こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- 瀧本さんは、外出自粛期間中に、
ご自宅で、広告の撮影をされていたって、
御社の池田さんからうかがって。
- 瀧本
- ええ、そうなんです。
- ──
- サントリーさんの「話そう。」っていう
キャンペーンで、
瀧本さんの撮影された空と雲の映像に、
俳優さんはじめ、
たくさんの著名人の方の声が、
ナレーションとして重なってくるという。
- 瀧本
- はい。
- ──
- 拝見したんですが、すごくよかったです。
- 最後、カメラが止まったときの
空と雲と太陽の光に、
言いようもなく感動しました。
- 瀧本
- ああ、そうですか。よかった。
- ──
- 自分も、こういうオンライン取材を
続けている毎日で、
「話すこと」の大切さを感じていたので。
- 瀧本
- 4月の頭くらいかな、
緊急事態宣言の出るギリギリ直前に、
最後の撮影があったんです。
- ──
- ええ。
- 瀧本
- 人数の多い撮影だったので、
終わったあと、
ねんのため自主隔離をしたんですよ。
- ──
- えっと、つまり、おひとりで、どこかに。
- 瀧本
- ええ。家族と離れて、ビジネスホテルに。
- 撮影が終わって、
ある程度の人数での仕上げが落ち着いて、
そのあと2週間くらい、
完全に人と接さないようにしていました。
- ──
- 万がいち、ウィルスに感染していた場合、
ご家庭にも持ち込まないように。
- 瀧本
- そうなんです。ずっと、こもってて。
- 何にもやることがないから、
えんえんニュースを見てるわけです。
ちょうど感染者の数が、
日に日に増えていた時期だったんで、
どうなるんだろうって、
すごく不安な気持ちになってました。
- ──
- 先行きが見えない中、ひとりきりで。
誰とも、しゃべれずに‥‥。
- 瀧本
- それで、ビジネスホテルの部屋から、
電話するようになったんです。
- ──
- ああ、ご家族や、お知り合いに。
- 瀧本
- メールでもやりとりしてたんですが、
誰かの声を聞くというのは、
やっぱり、とても安心するんですね。 - 人と話すことで「保てる」というか。
鬱々とした気分も晴れますし。
- ──
- わかります。とってもよく。
- 瀧本
- で、そういう経験をしたあとに、
久々に家へ帰ってきたタイミングで、
あのお仕事の話を、いただいて。
- ──
- え、あ、「話そう。」の。
- 瀧本
- そうなんです。
自宅で撮影できませんか‥‥って。 - で、キャンペーンの内容だったり、
メッセージを見てみたら、
まさしく、
自分が実感したことだったんです。
- ──
- 誰かと話すことで安心するという。
- 瀧本
- そう。いまのこの時期に、
ぜひ伝えたい、
大切なメッセージだと思いました。
- ──
- いや、すごいめぐりあわせですね。
- ご家族と自粛の生活をしていたら、
そこまで
「誰かと話すことで安心する」
って、切実に、
実感しなかったかもしれませんし。
- 瀧本
- たしかに、そうですね。
- で、時間はたっぷりあったから、
1週間くらいかけて、
自宅のテラスから、いい雲を狙って。
- ──
- たったひとりの広告撮影。
- 瀧本
- はい。誰とも接触することなく、
この季節の夕景を、
ずっとひとりで撮影してました。
- ──
- 撮影以前の打ち合わせなんかも、
じゃ、非接触で?
