こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
初の長編アニメーション作品
『ONI』を完成させた堤大介監督に
久々にお会いして、話しました。
作品について、
作品がうまれたきっかけについて、
そこに込めた思いなど、
じっくりと、おうかがいしました。
なお、このインタビューのすぐあとに、
『ONI』は、みごと、
アニー賞の2部門を受賞しました!
Netflixで配信されているので
未見のかたは、ぜひごらんください。
立川のPLAY! MUSEUMでは
トンコハウス・堤大介の「ONI展」も
開催されています!

前へ目次ページへ次へ

第4回 自分以外の意見がよければ、 迷わずそっちを取る。

──
ちなみに、堤さんが脚本を書く、
という選択肢は、なかったんですか?
たしか『ダム・キーパー』のときは、
相棒のロバートさんと
おふたりでつくっていたわけですが。
いや、『ダム・キーパー』は短編で
セリフもなかったし、
今回のように長編で
当然セリフもあるような脚本なんか、
自分じゃ100%無理だと、
もう、最初からわかっていたので。
──
そうですか。
あと、大きな作品をつくるときには
とくになんですが、
チームでやるってことが、
すっごく大事だと思っているんです。
今回は、脚本の部分を
岡田さんと一緒につくれたおかげで、
自分には見えていなかったことに、
たくさん気づかせてもらえましたし。
──
おお。
よく言われることだと思うんですが、
チームのすごみって、
1+1が3にも4にもなる‥‥って、
それは、本当にそうだなあと。
自分だけじゃ実現できなかったこと、
数え切れないほどありますから。
今後も絶対チームでやりたいですし、
チームでやることによって、
次はいったい何ができるだろうって、
ワクワクするんです。

──
監督としてやりたいこととか表現が、
チームとぶつかることって
ふつうにあると思うんですけど、
そういうときって、
どう折り合いをつけていくんですか。
クリエイティブな人たちが
一緒にひとつのものをつくるわけで、
当然、ぶつかることはあります。
でも、ぶつかることで
やっぱりいいものが生まれるんです。
それこそ
岡田さんとは何度もぶつかりました。
彼女は、
自分でも作品の監督をする人なんで。
──
そうですよね。
ただ、悔しいけど、
岡田さんの意見のほうが正しいよね、
みたいなケースは
本当にたくさんありましたけど、
ぼくが「折れた」っていう感覚とも、
またちょっとちがうんです。
それはたぶん、最終的には
自分で決められる立場にいたからで、
決めるべきことは、
責任を持って決めてきましたし、
自分よりいいアイディアなら、
一切迷わずに、そっちを取りました。
──
監督という立場が、そうさせた。
そこを、岡田さんも尊重してくれて、
最終的には、
ぼくがこうだと思ったことを、
力強くサポートしてくださいました。
でも、それと同じくらいの割合で、
岡田さんの意見を
ぼくが「そうだね、やっぱり」って。
──
なるほど。
さっきもちょっと話に出ましたけど、
アニメーションの脚本って、
まず
ストーリーボードの時点で変わるし、
そのあと
映像をつくりはじめてからも、
ちょこちょこ変わったりするんです。
実際につなげてみたら
ちょっとうまくいかなかったりして。
──
ストーリーボード。
実写映画とちがって、
アニメーションって背景から何から
ビジュアルをすべて
ゼロからつくる必要があるんですね。
その場合は、
ストーリーボードというプロセスが
脚本の大事な一部になるんです。
──
コマ割りの漫画みたいなやつですか。
そうそう。そのプロセスで、
文字の脚本に、変更が加わるんです。
脚本家の書いた脚本が、
そのまま映像になることはないです。
究極かつめずらしいケースで言えば、
宮崎駿監督は、
いわゆる「脚本」を書かないんです。
つまり「絵コンテが脚本」なんです。
──
へええ‥‥!
とにかく、もともとの脚本を
絵にする過程がストーリーボードで、
まず、その作業のときに
かなり変わるんですね、脚本自体が。
だから、アニメーションの脚本って、
文字の脚本と
ストーリーボードという絵の脚本と、
それらふたつを
合わせたものと考えるべきなんです。

