こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- えっ、まだ雪が残ってるんですか。
- 岩佐
- いまぼくは、里山十帖から少し離れた
銀山平というところにいるんです。 - 今年の春から、
この銀山平に古くからある民宿2軒を
引き継ぐことになって、
今日は、そこで仕事をしておりまして。
- ──
- わあ、そうなんですか。銀山平にも。
- 南魚沼にある里山十帖をはじめとして、
箱根には箱根本箱があり、
松本のほうにも、お宿ができますよね。
- 岩佐
- ええ、松本は、いままさに工事中です。
この先、オープンを控えてます。 - ここ銀山平の宿も、
この夏のオープンを目指してるんです。
- ──
- そんなに手掛けてらっしゃるんですか。
- 岩佐
- 大津には、
町家を改修した「講 大津百町」が
ありますし、
もう一軒、里山十帖のすぐ近くに
一棟貸しの古民家ホテルを建設中です。 - なので、
いま、ぜんぶで‥‥6軒になりますね。
- ──
- わあ、そうだったんですか。すごい。
- 今回のこの企画では、
宿泊施設の方にお話をうかがうのは、
はじめてなんですけど、
お宿って、
最も影響を受けている業種のひとつ、
ですよね。
- 岩佐
- そうだと思います。
- ここ銀山平は、まだ雪がありますが、
里山十帖のあたりは、
もえるような新緑の季節なんですね。
- ──
- きれいなんでしょうね、きっと。
- 岩佐
- それはもう、本当に。
- いま、ウグイスが鳴きましたけれど、
つまり、このあたりにも、
いつもの年と、なんら変わりのない、
わくわくするような、
春の季節が、やってきているんです。
- ──
- ええ。
- 岩佐
- それなのに、売上は、ゼロに近い状態。
- 季節はめぐり、新しい生命は芽生えて、
時計も動いているのに、
経済活動だけが、ストップしています。
- ──
- 里山十帖といえば
ずいぶん先まで予約が取れないお宿で、
知られていたと思うのですが。
- 岩佐
- いまは、閑散としていますね。
- ──
- それでも、お宿は開けているんですね。
お客さんがいつ来ても、いいように。
- 岩佐
- はい。
- ──
- お掃除もして、お料理の仕込みもして。
おふろをあたためて。 - いや、すごいことだなあと思いました。
- 岩佐
- でも、本来的には、
宿泊業って、そういう職業なんですよ。 - ぼくは、もともと、
宿屋をやってたわけじゃないんですが。
- ──
- もとデザイナーさんであり、
雑誌『自遊人』の創刊をされた人です。
- 岩佐
- いまから6年前に、
宿をメディアにすることはできないか、
そう思って里山十帖をはじめたとき、
日本全国のお宿の諸先輩方から、
宿屋の基本を教えていただいたんです。
- ──
- ああ、そうなんですか。
- 岩佐
- 宿屋の成り立ちというのは、こうだと。
- ようするに、
昔は、日本中を旅する人がつねにいて、
その人たちが
この先も旅を続けていけるように、
お部屋やおふとんをお貸しして、
あたたかいごはんを、お出ししてきた。
それが、宿屋の基本原則なんだと。
- ──
- なるほど。
- 岩佐
- 旅人がいつ来るかわからないけれども、
いつ来てもいいように、
宿屋とは、つねに開けておくものだと。 - 宿を求めてくる人がいたら、
その人を受け入れるのが宿屋なんだと。
- ──
- そういう教えを、宿泊業の先輩方から。
- 岩佐
- はい、教わっていたんです。
- ちなみに、「旅館業法」の第五条には、
伝染性の疾病に罹っていると
明らかに認められる場合などを除いて、
基本的に宿屋は、
お客さまを断ってはならないとあって。
- ──
- へええ、そうなんですか。
- 岩佐
- はい。古い法律ですが、
われわれ宿泊業の「起源」というものが、
よくわかる条文ではあります。 - いわゆる「おもてなし」という考え方も、
ここに起因するのかなと。
- ──
- つまり、
道に旅人が歩いていた時代にはとくに、
お宿とは、
人々が生きていくために必要な
「インフラ」だった‥‥ってことですね。
- 岩佐
- ですから、今回の件で、
さまざまなお客さまに対して、
われわれ宿屋は、
どう対応していったらいいのか‥‥と、
すごく考えました。
- ──
- と、言いますと。
- 岩佐
- 歴史上、日本に疫病が蔓延したことは
一度や二度ではないでしょうし、
そこまで大きくなくとも、
感染症をお持ちのお客さまは、
一定の割合で、いらっしゃいますよね。
- ──
- ええ。
- 岩佐
- つまり、宿屋を経営してきた人たちは、
そのような感染の危険性と、
つねに隣り合わせだったはずなんです。 - でも、やっぱり昔の宿泊業の人たちも、
その時代なりに、
感染症にたいしてどう対策を講じるか、
お客さまにたいしては、
どのようにして、
快適で安全な空間を用意するのかって、
知恵を絞っていたと思うんです。
- ──
- ええ、ええ。
- 岩佐
- とすれば、現代の宿屋のわたしたちも、
そこに対しては、
やっぱり、逃げちゃいけないなあって、
そんなふうに思っています。
- ──
- コロナウィルスをはじめ、
この世の中の「感染症」というものへ、
宿屋さんとして、
どのような対応策を講じるか。
- 岩佐
- 感染を広げず、日々、宿を開くには、
いったいどうしたらいいのか。 - そう考え続けながら、
現場のスタッフと議論を重ねながら、
