こんにちは、「ほぼ日」の奥野です。
初の長編アニメーション作品
『ONI』を完成させた堤大介監督に
久々にお会いして、話しました。
作品について、
作品がうまれたきっかけについて、
そこに込めた思いなど、
じっくりと、おうかがいしました。
なお、このインタビューのすぐあとに、
『ONI』は、みごと、
アニー賞の2部門を受賞しました!
Netflixで配信されているので
未見のかたは、ぜひごらんください。
立川のPLAY! MUSEUMでは
トンコハウス・堤大介の「ONI展」も
開催されています!
- ──
- 外部に敵をつくることは、
内部を結束させる古典的な手法だから
物語も「つくりやすい」でしょうし、
お客さん的にも
見ていて「わかりやすい」わけですが。
- 堤
- はい。でも、やりたくなかったんです。
少なくとも、安易には。 - 仲間のうちのひとりが、
途中で「悪者」的になっていきますが、
あの部分も含めて、
脚本家の岡田麿里さんと、
ものすごい量のやり取りをしています。
- ──
- なるほど。
- 堤
- ぼくも彼女も、安直な結末じゃなくて、
物語に挑んでいきたかった。
その「悪者になってしまった仲間」が
どこまで悪くなったら、
仮に、彼が戻ってきたときに
ゆるしてあげられるだろうか‥‥って、
そのあたりの微調整は、
押したり引いたり何度もやっています。 - でも、やっぱり、
安易に外部に敵をつくってしまうのは、
ダメだと思っていました、ふたりとも。
- ──
- 人間が悪い、だから懲らしめようって、
そういうシナリオは、なかった?
- 堤
- 選択肢のひとつとしては、ありました。
- でも、人間を悪者にするだけの話なら、
いま現実に起きていることと、
何にも変わらないじゃないかと思った。
そこから前へ進めないと思ったんです。
- ──
- ああ‥‥。
- 堤
- 途中で、カルビンというキャラクターが
出てくるじゃないですか。
- ──
- はい。人間の男の子、ですね。
- 堤
- 彼は、まあ脇役といえば脇役なんですが、
ぼくの中では
とても重要なキャラクターのひとりです。 - というのも、小学校から高校まで、
すごく仲良かった友だちがいるんですが、
彼は、お父さんがアフリカ系で、
お母さんが日本人でした。
とても絵が上手で、一緒に野球もやって。
- ──
- 親友。
- 堤
- そう。そう思っていたんです。
- でも、アメリカに渡って、
自分はマイノリティなんだという感覚を
もろに浴びて‥‥
日本へ帰ってきたときに、謝ったんです。
- ──
- その友だちに? どうしてですか?
- 堤
- 彼の気持ちが、わかってなかったなって。
- 親友だなんて言ってたくせに、
本当には、わかっていなかったんだって。
- ──
- そのことに、気づいたんですか。
アメリカで‥‥マイノリティになって。
- 堤
- 彼の抱えていたもの‥‥が、
ぼくには、ぜんぜん見えていなかった。 - それこそカルビンみたいなやつでした。
いつも明るくて
まわりを笑わせるのが、大好きで。
理不尽な扱いを受けても、
明るく跳ね返していました。
彼は絵がとても上手だったので、
その才能で、
消化していたのかもしれない。
- ──
- ええ、ええ。なるほど。
- 堤
- つまり、物語が「悪いのは人間だ」で
終始していたら、
あのキャラクターは、うまれなかった。 - カルビンのようなキャラクターが
存在できる物語だったから、
「人間が悪い」とか
「鬼が悪い」とかの二元論じゃない、
大事なことは他にあるんだ、
という結論にたどりつけたのかな、と。
- ──
- さっき、堤さんが「挑戦」って言葉を
口にされてましたけど、
わかりやすい勧善懲悪にしない、
何かを持ち帰って
考えてもらえるような話にする作業は、
やっぱり、
ひとつの「挑戦」だったんですね。
- 堤
- はい。どんなにいいことを言ってても
おもしろくなかったら、
たくさんの人には見てもらえないので。 - 何かを持ち帰ってもらいたいですけど、
まずは見て、
楽しい、おもしろい、感動する、
そういう物語になっていないと。
そのうえで、見たあとに、気づいたら
ハートのどこかに何かが残ってる‥‥
それがぼくらの理想の映画、なんです。
- ──
- その意味でも、
脚本を手掛けた岡田麿里さんの存在は、
大きいものなんでしょうね。
- 堤
- 本当に。
- 今回の物語は、
日本人監督が日本のことを描いた物語で、
まず日本語で脚本を書いたんですが、
最終的には、英語で完成させてるんです。
- ──
- あー、なるほど。スタッフのみなさんは
英語で読むし、
Netflixさんも英語で読んで判断するから。 - 日本語を英訳するだけじゃないですよね、
そういう場合って、きっと。
- 堤
- そうなんです。英語に訳していく過程で、
半分以上は書き直しています。 - 日本語では成立した脚本でも、
英語だと、
どこかうまくいかなかったりするんです。
そういうときは、
言い回しを変えるんじゃなく、
セリフ自体を変えてしまうこともあって。
- ──
- それって「2回書く」みたいなこと‥‥。
