NHK『みんなで筋肉体操』の先生、
谷本道哉さんに、筋肉視点からの
「老い」の話を教えてもらいました。
筋トレをすることで若くいられますか?
ずっと元気に暮らすために役立つ運動は?
筋肉は何歳くらいまで育っていく?
かっこよく鍛えている先生が語る
前向きなお話に、やる気がわいてきます。
基本のスクワットも教えていただいたので、
みなさん、もう、今日からやりましょう。
迷ったら「やるか、すぐやるか」ですよ。
谷本道哉(たにもと・みちや)
順天堂大学スポーツ健康科学部教授。
専門は筋生理学、身体運動科学。
大阪大学工学部卒。
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。
博士(学術)。
国立健康・栄養研究所 特別研究員、
東京大学 学術研究員、順天堂大学 博士研究員、
近畿大学講師等を経て現職。
NHK「みんなで筋肉体操」「あさイチ」
「所さん!大変ですよ」「ホンマでっか!?TV」、
テレビ朝日「モーニングショー」など、
メディア出演多数。
2024年7月現在、
NHK「おはSPO筋肉体操 (おはよう日本)」
などに出演中。
全世代へ向けて、運動の効果を
わかりやすく解説している。
『スポーツ科学の教科書』(岩波書店)
『アスリートのための
筋力トレーニングバイブル』(ナツメ社)
など、著書多数。
5
見栄えは大事。「かっこよく健康」でいこう。
- ──
- 先生ご自身が50代ということで、
「人生100年時代」と考えると、
ちょうど真ん中あたりだと思うんですけど。
- 谷本
- ぼくはいま51歳なんですが、
実は「人生110年時代にしましょう」と
言っているんですね。
だから、いちおうまだ折り返しに
行ってないつもりなんです(笑)。
- ──
- 人生110年時代。
- 谷本
- はい、単純に10を足しただけなんですけど。
運動器は特に適応能力が高いし、
みんなが無理のない方法できちっとやっていけば、
これからさらに寿命が伸びるはずだと
思っていて、そう言っています。 - まあ、寿命はどんどん伸びていくと思うので、
ぼくが110歳になる頃には「人生120年時代です」、
120歳になる頃には「130年時代です」とか
言ってる気がしますけど(笑)。
- ──
- 先生自身が「老い」を感じる場面はありますか?
- 谷本
- ぼく自身の体は、年齢でダメになってるというより、
若い頃の無理なトレーニングが原因で、
消耗品の部分が悪くなっているところが多いんで、
「老い」での不調というのは
実はまだあまり感じてないんです。 - 肩も首も腰も不調があるし、普通に生活しながら
急に足首が痛くなって歩くのが
困難になったりとかもあるんですけど、
原因は若いときのトレーニングですね。
「もっと負担がない、賢いやりかたをしてたら
よかったな」と思うことは多くて、
そこはいろんな人に伝えたいところですけど。 - だから加齢による部分は
まだあまり感じてないですけど、
これからどんどん来るんでしょうね。
そのときに自分がどういう気持ちで
立ち向かうかは‥‥ちょっとまだわからない。 - 糸井さん、どうなんでしょう? 先輩として。
- 糸井
- 65歳ぐらいからなりますね。
- 谷本
- ああ、65歳から。
じゃあ、ぼくは「人生110年時代」で考えるので、
75歳ぐらいからかな?(笑)
わからないですけど。 - ただ、加齢で弱くなるにせよ、
やっぱりぼくはそこで
「じゃあどうすれば上げていけるだろう?」
みたいに考えたいとは思うんです。 - 衰えてきたことに落ち込むより、
「逆にここでどれだけ防げるだろう?
どれだけ強く変えていけるだろう?」
みたいに考えていくほうが、
希望を感じられていいんじゃないかなと。 - そういう発想なので、ぼくはきっと
死ぬ前日まで
「明日何やろうか? 明後日何やろうか?」
みたいに考えていると思うんですね。 - 人は絶対死ぬけれども、自分が死ぬ日はわからない。
もちろん90歳で終わるかもしれない。
でもそこで
「110歳まで生きるにはどうすればいいだろう?」
とか思いながら90歳で死ぬほうが、
なんだか幸せな気もしています。
これまで別にそんなことを考えたことがなくて、
いま急に思ったことですけど(笑)。 - あとぼくは体のことが専門だし、
その立場としても
「衰えていくところをどう変えていけるだろう?」
とは考え続けたいのはやっぱりありますね。
そして役立つ情報は、
どんどん発信していけたらと思っています。
- ──
- 打ち合わせのときに
「いまの70代は昔の50代ぐらい」って
おっしゃられてましたね。
- 谷本
- あ、それはすごくあると思います。
- だからいま
「『高齢者』という言葉の定義を変えましょう」
と言われているんです。
最初に大きな声で言ったのは、たぶん日本老年医学会かな。
「『高齢者』という呼び方は、
65歳からじゃなく75歳からにするべきだ」って。
それが2017年とかだから、もうけっこう経ってますけど。 - 見た目もそうだし、医学的な数値も
すごく若いほうにシフトしてきてるから
「呼び名を変えないと現状と合ってないよ」
ということで。 - タレントさんとかも
「え、この人、この歳?」みたいな話って
よく言われますよね。
『サザエさん』の波平さんも54歳?
だけどいまの54歳って、もっとだいぶ若いですよね。
見た目も心の若さも、昔といまとでは
同じ年齢でもぜんぜん違いますから。 - さらに、ぼくらの専門は運動なので、
その現状とともに
「運動や栄養でもう一回り若くすることも可能では」
とも思っています。
- ──
- 先生自身の筋トレへの気持ちは、
20代30代のときと比べると変わってきてますか?
