こんにちは、ほぼ日の永田です。
もう、20年以上前から、2年に一度、
オリンピックの全種目を可能なかぎり観て、
そこに寄せられる膨大なメールに目を通し、
それらを翌朝までに編集し、読むだけでも
1時間くらいかかる長文コンテンツに仕上げて
大会期間中毎日公開する、という、
常軌を逸することをやっておりました。

しかしそれも2020東京オリンピックで一区切り。
前回の北京オリンピックからは、
毎日、観ることは観るものの(観るんですね)、
メールの編集と長文テキストの公開はやめて、
1日1本、観戦コラムを書く、という、
のんびりした姿勢でやっています。

観戦しながらのリアルタイムな感想は、
永田の旧ツイッターのアカウント
(@1101_nagata)で発信しています。
ぎゃあ、とか、うぁっ、みたいな反応は
そちらでおたのしみください。
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#08

こんな日もあるよ

 
長くオリンピックを観てきたけれど、
というお決まりのフレーズからはじめるけれども、
2024年8月1日、正確には、
8月1日から8月2日にかけてというのは、
ぼくのスポーツ観戦歴のなかでも、
なかなかないぞ、という1日だった。
教師生活25年、というのは、
「ど根性ガエル」の町田先生の口癖ですが、
観たぞオリンピック歴20年、
こんなに応援する選手やチームが
負けた日はなかったと思う。
いやあ、負けた、負けた。
バイきんぐの小峠さんならずとも、
なんて日だ! とエッフェル塔に向かって
絶叫したいような1日だった。
ちょっと時間経過は曖昧だけど、
ひとつずつ挙げていくと、
まずは柔道の高山莉加選手と、
ウルフアロン選手が準々決勝でやぶれ、
その後、高山選手は敗者復活戦を勝ち抜くも
3位決定戦で敗れ、ウルフアロン選手は
敗者復活戦でも敗れてしまった。
そもそもメダルの数とかを
どうこう言うようなぼくではないが、
今回のコラムの趣旨に合わせて
あえてやや嘆き節で書くとすると、
初日からメダルをたくさんとってきた柔道が、
この日はじめてメダルなしに終わった。
そして、バスケットボール女子と
バレーボール女子だ。
どちらも応援しているよ、ずっと。
両チームとも予選リーグの初戦を落とし、
負けられないし、負けねえし、勝つし! 
と思いながら観ていたんだけれど、
ちょっとずつ、ちょっとずつ、噛み合わないんだよ。
バスケットボールはドイツに、
バレーボールはブラジルに惜しくも敗戦。
バドミントンの男子シングルスは、
奈良岡功大選手と西本拳太選手がともに
1次リーグを勝ち抜いて決勝トーナメントに進出。
13人による変則トーナメントのため、勝てばベスト8。
うまくいけば、ベスト8にふたり日本人選手が‥‥? 
などと甘い期待をしたものの、
ふたりとも惜しくも敗れてしまう。
そして、ああ、そして。
個人的にいちばんこたえたのは、
卓球女子シングルスの平野美宇選手。
ああ、惜しかった。ほんとがんばった。
いや、これまでに出てきたどの選手も
もちろんがんばったんだけど、
まじでいまニュースをもう1回読み直したら、
ひょっとしたら勝ってるんじゃないか
と思うほど惜しかった。
平野美宇選手は韓国の申裕斌選手と準々決勝で対戦し、
いきなり3ゲームをとられてしまう。
卓球は1ゲーム11点先取で4ゲームとられたら終わりだから、
開始3ゲームにしてもうあとがないわけである。
しかしここから平野美宇選手がアグレッシブに試合を展開し、
3ゲームを連取して、ゲーム数3−3の同点。
最終ゲームも追いつ追われつの展開だったが、
平野美宇選手が一歩リードし、マッチポイント!
しかし、申選手が取り返して同点!
しかし心を切らさず平野美宇選手が二度目のマッチポイント!
