こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。

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第15回 いま宿屋としてできることを、日々、考え続けています。[岩佐十良さん(クリエイティブ・ディレクター/自遊人代表取締役)]

──
えっ、まだ雪が残ってるんですか。

2020年5月7日 東京都世田谷区←ZOOM→新潟県魚沼市 2020年5月7日 東京都世田谷区←ZOOM→新潟県魚沼市

岩佐
いまぼくは、里山十帖から少し離れた
銀山平というところにいるんです。
今年の春から、
この銀山平に古くからある民宿2軒を
引き継ぐことになって、
今日は、そこで仕事をしておりまして。
──
わあ、そうなんですか。銀山平にも。
南魚沼にある里山十帖をはじめとして、
箱根には箱根本箱があり、
松本のほうにも、お宿ができますよね。
岩佐
ええ、松本は、いままさに工事中です。
この先、オープンを控えてます。
ここ銀山平の宿も、
この夏のオープンを目指してるんです。
──
そんなに手掛けてらっしゃるんですか。
岩佐
大津には、
町家を改修した「講 大津百町」が
ありますし、
もう一軒、里山十帖のすぐ近くに
一棟貸しの古民家ホテルを建設中です。
なので、
いま、ぜんぶで‥‥6軒になりますね。
──
わあ、そうだったんですか。すごい。
今回のこの企画では、
宿泊施設の方にお話をうかがうのは、
はじめてなんですけど、
お宿って、
最も影響を受けている業種のひとつ、
ですよね。
岩佐
そうだと思います。
ここ銀山平は、まだ雪がありますが、
里山十帖のあたりは、
もえるような新緑の季節なんですね。
──
きれいなんでしょうね、きっと。
岩佐
それはもう、本当に。
いま、ウグイスが鳴きましたけれど、
つまり、このあたりにも、
いつもの年と、なんら変わりのない、
わくわくするような、
春の季節が、やってきているんです。
──
ええ。
岩佐
それなのに、売上は、ゼロに近い状態。
季節はめぐり、新しい生命は芽生えて、
時計も動いているのに、
経済活動だけが、ストップしています。
──
里山十帖といえば
ずいぶん先まで予約が取れないお宿で、
知られていたと思うのですが。
岩佐
いまは、閑散としていますね。
──
それでも、お宿は開けているんですね。
お客さんがいつ来ても、いいように。
岩佐
はい。
──
お掃除もして、お料理の仕込みもして。
おふろをあたためて。
いや、すごいことだなあと思いました。

