こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- いまは絶賛「田植え」のシーズンですよね。
- 萩原
- そうですね、昨日でいちおう終わりました。
- この季節は、じゃがいも、里芋、ゴボウと、
他にも、いろいろあるんですけど。
- ──
- ああ、じゃ、繁忙期だ。
- 萩原
- 農業に関してはコロナはあまり関係なくて、
今の時期が、いちばん日焼けしてる(笑)。
- ──
- ヘアメイクのお仕事のほうは、どうですか。
- 萩原
- 4月の緊急事態宣言が出る前くらいまでは、
雑誌の撮影もあったんですけど、
宣言が出てからは、
アパレルのプレスもクローズしたみたいで、
一切なくなりました。 - そこから、まるまる1ヶ月くらい、
ヘアメイクの仕事は入らなかったんですが。
- ──
- ああ、そうでしたか。
- 萩原
- 昨日、1ヶ月ぶりに撮影があったんです。
- ぼく、フリーのヘアメイクになってから
20年くらい経つんですけど、
1か月まるまる仕事がないなんて経験は、
いままでなかったんで、
ちゃんとできんのかなあって心配で(笑)。
- ──
- いやいやいや(笑)。
- 萩原
- まぁ、手は覚えてました(笑)。
- ──
- 萩原さんが「二足のわらじ」になったのは、
いつでしたっけ。もう7~8年?
- 萩原
- えっと、農業をはじめて10年くらいで、
ひとりでやるようになって、8年目。
- ──
- いまは、何種類つくってるんですか。
- 萩原
- えーっと、米でしょ、人参、じゃがいも、
大根、さつまいも、里芋、長ネギ
ゴボウ、ルッコラ‥‥だから9種類。
- ──
- 萩原さんとこの畑、えらい広いですよね。
- 萩原
- 田んぼと畑で、2ヘクタールくらいです。
- ──
- 2ヘクタール‥‥って想像つかないけど。
- 萩原
- 6000坪くらいかな。
- ──
- ひゃー‥‥ろくせんつぼ。
その面積の田畑を、毎日、見てまわって。 - 萩原さんは、
お父さんのご病気が発覚したことから、
家業の農家を継いだわけですが、
最初は、どこから学んでいったんですか。
- 萩原
- 父の仕事を手伝いながら2年くらいの間、
畑で教わったことを、
ずっと、手帳に書き留めていたんですよ。
- ──
- じゃあ、それを見ながら、手さぐりで。
- 萩原
- そう、父親はガンコで几帳面だったんで、
生きているうちは、
トラクターも運転させてくれなくて。 - 主だった作業だとか機械の運転なんかは、
ぜんぶ父親の役目で、
ぼくは、草取りをやらされるばっかりで。
- ──
- なるほど。
- 萩原
- なので、父親が病気で亡くなったあとに、
その父の言葉を書いた手帳と、
近所の農業の先生みたいな方をたよりに、
少しずつ覚えていった感じです。
- ──
- 1年目とか、どうだったんですか?
- 萩原
- いやー、もう、散々でした(笑)。
- 父親と同じようにやっているつもりでも、
収穫量とか、ぜんぜんだったし。
- ──
- そうなんですか。
- 萩原
- 父親の収量が「10」とすれば、
最初の1年は、せいぜい「7」くらい。 - そもそも採れる量が少ないのに加えて、
質もよくない。
「はねだし」っていうんですけど、
形がわるくて、
製品にならないものが多く出たりして。
- ──
- それって、何がちがうんですかね。
- 素人の考えでは、
同じ畑の同じ土に、同じ種を植えたら、
同じように育つ気がするけど。
- 萩原
- そう、ぼくも、そう思ってたんですよ。
- たとえば人参なら人参で、
毎年8月5日ごろに種をまくっていう、
目安の日付がありますし。
- ──
- え、そんなきっちり決まってるんだ。
- 萩原
- 基本はね。でも、たとえ同じ時期でも、
その年その年によって、
土壌の水の量が微妙にちがったりする。 - で、水分が足りないと、
発芽率が悪くなったりしちゃうんです。
- ──
- ははあ、なるほど。
- 萩原
- そこを、父が微妙に調整してたんです。
- 8月5日前後の天気を見ながら、
ここんところ雨が降ってなかったけど、
3日後に降るみたいだから、
何日か遅れちゃうけど、
雨が降るのを待ってから蒔こう、とか。
- ──
- 実は、細かいチューニングをしていた。
- 萩原
- そうすると、みごとに発芽率がちがう。
- そういうようなことも、だんだん最近、
わかるようになってきましたね。
- ──
- 農業は天候に左右されるっていうけど、
