──

このレースの舞台は、アフリカですか？

ヤジマ

ケニアです。

このときは『ヤングマガジン』が
スバルのスポンサーをしていたんですね。
それでレースを撮りに行ったんだけど、
地平線の彼方から、
ああしてクルマが土ボコリを巻き上げて。

──

カッコいいっす。

ヤジマ

ごらんのようにえんえんまっ茶色なんで、
色がほしいなあと思って
「マサイ族とか、来ないかなあ」
とかって言ってたら、
こうしていきなり現れたんですよ（笑）。

Subaru Impreza Safari Rally / Kenya 2000 ©Yajima Osamu

──

えええ、突然、ですか？

ヤジマ

そう。音もなく。急に、突然に。
よく見ると、ここらへんにもいますし。

──

あ、ほんとだ！　ここにもいる。

ヤジマ

これ、ぼくが獲物だったら、
とっくに仕留められてると思いました。

車高の高い車の屋根に上って、
そこからカメラを構えていたんですよ。
これだけ派手な民族衣装なんだから、
ふつう視界に入ると思うんですけどね。

──

どこからともなく、いつの間にか。

ヤジマ

余談ですけど、のちに別の仕事で
マサイ族の人を
東京に呼んだことがあるんです。

当時「マサイ牛乳」って商品があって。

──

牛乳？

ヤジマ

マサイ族って、牛乳に似た飲みもので
栄養を摂るっていうんで、
そういう商品を考えた人がいたんです。

ビシッとしたスーツを着たマサイが、
日本人の上司と一緒に
取引先へ謝りに行くんですよ。
日本人の上司はペコペコしてる一方、
マサイはキリッとしてて、
日本男児にプライドはあるのか‥‥
みたいな、そういう話だったんだけど。

──

カッコよさそう。スーツのマサイの人。

ヤジマ

そうそう、ポール・スミスのスーツを
セミオーダーでつくって
着てもらったら、
もう、すごくカッコよかったんですよ。

余談の上に余談になっちゃうんだけど、
そのとき、
渋谷の道玄坂の上のほうを歩いてたら、
「カレーが食いたい」
って急に言い出すんですよ、マサイが。

──

おお。

ヤジマ

このへんにカレー屋なんかあるかなあ、
なんて言ってたら、
そのマサイが「俺について来い」って。

道玄坂をくだり切って、
さらに100メートルくらいかなあ、
けっこう歩いたところで
「ここだ」とかって言うんですよ。

──

まさか、そこに‥‥？（笑）

ヤジマ

そう、カレー屋があったんですよ。
しかも地下の店。

ホントに。冗談じゃないんですよ。
あれはもう、ホントびっくりした。

──

匂ったってことですか。
道玄坂の下から上まで。

ヤジマ

そうみたい。

──

道玄坂のてっぺんから下りてきて
さらに100メートル‥‥って、
めちゃくちゃ距離がありますよね。

すごすぎる‥‥。

ヤジマ

あれは、おもしろかったです。

ぼくが撮影したコマーシャルでは
なかったんですけどね。

──

え、あ、そうなんですか？（笑）

ヤジマ

ケニア撮影のあとだったんで、
そういう企画があるっていうんで、
「ぼくも行く！」って。
東京でマサイと遊んでたんです。

でも、彼らのパスポートを見ると、
生年月日の欄に
日にちが書いてなくて「×××」で、
名前も偽名っぽいから
「本当の名前は？」って聞いたら
「教えない」
「本当の名前を教えたら、
黒魔術をかけられちゃうし」って。

──

ケニアで生きている世界観のまま、
東京の街を歩いてるわけですね。

でも、どこからともなく
いきなり現れたなんてのを聞くと、
はるか彼方のカレーに
たどり着くのも頷ける気が（笑）。

ヤジマ

そうそう（笑）。
ぜんぜん関係ない話なんですけど。

──

いえ、おもしろいので大丈夫です。

ときにプロフィールを拝見すると
ヤジマさんって、
クルマを撮っている写真家さんに
弟子入りされてるじゃないですか。

ヤジマ

はい。

──

それってクルマが好きだったのか、
写真が好きだったのか、
どっちが先とかってあるんですか。

ヤジマ

最初、会社員になったんですよ。
でも、それがぜんぜん無理で、
１ヶ月とか２ヶ月で
ノイローゼになりそうになって。

──

わあ。

ヤジマ

若いころって
本気でやれば何でもできるって
思っていたんだけど、
会社員だけはダメだな‥‥って。

──

何の仕事だったんですか？

ヤジマ

コンピューター関係の仕事です。

知人の紹介で入った会社で、
週休２日だったら
どんな仕事でもいいかと思って
決めたんですけど、無理で。
それで
カメラマンになりますと言って
仕事を辞めて、
ニューヨークへ行ったんですよ。

──

カメラはやってたんですね。

ヤジマ

やってないんですよ。

──

えええ（笑）。

じゃあ、どうして
カメラマンになると言い残して、
ニューヨークへ飛んだんですか。

ヤジマ

カメラマンをやっていて
出版社をつくった親戚がいたので、
その人は成功した人だってことで、
カメラマンなら
自分もありかなあ‥‥って（笑）。

──

つまりカメラマンになると言って
ニューヨークへ着いてから、
写真についての勉強をしはじめた、
くらいな感じですか。

ヤジマ

そうそう。

自分なりに勉強をしていたつもり、
ではあったんだけど、
当時、マイルス・デイヴィスが
出入りするかもしれない
と言われていたバーがあって、
その店って、
真夜中０時にオープンするんです。

──

ええ。

ヤジマ

ジャズメンが集まってきては、
順番にセッションをするんですね。

マイルスを絶対に撮るぞと思って
ぼくも通ってたんだけど、
ある日、
絶対にマイルスだって感じの人が
ボロボロの革のコート姿で現れて。

──

おお！

ヤジマ

よし、絶対に撮ってやると思って
近寄っていったら、
こっちをパッと振り返ったんです。

──

シャッターチャンス到来！

ヤジマ

でも、撮れなかったんです。
ビビッちゃって。

──

わあ‥‥。

ヤジマ

撮る気マンマンで行っているのに、
マイルスに面と向かったら、
シャッターを切れなかったんです。

そのとき、これは
ちゃんと修行しなきゃダメだなと。

──

なるほど‥‥。

ヤジマ

当時、α7000という
オートフォーカスのカメラが出て、
これなら
自分にも使えるかなあって思って、
持って行ってたんですけど。

ニューヨークのカメラ屋さんで
はたらかせてもらおうと
お願いにいったとき
「露出はどうやって決めるんだ？」
って質問に答えられなくて、
雇ってもらえなかったほどでした。

──

オートで撮っていたから。

ヤジマ

そこで、カメラをやっていた親戚が
「ちゃんと修行しなきゃダメだ」
と言って紹介してくれたのが、
師匠の但馬治さんだったんですよね。

──

自動車写真家として有名な。

ヤジマ

そう。

Citroën DS / Vincennes France 2015 ©Yajima Osamu