こんにちは、ほぼ日の永田です。
もう、20年以上前から、2年に一度、
オリンピックの全種目を可能なかぎり観て、
そこに寄せられる膨大なメールに目を通し、
それらを翌朝までに編集し、読むだけでも
1時間くらいかかる長文コンテンツに仕上げて
大会期間中毎日公開する、という、
常軌を逸することをやっておりました。

しかしそれも2020東京オリンピックで一区切り。
前回の北京オリンピックからは、
毎日、観ることは観るものの(観るんですね)、
メールの編集と長文テキストの公開はやめて、
1日1本、観戦コラムを書く、という、
のんびりした姿勢でやっています。

観戦しながらのリアルタイムな感想は、
永田の旧ツイッターのアカウント
(@1101_nagata)で発信しています。
ぎゃあ、とか、うぁっ、みたいな反応は
そちらでおたのしみください。
旧ツイッターのアカウントをお持ちの方は
ハッシュタグ「#mitazo」をつけて、一緒に、
くわっ、とか、ひぃぃ、とか言いましょう。

 

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#06

14分間に流れた時間

 
いま、たったいま、
バスケットボール男子予選、
日本対フランスの試合が終わったところだ。
リアルタイムで観ていた人ならわかると思う。
もう、原稿でも書くか、という気分なのだ。
ああ、こう書くと、なげやりな感じになるかもしれない。
そうじゃない。
要するに、とても昂っているこの気分を、
なにかに利用しなきゃもったいないな、
という感じなのである。
ぼくが発電できるなら発電しちゃうんだけど、
無理なので、原稿を書く。
原稿を書くことならできるので。
まず、自分のTwitter(現X)を振り返ってみる。
最初のツイートは午前1:44。
「河村勇輝!」ではじまり、
「勝っちゃえ日本!」で締められている。
国際バスケットボール連盟が
発表しているランキングによれば、
日本の順位は26位だ。
一方のフランスは9位。
しかも、ご存知のとおり、会場は超アウェイ。
勝てば大金星、とアナウンサーもくり返していた。
バスケットボールの試合は全部で40分。
1Q(クォーター)10分を、4回行う。
「勝っちゃえ日本!」とぼくが投稿したのは第4Q。
つまり残り10分を切って、
いやそれどころか、残り5分を切って、
日本は試合開始からずっとリードされていた
フランスにとうとう追いついたところだった。
つぎのぼくのツイートは2分後。
ここからはもう、全文が引用できるほど短い。
「残り2:20! 日本1点リード!」
残り2:20というのは、
残り、2分と20秒のことである。
当たり前のことを当たり前にくり返したくなるほど、
2分20秒はみじかい。
カップヌードルができるよりみじかい。
そしてつぎのぼくのツイートは2分後なのだが、
試合のなかでは2分は過ぎていない。
この「試合のなかでは2分は過ぎていない。」という部分に
荒木飛呂彦先生風に傍点を打ちたいところだ。
「残り1:42! まだ日本1点リード!」
2分後のツイートなのに、
38秒しかゲーム内の時間は流れていない。
これがバスケットボールというスポーツならではの、
たいへんマジカルな時間感覚だ。
試合が終わりに近づけば近づくほど、
そしてその試合が接戦であれば接戦であるほど、
終わらせたくないほうのチームは
一丸となって、技術と戦略を駆使して、
ゲームのなかの時間を進めないようにする。
具体的にはわざとファウルをしてプレーをとめたりする。
もちろん、ファウルをするとペナルティがあり、
相手にフリースローの権利が与えられたりするが、
そのフリースローの権利を与えるよりも、
時間を止めることのほうが優先される。
当然、それによって点差が開く危険性はあるが、
ただただ時間が流れてしまうと、
負けているチームはそのまま負けてしまうのだ。
一方、時間を止め続けていると、
相手がどこかでミスをすれば
自分のチームが得点する可能性が出てくる。
それで、結果的に、
バスケットボールというスポーツでは、
とりわけ接戦である場合、
終わりが近づけば近づくほど終わらなくなる。
乱暴なたとえをすれば、
五条悟に攻撃が当たらないのと同じ理屈である。
五条悟になぜ攻撃が当たらないのかくらいは、
各自知っておいてください。
自分のタイムラインに戻ると、
「残り1:42!」とツイートしたあと、
1分に1回の間隔でぼくは3回ツイートしている。
まず1分後。
「残り1:17!」
日本が1点リードしたまま数秒が過ぎて、
残りは1分17秒だ。
そのつぎのツイートは。
「ホーキンソン! 3点差!」
ホーキンソンがシュートを決めて
