こんにちは、ほぼ日の奥野です。
以前、インタビューさせていただいた人で、
その後ぜんぜん会っていない人に、
こんな時期だけど、
むしろZOOM等なら会えると思いました。
そこで「今、考えていること」みたいな
ゆるいテーマをいちおう決めて、
どこへ行ってもいいようなおしゃべりを
毎日、誰かと、しています。
そのうち「はじめまして」の人も
混じってきたらいいなーとも思ってます。
5月いっぱいくらいまで、続けてみますね。
- ──
- おひさしぶりです、山下さん。
いかがですか。やまなみさんの状況は。
- 山下
- コロナの影響、もちろんありますけど、
感染者の多い地域の施設にくらべたら、
日常の生活については、
さほど切羽つまったところはないです。
- ──
- ああ、そうですか。それは。
- 山下
- 入所者のみなさんの支援をするという
仕事にあたっては、
いわゆる「テレワーク」であったり、
仕事のやり方を変えるということが
当てはまらないので、
そういう意味でも、変わってないです。
- ──
- なるほど。
- 山下
- ただ、この2020年という年には、
障がいのある方々のアートの
イベントや企画が、
たくさん、予定されていたんですね。
- ──
- オリンピック・パラリンピックに、
照準を合わせるかたちで、ですよね。
- 山下
- 5月、6月、7月にも、
大きな展覧会やシンポジウムなどが、
開催されるはずでした。 - なのでぼくらも、そこをめざして
気持ちのピークを持ってきていたんですけど、
そういったものは、
一切、なくなってしまいましたね。
- ──
- やまなみさんでも、敷地内に
アートセンターを建設されたりとか。
- 山下
- 来週、開所式の予定だったんですが、
それも、しばらく延期です。 - あとは、まあ、入所者のみなさんは、
やなまみを通じて、
海水浴へ行ったり、山にのぼったり、
街へ買い物に出たりしていた、
そういう人たちばっかりなんですよ。
- ──
- ええ、ええ。なるほど。
- 山下
- 毎日のように来ていた
外からのお客さんや見学の人たちも、
いまはゼロなので、
そういった「社会との関わり」も、
一時的にですが、遮断されています。 - みんなでたのしみにしていた部分は、
いろいろ、なくなってますね。
- ──
- そうですよね、やっぱり。
- 山下
- でも、本当の豊かさみたいなことは、
こうなって、あらためて考えますね。
- ──
- どういうことですか、それは。
- 山下
- いや、これまでは、
さまざまなイベントや経験を通じて、
「豊かさ」というものを、
享受しているんだと思っていました。 - もちろん、それは、そうなんですが。
- ──
- ええ。
- 山下
- でももう3週間、4週間、1ヶ月と、
ここだけの生活をしていると、
これは無駄だったかもしれない、
これはやっぱり必要だということが、
明確になってくるんですよね。
- ──
- なるほど。
- 山下
- 勢いだけでやっていた部分と、
本質的な部分が、
わかるようになったというか。
- ──
- 本質的な部分というのは、たとえば。
- 山下
- いまは、彼らにだけ向き合う時間を、
持つことができています。 - 1日30通も40通も返信していた
メールの業務もなくなって、
身体的にも頭の中も、忙しくないし。
- ──
- うん、うん。
- 山下
- これまで、ぼくらと彼らの関係性は、
外部の人たちも加えた
「大きな社会」だったんですけれど、
外部が遮断されることによって、
毎日ダイレクトに、
彼らと向き合うことができています。
- ──
- なるほど。
- 山下
- この人、こんなことできるんだとか、
こんな表情するんだとか、
彼と話すと、
こんなにも楽しかったんだ、とかね。 - 恥ずかしながら、
そういう時間を取り戻してる感じで。
- ──
- そのことについてだけ言えば、
とっても「いいこと」なわけですね。
- 山下
- そうですね。
- ──
- 施設長は、そこに豊かさを感じてる。
- 山下
- 大切なことって、やっぱり、
現場で彼らに向き合うことなんだと
あらためて、わかりました。 - それは、何が起こっても
絶対に変わらないことだったんです。
- ──
- 逆に、入所者のみなさんのようすは、
どうですか。
- 山下
- まったくブレてないですね。
- ──
- ああ、そうですか。
- 山下
- 地球や世界がどういった状況であれ、
描きたい、つくりたい、
そこの欲求は、まったく、ブレない。 - ひとつのものに集中する力の塊だし、
さまざまな制約がある中、
日々、最大限の力を発揮しています。
- ──
- お地蔵さんの山際正巳さんなんかも。
- 山下
- はい。まったく変わらず。
- 彼らは、周囲がどんなに変わっても、
自分自身でいられる人たちでした。
- ──
- そのことが、あらためて、わかった。
- 山下
- あこがれますよね。
決して、美化するわけじゃないけど。 - ぼくも、彼らみたいに、
つねにフルボリュームで取り組める、
そういう人でありたいから。
- ──
- あの、最近、いろんな用事で
やまなみ工房のスタッフさんたちと
やりとりすることがあって。
- 山下
- ええ。
- ──
- そうすると、みなさん、なんかもう、
ホントですかってくらい、
いい人たちばっかり、なんですよね。 - これは、昨年、取材に行ったときも、
思ったことなんですけど。
- 山下
- いやいや。
- ──
- あれ、何でだと思います?
