こんにちは、ほぼ日の永田です。
もう、20年以上前から、2年に一度、
オリンピックの全種目を可能なかぎり観て、
そこに寄せられる膨大なメールに目を通し、
それらを翌朝までに編集し、読むだけでも
1時間くらいかかる長文コンテンツに仕上げて
大会期間中毎日公開する、という、
常軌を逸することをやっておりました。

しかしそれも2020東京オリンピックで一区切り。
前回の北京オリンピックからは、
毎日、観ることは観るものの(観るんですね)、
メールの編集と長文テキストの公開はやめて、
1日1本、観戦コラムを書く、という、
のんびりした姿勢でやっています。

観戦しながらのリアルタイムな感想は、
永田の旧ツイッターのアカウント
(@1101_nagata)で発信しています。
ぎゃあ、とか、うぁっ、みたいな反応は
そちらでおたのしみください。
旧ツイッターのアカウントをお持ちの方は
ハッシュタグ「#mitazo」をつけて、一緒に、
くわっ、とか、ひぃぃ、とか言いましょう。

 

永田のX(旧Twitter)アカウントはこちらです。
>@1101_nagata

投稿フォームはありませんが、
感想のメールはこちらからどうぞ。
>メールを送る

前へ目次ページへ次へ

#11

ゴルフを観ながら

 
昨夜は、とくに夕方から深夜にかけては、
これまでにくらべるとあきらかに
ゆったりとしたオリンピック観戦ができた。
松山英樹選手がメダル争いをしているので
ゴルフをメインに観ながら、
サニブラウン選手ら、
日本人選手がときどき登場する
陸上などをのんびり追いかけていた。
いや、むしろ、このくらいだったでしょう、
オリンピック観戦は、とぼくは思った。
ここのところの数日がひりひりし過ぎなんだよ。
手に汗握り過ぎで、固唾をのみ過ぎで、
一瞬たりとも目を離せな過ぎなんだよ。
ここに書く原稿だって、ちょっと力が入りすぎである。
長過ぎるなのはまあ、性分だからしかたないとして、
連日、渾身の一発書き! みたいな感じでどうかと思う。
のんびりいこうぜ、俺よ、みなみなさまよ。
だいたいあれだ、俺ら、分刻み過ぎ。
メドレーリレーが終わったら陸上だ、じゃないよ。
いったん表彰式観てフェンシングに復帰だ、じゃないよ。
チャンネル切り替えすぎ、番組表見過ぎ、
リモコン片時も手に離さな過ぎ。
そんなことでたのしいのか、と問われたら、
いやマジたのしいッス! と答えちゃうなあ、でも。
こんなふうに観ている原因はわかりやすくふたつあって、
ひとつは日本のアスリートが強くなったことだ。
これまでにない競技でメダル争いをすることが多くなって、
自然、熱も入るし、観る競技も増えていく。
フェンシングをたのしみにするなんて、
太田雄貴さん以前は、にわかファン的にはありえなかった。
そしてもうひとつはネット配信によるライブ配信の増加だ。
昔は観ようがなかったよ、ロードレースなんて。
ニュースのハイライトとかで結果だけ観て、
へぇ、馬術なんてあるんですね、
とか思ってただけだったよ。
ところがいまやアーチェリーとホッケーの合間に
サーフィンを覗いたりしている。
スラロームとBMXでわあと盛り上がって
トライアスロンでちょっと寝そうになったりしてる。
そんな毎日、たのしいに決まってるよ。
でも、たしかに過密すぎるかもなあ、と、
松山英樹選手が半端な距離のパーパットを
しっかり沈めるのを観ながらぼくは思った。
かつて、人気ラーメンチェーン、
博多一風堂の創業者である河原成美さんが、
加熱するラーメン業界について、
「ここ10年ぐらいで、
ラーメンが『情報』になってしまった。
もう、ラーメンじゃなくて情報を食ってる」
と表現したことがある。
そういう意味では、ラーメンもオリンピックも、
ちょっと似た状況にあるびかもしれない。