- 瀧本
- ええ。まずステートメントになるコピーが
あったんです。
「話そう。」っていうね。
- ──
- はい。
- 瀧本
- 自分の内側にこもっているものを、
人に話し、聞いてもらうことで、
気持ちは晴れるし、
ひとりっきりにならなくてすむと。 - そのメッセージが、最初にあった。
- ──
- はい。
- 瀧本
- ぼくのほうにも、人と会わないで、
家のなかで何ができるだろうって、
いろいろアイディアを考えていて。 - 監督はじめクリエイティブの方と
オンラインで話し合って、
こういうことならできるよねって。
- ──
- いちども、誰とも会わずに。
- 瀧本
- ZoomとLINEだけで。
- ──
- はぁー‥‥それで、
あんなにすばらしい作品ができた。
- 瀧本
- 撮影した映像の色合わせなんかは、
本来は、現場で、
みんなで同じモニターを見ながら
やるものなんですけど。
- ──
- ぼくもこの間、
書籍を一冊、つくったんですけど、
編集さん、デザイナーさん、
印刷所の職人さん、
みなさんプロ同士、会えないけど、
たがいの仕事を
信じ合いながら進めていく感じが、
すごいなあ、
かっこいいなあと思ってました。
- 瀧本
- うん、そういうところありますね。
- ──
- あの、こういう事態で、
家から出られなくなったりすると、
手に武器がないと言うか、
丸腰な感じになるじゃないですか。
- 瀧本
- ええ。
- ──
- 否応なく、その人の経験や技術が、
問われるようなところがあるなと。
- 瀧本
- なるほど。
- ──
- 自分の経験と技術、
それに最低限の道具しかないとき、
どういうものがつくれるか。 - あの広告を手掛けたみなさんは、
だから、瀧本さんをはじめ、
本物のプロなんだろうなと、
できたものを見れば、わかります。
- 瀧本
- ぼくたち写真家って、やっぱりね、
外へ出て、いろいろ動いて、
何か発見してとらえるってことを、
つねにやってきたと思うんです。
- ──
- ええ。
- 瀧本
- だから、外に出るなと言われると、
無力を感じてたんですよ。 - 今回は、ずっとこもっていたから、
「撮影できるよろこび」が
まずは、最初にあったんですよね。
- ──
- なるほど。
- 瀧本
- リモートって目新しいし、
ふだんやってないことだったから、
そのぶん楽しかったけど、
でも、そのうち、
だんだん寂しくなってくると思う。 - 人に会わない仕事って。
- ──
- ああ‥‥そうですね。
- 瀧本
- 結局、ぼくが、仕事を好きなのは、
人の間でやってるから、
なんじゃないかなって思いました。
- ──
- そうですよね。ぼくも同じです。
- この取材だって、
できれば、お会いしてやりたいです。
- 瀧本
- はじめて奥野さんにお会いしたのは
『LAND SPACE』という
写真集のときだったと思うんですが。
- ──
- スペースシャトルの写真と、
地球上の風景の写真からなる作品集。 - はい、めっちゃカッコいいですよね。
- 瀧本
- あ、ありがとうございます(笑)。
- でね、なんとなく思ったのは、
コロナウィルスも、
地球規模のできごとじゃないですか。
- ──
- ええ。
- 瀧本
- ぼくは専門家じゃないけど、
なんかもう、
文明とか開発のスピードが速すぎて、
動物たちの生態系や環境の破壊が、
ここ100年くらいで、
急激に、一気に、進みましたよね。 - だから、今回のコロナの感染拡大を、
自然から人類への警告だと、
受け止める人がいるのもよくわかる。
- ──
- いま、自然の方へ顔が向いている人、
取材していても、たくさんいます。
- 瀧本
- 地球や自然との接し方を、
今後、考えていかなきゃいけないと、
思うようになってますよね。
- ──
- はい。ここ1ヶ月で
30人弱の人の話を聞きましたけど、
その感じ、すごく強いですね。
- 瀧本
- ぼく、いろんな仕事で、
誰ひとり住んでいないような僻地へ、
行くことがあるんです。 - そこでボーッと景色を眺めていると、
自分の立っているこの場所も、
「ああ、天体なんだ」と思うように
なってくるんです、だんだん。
- ──
- 宇宙に浮かぶ、ひとつの星だと。
- 瀧本
- そう。そして、
ぼくたち「人間」の住んでいるのは、
その星の上のほんの一部分。 - でも、そのほんの一部分に、
一説には生物の99%以上を占める
人間と家畜が密集している。
- ──
- ええー、そうなんですか。
ごくわずかな面積に「99%」って。 - それ、仮に人体とかの話だったら、
かなりバランスを欠いた状態ですね。
- 瀧本
- 病気になっても不思議じゃないです。
- これは先日ラジオで聞いたんだけど、
この50年で、地球上の湿地帯が、
50%も、減ってしまったそうです。
- ──
- 半減。
- 瀧本
- その一方で、調べてみたら、
「200年前」の全世界の人口って
「10億人」くらいで、
「100年前」でも「16億」ほど。 - それがいまや80億人近いわけです。
- ──
- ええ。すごいな‥‥。
- 瀧本
- 地球が誕生してから46億年のうち、
この100年で、
半端じゃない速度で増えてるんです。
- ──
- 地球にしてみたら、ぼくたち人間が、
ウィルスみたいな増え方ですね。 - そりゃ、いろいろ影響が出ますよね。
- 瀧本
- だから、少なくとも、
ぼくたち人間はそのことを自覚して、
いろんなことを
考え直さなきゃならないと思うんです。
- ──
- この、いまの不思議な時間を使って。
- 瀧本
- うん。そういう機会にしてかないと。
- ──
- 雲を撮りながらも、そんなふうに?
- 瀧本
- 太陽が地平線に沈んでいくところを、
撮ってたんですよね、ぼく。毎日。
- ──
- ええ。
- 瀧本
- そしたら、どうしたって思いますよ。
地球という星のことは。
(つづきます)
2020-05-21-THU