──
そういう細かな脚本の軌道修正でも、
自分以外のアイディアを
スッと選べるもの、なんでしょうか。
自分で何かを決定する立場にいる人、
堤さんもそうですが、
あらゆる社長さんとか監督さんって
「自分以外の意見のほうがいい」
って瞬間的にわかるものなんですか。
それは、わかりますね。ハッキリと。
たぶん、それも
「最後の最後は、監督が決めるんだ」
という体制を、
『ONI』の制作チームや岡田さん、
そしてNetflixさんが、
きちんとつくってくれたからですね。
──
というと‥‥?
つまり「こうしなきゃダメです」が、
ひとつもなかったんです。
チームのメンバーも、岡田さんも、
Netflixさんも
「自分たちとしてはこう思うけれど、
最後は堤さん決めることだよ」
って、みんなが言ってくれたんです。
そうすると、自分のなかに、
ものすごい責任感が芽生えるんです。
──
ええ、ええ。そうでしょうね。
となると、自分のアイディアよりも
いいなと思ったら、
もう、迷わずにそっちを取りますよ。
──
あー‥‥、なるほど!
エゴとか意地とかを超えたところに、
少しでもいい作品にしなきゃ、
という責任感がうまれるってことか。
逆に、多数決のような、
誰が決めたのかわからない状況では、
かならずしも
突出したアイディアは生き残れない、
そういうケースもある気がします。
──
なんとなくわかります、その感じは。
チームでやること自体は重要ですが、
個々の場面での決定が、
ひとりの人に委ねられていたら、
その人は、
絶対に最良のアイデアを選びますよ。
誰のアイディアかなんて、関係なく。

──
自分が決めなきゃならない状態では
何かに忖度したり
意地を張ったりして
「おもしろくないアイディア」を
選んでる場合じゃない‥‥と。
ぼく、不定期で
写真家さんのインタビューを
続けてるんですけど、
写真家さんのお話がおもしろいのは、
シャッターを切る瞬間って、
徹底的に
ひとりだからじゃないかと思ってて。
なるほど。
──
それは「孤独」と言い得るくらいの
「ひとり」です。
写真家のまわりには、
じゃあ、こういう写真を撮ろうって
一緒に企画を進めてきた編集者や
アートディレクター、
仕事の種類によっては、
お金を出している
クライアントさんがいたりしますが、
「ここだ!」と思って
シャッターを切る瞬間はひとりだけ。
ええ。
──
たったひとりで決断をし続けてきた
主体性や責任感があるから、
話もおもしろいんだろうなと思うし、
チームの人たちも、
シャッターを切る瞬間については、
たったひとりの決断を信頼している、
というような。
信頼という意味では
今回のNetflixさんも、同じでした。
とっても情熱的に応援してくれたし、
貴重な意見もたくさんくれたし、
最後まで
一緒に走ってくれたんですが、
制作現場にたいしては、
何かを強要することが一切なかった。
──
制作チームを、信頼してくれていた。
そうなんです。ピクサーのときに
ハリウッドの大手と
仕事をしてきた経験からは、
ちょっと「信じられない」くらい、
クリエイターに委ねてくれました。
──
ハリウッドの大作では、
ラストを何パターンかつくって、
試写会の反応で決める、
みたいな話も聞きますけれども。
そういう方法が当たり前の中で、
自由につくらせてもらえたんです。
なりどんというキャラクターって、
しゃべらない、
つまりセリフがないんですけど、
最初は、そのことを、
理解してもらえなかったんですね。
──
メインキャラクターですもんね。
言葉もないのに、
どうやって親子の愛を描けるんだって
最初はNetflixさんにも言われたし、
トンコハウス内でも
かなり懸念があったのは事実ですけど、
ぼくは大丈夫だと思っていたんです。
でもそのことについての上手な説明は、
なかなかできなかったんですが‥‥。
──
最後は、堤監督を信頼してくれた。
チームの仲間や、Netflixさんたちが。
そうなんです。ありがたいことに。

(つづきます)

2023-03-16-THU

前へ目次ページへ次へ
  • 祝・アニー賞2冠!

    立川のPLAY! MUSEUMでは
    展覧会も開催中です。

    アニメーション界のアカデミー賞と言われる
    アメリカのアニー賞を、
    堤大介監督の最新作『ONI』が
    ふたつの部門で受賞しました。
    Netflixで配信されていますので、
    未見の方は、ぜひ。
    いつも魅力的な展覧会をみせてくれる
    立川のPLAY! MUSEUMでは
    『ONI』の展覧会、
    トンコハウス・堤大介の「ONI展」を
    開催しています。
    映像やインスタレーションで
    『ONI』の作品世界に迷い込めるエリア、
    資料やメイキング映像などで
    制作プロセスを追うことのできるエリア、
    さらには、トンコハウスの作品を
    スクリーンで上映する特別シアターなど、
    盛りだくさんの内容。
    会期は、4月2日(日)まで。
    グッズも、いつもどおりかわいいです!
    ぜひ、足をお運びください。
    『ONI』の作品視聴は、こちらから。
    展覧会のHPは、こちらからどうぞ。
    (写真は盟友ロバート・コンドウさんと)