こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
初の長編アニメーション作品
『ONI』を完成させた堤大介監督に
久々にお会いして、話しました。
作品について、
作品がうまれたきっかけについて、
そこに込めた思いなど、
じっくりと、おうかがいしました。
なお、このインタビューのすぐあとに、
『ONI』は、みごと、
アニー賞の2部門を受賞しました!
Netflixで配信されているので
未見のかたは、ぜひごらんください。
立川のPLAY! MUSEUMでは
トンコハウス・堤大介の「ONI展」も
開催されています!

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第5回 彼が11歳になる前に、 どうしても公開したかった。

──
メインキャラクターの「なりどん」が
「言葉をしゃべらない」
って決めたのは、どうしてなんですか。
人間をふくめ他の全員がしゃべるのに。
理由は、いくつかあるんですけど‥‥。
ひとつには、あるときに
(盟友の)ロバート(・コンドウ)と
「子どもへの愛情には
揺るぎないものがあるんだけど、
うまく子どもと
コミュニケーションがとれないのって、
リアルだよね」って話していて。

──
あー、たしかに。
なりどんとおなりの親子は、
姿かたちもまったく似ていませんし、
言葉さえもなかったら、
どうして親子関係が成立するのかと
みんなに言われました。
でも、ぼくは、
そういうところに成立する親子の絆、
みたいなものを
どこか「美しい」って感じたんです。
──
なるほど。
逆に、なりどんが
言葉を話すキャラクターだったら
ふたりの間に成立している
独特の関係が壊れてしまうような、
そんなふうにも感じましたし。
──
たしかに、なりどんが
「表情」とか「ジェスチャー」とか、
「背中」とかでなく、
具体的な言葉で
自分自身の気持ちを表現する姿って、
うまく想像がつかないですね。
つまり、それくらい、
なりどんというキャラクター造形が
絶妙だったんじゃないかと、
いま、素人なりに思ったんですけど。
そうなっていればいいなと思います。
これはいまだから言えることですが、
日本人監督が撮る日本の物語で、
もとの脚本は日本語で‥‥って、
つまり、ぼくを通さないと
いろいろと進まない作品だったので、
まわりのみんなは、
ぼくを信じるしかない「ずるさ」も、
やっぱり、あったんですね。
──
ああ‥‥。
ようするに、ぼくが
「日本の文化はそういうものだから」
って言ってしまえば、
誰も強く反対できない構造なんです。
だからこそ、チームにはつねに、
できるかぎり説明しようとしていて。

──
チームからの信頼を得られるように。
やっぱり映画って
「みんなのもの」だなと思うんです。
誰かひとりのものではなく。
今回の『ONI』も
世界31カ国語に訳されてるんですが、
すべてをチェックできませんよね。
単純に、翻訳ひとつで、
何かが変わっちゃうこともあるけど、
でも、映画って、
そういうものだろうなあとも思うし。
日本語については、
ちょっとこだわらせてもらったけど。
──
まだ堤さんがピクサーにいたときに、
渋谷のヒカリエで、
お茶を飲んだことがあるんです。
あのときの堤さんは、
まだ30代だったと思うんですけど、
「もう時間がない、時間がない」
って、おっしゃっていたんですね。
ああ、はい(笑)。
──
ようするに、
ひとつの作品をつくりはじめたら、
完成までには、
5年とかの時間がかかってしまう。
まだ30代の人が
「一生につくれる作品の数が、
もう、だいたい決まってるんです」
って話をしてて、
こりゃあ、すごい仕事だと思って。
実際、何年後に完成できるのかは、
どうしても
最初の時点ではわからないんです。
──
とにかく時間がかかるってことは、
わかっているけど。
そう、どの時点で
アイディアにスパークが生まれて、
どの時点で
「一緒につくりましょう」と
賛同してくれる人が現れるか‥‥。
──
だから「次はこれだ」って、
すごく大きな決断なんだろうなと
そのときに、思ったんです。
実際、『ONI』の制作期間って‥‥。
3年くらいですね。
本格的に制作をスタートしたのは
2019年なので、それくらい。
でも、『ONI』が
Netflixで配信スタートしたのって、
去年2022年の
「10月21日」だったんですけど、
スケジュールが押して、
けっこう納品が遅れてしまって。
──
ええ。
Netflixさんからは、
配信を2023年の年明けにするって、
言われていたんです。
でも、そこは無理を言って‥‥
2022年中に配信してくださいって。
──
どうしてですか。
息子が11歳になるまえに、
どうしても、配信したかったんです。
誕生日が12月だったんですけど、
彼が10歳のうちに
絶対リリースしたかった。
というのも、この物語では
おなりが10歳という設定なんです。
──
なるほど。
作品をリリースした時点での
息子の年齢に逆算して合わせたんです。
なので、ここだけは
自分のなかの約束として守りたかった。
──
堤さんは
最初の観客である息子さんのために、
作品をつくってるわけで、
その大切な観客が
「何歳で見るか」も、
きっと、とても重要なことですよね。
感じ方って、どんどん変わるから。
ちなみに息子さんからの感想は‥‥。
はい、彼はいま、
けっこう「少年」になってきていて、
あんまり多くは
語ってくれなかったんですけど‥‥。
──
ええ。
クライマックスのあたりで泣いてた、
って。
──
おー‥‥。
妻が言ってました。
だから、何かを感じてくれたのかな。