人間のほうでも、
左右されっぱなしじゃないっていうか。
- 萩原
- だから、おもしろいですよ。
- ──
- あの‥‥そもそもですけど、
萩原さんは、
美容学校を出てヘアメイクになって、
ファッションの世界で
活躍していたわけでじゃないですか。 - そのときって、農業をやるだなんて、
夢にも思ってなかったですよね。
- 萩原
- 思ってなかったです。
- ──
- それなのに、
急に、実家の農業を継ぐことになった。 - それって、どこかの時点で、
農業という仕事が、
おもしろくなったりとかしたんですか。
- 萩原
- あ、おもしろくなったり、しました。
- はじめは、何にもわからなかったのに、
だんだん、少しずつ、
できることが増えていったりしたんで。
- ──
- なるほど。
- 萩原
- あとは、去年にくらべて、
いい野菜ができたら、うれしいですし。 - 災害や病気でダメになっちゃうことも
あるんですけど、
最近では、そういう不運も
仕方ねぇなーって、
受け入れられるようになってきました。
- ──
- 去年、萩原さんの畑のあたりって、
千葉の成田の近くとかで、
台風19号の被害、すごかったですよね。
- 萩原
- そうそう、ハウスが倒壊しちゃったり、
停電が続いて、
機械乾燥できないんで、
稲を刈りたくても刈れなかったりとか。 - 去年の米の収穫は、
たぶん、過去最低だったと思います。
- ──
- でも、そうして萩原さんが凹んでると、
お母さんが
「そういう年もあるよ」って、
さらーっとおっしゃるんだって聞いて、
そのことが、すごく印象的でした。
- 萩原
- そうそう。そうなんです(笑)。
こっちは、めっちゃ落ち込んでるのに。
- ──
- 地球や自然という、
どうしようもなく巨大なものと、
長くつきあってきた人の言葉だなあと。
- 萩原
- 最初のうちは、ムッとしましたけどね。
何でそんなに割り切れるんだって。
- ──
- もうひとつ、お母さんのエピソードで
すごく好きなのが、
「お父さんのトラクターの音とちがう」
というやつ。
- 萩原
- ああ(笑)、はい、はい。
いまは、言われてることはわかるけど。
- ──
- あ、わかるんだ。
- 萩原
- たぶん、フカシ過ぎてたんだと思う。
- ──
- トラクターのエンジンを?
- 萩原
- そう、無理させてたんですよ、機械に。
そのことを言ってたんだろうな。 - 「お父さんの音とちがう」と言うから、
「なにがどうちがうの?」と聞いても、
「わかんないけど、ちがう」って、
「何だよ!」って思ってたんですけど。
- ──
- お母さんは、
お父さんのトラクターの音を、
もう何十年も聞いてきたんですものね。
- 萩原
- うん。そりゃあ、ま、わかりますよね。
- ──
- いま、お母さんは、萩原さんのことを、
どう見てらっしゃると思いますか。 - 1人でもう8年もやってるわけですが。
- 萩原
- 結局、父親からも母親からも、
褒められたことは、一度もないんです。 - 10年やってるのに、いまだに。
- ──
- そうなんですか。
- 萩原
- でも‥‥母親は、最近では、
あんまり文句は言わなくなったかなあ。
- ──
- 萩原さんのやり方に、任せてるんですね。
- 萩原
- そうなんですかねえ。
父親は、もういないからわかんないけど。
- ──
- お父さんも、認めてくださってますよ。
- だって、萩原さんのつくってる野菜って、
ご自身でごらんになっても、
どんどん、よくなってるわけですもんね。
- 萩原
- まあ、そうですね、それは。
- ──
- 10年前の人参はこの世にないですけど、
もし仮に、
今年の人参と並べることができたら‥‥。
- 萩原
- ああ、人参に関して言うと、
土を改良して病気が出なくなったんです。 - 二股にわかれちゃったり、
よくしてたんですけど、これまでずっと。
- ──
- へえ、そうなんですか。
- 萩原
- だからね、半分本気で
「人参に関しては、父親、抜いたかな」
って言ったら、
母親は、ま、笑ってましたけど(笑)。
- ──
- でも、萩原さんのつくった人参を見たら、
お父さんもね、きっと。
- 萩原
- はじめて出来映えのいいのができたとき、
仏前にそなえたんですよ。 - 父親にも、見てもらいたいなあと思って。
- ──
- じゃ「なかなかやるな!」と。あっちで。
- 萩原
- だと、いいんですけどね。
(つづきます)
2020-05-19-TUE