。
- ──
- くらべない。何と、くらべない?
- ジン
- 平時とくらべない。
過去とくらべない。
未来とくらべない。 - とにかく「現在」と何かを、くらべない。
目の前の「現在」を、見つめる。
- ──
- その日の風を帆に受けて進める距離がある、
みたいなことですかね。
- ジン
- そうそう、そんな感じです。
- とくに、いまの生活って、
船の上にいる状態と似てると思うんです。
- ──
- 隔離された空間にいる‥‥という点で。
そうか、なるほど。
- ジン
- ぼくらは、いったん航海へ出てしまったら、
陸のことを「忘れる」というか、
あんまり気にしないようにしているんです。 - 陸上ではできること‥‥つまり、
肉が食べたいとか、友だちと遊びたいとか、
彼女に会いたいとか、映画を観たいとか、
船の上ではできないんですよ。ことごとく。
- ──
- ええ、そうですよね。
- ジン
- そういった状況で、
陸上と同じ欲望を満たしたいと望んでも、
ストレスにしかならない。
- ──
- なるほど。
- ジン
- ですから、過去とか未来とか平時とか
陸の生活とかと「くらべず」に、
「いま、自分の目の前にある生活」に、
フォーカスすることだと思います。 - 毎日毎日に「集中する」というのかな。
- ──
- 毎日毎日に、集中する。なるほど‥‥。
- あんまり外出しない生活を送ってると、
ぼくらは、生きるために、どれだけ
「食べる」と「寝る」に
時間を割いているかがわかったんです。
- ジン
- うん、うん。そうですよね。
- ──
- その合間の時間で、余った力を使って、
仕事をしたり、喧嘩したり、笑ったり、
本を読んだり、遊んだりしてるけど、
ほっとくと、
だいたい同じ日が過ぎていくんですね。
- ジン
- うん。船の上でもそうですよ。
- ──
- でも「集中する」という意識があれば、
変わり映えしない日々も、
前向きに過ごしていける気がしました。
- ジン
- そうなんですよね。
- 目の前の現実や暮らしに集中すれば、
気持ちも積極的になるし、
そうすると、
変わり映えしない日々にも、
「楽しみ」が必ず見い出せると思う。
- ──
- ああ、なるほど。船上のご経験からも。
- ジン
- うん。いま、目のまえにあるものでも、
それをじっと見つめ直せば、
人間は、じゅうぶんに楽しめると思う。 - それだけの想像力とか創造力が、
ぼくらには、備わっていると思います。
- ──
- 閉鎖空間のスペシャリストが
プラのスプーンの裏っ側を黒く塗って、
オセロの石をつくって
遊んでいるようすを見たんですけど。
- ジン
- うん、うん。
- ──
- 生活の工夫、暮らしの知恵というのは、
なんとか、どうにかして、
楽しみを見出すってことですもんね。
- ジン
- そう、とくにいまは、
世界が同時に「この状態」なわけだし、
いまだからできること、
いましかできないこと、
それは絶対に、あると思うんですよ。
- ──
- ああ‥‥ネット上で演劇をやるなんて、
たぶんきっと、
こういう状況ならではの試みですよね。
- ジン
- そうそう。
コロナを、ある意味、逆手に取ってね。
- ──
- はい。さーて今日はどうしてやろうか、
くらいの気持ちで。 - 不安とか恐怖みたいなものについては、
ジンさんは、どう思ってますか。
- ジン
- まず第一に、
自分だけは大丈夫だと、思わないこと。
- ──
- おお。希望的観測を捨てる。
根拠のないポジティブ思考に陥らない。
- ジン
- やれることはすべてやったうえで、
冒険の旅に出るのが、
ぼくたちの「常」なんですけどね。
- ──
- ええ。
- ジン
- いまで言えば、ウィルスにうつらない、
ウィルスをうつさない、
そのためには、
人には、なるべく会わないようにする。 - マスクをする、混雑を避ける、
こまめに手を洗う、忘れずに消毒する。
- ──
- いま、ぼくたちに「できること」って、
そういうことですものね。
- ジン
- と、同時に、相反する言い方ですけど、
怖がりすぎないことも重要。 - なぜなら、動けなくなってしまうから。
- ──
- なるほど。
- ジン
- 船の上でもそうですけど、
両者の間の「バランス」を意識して、
「適切な恐怖感」を身につけることが、
大事だと思っています。
- ──
- 感染を広げないために、
一人一人がやるべきことをやりながら、
怖がりすぎないこと。
- ジン
- ええ。
- ──
- それが、「適切な恐怖感を持つ」こと。
- 以前、同じようなことを、
チリにいる天文学者の阪本成一先生も、
おっしゃっていました。
- ジン
- ああ、そうですか。
- ──
- 小惑星探査機「はやぶさ」をはじめ、
宇宙の装置を開発する際は、
「希望的観測」をすべて捨てて、
不具合の可能性を、
熱くならず、冷徹に見極めるんだと。
- ジン
- うん、うん。わかります。
- ──
- でも、やっぱり、
危険や恐怖のにおいを嗅ぎつける力は、
ジンさん、
きっと、ほかの人より優れてますよね。 - だって世界の海や砂漠で冒険しながら、
危機を乗り切ってきたわけだし。
- ジン
- いやぁ、そうかなぁ。
能力的には変わらないと思いますよ。
- ──
- え、そうなんでしょうかね。
- ジン
- うん、そう思います。
- 危険を目の前にした回数が多いぶん、
自分のことや、
自分のまわりのことを、
よく見つめるクセがついてるだけで。
- ──
- なるほど。やっぱり大事なのは
「自分自身」や「目の前のこと」に、
集中するってことなんですね。
- ジン
- そうじゃないかな。平常心でね。
- ──
- じゃ、そうやって、ジンさんはいま、
言ってみれば、
いい風が吹いてくるのを待っている。
- ジン
- そうですね。待ってます。
- 待つ間にも、
新しいアイデアを取り入れた
設計図のような、
太平洋航海の1/20サイズの模型を
つくったり。
- ──
- なるほど。
- ジン
- 考古学や人類学のレポートを書いて、
研究機関の人たちと
共同研究できないかと考えていたり。 - そういうことを、しています。
- ──
- いつかはじまる冒険を、
より豊かにしてくれるような活動を。
- ジン
- はい、そのことに集中しています。
(つづきます)
2020-05-17-SUN