──
それはもう、ある意味で
どんな言葉よりわかりやすいですね。
具体的にどう思ったかについては、
いつか、聞かせてくれたらいいなと。
──
自分の父親は早くに亡くなっていて、
何か書き残したりとか
まったくしてないんですけど、
お葬式のとき、
父の高校時代の友だちっていう人が、
若いころの父のことを、
いろいろと、教えてくれたんですね。
こういうやつだったんだよ‥‥って。
ええ。
──
へえ、そういう若い人だったのかと、
なんだか、すごくおもしろくて。
堤さんの場合は、
映画という作品として残るわけだし、
息子さんも、いつか
「お父さんは、
こんなことを考えていたんだなあ」
って思う日が、きっと来ますよ。
そうですかね。
──
結局、ぼくなんかが
ずっとこういう取材をしてるのも、
似たような気持ちなんです。
子どもに、父親が若かったころは
こんな人たちに会って
こんな話を聞いてたのかって、
いつか、知ってほしい気がしてて。
うん、うん。
──
そう思うと、未来の子どもに向けて
記事を書いている‥‥
とまでは言わないけど、
でも、どこかで
いつか子どもに読んでほしいなあと
思いながら、
こうして誰かのお話を聞いたり、
記事を書いたりしているのかもなと。
わかります。絶対そうですよ。
──
なんだかいま、なんとなくですが、
「なりどんとおなりの親子の物語」と
「堤さん親子の物語」を、
両方、見たような気持ちになりました。
できあがった作品を見て、どうですか。
あらためて、ですけど。
まだ客観的に見られるほど
作品から離れられていないんですけど、
やっぱり
「この場面、あの人ががんばったなあ」
とか、
まずスタッフの顔が浮かんできますね。
「このセリフは、
脚本家の岡田さんと何度もけんかして、
書き直したんだよな」とか(笑)。
──
いろんな思い出が(笑)。
いろんな作品に関わってきましたけど、
スタッフの熱量が
めちゃくちゃ高い作品って、
これまでも、いくつかあったんですね。
で、この『ONI』は、
そういう作品のなかのひとつなんです。
だから、熱意を持って関わってくれた
大勢の仲間たちに
「やってよかった」とか
「大変だったけど、報われたなあ」と
思ってもらえる作品に
なったらいいなと思いますね、いまは。
──
アニー賞にノミネートされてますよね。
アニメーション業界における
アカデミー賞みたいな賞なんですけど、
表向きというより、
業界からの評価で決まる賞なんですね。
だから、獲れたらうれしいんですけど、
ロバートとね、よく話すんですよ。
──
ええ。
トンコハウスは
ノミネートされるくらいが
ちょうどいいんじゃないかな‥‥って。
アカデミー賞のときもそうでしたけど。
──
そうですか?(笑)
獲っちゃうと、止まっちゃう気がして。
ま、負け惜しみも半分あります(笑)。
──
でも、楽しみにして待ってますね。
2月の終わりころの発表。
ありがとうございます(笑)。
もちろん、獲れたら大よろこび、です。

アニー賞、2冠! おめでとうございます! アニー賞、2冠! おめでとうございます!

(おわります)

2023-03-17-FRI

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  • 祝・アニー賞2冠!

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    アニメーション界のアカデミー賞と言われる
    アメリカのアニー賞を、
    堤大介監督の最新作『ONI』が
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    未見の方は、ぜひ。
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    資料やメイキング映像などで
    制作プロセスを追うことのできるエリア、
    さらには、トンコハウスの作品を
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    盛りだくさんの内容。
    会期は、4月2日(日)まで。
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    ぜひ、足をお運びください。
    『ONI』の作品視聴は、こちらから。
    展覧会のHPは、こちらからどうぞ。
    (写真は盟友ロバート・コンドウさんと)