さらに点差が開き、3点差!
おそらく残り1分を切っただろうと思う。
ところがつぎのツイートはこうだ。
「同点!」
うわあ、同点になってる。
自分で経験して自分でツイートしておいてなんだが、
ものすごい展開だ。
書いててこちらの時間感覚がおかしくなる。
残り1分を切って、
フランスがスリーポイントシュートを決めたのだ。
そしてつぎのツイートはこうだ。
「あと47秒、同点。タイムアウト」
試合終了まであと47秒というところで
たしかフランス側がタイムアウト。
両チーム、たっぷりじっくり全員で戦略を練る。
あと47秒のあいだに自分がどう振る舞うかということを、
汗だくで頭に叩き込む。
タイムアウトの時間もあったから、
つぎのぼくのツイートは現実時間でいって2分後。
試合は、こうなっていた。
「2点リード、あと40秒!」
つまり、ゲームのなかで7秒、時計が進み、
日本チームそのあいだに2点とっている。
残り時間はあと40秒だ。40秒って、何秒だ?
つぎのツイートは現実時間で1分後。
あ、ちなみにぼくがなぜこんなに頻繁に
ツイートできているかというと、
賢明な読者はおわかりかと思うけど、
ザ・ワールドをつかっているわけじゃなくて、
前述したようにプレーが
しょっちゅう止まっているからである。
ザ・ワールドがなにかということは
日本人なら当然知っていることと思う。
そして現実時間で1分後、
ぼくはこうツイートしている。
「日本2点リード、あと16秒!」
あと16秒だ。あと16秒、守りきったら
ジャイアントキリングだ。
「ジャイアントキリング」という漫画もあるけど、
ここでは本来の意味で大金星だ。
ぼくのつぎのツイートは若干長い。
自分がとても興奮しているのがわかる。
「日本4点リード、あと16秒! 
 河村勇輝!!!! 河村勇輝!!!!」
日本のリードが4点に広がっている!!
にもかかわらず時間が1秒も過ぎていないのは、
得点が河村勇輝のフリースローによるものだからだ。
このあたりの河村勇輝の神がかったはたらきは、
語りだすとまたそれだけでたっぷり
文字数をかけてしまいそうなのでやめておくが、
もう、ほんとすごかったんだよ。
「SLAM DUNK」的にいえば「ぶわっ」だったんだよ。
「ぶわっ」はわかるよね、「ぶわっ」は。
話を戻すと、
フランス対日本、残り16秒で4点リード!
あと16秒だ、ししゅ、ししゅー!
ところが、つぎのぼくのツイートはこうなのだ。
「フランス、スリー! まじか!」
つまりフランスが
スリーポイントシュートを決めたということだ。
土壇場、フランスに3点が入る。
日本のリードはあと1点‥‥だと思うでしょう?
ストラゼル選手がスリーポイントラインの外から
ジャンプシュートしたその瞬間、
傍らにいたジャッジが笛を吹いた。
──バスケットカウント。
つまり、相手のファウルによって、
そのシュートの得点は認められたうえで、
さらにフリースローが与えられるということ。
絶好調のストラゼル選手がそれを沈める。
つぎのぼくのツイート。
「同点! 残り10.2秒!」
そのまま10秒が過ぎて、ぼくは、
「同点! 84-84! 延長、オーバータイム!」と
ツイートしている。
それがちょうど深夜2時。
ぼくが「残り2:20!」とツイートしてから
14分後のことだ。
そう書きながら自分が驚くけど、
あれはぜんぶ14分間に起こったことだったのか。
つまり、14分間に流れた2分20秒の出来事だったのだ。
その後、オーバータイムと呼ばれる
5分間の延長戦のなかで、
ぼくは一度もツイートしていない。
そして試合が終わったあと、
きちんと時間をかけてこうツイートしている。
「バスケットボール男子、日本、フランスに敗れる。
 でも、こころから言うぞ。
 めちゃくちゃおもしろいな、バスケットボールって。
 めちゃくちゃおもしろいな、スポーツって。」
ああ、もう、ほんとうにそのとおりだ。
当たり前だけれど、ぼくもそう思う。
なんというか、もう、今回の原稿はぜんぶ、
過去の自分が書いていたようなものだ。
いってみれば「ドラえもんだらけ」であるが、
さすがに「ドラえもんだらけ」はわかるでしょう。
これ以上、なにか言うことなんてない。
ああ、なんてすごい試合だったんだ。
最後の最後も、
最後の最後に自分が書いたツイートを掲載して、
今日のテキストを締める。
「リアルタイムで観てた人、おめでとう、
 すごい試合だった。
 WATCHING SPORTS COLORS YOUR LIFE.」

(つづきます)

2024-07-31-WED

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    タイトル写真:とのまりこ