伝えたいことは変えずに、表現を変えて。 - ひゃー‥‥。
- 堤
- アニメの場合、制作現場から
脚本の修正の要請が入ることもあります。
脚本を絵に置き換えていくときに、
うまくいかないケースが、あるからです。 - そういうときも、
すぐに岡田さんに連絡を入れていました。
一時は、ほぼ毎日、話をしていたので、
岡田さんも、
いま、制作現場がどう進んでいるか、
何が起こっているかを理解していました。
- ──
- そんなふうにつくってる人たちって‥‥。
- 堤
- んー、おそらく‥‥いないと思います。
まわりのいろんな人から、
そんなのあり得ないと言われましたし。
- ──
- そもそもの質問なんですが、
Netflixさんも、制作現場も英語なのに、
どうして
最初の脚本は日本語で書いたんですか。
- 堤
- 日本のお話を日本語でつくりたかった。
単純にそこですね。
絶対にそうしなきゃと思っていました。 - 話の内容としてもビジュアルとしても、
よくある
「ハリウッドが解釈した日本や日本人」
みたいな作品にはしたくなかったし。
そのためには、
まずは日本語でつくらなきゃ‥‥って。
- ──
- 最終的に、英語に訳すにしても。
- 堤
- ただ、日本人の脚本家とやりたいって
最初に提案したときは、
やっぱり、かなりの反対がありました。 - それは、トンコハウスのなかからも。
反対のいちばんの理由は、
ぼく以外の誰も
脚本のチェックができないことでした。
- ──
- そうか。たしかに。
- 堤
- 監督である自分を信頼してほしい、
きちんと英語に訳した脚本を、
もちろんチェックしてもらいますって
みんなに、言ったんですけど。
- ──
- どうやって説得したんですか?
- 堤
- 岡田さんの脚本が素晴らしかった。
結局は、そこに尽きると思います。 - 岡田さんの脚本をみんなが読んで
これでいこうって思ってくれたんです。
- ──
- ぼくは英語がぜんぜんわからないので、
日本語バージョンだけを見て
感動してるわけですが、
日本語と英語、両方わかる人が
両方のバージョンを見たときは、
同じような心の動きをするんですかね。
- 堤
- そうなっていると思います。
- ただ、日本語の脚本を英語に翻訳して
作品の制作をし、
できあがった作品をもとに、
日本語版をつくったわけですけど、
何ていうのか‥‥
「吹き替え」っぽくは、したくなくて。
- ──
- なるほど。
- 堤
- そこで、岡田さんと相談をしながら、
この場面、
英語ではこういうセリフだけど、
そのまんま日本語に訳しちゃったら
伝わりにくいねというところは、
ぜんぜん別のセリフにしてるんです。 - それってふつう、できないんです。
オリジナルの脚本にたいして、
翻訳家さんが
「これ、このまま日本語にすると
通じにくいから、
ぜんぜんちがうセリフにしていい?」
とか、無理じゃないですか。
- ──
- たしかに。
- 堤
- でも、ぼくと岡田さんだから、できた。
『ONI』の日本語版のセリフって、
かなりの部分、
英語版の訳にはなっていないんですよ。
- ──
- つまり、直訳にはなっていないけど、
おふたりには、
何を伝えたいか‥‥がわかってるから、
それができたってことですね。
- 堤
- 日本語にしたときは、
こっちのほうが絶対通じると判断して、
置き変えているので。
- ──
- だからこそ、作品を見たあとの感想も、
英語と日本語で、変わらないのか。 - 言ってることはちょっとちがってても、
同じような感情がそこに芽生える‥‥。
- 堤
- 大変だけど、おもしろかったです。
- ──
- 以前、キューブリックも
自分の映画が日本語に訳されたときに、
日本語のセリフを、
もう一回英語に翻訳し直して
チェックしていたと本で読んだんです。 - そのときは、
えっ、そこまでするものなのかなって
正直、思ったんですけど‥‥
お聞きしていると、
たしかに「そこまでするもの」ですね。
- 堤
- はい。
何を伝えたいかに関わる部分ですから。
(つづきます)
2023-03-15-WED
-
立川のPLAY! MUSEUMでは
展覧会も開催中です。アニメーション界のアカデミー賞と言われる
アメリカのアニー賞を、
堤大介監督の最新作『ONI』が
ふたつの部門で受賞しました。
Netflixで配信されていますので、
未見の方は、ぜひ。
いつも魅力的な展覧会をみせてくれる
立川のPLAY! MUSEUMでは
『ONI』の展覧会、
トンコハウス・堤大介の「ONI展」を
開催しています。
映像やインスタレーションで
『ONI』の作品世界に迷い込めるエリア、
資料やメイキング映像などで
制作プロセスを追うことのできるエリア、
さらには、トンコハウスの作品を
スクリーンで上映する特別シアターなど、
盛りだくさんの内容。
会期は、4月2日(日)まで。
グッズも、いつもどおりかわいいです!
ぜひ、足をお運びください。
『ONI』の作品視聴は、こちらから。
展覧会のHPは、こちらからどうぞ。
(写真は盟友ロバート・コンドウさんと)