こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
初の長編アニメーション作品
『ONI』を完成させた堤大介監督に
久々にお会いして、話しました。
作品について、
作品がうまれたきっかけについて、
そこに込めた思いなど、
じっくりと、おうかがいしました。
なお、このインタビューのすぐあとに、
『ONI』は、みごと、
アニー賞の2部門を受賞しました!
Netflixで配信されているので
未見のかたは、ぜひごらんください。
立川のPLAY! MUSEUMでは
トンコハウス・堤大介の「ONI展」も
開催されています!
- ──
- いま、トンコハウスさんの規模って、
どんどん大きくなってるって感じですか。
- 堤
- いや、そうでもないです。
- ──
- あ、そうですか?
- 堤
- はい、『ONI』のピーク時は、
60人くらいのチームだったんですけど。
- ──
- そうか、作品の制作段階によって、
スタッフの数も、膨らんだり縮んだりする。
- 堤
- ぼくらは「作品ありきのスタジオ」なので、
作品の制作中は、
多くのスタッフが必要になるんですが‥‥。
- ──
- ひとつの作品が終われば、
みなさん、また別の現場へ行ったり、とか。
アニメ業界って、
フリーの人が多いって聞きますもんね。
- 堤
- つねに会社に多くの人を雇っていて、
その規模に見合う作品数を‥‥となったら、
やりたくない作品でも
やらなきゃならないといういうサイクルに、
入ってしまうんです。
- ──
- お金を稼ぐために。
- 堤
- そうですね。もちろん大きなスタジオにも
いいところはたくさんあるけど、
いまのところ、ぼくらは
やっぱりつくりたいものをつくりたいので。 - そういう思いで設立したスタジオなんです。
- ──
- トンコハウスくらいの規模のスタジオって、
けっこう多いんですか。
- 堤
- 増えてきているとは思いますが、
長続きさせるのがむずしいサイズなのかも。 - 少なくともアメリカでは、
フリーの個人か、
巨大スタジオかという二極になってますね。
- ──
- でも、トンコハウスは続いてますね。
- 堤
- はい、ボロボロになりながら(笑)。
- ──
- もう、立ち上げてから‥‥。
- 堤
- 8年半です。今年の7月で9年になります。
あっという間でした、ここまで。
- ──
- そのなかで、今回の『ONI』には、
どれくらいの期間を費やしていたんですか。
- 堤
- 最初に『ONI』のアイデアがうまれたのは、
2017年の石巻の展覧会でした。 - ただ、あのときは、
こういうプロジェクトをやろうというより、
やれたらいいな‥‥という、
まだまだ「夢の構想」みたいな段階でした。
- ──
- なりどんとおなり、という
のちに『ONI』の主要キャラクターとなる
ふたりのラフスケッチが、
たしか、その石巻でうまれたんですよね。
- 堤
- そう、意外にもあのときのスケッチから
ふたりの見た目は
最後まで変わらなかったんだけど、
物語は、まだ、何にもありませんでした。 - 本格的な制作に入ったのは、
それから2年くらいあとだったと思います。
- ──
- 当時はたしか『ダム・キーパー』の長編を
つくってらっしゃいましたよね。 - アカデミー賞にノミネートされた
短編『ダム・キーパー』の長いバージョン。
- 堤
- そうですね、あのときはまだ、
長編の制作で忙しくしていたんですけど、
それから数年後に、
企画が、
いろんな事情で止まってしまったんです。 - スタジオとしては、けっこう危機でした。
- ──
- そうですよね。全力投入してきた企画が、
とつぜん止まってしまったら。
- 堤
- そう、これはヤバいぞと、
急いで別の企画を立ち上げようとしました。
でも、企画ってすぐにはうまれないし、
そもそも、
いい企画ができても、つくれる保証はない。
- ──
- あ、そっか、それを誰かに説明しに行って、
制作資金を出してもらわないと。
- 堤
- そうなんです。
- アニメーション映画をつくるためには、
たくさんのお金がかかりますが、
自分たちで
ファイナンスするわけじゃないんです。
いろんな人に会って
「こんな企画があるんですけど」って
説明して、
賛同してもらう必要があるんです。
- ──
- ええ、ええ。
- 堤
- で‥‥いくつかの候補のうち、
Netflixさんと、ある企画が進み出して、
最後の最後「今日で本決まり」
みたいな
大きなミーティングがあったんですね。 - ロサンゼルスの本部のえらい人たちが
もう何人も、
バークレーのトンコハウスにいらして、
あらためて、
進めていた企画の説明をしたんですが、
「他にも、こういう企画がありますよ」
というリストに『ONI』があって。
- ──
- はい。
- 堤
- キャラクターのイメージと、
なりどんとおなりの親子をめぐる物語、
くらいは
何となく頭のなかにあったんですが、
具体的な内容は何もない、
ほんの数ページのアイディアでした。 - でも、本当に危機的な時期だったので
「トンコハウスには、
こんなにたくさんアイデアがあるんだ」
と思ってもらいたくて‥‥。
- ──
- Netflixのみなさんに。
- 堤
- そう。本当に大変な時期だったんです。
- とにかく、いろんなアイディアのある
スタジオだって思ってほしくて、
リストのなかに、入れておいたんです。
- ──
- 物語の中身は、ほぼなかったけど。
- 堤
- そしたら本決まり目前の企画じゃなく、
『ONI』がやりたい‥‥って。
- ──
- つまり、リストの片隅にあった企画が
選ばれちゃったってことですか。 - その展開は意外って感じです、よね?