しかし、申選手が取り返して同点!
というところまでいったんですよ、はあ‥‥。
申裕斌選手、まだ20歳なんですけど、
あどけなさとメンタル的な強さ、
あと勝ったあとに涙する両面性のある感じが、
数年前の伊藤美誠選手を思い起こさせました。
そして、またしても、ああ、そして。
卓球男子シングルスの張本智和選手。
平野美宇選手と同じく勝てばベスト4の準々決勝。
中国の樊振東選手と対戦。
卓球は1ゲーム11点先取で
4ゲームとられたら終わりなんですけど、
それはさっき言いましたけど、
張本選手はいきなり2ゲーム連取するんです。
しかし、樊選手が2ゲームとりかえし、
つぎのゲームは張本選手がとって、
そのつぎのゲームは樊選手がとって、
つまり、とってはとられ、とられてはとるナイスゲーム!
あっ、そんなこといったら、
いままで書いてきたどの試合もほぼナイスゲーム!
個人的には柔道のウルフアロン選手は
3位決定戦にも進めず、
結果だけをニュースとかで観たら、
なんだ勝てなかったのか残念、
とか思うかもしれないけど、
最後の敗者復活戦なんて、
スペインのシェラザジシビリ選手と対戦して、
両者、組んでは投げ、こらえては組み、という、
これが柔道だぜおっかさん、という展開で、
むちゃむちゃ見応えがあったんですよおっかさん。
まだ張本選手の話の途中だということを知りつつ、
二段ロケット脱線しますけど、
ひとつ戻ってウルフアロン選手の2回戦、
ポルトガルのフォンセカ選手から奪った内股の一本は、
これまで観てきたパリオリンピックの柔道のなかで
もっとも美しい一本だとぼくは思った。
そして張本選手に話は戻って、
中国の樊選手との準々決勝は、
互いに3ゲームをとりあってフルゲーム、
運命のラストゲームへ、という感じだったんですが、
ああ、7−11、惜しい、ほんと残念。
でもね、終わったあとの張本選手の表情がね、
なんというか、ちゃんと受け止めていたというか、
ああ、成長したんだなとぼくは思いました。
張本選手というと、デビュー当時の、
やたら大きな掛け声の選手
という印象が強いかと思うんですが、
いや、掛け声はやっぱり大きいんですが、
アスリートとしての落ち着きがでてきたなあと
ぼくは敗戦後の振る舞いを観て思いました。
このあたりが8月1日のうちに行われた試合で、
明け方に近いところでいうと、
バドミントン、混合ダブルス準決勝、
つまりすでにベスト4で勝てばメダルの準決勝、
駒を進めたのはもちろん東京オリンピック銅メダルペア、
渡辺勇大選手と東野有紗選手の
通称「わたがしペア」ですよ。
「わたがしペア」というのは、
渡辺選手の「わた」と、
東野選手の「がし」を合わせたもので、
「東野」のなかのどこに「がし」があるんだ? 
とか最初思っちゃったりするかもしれませんけど、
「東野」を「ひがしの」とひらがなにすると、
たしかに「がし」があるんですよ。
誰が考えたんでしょうね、おもしろいことを考えますね。
じゃあ、ぼくが混合ダブルスに出場したら
どうなるかというのを考えてみると、
ぼくは永田で「ながた」ですから、
うーーん、「がた」がありますね。
じゃあ、あれだ、「桑野」という女子選手と組んだら
「くわがたペア」ですね。
「新山」選手と組んだら「にいがたペア」、
あっ、「緒方」選手と組んだら、
「がたがたペア」ですね。
いやですね、「がたがたペア」。
でも逆に人気になるかもしれないな「がたがたペア」。
さあ、準々決勝、最強の中国ペアと対戦するのは、
日本代表「がたがたペア」です!
うーーーん、やっぱり、どうだろう。
とか書いてる場合ちゃうちゅうねん。
「わたがしペア」が対戦したのは
中国の鄭思維選手と黄東萍選手のペアで、
アナウンサーが彼らを紹介するときまず言うのが、