岩佐
でも、本来的には、
宿泊業って、そういう職業なんですよ。
ぼくは、もともと、
宿屋をやってたわけじゃないんですが。
──
もとデザイナーさんであり、
雑誌『自遊人』の創刊をされた人です。
岩佐
いまから6年前に、
宿をメディアにすることはできないか、
そう思って里山十帖をはじめたとき、
日本全国のお宿の諸先輩方から、
宿屋の基本を教えていただいたんです。
──
ああ、そうなんですか。
岩佐
宿屋の成り立ちというのは、こうだと。
ようするに、
昔は、日本中を旅する人がつねにいて、
その人たちが
この先も旅を続けていけるように、
お部屋やおふとんをお貸しして、
あたたかいごはんを、お出ししてきた。
それが、宿屋の基本原則なんだと。
──
なるほど。
岩佐
旅人がいつ来るかわからないけれども、
いつ来てもいいように、
宿屋とは、つねに開けておくものだと。
宿を求めてくる人がいたら、
その人を受け入れるのが宿屋なんだと。
──
そういう教えを、宿泊業の先輩方から。
岩佐
はい、教わっていたんです。
ちなみに、「旅館業法」の第五条には、
伝染性の疾病に罹っていると
明らかに認められる場合などを除いて、
基本的に宿屋は、
お客さまを断ってはならないとあって。
──
へええ、そうなんですか。
岩佐
はい。古い法律ですが、
われわれ宿泊業の「起源」というものが、
よくわかる条文ではあります。
いわゆる「おもてなし」という考え方も、
ここに起因するのかなと。
──
つまり、
道に旅人が歩いていた時代にはとくに、
お宿とは、
人々が生きていくために必要な
「インフラ」だった‥‥ってことですね。
岩佐
ですから、今回の件で、
さまざまなお客さまに対して、
われわれ宿屋は、
どう対応していったらいいのか‥‥と、
すごく考えました。
──
と、言いますと。
岩佐
歴史上、日本に疫病が蔓延したことは
一度や二度ではないでしょうし、
そこまで大きくなくとも、
感染症をお持ちのお客さまは、
一定の割合で、いらっしゃいますよね。
──
ええ。
岩佐
つまり、宿屋を経営してきた人たちは、
そのような感染の危険性と、
つねに隣り合わせだったはずなんです。
でも、やっぱり昔の宿泊業の人たちも、
その時代なりに、
感染症にたいしてどう対策を講じるか、
お客さまにたいしては、
どのようにして、
快適で安全な空間を用意するのかって、
知恵を絞っていたと思うんです。
──
ええ、ええ。
岩佐
とすれば、現代の宿屋のわたしたちも、
そこに対しては、
やっぱり、逃げちゃいけないなあって、
そんなふうに思っています。
──
コロナウィルスをはじめ、
この世の中の「感染症」というものへ、
宿屋さんとして、
どのような対応策を講じるか。
岩佐
感染を広げず、日々、宿を開くには、
いったいどうしたらいいのか。
そう考え続けながら、
現場のスタッフと議論を重ねながら、
毎日オペレーションを見直し、
お客さまへの対応も、変えています。
──
オペレーションを、毎日、変えてる。
岩佐
やることが、毎日「山積み」なんです。
お客さんはいないのに(笑)。
でも、これが本来の宿屋の姿なのかな、
なんて思いながら
私もスタッフも、やっている感じです。
──
オペレーションを、毎日、変えながら、
営業を続けるのって、
走りながら
フォームをチューニングしてるような。
岩佐
完全にそうです。
今日は、
ここにリスクがありそうだとわかった、
だから、こうしたほうがいいだとか。
──
この状況で灯りを絶やさないって、
そういうことの連続、なんでしょうね。
岩佐
いまは、お客さまに対しても、
可能なかぎり接触しないような対応を、
基本的には、とっているんです。
でも、お客さまによっては、
お互い一定の距離はキープしながらも、
うちのスタッフの笑顔が見たいだとか、
そういうご要望もあるんです。
──
里山十帖って、
従業員のみなさんのホスピタリティが、
大きな魅力のひとつですものね。
岩佐
そういったお気持ちに対して、
どういった方法でお応えすればいいか、
自分たちには、何ができるか。
毎日、考えているところです。
──
従業員のみなさんに対しては、
経営者として、
どういったことをお話されていますか。
岩佐
正直に、落ち込みが尋常じゃないので、
会社の状態は厳しいと伝えています。
ただ、いますぐ潰れるわけでもないし、
幸いにも、金融機関さんから
心強いご支援をいただいているので、
今月や来月のお給料の心配は、
しなくも大丈夫、安心してくださいと。
──
ええ、ええ。
岩佐
とは言いながら、
出ている赤字が半端じゃないんですね。
そうすると、いま、お借りしたお金を、
この先、どうやって返済していくか。
その部分に関しては、
みなさんの力と、ご協力と、お知恵を、
ぜひ貸していただきたい‥‥と。
──
日々、仕事の段取りや手順が変わるって、
現場の方にしてみれば、
きっと、すごく、大変ですよね。
岩佐
でも、ぼくが何かこまごま言わずとも、
うちのスタッフは
それぞれの持場で、
どんどんオペレーションを更新してる。
優秀なんですよ、みんな。
なかなかね、自分とこの従業員なんで、
褒めにくいんですけど(笑)。
──
いやあ、たのもしいです。
ぼくもいちどだけお邪魔してますけど、
素敵な従業員さんたちばかりで。
岩佐
あまり細かく指示しないんです、ぼく。
というのも、ぼくよりも、
従業員のほうがお客さまに接している。
だから、お客さんとの接し方も、
自分たちで考えて、
自分たちで、変えていけるんですよね。
──
こういう状況で、なるべく自分たちも
光の射してくる方へ向かって、
歩んでいきたいなと思うんですけれど。
岩佐
ええ。そうですね。
──
岩佐さんは、いま希望があるとすれば、
どういうところに見い出しますか。
岩佐
そうですね‥‥本音を言ってしまえば、
希望よりも、
その正反対の気持ちのほうが強いです。
でも、それでも、希望があるとすれば。
──
はい。
岩佐
自分の頭で考えて判断していくんだ、
という人が、ここ数日で、
少しずつ、
増えているような気がしていること。
感覚的なものなのかもしれないけど、
自分のまわりですとか、
SNSを見ていると、感じるんです。
──
それは、とても大事なことですよね。
自分の頭で考える‥‥って。
岩佐
一例ですが、いま、里山十帖には
4月の頭から、もう何週間も、
ひとりで逗留してくださっている方が、
いらっしゃるんです。
──
へえ‥‥。
岩佐
その方は、日中は部屋でお仕事をし、
たまにテラスに出て気分転換され、
朝と晩は、
わたしたちが用意した
「毎日、ちがうお料理のお弁当」を、
お召し上がりになり。
もともと13部屋しかない宿ですが、
いまは、ほぼお客さまがいないので、
その方おひとり、という日もあって。
──
なんか、ソーシャルディスタンス。
しかも、その環境、
お仕事も、かなりはかどりそうな。
岩佐
これは、わたしの考え方で、
押し付けるつもりは毛頭ないですが、
うちに限らず、こういった場所は、
リモートオフィスとしては、
けっこう、優秀だと思うんですよね。
そして、そういう選択も、
他の選択と同様ひとつの選択として、
みんなで
尊重できるようになったらいいなと。
──
なるほど。そう思います。
合理的な考えや判断も、
同じように重要になってくる時期に、
今後、入っていくと思いますし。
岩佐
もちろん、この大切な地域社会に、
ウィルスの感染を拡大させないよう、
十分に注意を払いながら、ですが。
──
ええ。
岩佐
でも、そのことも、
ずっと、旅する人を受け入れてきた
わたしたち宿屋の役目のひとつだと、
思っていますので。

いま、里山十帖を支援しようという
クラウドファンディングが立ち上がっています。
コミュニケーション・ディレクターの
佐藤尚之さんが立ち上げたもので、
1週間で目標金額を達成したようですが、
5月29日いっぱいまで、申し込めるみたいです。
ご興味のある方は、こちらのページをどうぞ。

(つづきます)

2020-05-18-MON

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