- 堤
- はい、決まりかけていた企画のほうに、
多くの時間と労力を割いてましたし、
とにかく『ONI』に関しては、
ぼくの情熱だけしかないような状態で、
「『ONI』がいい」だなんて、
まさか‥‥思いもよらなかったですね。
- ──
- 物語の大枠の大枠と
堤さんの情熱以外に
「ほとんど何にもない」ような企画が、
Netflixさんに、響いた。
- 堤
- ここ何年か、ハリウッドの制作現場でも
ダイバーシティの考えかたを
重要視にするようになってきていて、
Netflixとしても、
日本人監督による日本を題材にした作品、
というものに興味があったそうです。 - だから、ある意味、タイミングとしては
ドンピシャだったんでしょうね。
そこからは、
けっこうトントン拍子に話が進みました。
- ──
- でも、メインで考えていた企画でなくて、
堤さんの情熱企画の『ONI』へと、
スタジオ全体が、
キュッと軌道修正できた‥‥んですか?
- 堤
- たしかに、ぼくらの企画づくりって、
いま、こういうテーマがトレンドだから
とかじゃなく、
そのときの自分たちのなかからうまれた、
自分たちにしか伝えられないものに
正面から向き合うところから、はじまる。 - ですから、まさしく、おっしゃるように、
『ONI』に関しては、
そこを見つける作業が大変だったんです。
- ──
- なるほど。『ONI』をつうじて、
自分たちにしか伝えられないものは何か。
- 堤
- とつぜん、長編の『ダム・キーパー』が
ダメになってしまって、
しかも、ずっと『ONI』ではない、
別の作品にエネルギーを注いでいました。 - だから、詳しい中身を考えていなかった
『ONI』をつくるとなったとき、
「自分は、どうして、やりたいんだろう」
というところから考えはじめて。
- ──
- はい。
- 堤
- 日本人の監督で日本の作品をつくりたい、
というだけなら、
別にぼくじゃなくたっていいんです。 - だから、突き詰めて考えました。
どうして「自分がつくるのか」‥‥って。
- ──
- 堤さんは、アニメメーション監督として、
表現したいことや伝えたいことが、
もちろんたくさんあると思うんですが、
でも、そういうのって、
そこまでポンポン出てくるものでは‥‥。
- 堤
- ええ。ないですね。
- ──
- ひとつ、『ダム・キーパー』のときに、
大きなものを提示していますし。 - 今回の『ONI』をつくるにあたっては、
そのあたり、
どうやって見つけていったんですか。
- 堤
- 昔の日本人が、
自分たちとはすこしちがった見た目の
渡来人たちに出会ったとき、
鬼や天狗になぞらえたみたいな話って、
よく聞くじゃないですか。 - ぼくは、そのことに、
昔から、ずーっと興味があったんです。
だから『ONI』の物語を構想する際も、
妖怪や鬼、神さまの側から見た鬼って、
誰なんだろう‥‥
というコンセプトが、まずありました。
- ──
- 全編を通して、描かれてますよね。
- あっちとこっち、自分たちと彼ら。
内と外‥‥みたいなことについて。
- 堤
- そう、そのコンセプトを
自分自身に当てはめてみた場合、
どういうことかと考えたら、
物語の核になるのは
「こうだろう‥‥と思っていたことが、
崩れていく瞬間」なのかな、と。
- ──
- 崩れていく瞬間。
- 堤
- そう。
- ──
- 自分のなかの常識だとか思い込み‥‥
みたいなものが?
- 堤
- はい。
(つづきます)
2023-03-13-MON
-
立川のPLAY! MUSEUMでは
展覧会も開催中です。アニメーション界のアカデミー賞と言われる
アメリカのアニー賞を、
堤大介監督の最新作『ONI』が
ふたつの部門で受賞しました。
Netflixで配信されていますので、
未見の方は、ぜひ。
いつも魅力的な展覧会をみせてくれる
立川のPLAY! MUSEUMでは
『ONI』の展覧会、
トンコハウス・堤大介の「ONI展」を
開催しています。
映像やインスタレーションで
『ONI』の作品世界に迷い込めるエリア、
資料やメイキング映像などで
制作プロセスを追うことのできるエリア、
さらには、トンコハウスの作品を
スクリーンで上映する特別シアターなど、
盛りだくさんの内容。
会期は、4月2日(日)まで。
グッズも、いつもどおりかわいいです!
ぜひ、足をお運びください。
『ONI』の作品視聴は、こちらから。
展覧会のHPは、こちらからどうぞ。
(写真は盟友ロバート・コンドウさんと)