「世界ランキング1位」ですよ。
出たよ、世界ランキング1位。
なんか、日本の選手はやたらと、
世界ランキング1位の相手と戦ってる気がしますけど、
そりゃまあ自分で言っておいてなんですが
言いがかりというもので、
つまり、世界の実力者と当たるほど、
日本人選手が勝ち上がってるということなんです。
善戦しました、わたがしペア。
14ー21、15ー21とストレート負け。
しかし、3位決定戦があるぞ、がんばれ!
と、まあ、そういう感じで、ふうぅ‥‥。
これまで3000文字くらい書いてきましたが、
ぜんぶ負けているわけです。
バイきんぐの小峠さんならずとも、思うでしょう?
みなさんも凱旋門に向かって叫びたくなるでしょう?
なんて日だ! 今日は、なんて日だ!
ちょっと気持ちを落ち着けて書きますが、
ほんと、こんな日はあるんだと思う。
個人の名前を挙げてごめんなさい、
女子バスケットボールの馬瓜エブリン選手。
テレビの取材の受け答えなどで
明るいコメントが最高な彼女ですが、
この日はほんとうになにをやってもうまくいかない、
という感じでした。批判とかじゃありません。
なんていうか、ほんと、
こういう日ってあるよねって、
友だちだったらガリガリ君でも
おごりたくなるような試合だったと思います。
結果は誰よりも本人がいちばんわかっていて、
試合直後のミックスゾーンで松岡修造さんに
インタビューされると涙がぽろぽろこぼれました。
そんな顔するなよ、こんな日もあるよ。
そう、全体に、ほんと、
「こんな日もあるよ!」という1日でした。
女子バスケチーム、女子バレーボールチーム、
平野選手、張本選手、わたがしペア、
高山選手、ウルフアロン選手、こんな日もあるよ。
『Always Look on the Bright Side of Life』だよ。
口笛吹いて、続きがある人は続きをがんばろう。
そしてもちろん勝利がまったくなかったわけじゃない。
おもしろおかしくわざと嘆きましたけど、
バドミントンでは志田千陽選手と松山奈未選手の
「シダマツペア」が準決勝進出!
シングルスでは山口茜選手と大堀彩選手が準々決勝進出!
競泳陣では瀬戸大也選手が男子200m個人メドレーで
決勝に進出しましたし、
鈴木聡美選手は女子200m平泳ぎで
なんとロンドンオリンピック以来、
12年ぶりの決勝に進出、見事4位となり、
惜しくもメダルには届きませんでしたが、
これはもう敗戦とはまったく呼べないと思う。
鈴木聡美選手はベテランらしく
試合後のインタビューでの受け答えがとても素敵で、
引退どころか今回の成績で
「向上意識が芽生えた」というフレーズも飛び出し、
ぐっと来たぼくは思わず
インタビューの全文を書き起こして
Twitter(現X)に投稿してしまいました。
そして、この「負けばっかりの日だったよ」というテーマで
原稿を書き進めていたときに飛び込んできた、
フェンシング女子フルーレ団体、銅メダルのニュース!
もう、この「なんて日だ!」という趣旨の原稿を
ぜんぶ書き換えようかと思ったくらいです。
さすがに更新に間に合わないのでやめましたが。
東晟良選手、上野優佳選手、宮脇花綸選手、菊池小巻選手、
おめでとうございました!
最後1点差での逃げ切り、しびれました! 
そんなわけで、オリンピックは今日も
負けたり、負けたり、ときどき勝ったり、です。
どれだけつらい敗戦があろうが、
ぼくらは自分の意志でスポーツを観ている。
観戦者として言うならば、
どんなにつらい今日の負けも、
いつか喜ぶ勝利への道のりなんだと思う。

(つづきます)

2024-08-02-FRI

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    タイトル写真:とのまりこ