たのしいし、おいしいけど、きりがないよね。
でも、たのしいのにきりがないって、最高だよなあ。
スペインのラーム選手が連続してバーディーをとり、
松山英樹選手がそれにくらいついていく。
ゴルフ中継には、独特の静けさと高まりがある。
実況アナウンサーと解説が伝える興奮は一定の品がある。
たぶん昔ぼくが観ていたときとは
アナウンサーも解説者も世代が変わってるはずだけど、
そういう放送の雰囲気って変わらないなあと思った。
そして、あれ? と思った。
十代のころにぼくはゴルフ中継を観ていた。
熱心に、というよりも、ふつうに観ていた。
たぶん、中学とか高校のころだ。
中嶋常幸さんが好きだった。
デビッド・イシイさんは
しばしば最終組で中嶋さんと争うから、
ちょっときらいだった(強いんだよ)。
ということは、だ。
ぼくは日曜日の昼間にあれを観ていたのか。
ゴルフの優勝って、日曜日に決まるから。
日曜日の昼間にティーンネイジャーの若者が
家でゴルフを観てていいのか。
友だちと遊んだほうがいいんじゃないのか。
いや、遊んでたな、とも思った。
十代のぼくは、友だちとも遊びながら、
日曜日にひとりゴルフを観ることもあった。
大相撲も観たし、夜中にウィンブルドンも観た。
プロ野球や甲子園はみんなが観ていた。
つまり、特別なことじゃなかった。
スポーツを観ることも、友だちと遊ぶことも、
とくに「趣味です」というわけじゃなく、
ふつうにやっていたことだった。
ぼくは広島で十代を過ごしたので、
ときどきそれを知る人から、
「広島行くんだけど、
どこのお好み焼き屋がおいしい?」って
聞かれることがある。
それで、いつもぼくは困ってしまう。
お好み焼きや学校帰りとかに
しょっちゅう食べてたけど、どこもおいしかったよ。
あの店のあの味が、とかじゃなくて、
よく行くお店もはじめて入るお店も、
だいたいおいしかったよ。
雑誌の切り抜き写真を下敷きに挿む
クラスメートにとってのアイドルは、
とくに「推し」というわけじゃなかった。
古着をかっこよく着こなす友だちは、
ぜんぜんコレクターじゃなかった。
どっちがいいとかじゃない。
無理にどっちかを選べといわれたら、
ちょっとだけ考えてぼくは
いまの情報が行き届いた世界をやっぱり選ぶと思う。
情報によって娯楽は加速するし専門化する。
うっとりするほどたのしいけど、
ときどき「なにやってんだ?」ってなる。
でも、大好きなことって、
だいたい「なにやってんだ?」とセットだ。
松山英樹選手は、INに入ってから、
入ればバーディー、というパットが3つあった。
優勝する選手というのは、
あれを3つとも沈める人なんだよな、と、
ぼくはずいぶん昔の観戦感覚を
よみがえらせながら思った。
それでもノーボギーなのはすばらしかった。
こういう「勝ちたい」試合では、
カップにきらわれると苛立って崩れる選手が多い。
松山英樹選手の強さは我慢強さだとぼくは思う。
最終組がホールアウトするまで、
上位4人の誰がどのメダルをとるかわからないという、
終わりに向かって静かに高まっていく
ゴルフならではのおもしろい展開だった。
最終的に、松山英樹選手は銅メダルをとった。
日本ゴルフ初のメダルが観られてよかった。
会場のゴルフ・ナショナルは、
とても美しくてむずかしいコースだった。

(つづきます)

2024-08-05-MON

前へ目次ページへ次へ
  • ハッシュタグ「#mitazo」で
    オリンピックを共有しよう!

    オリンピックを観ながら「#mitazo」を検索して読んだり
    「#mitazo」をつけて投稿したりすると最高にたのしいです。
    この下には最近のポストがいくつか自動で表示されています。

     

     

    タイトル写真:とのまりこ