毎日オペレーションを見直し、
お客さまへの対応も、変えています。
- ──
- オペレーションを、毎日、変えてる。
- 岩佐
- やることが、毎日「山積み」なんです。
お客さんはいないのに(笑)。 - でも、これが本来の宿屋の姿なのかな、
なんて思いながら
私もスタッフも、やっている感じです。
- ──
- オペレーションを、毎日、変えながら、
営業を続けるのって、
走りながら
フォームをチューニングしてるような。
- 岩佐
- 完全にそうです。
- 今日は、
ここにリスクがありそうだとわかった、
だから、こうしたほうがいいだとか。
- ──
- この状況で灯りを絶やさないって、
そういうことの連続、なんでしょうね。
- 岩佐
- いまは、お客さまに対しても、
可能なかぎり接触しないような対応を、
基本的には、とっているんです。 - でも、お客さまによっては、
お互い一定の距離はキープしながらも、
うちのスタッフの笑顔が見たいだとか、
そういうご要望もあるんです。
- ──
- 里山十帖って、
従業員のみなさんのホスピタリティが、
大きな魅力のひとつですものね。
- 岩佐
- そういったお気持ちに対して、
どういった方法でお応えすればいいか、
自分たちには、何ができるか。 - 毎日、考えているところです。
- ──
- 従業員のみなさんに対しては、
経営者として、
どういったことをお話されていますか。
- 岩佐
- 正直に、落ち込みが尋常じゃないので、
会社の状態は厳しいと伝えています。 - ただ、いますぐ潰れるわけでもないし、
幸いにも、金融機関さんから
心強いご支援をいただいているので、
今月や来月のお給料の心配は、
しなくも大丈夫、安心してくださいと。
- ──
- ええ、ええ。
- 岩佐
- とは言いながら、
出ている赤字が半端じゃないんですね。 - そうすると、いま、お借りしたお金を、
この先、どうやって返済していくか。
その部分に関しては、
みなさんの力と、ご協力と、お知恵を、
ぜひ貸していただきたい‥‥と。
- ──
- 日々、仕事の段取りや手順が変わるって、
現場の方にしてみれば、
きっと、すごく、大変ですよね。
- 岩佐
- でも、ぼくが何かこまごま言わずとも、
うちのスタッフは
それぞれの持場で、
どんどんオペレーションを更新してる。 - 優秀なんですよ、みんな。
なかなかね、自分とこの従業員なんで、
褒めにくいんですけど(笑)。
- ──
- いやあ、たのもしいです。
- ぼくもいちどだけお邪魔してますけど、
素敵な従業員さんたちばかりで。
- 岩佐
- あまり細かく指示しないんです、ぼく。
- というのも、ぼくよりも、
従業員のほうがお客さまに接している。
だから、お客さんとの接し方も、
自分たちで考えて、
自分たちで、変えていけるんですよね。
- ──
- こういう状況で、なるべく自分たちも
光の射してくる方へ向かって、
歩んでいきたいなと思うんですけれど。
- 岩佐
- ええ。そうですね。
- ──
- 岩佐さんは、いま希望があるとすれば、
どういうところに見い出しますか。
- 岩佐
- そうですね‥‥本音を言ってしまえば、
希望よりも、
その正反対の気持ちのほうが強いです。 - でも、それでも、希望があるとすれば。
- ──
- はい。
- 岩佐
- 自分の頭で考えて判断していくんだ、
という人が、ここ数日で、
少しずつ、
増えているような気がしていること。 - 感覚的なものなのかもしれないけど、
自分のまわりですとか、
SNSを見ていると、感じるんです。
- ──
- それは、とても大事なことですよね。
自分の頭で考える‥‥って。
- 岩佐
- 一例ですが、いま、里山十帖には
4月の頭から、もう何週間も、
ひとりで逗留してくださっている方が、
いらっしゃるんです。
- ──
- へえ‥‥。
- 岩佐
- その方は、日中は部屋でお仕事をし、
たまにテラスに出て気分転換され、
朝と晩は、
わたしたちが用意した
「毎日、ちがうお料理のお弁当」を、
お召し上がりになり。 - もともと13部屋しかない宿ですが、
いまは、ほぼお客さまがいないので、
その方おひとり、という日もあって。
- ──
- なんか、ソーシャルディスタンス。
- しかも、その環境、
お仕事も、かなりはかどりそうな。
- 岩佐
- これは、わたしの考え方で、
押し付けるつもりは毛頭ないですが、
うちに限らず、こういった場所は、
リモートオフィスとしては、
けっこう、優秀だと思うんですよね。 - そして、そういう選択も、
他の選択と同様ひとつの選択として、
みんなで
尊重できるようになったらいいなと。
- ──
- なるほど。そう思います。
- 合理的な考えや判断も、
同じように重要になってくる時期に、
今後、入っていくと思いますし。
- 岩佐
- もちろん、この大切な地域社会に、
ウィルスの感染を拡大させないよう、
十分に注意を払いながら、ですが。
- ──
- ええ。
- 岩佐
- でも、そのことも、
ずっと、旅する人を受け入れてきた
わたしたち宿屋の役目のひとつだと、
思っていますので。
いま、里山十帖を支援しようという
クラウドファンディングが立ち上がっています。
コミュニケーション・ディレクターの
佐藤尚之さんが立ち上げたもので、
1週間で目標金額を達成したようですが、
5月29日いっぱいまで、申し込めるみたいです。
ご興味のある方は、こちらのページをどうぞ。
(つづきます)
2020-05-18-MON