- 山下
- うーん‥‥やっぱりね、
そういうことがもしあるとするなら、
障がいのある人たちから、
「本来、こうあるべきだよね」って、
教えてもらってるんです。 - ぼくら、毎日。
- ──
- ああ‥‥。
- 山下
- 嘘偽りなく自分の意見を言う力とか、
他人のせいにしない力だとか、
受け入れる力とか、
やりたいことだけに集中する力とか。 - そういう彼らの姿を見ていると、
ぼくらも、
あんなふうになりたいと思うんです。
- ──
- なるほど。そうか。
- 山下
- いっしょにいると、
進むべき方向性が見えてくるような、
そんな気がします。
- ──
- では、従業員のみなさんは、
どんな感じで、はたらかれてますか。
- 山下
- こういう時期でも、いち職員として、
目の前にやるべきことが変わらずあります。 - でも、今は、
それらはなるべくパッと片付けて、
どうすれば
一緒に過ごす時間の中で
この人がもっとよろこぶだろうとか、
そんなことばっかりやってます。
- ──
- みなさん、原点に戻ってらっしゃる。
- 山下
- ええ、それはそれでいいことですが、
もうじき
ウズウズしてくるんじゃないかなと、
自分も含めて期待してます。 - この時間にためたパワーをつかって、
コロナが収束したあとは、
いろんなことをやっていきたいなと。
- ──
- また多忙な山下さんに戻るんですね。
- 山下
- まあ、仕事だと思ってないので、
忙しいって感覚はないんですけどね。
- ──
- でも、土曜も日曜も関係なく、
日本全国を飛びまわってましたよね。
- 山下
- 正直、自分からやまなみを引いたら、
何も残らないくらいの男なんです。 - やりたくてやってるというか、
最大で最高の「遊び」なんですよね。
- ──
- たしかに、そんな感じします(笑)。
- 山下
- だって、もともとは、
作品を展示したって誰も来なかった、
何にも認めてもらえなかった、
そういう人たちばっかりなんですよ。 - やまなみのアーティストの作品を
もっと知りたいと言って
呼んでくださるなら、
もうね、よろこんで、どこへでも。
- ──
- 施設長みずから、クルマを運転して。
- 山下
- それがぼくの役割であり、
ポジションなんだろうと思ってます。 - ぼくには「地蔵」はつくれませんし、
よろこばれる絵も描けないし、
細かい刺繍だってできないけれども。
- ──
- ええ。
- 山下
- 彼らの作品をクルマに積んで、
日本全国どこへでも運んでいって、
一生懸命しゃべって、
紹介して、伝えることはできます。 - それが、ぼくの唯一の特技であり、
役割なんだと思ってます。
- ──
- で、向いてますよね、その役。
- 山下
- それがあるから、
やまなみに混ぜてもらえてるって、
思っています(笑)。 - 絵も、刺繍も、お地蔵さんも、
映画も、洋服も、
はやくクルマに積み込んで、
まだ出会ったことのない人たちに、
見せにいきたいです。
- ──
- アートセンターも、楽しみです。
- 山下
- 秋くらいに仕切り直しですかね。
- 入所者のみなさんの
制作環境をよくすることに加えて、
もっとたくさんの人が、
遊びに来たり、意味なく寄ったり、
元気になったりしてもらえたら。
- ──
- そういう気持ちで、つくった。
- 山下
- はい。もっともっと、
会いたい人に会えるんじゃないか。 - そんな思いを込めた場所なんです。
(つづきます)
2020-05-22-FRI