NHK『みんなで筋肉体操』の先生、
谷本道哉さんに、筋肉視点からの
「老い」の話を教えてもらいました。
筋トレをすることで若くいられますか?
ずっと元気に暮らすために役立つ運動は?
筋肉は何歳くらいまで育っていく?
かっこよく鍛えている先生が語る
前向きなお話に、やる気がわいてきます。
基本のスクワットも教えていただいたので、
みなさん、もう、今日からやりましょう。
迷ったら「やるか、すぐやるか」ですよ。
谷本道哉(たにもと・みちや)
順天堂大学スポーツ健康科学部教授。
専門は筋生理学、身体運動科学。
大阪大学工学部卒。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。
博士(学術)。
国立健康・栄養研究所 特別研究員、
東京大学 学術研究員、順天堂大学 博士研究員、
近畿大学講師等を経て現職。
NHK「みんなで筋肉体操」「あさイチ」
「所さん!大変ですよ」「ホンマでっか!?TV」、
テレビ朝日「モーニングショー」など、
メディア出演多数。
2024年7月現在、
NHK「おはSPO筋肉体操 (おはよう日本)」
などに出演中。
全世代へ向けて、運動の効果を
わかりやすく解説している。
『スポーツ科学の教科書』(岩波書店)
『アスリートのための
筋力トレーニングバイブル』(ナツメ社)
など、著書多数。
4
スクワットで若く。ああ、この感覚がたまらない。
- ──
- いつまでも歩けたり、不自由なく
日常生活を送れる体をキープするためには、
どういった運動をしておくといいでしょうか?
- 谷本
- それは圧倒的にスクワットですね。
足の筋肉って、年齢が上がるとすごく落ちるんです。
特に、腿の前側とお尻から落ちていくんですけど、
その筋肉はスクワットでつけられますから。 - だからうちの母親とは
「毎日スクワットをして、やったらぼくにLINEを送る」
という決まりにしていますね。
- ──
- わぁ、いいですね。
- 谷本
- 筋トレは週2~3回がいいとか言われてますけど、
「そんな激しくやらない場合は毎日がいちばんいい」
という報告もあって、うちの母親だと、
そんな完全に追い込みきるって厳しいので(笑)。 - だから毎日、
「しっかり丁寧に奥深くしゃがむ」のを10回。
そのあと
「しゃがんでからできるだけ速く立つ」のを、
プラス5回。
それをやったら報告のLINEをぼくに送るという
ルールにしてるんです。
- ──
- よかったら、そのスクワットのやりかたを、
実際に教えていただいてもいいですか?
- 谷本
- はい。じゃあ、みんなでやりましょうか。
糸井さんもみなさんも、ぜひ。 - スクワットの方法っていろいろありますけど、
標準的なのは、まず、肩幅ぐらいで立ちます。 - そこから、普段しゃがんで立つのと
同じ動作でいいんですが、
奥深くしゃがみたいのでちょっとだけ工夫します。
つま先を少し外に開いてください。
このほうが股関節を大きく折りたためますから。 - 手はどこでもいいですけど、
邪魔にならないように目の前。
ピシッと背筋を伸ばして、背中を丸める動きは使わずに、
足の力でしゃがんで立ちます。 - 後ろにある椅子に腰かける場合って、
少し前傾して、お尻を後ろに突き出しますよね?
それと同じで、お尻を後ろに
突き出すようなかたちでしゃがみます。
- ではやってみましょう。
- はい、奥深く、奥深く‥‥そうそう。
もうちょっと深く、もうちょっと深く。
ここまでしっかりしゃがんで、
それから立ちます。 - 高齢の方できつい場合は、
上がるときに膝を手で押したり、
テーブルに手を置いたりしてもいいですよ。
そうすると楽にできますから。 - だけど今日いらっしゃるかたは、
おそらくラクラクですよね。
じゃあ、ちょっとご褒美をさしあげます。
- 会場
- (笑)
- 谷本
- これはスロートレーニングのやり方ですけど、
いまと同じように少し前傾して、
奥深く、しっかりしゃがんでいただいたら‥‥。 - ここから立ち上がってきて、
完全に立ち上がりきらずに‥‥またしゃがみます。
上まで来て、立ち上がりきらずに
‥‥しゃがみます。 - こんなふうに、力を入れっぱなしで、
途中で力を抜くことなく動作を続けていると、
だんだん腿がパンパンになってきますよね。
張ってきましたか?
- ──
- 張ってきました!
- 谷本
- いまこれ、乳酸が出てるんですね。
乳酸が出ると、浸透圧の関係で水膨れして、
腿が張ってくる。 - このやり方だったら10回、15回ぐらいでも
けっこうくると思います。
糸井さんどうでしょう?
- 糸井
- きついです(笑)。
- 谷本
- きついと思います。
いま5回ぐらいですか。
あとどのくらいやりましょう。
- 糸井
- あと5秒(笑)。
- 谷本
- はい、じゃあ、あと5回しかできません!
はい、楽しく立つー!
嬉しくしゃがむ。
はい、あと4回しかできません。
腿がパンパンになってきましたか。 - はい、この感覚が気持ちいいー!
はい、この感覚がたまらないー!