- 谷本
- そうですね。
若い頃のぼくは健康のことって
やっぱりあまり考えてなかったと思います。
とにかく「強く、大きくなりたい」
「重いものを上げたい」
そんな感じだったんじゃないでしょうか(笑)。 - そこからあちこち痛くなってきて、
「もっとマイルドに、でも筋肉にしっかり
刺激を与えられる方法はないか」
と思うようになって。 - で、「ウーーーン!」とか
すごく大きな負荷をかける筋トレをやってると、
強い血圧のせいで血管もすごく硬くなるんですね。
やめれば戻るんですけど。
- ──
- あ、血管も。
- 谷本
- ええ。ぼくは大学院を出たあと、
最初「国立健康・栄養研究所」というところに
博士研究員で行ったんです。 - そのときの室長の先生がちょうど
筋トレと血管の機能について
研究されている方だったんですよ。
「筋トレで動脈が硬くなる」ということを
世界で初めて報告した先生で、その報告は
けっこう世界中で話題になったんです。
筋トレのマイナス面の研究の先駆けだと思います。 - ぼくもそのときまでは
「血管が硬くなろうが筋肉つくならいいじゃん」
ぐらいの感じだったんです。 - だけど血管って年齢が上がるにつれて、
どんどん硬くなってくるんです。
「血管年齢」ってあって、
そのときのぼくが30歳ちょっとでしたけど、
機械で自分の動脈の硬化度を測ったら
70歳ぐらいの数値が出て(笑)。 - そこの理事長先生が1型糖尿病
(先天的な糖尿病)の方だったんですね。
しかも糖尿病の人って動脈硬化が進むんです。
だけどぼく、その先生と
ほぼ同じくらいの数値だったんです。 - だから「理事長もたいしたことないですね。
ぼくと同じぐらいじゃないですか」
とか言ってたんですけど、自分としても衝撃で。 - そこで
「うわっ、ただ筋肉をつければいいという考えは、
やっぱりちょっと違うんじゃないか?」
とか思いはじめて、トレーニングの仕方などを
いろいろ変えるようになりました。
そうすると、だんだん柔らかくなってきて、
正常な値に戻ったんですけど。
いいきっかけをいただいたかなと思っています。
- ──
- その値は戻せるんですね。
- 谷本
- スロートレーニングだと、
逆にわりと柔らかくなるんです。
グーッといきむようなことがないし、
でも代謝物はたくさん出るんで、
血管拡張作用を促すんです。
だから全身の負担を考えると、こういうやり方のほうが
いいんじゃないかと思いますね。 - だからぼくはそのタイミングで
「とにかく筋肉をつけて強くなればいい」
という考えを改めることができたんです。
- ──
- それは本当によかったというか。
- 谷本
- はい。いまはわりと血圧とかもよく測るんですけど、
見てる方に有益な情報としては、
みんな血圧の高さばっかり見ますけど、
上と下の引き算の値(脈圧)がけっこう大事で。 - 「上-下」が50より小さいと、
動脈の硬さとしては標準ですね。
硬くなると差が広がってくるんですよ。
だから下の血圧というのは、
どちらかと言うと高い方がいいとも言えます。
どれだけうまく緩衝できてるかが出てくる数字なので。 - ぼくもいまは、だいたいいつも40ぐらい。
その研究所にいた頃は70ぐらいあったと思います。
- ──
- 【筋肉は裏切らない】という標語も
名言だと思うんですけど、
先生にとって筋肉というのはどんな存在ですか?
- 谷本
- まあ、「筋肉は裏切らない」というのは
番組の担当ディレクターさんが
考えてくれたものなんですけど(笑)。 - 筋肉はすごく適応能力が高い組織なので、
適切に働きかければきちんと変わってくれるもの、
というイメージですね。
だから「自分で作っていくもの」という感じ。
だからよく「肉体改造」って言いますけど、
むしろぼくは「肉体創造」と言うほうが
合っているような気がします。 - 適切な刺激を与えればすごく適応してくれて、
自分の責任で自分の思うように作っていけるもの。
もちろん、そんな簡単には変わらないんですけど。
- ──
- 自分の思うように作っていけるもの。
- 谷本
- そうですね。
あとぼくはもともとフルコンタクト
(直接打撃制)の空手をやっていたので、
自分にとっては筋トレって、
まずは競技力のためだったんです。 - だけどいまは競技もしてないんで、
何のためにやってるのか、もうよくわからない(笑)。
いまは見た目のためか、健康のためか。
なんか筋トレが好きだからやってるっていう。
- ──
- へぇー。
- 谷本
- まぁ、いちばんは「見栄え」だと思いますけどね。
「見た目」があって、2番目が「健康」かな。
前は「競技力」「強さ」「見栄え」が
トップ3だったと思いますけど。
3番目の「見栄え」だけ残ってます。 - 「強くありたい」とか、いまはあるのかな?
いま戦うことなんかないですから(笑)。 - でも、衰えてきたら思うかもしれないですね。
もともと格闘技をやってたから
「からまれたり、なにかあっても余裕で勝てるよ」
という思いはいまでもあって、
堂々としてられるんです。 - だけどもしそこが思えなくなってきたら
「変なチンピラ2、3人ぐらいに
勝てるぐらいの力はつけとかなきゃ」とか
真剣に思うかもしれないですけど。
でも、そんな機会ないかな(笑)。
- ──
- いま聞きながら、見た目というのも
けっこう大事なんだなと思いました。
- 谷本
- うん。やっぱり見た目はすごく
モチベーションになると思いますよ。 - だから「見た目がよければ、健康で強くもある」
という考え方でいいと思います。
「かっこよく快適、かっこよく健康」が理想かな。
ぜひみなさんも、筋肉とうまく付き合って、
かっこよくなりましょう。
(つづきます)
2024-08-23-FRI