- 全員
- (笑)
- 谷本
- はい、腿が張ってるということは、
ちゃんと筋トレになってるということですよ。
最後にもう1回しましょうか。 - はい、ありがとうございます。
腿が張ってきましたね。
- 糸井
- パンパンになりました(笑)。
- 谷本
- ちょっとややこしい話ですけど、
筋肉には「速筋」と「遅筋」ってあって、
瞬発的な力を発揮できるのが「速筋」です。
これ、普段なかなか使われないんですよ。 - だけどいまぐらいの運動になると使われはじめて、
速筋は乳酸をたくさん出しますから、
張ってくる。
筋肉が張るということは、
速筋がしっかり使われてるということなんで
「あ、腿が張ってる! 速筋が使われたんだな。
筋トレになったんだな」と思いながら
やっていただけるといいと思います。
- ──
- さっきおっしゃられていた、
お母さまがされている
「10回スクワットをやった後に、5回プラスする」
というのは、どういうやりかたですか?
- 谷本
- 筋トレ方法のアレンジですけど、
いまのスクワットの動きにプラスアルファで、
ゆっくり深くしゃがんでから、
できるだけ速くパッと立つんです。 - 一緒にいるときは、ぼくが
「はいっ!」って言ったらパッと立つ。
できるだけ速く立つと、
負荷の大小に関わらず全力を出すことになるので、
すごく速筋を使うんです。
- ──
- ゆっくり下ろして、速く立つ。
- 谷本
- そうですね。
下ろす動作はゆっくりやるほうがきつくて、
上げる動作は速いほうがきついんです。
だから、そのかたちで
しっかり刺激を与えるわけです。 - うちの母も、前はなかなか報告のLINEを
送って来なかったんですけど、
最近すごく真剣にやっていて、
よく送ってくるようになりました。
いま80歳で、これまでサボりながらもやってたんで、
わりと足腰の強さを維持できてましたけど、
たぶん、衰えをちょっと感じ出したのかなと。 - まぁ、弱くなる前にやっていてもらえると
もっとよかったんですけど(笑)、
子どもの言うことって聞かないみたいですね。
「あんた言ってるのは、ほんと正しいの?」
とか言ってますよ。
「そんな無責任な情報を発信してるわけ
ないじゃないか」って言うんですけど。
- ──
- ほかにお母さまに、なにか体調面で
アドバイスされてることってありますか?
- 谷本
- 基本はスクワットで、それ以外だと、
あとは個別の話なんですよね。
うちの母の場合だと最近は「梨状筋症候群」って、
お尻の横の筋肉がこわばって、
骨盤の出口のところで坐骨神経が挟まって、
痛くなるというのがあるんです。 - そこをほぐしてあげるといいので、
ちょうど昨日も実家でいろいろみて 、
ストレッチの仕方をレクチャーしてきました。 - だから「ストレッチやったよ」のほかに、
「スクワットやったよ」という
2種類のスタンプが必要になりましたね。
どのぐらいやってくれるかわかんないですけど。 - 昨日は「やるよ」ってLINEが来ましたけど、
それはちょっとよくないですよね(笑)。
「やったよ」がいいです。 - 講演の後とかも「明日からやります」って
言いに来てくれる人がいるんですけど、
「明日からやります」と言う人は、
明日も同じこと言うかもしれない。
「今日からやります」にしてほしいかな。
- ──
- 運動の習慣がない人に運動してもらうための
いい方法ってありますか?
- 谷本
- みんなに共通しておすすめなのはスクワットなので、
まずは「スクワットがいいですよ」とは
言ってますけれども。 - あとは、本人がやって楽しいことをするのが
いちばんなので
「自分が好きにできる運動を見つけたら?」
という話は、いろんな場面でしてますね。 - もちろん好きな運動が必ずしも
その人に必要な運動とは限らないですけど、
まずは続けるのが大事という意味では、
楽しくできるものを見つけるのはいいかなと。 - あとはみなさん、食わず嫌いじゃないですけど、
やる前から「自分にはできない」と
考えてしまってやらない方も多いんですね。
だから「まず一回やってみて、
そのときどう感じるかで考えてもいいのでは」
という話もよくします。 - やっぱりストレッチとか、やったら気持ちがいいし、
筋トレもホルモン応答がいいんで、
ちょっとやっただけでも、
わりとやる気が出てきたりしますから。
- ──
- たしかにいま、さっきのスクワットで
使った筋肉が温かくなってるんですけど、
これ、いいですね。
- 谷本
- いいでしょう? わかりますよね。
糸井さんもいかがでしょう、腿張ってる感じ。
- 糸井
- いい感じです。
- 谷本
- そこに幸せを感じられると。
- 糸井
- あ、感じてます(笑)。
- 谷本
- 腿だとややわかりにくいかもしれないですけど、
上半身の筋トレとかだと、
張った感じもわかりやすいです。 - しっかりやると、
実際に筋肉がふくれ上がってるんですよ。
超音波などで厚みを測ると、
本当に10%ぐらい変わってます。 - 30分ぐらいしたら元に戻りますけど、
一時的にちょっとムキムキになるんですよね。
筋トレ後の人がよく、ちょっと脱いで
鏡見てるじゃないですか。
あれ、ほんとにいい体になってるから見るんです。 - だから「やったあとはちょっと見る」のも
いいと思います。
初心者だろうがなんだろうが、
みんな腫れ上がりますから。
ジムで鏡見てる人、
フォームなんか見てないですからね。
あれは自分の張ってきた体を見て
悦に入ってるんです(笑)。 - でもそれでいいし、
そのほうが断然やる気が出ますから。
実際ちょっとかっこよくなってるんで、
そこを感じてもらえたら。 - そして腫れ上がる刺激を与えられてるって、
続けていけば肥大して、
その形になってくるということでもありますから。
「将来的になれる体がわかる」
という要素もあるんです。
(つづきます)
2024-08-22-THU